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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
9章2節 あの子は……心無人? この子はサイコパス!? そしてオレはモテてる?

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186話 されば虫は獅子身中にて動きだす

レジスタンス

動きだした作戦


2日ぶりの

ちょっとエッチな休息


裏では静かに

土台を積み上げる

「も……あっ……たわ」


「……くす……だめ……」


 やいのやいのと姦しい。

 穴ぐらのアジトで目を覚ますと、湿った土の匂いが鼻についた。


「うるさいな……。こっちは2日ぶりの睡眠だってのに……」


 ふかふかの藁の上。寝ぼけ眼でむくりと起き上がった舟生明人(ふにゅうあきと)は、しかめっ面で不満をこぼす。

 白い合わせの上着から藁をほろって筋肉をほぐす。ぐるりと肩を回せば丸い肩が、ぽきっと音を奏でてじんわりと流れがよくなった。

 それから明人は、不意に己の手に視線を落とす。


「……」


 関節の骨が浮いていない。平のタコはゴツゴツと石のように固く、腕をたどれば太さはおよそ地球にいたころよりも倍ほどに。

 異臭のする手で脂ぎった黒い髪をガシガシとかき乱した。


「あー……くそっ……」


 健康的な肢体の向こうにほがらかで柔らかい笑みを見る。肌を見せない清浄な白いドレスに身を包んだ金色に輝く白鳥の姿を。

 再起動した脳に寝起き特有の頭痛を感じつつ発破をかけた。


「やるかぁ……!」


 人間にとっての疲労の限界に挑戦するのであれば、今がその時だった。

 通常であれば日の届かない深い深い地下。たったふたりの狼と職人によって堀り抜かれたトンネルは、真っ直ぐ腐敗満ち満ちた下水の底に繋がっている。

 《ライト》の魔法によって発現した光が、頼りない目隠しの向こうから淡く漏れてきていた。

 炭鉱夫ですら眠ることを拒否するであろう土壁と藁の1室。それでも支配者の目が届かないだけで十二分にアジトとしての機能を果たしている。

 聖都エーデレフェウス開放のために立ち上がったレジスタンスの名は、ニュー・新・新生イージス隊・ネオ。

 構成員は、たったの10名。うちひとりは、魂の抜け殻であり実質9名だった。


「よっこらー、っと」


 乳酸の溜まった足に力を入れて明人は、もぞりと立ち上がる。

 穴ぐらの寝所を隔てる布っ切れを肩で割ってでた。


「んなっ!」


「ぴゃっ!?」


 たおやかな肢体を晒した双子は、びくりと裸体をこわばらせる。

 一糸まとわぬ少女たちと明人が対面した。

 《ライト》よりも白くシミのないなめらかな肌が寝起きには、より眩しい。すらっとした細くて長い脚は、男性よりも女性が憧れよう脚線美。贅肉はないが引き締まった腰回りは、骨盤の広さで弧を描く。

 明人の登場にサナ・ジャール・ティールは、細眉を鋭角に尖らせる。


「ちょ、ちょっと! せめて目くらい反らしなさいよっ! なにじっくり眺めてんのよっ!」


 透き通るような肌は、すでに真っ赤にじゅくし紅葉していた。

 実りの秋にふさわしいたわわを身じろぎながら背ける。後部で結った大きな髪のふさも慌てたように揺らぐ。

 その隣では、ルナ・ジャール・ティールが一切の抵抗を見せず。


「あわっ、あわわわ……。わわわわ……」


 ぱさりと力なく着替えを地べたの上に落とし両腕をフリーにして固ったままでいた。

 似ているようで似ていないふたり。しかしプロポーションのよい体つきは、とても良く似ている。

 そんなあられもないふたりを前にした明人は、小さくため息をついた。


「昨日、市場で見たから気にしなくていいよ?」


 見飽きているというよりも今のところ双子に興味がないといえよう。

 今のところは、たったひとりだけの女性向けた感情が恋であるか精査する段階だった。

 それでも双子とのエンカウントは、無論の幸運ではある。


「そういう! もんだいじゃ! なあい! もっとデリカシーってあるでしょ!?」


「あー、前にもそんなこと言われたなぁ。なつかしい」


「言われてるのね……。っていうか、もう見ないで! クロト以外には、肌を見せないって決めたのっ!」


 そう言ってサナは、いそいそと濡れた肌に衣服を着用していった。


「まったくもう……! お清めの後を狙ったように起きてくるなんて……!」


 ぶつぶつと聞こえてくる文句。明人は、お前らが起こしたんだという言葉を紳士的に飲み込んだ。

 部屋にいるのは、明人と双子となぜかバニーガールの衣装を着た魂の抜け殻だけ。それ以外の面々は、重要な任務にでている。

 レジスタンスの目的は、神より賜りし宝物(アーティファクト)である翻る道理(アンチルール)研究と、解明。

 そのために必要なものは、ヒュームの特性によるひらめきだけではない。

 銀縁に挟まれたブルーラインの指輪の謎を解き明かすには、頭脳や知識が必要だった。それも純粋で飽くなき知識が。

 だから明人は、翻る道理を《マナレジスター》とは呼ばない。当たり前だが、まなまなちるちるとも呼ばない。呼んだことがない。

 呼ばないことにこそ意味がある。すべてはヒュームたちの思うがままに。

 ヒュームたちの口にした解釈を乾いたスポンジのよう柔軟かつ大胆に受け入れる。


「…………」


 衣擦れの音が静まる頃。下水側につづく入り口からのっそりと巨体。2足の狼がぬぅと現れた。

 白狼だった影を残して黄ばんだ体毛は、思わず眉をしかめたくなるほど不憫で汚らしい。

 綺麗に洗って魔法で乾かしたブラウスをきちっと決めたルナは、レヤック・ランディー・ティールにとことこと駆け寄る。


「おかえりなさいっ」


 晴れやかなお出迎え。ちょんと体を傾けると横で結った髪がぴょこんと跳ねた。

 対してレヤックは、お人形のように佇むルナと目も合わせずに唸るだけ。


「……ウム」


 下水のすえた臭いを毛束の尾っぽで振りまいて、固められた土壁に寄りかかる。

 敵対ともとれる冷ややかさに混ざった気品さ。ワーウルフ族は、みな一様に気高く生きる。

 しかし馴染み深い者は、レヤックという存在をこう語った。


『あれか? あちしも付き合いは長いがー……あれはただの気弱のふぬけだーなぁ』


 それを聞いてからというものルナは、積極的にレヤックと距離を縮める素振りをみせている。


「どうでしたっ? お仲間さんの勧誘うまくいきました?」


 そして今もそう。目を輝かせて兎のようにぴょんぴょん飛び跳ねながら質問をぶつけた。


「……」


「あっ、ごめんなさい……。売屋の女の子を指輪で解放して説得って大変ですよね?」


 しかしレヤックは、重々しく喉を唸らせるだけ。


「……ワフゥ」


 しなびた尾っぽは、丸く下に巻かれ。長い鼻筋にシワを寄せた。

 レヤックの仕事は、外回り。ようするに奴隷街で、こころざしを共にする仲間を募集するというもの。

 そのいっかんとして苦境で生きる女性たちの仕事場に訪れる。なお、外に希望をもつためのビラを配ることも仕事に含まれた。

 複合種である動物たちは、《トランス》の魔法に長けている。身を変え顔を変え、コミュニケーション能力に難があれど関係はない。このレジスタンスの小さなリーダーは、のべつ幕なしに己の企てを押し通そうとする。


――さて瓦版……じゃなくて号外でも読むか。


 明人は、一方的なルナの問いかけを耳にしつつも適当な場所で腰を落ち着けた。

 あらかじめ手渡されてた羊皮紙を広げる。

 ミミズがのたくるような文字は、異世界の文字。それでも神よって世界にかけられた翻訳の(ルール)が適用された。よって人間でも日本語のように読むことができてしまう。


「双王の愚王、ついにヒュームの駆逐に成功してしまう、アザムラーナ村崩壊か? ……ねぇ」


 記事に書かれたそれは、グラーグンがヒュームを拉致して聖都に帰還しようとしていることを示唆している。

 すると明人の肩越しに忍び寄ってきていたサナが、ひょいと顔をだした。


「それって新しい記事?」


 ムッと突くような臭いに慣れた鼻へ、ふわりと清涼な少女の甘さが芳しい。

 無邪気に背に押しつけられたそれの存在に明人は、心を乱される。


「さ、さあ? 初めて見るからわからないかなぁ」


「あっ、これって新しい記事よ。私にもみーせてっ」


 許可すら聞かずにサナは、筋張った肩へ整った顎を乗せ、記事に目を通す。

 警戒すらなければ双子の姉は、かなり人懐っこい性格をしていた。レジスタンスという反抗組織の登場は、心の氷解に足るものだったのかもしれない。もしくは、真実の裏打ちが成された。

 どちらにしても恩を感じているという。それでも性悪な目つきが信用できなかったのだとか。なおルナは、怯えたままで明人と接触を図ろうとしない。


「ふんふん、にゃーるほど。前回の(レジェンド)クラスの記事と違って暗い話題みたいね」


 この記事を書いているのは、聖都の外を知るもの。

 情報源は、聖女の侍であるミリーナ・ティールであろう。

 死の淵で生きた証、思い出を求める聖女は、英雄たちから情報を得ることができる。それが流れ流れて奴隷街の奴隷たちにこうして反抗の芽を覗かせた。

 テレーレ・フォアウト・ティールが苦痛の時をかけて蒔いた希望の種は、無駄ではない。

 サナの楽しげな声をバックグラウンドミュージック程度に、ふと明人は眉を寄せる。


「……Lクラスの記事ってなに?」


 やばいまずい。胸中で不安と緊張が濁流のように荒れに荒れる。

 名を知られるということは自動的に外からきたことがばれてしまう。なぜなら明人は、有名な英雄であるからこその逃れられないLクラスだった。

 希望には尺度がある。希望を見てすがる願望をもつか、絶望のなかで対抗する希望を勝ちとるか。

 現状では、後者でなければならない。清らかなヒュームの純血にこそが運命を切り開くたった1つの鍵となる。上位種エーテル族がもたないひらめきの力を。


「んー? 新しいLクラスが増えたよーって記事よ?」


 そっけなく答えるサナとは違って明人は、心底震える。


「な、名前とかって書いてあった? こうもっと詳細な感じで」


「なに? フニーキさんって英雄ファンかなにかなの? 男の子ってそういうの好っきよねー」


 両手を皿にしたサナは、ゆるく首を振った。

 対して明人も、英雄がオレでオレが英雄なんだよ、とは言えず。悟られない程度にだが口角をひくつかせる。


「残念だけどLクラスがふたり増えましたよー、って記事でおしまい。あとはー……忘れちゃったっ!」


 唇からちろりと舌をだしたサナは、可愛らしくウィンクを飛ばして、こつんと自身の頭を打つ。

 一方で明人も安堵した。


「そっかーざんねんだなー」


「ねー。でもどうせ会えないだろうし、しょうがないわよ」


 そこからしばし真実を知る1人と知らぬひとりで、オノマトペがふんだんに使われた記事を楽しむ。

 最後は、情報抹消のため蒼の指輪を装備していないルナの魔法で燃やさせた。

 残りのメンバーがすべての仕事を要領よく終えて返ってきたのは、それから半刻ほど経った後になる。


「……わふぅ」


 その間、延々とルナに問い詰められていたレヤックが一番顔に疲れを残していた。



○○○○○

挿絵(By みてみん)

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