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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
9章 アイツはゾンビ コイツは上位!? そしてオレはレジスタンス

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180話 まもなく鞘は剣を求める

男が使われたのは

性転換の薬


誓いを掲げた聖騎士は

1本の剣は

男は


女になる

 ゆっくりとほのかな夜が過ぎていく。

 闘いの余韻と報酬を連れて、クロトの先導で襤褸屋を目指した。


「う、うぅ、くろとぉっ……! わーん! クロトおおおっ!」


「よかった……! よかったよぉ……!」


 着いた直後にサナとルナが飛びついて、短い別れに再会の感涙を流してみせる。

 ふたりにしがみつかれたクロトも先ほどとは温度の異なる涙で瞳を滲ませた。


「サナッ! ルナッ! もういいんだっ! もうっ……もう苦しまなくていいんだッ!」


 まるで少女の如き愛らしい顔をくしゃくしゃにして、喜びを噛みしめるようにふたりをギュッと抱きしめる。

 手狭な屋内は、ぬくもりに包まれた。もうサナとルナを苦しめる者はいない。

 しばしの安息のとき。しかしそれは、ほんの刹那の話だった。元凶である一端ですら未だ未解決。

 まるで双子と少女が抱きしめ合うかのような光景を眺める明人は、己と戦っていた。


「ぐっ……! だ、だめだっ……! ここでもらい泣きをしたらっ……しめしがっ!」


 目を兎の如く真紅に染めた。 

 それでももらい泣きをせぬよう、決闘のとき以上に拳を堅く握りしめる。

 白い前合わせの服は、僅かに腐った異臭を放つ。麻の如きくすんだ色をしたボトムウェアもツンと鼻をつく発している。

 しかし口に含んだ際、薬を僅かに摂取してしまったせいか、肌はツヤツヤだった。

 さらにもうひとつ。温もる空間に冷たい涙を流すものが部屋の隅で、膝を舐めるように抱え込んでいる者がいる。


「うっく……ずびっ! ごんな、ごんなぢうぢをうげでっ……! みりょうだげならまだぢも……おんにゃになるなんでぇ!」


 さめざめ。銀の美しい髪を頬に貼りつかせながら白光の美女は、《ライト》の魔法の下で屈辱に震えていた。

 うつむき影になった顔は、冷然というよりは温情に近い。ふくふくとした顔つきは、厳しい面構えから遠く離れた花のような少女のよう。

 エーテルの女性とは、美しいか可愛いらしいの2通りのみ存在する。神に与えられし愛嬌は、およそ騎士といえない。笑ってパンを焼いているほうが周囲を幸せにできるだろう。


「あうっ……! ぞうでなぐどもぎらわれでだたのにぃ……! えっぐ……ずびびっ……!」


 拭っても拭っても水気は止まらない。

 ぶかぶかになった手足の装具は、バンドで一応の固定をした。

 しかしどうしても鎧に収められなかった部位がある。

 その本当の意味で小さくなってしまったなだらかな曲線を描く背。上半身を包む衣服は、さっぱりとした白のタンクトップだった。

 鎧こそ調節すれば着られる。しかし鎧の内側に着込んでいた衣服が突然の女体化に耐えられず。苦肉の策で巨漢の男から失敬した。

 筋肉を包んでいたはずの鎧は、今は大きく膨らんだいびつを包んでいる。なお伸びに伸びた髪は、手慣れた明人が三つ編みにして肩から垂らした。


「いばがらっ――なぐざみぼのにさぜられるんだああっ! からだをなぶられて……こころまでぼつらくするんだぁぁ!!」


 男らしかったあの頃の影を微塵も残さない。魅了の薬は、性格すらも女性に変えてしまう。

 女々しいというよりもやかましい。あの騎士然としていた風体の欠片は微塵たりともありはしない。

 明人は、絶世の美女になってしまったフィナセスにひょうひょうと近づいてく。


「なにもしないから……そろそろ泣きやめよ。話にならないだろ」


「ひっぐ、っぇう、あっ――……はい、わかりました」


 ピタリ。銀の瞳から艶が消えてブリキの人形のように背筋をしゃんと伸ばした。

 フィナセスは、言うことを聞けという命令をそつなくこなした。魅了の力に抗えていない。

 意図せず命令になってしまったことに若干の焦りを覚えて明人は、命令をとり消す。


「あっ、いや……戻れ。戻ってお願い」


「はっ!?」


 ぎぎぎっ、と。首を軋ませるようにフィナセスは、丸くしたこちらに目を向けてくる。

 蒼白の顔で、カタカタと震える。せっかく止まった涙がまた目元にこみ上げた。


「また……? また私に変なことしたの……? このナイスバディに……?」


「やってない。あと間違ってないけど自分で言うなよ……」


「うっ、うそ……! 絶対ウソよぉ……! 意識のない間にも少しづつ私の体は、かいはつ――」


「おいこら。それ以上言うな」


 フィナセスは、命令されるたびに記憶が飛ぶらしい。

 その間に体を好きに弄ばれているという被害妄想を発症させている。

 芯から女性になっているらしく、男性がすべて性欲に支配された獣に見えるのだという。

 さすがの明人も望まぬ行為が嫌いという点も相まって、そうそうそんなことはしない。なによりも相手は元男だ。

 したことといえば、意識がない間に聖騎士の鎧から潰れてはみだした柔らかい部位を指でつついてみたくらいなもの。


「びゃああああん! どうして私ばっかりごんなにうづぐじいかんべきないすばでーなびじょになっぢゃだのお!」


「自己評価めちゃくちゃ高いのな、オマエ」


 帰りがてらクロトから得た情報によれば聖騎士は、軍と異なるらしい。

 聖女から信頼を得た、聖女を守るための精鋭。それこそが聖騎士――パラディンなのだという。

 そして聖騎士である当事者曰く、跳ねっ返りモノとして扱われるとか。

 覇道の呪いがあろうともその忠誠は確かなため、周りからあまり良い目でみられない。

 その同調圧力によって名誉ある聖騎士は、いつしか孤独になった。こうして奴隷街という汚い街を任されているのもハグレモノの指名ということ。


――ううん……さっそくあてが外れたな。聖騎士とやらだと使い道限られるぞ。


 役職を任されているからその信頼を使用して大衆を味方に引き込めるかも、なんて。そう読んでいた明人の勘は大いに外れた。

 やれやれの体で、2徹の目をこすりながらフィナセスの隣に腰を据える。

 いつも以上に目つきが悪いのは、睡眠不足が起因している。


「なあフィナ子? ところでなんであんなイカツイ男を演じてたんだ?」


「……はぇ?」


 その問いにフィナセスは、潤いのある唇の隙間から空気を漏らした。

 以外そうに小首をかしげて濡れた瞳をぱちくりさせる。


「ど、どうして私が演技してるとわかったの?」


「仕事をしながら奴隷街を観察してたんだよ。そしたら、挙動不審なエーテルがいるなぁと思ってさ」


 銀の髪は、どれほど遠くとも見つけやすい。衣服も清潔で黒い不浄の街並みでは、よく目立つ。

 街の壁を修復していたのは、敵情視察をするためだった。地形を知っているか否かではこれからの動きやすさが段違いとなる。そのため街を一望できる檻の修繕は、理想的といえよう。

 そんなどこか懐かしい、自分の世界に似た空気を味わいつつ見下ろしていれば、銀色の髪はやはり目立つ。

 あっちへおろおろして手持ち無沙汰になれば影に入っていく。実際、騒ぎを聞きつけて近づいてみれば管理者に言われるがまま。

 明人は、あの晩クロトと同じ場所にいた。貧民市場ではなく華やかな側に。そして経過を観察していた。


「きょ、きょどうふしん? そ、そんなっ! 完璧に男らしい男を演じてたはずよっ!」


「いや、上のグループの会話に入れないけど必死に合わせてる感じがすごかったよ?」


「ぬぐっ!? で、でも私は聖騎士だから威厳と気品的な態度をとらないとテレーレ様に――」


 そこまで口にしてフィナセスは、まるで時間が止まってしまったかのように静止した。

 覇道の呪いは明人が初手で散らした。他種族を守ろうとする聖女への反抗の意思は、覇道の呪いによる差別の意思である。

 ゆえに今のフィナセスはもう呪いに蝕まれていない。


「あ……ああっ……! 私は、わたしはなんてことをっ……!」


 それがなくなった今、呪いに蝕まれていても忠誠を誓っていた聖騎士は、己の柔らかくなってしまった手になにを見るか。

 もうすでに同族間で女王は、ひとりぼっちになってしまっていた。

 つまり聖騎士もまた民衆と同じく聖女の処刑を望む側にまで落ちぶれていた。

 華奢な白い手に目を落とした瞳は、絶望に浸るかの如く色を曇らせる。

 目を落とした先に過去を見るようにしてフィナセスは、眉根を寄せカタカタと震える。


「な、なんてことを……! わ、わたしは、拾ってもらった恩をよりにもよってあんな……!」


 美形の顔に手を押し当て指の隙間で銀の瞳が揺れる。


「あ、謝らきゃ……! 剣の才能しかない私に居場所を与えてくれたあ、ああ、あの方にっ! いや、首を差しだすくらい、に……――首を……差しだす?」


 またもフィナセスの挙動がピタリと止まった。

 呪いによって自己意思を捻じ曲げられていた年月が長いほどに自我をとり戻した反動は、膨大といえるほどに大きい。なにせ濃い魅了とは違って記憶は残るのだから。

 すると魂を抜かれたような無の表情になったフィナセスは、すらりと立ち上がる。


「いかなきゃ……。あの方を、処刑される聖女様を助けにいかなきゃ……」


 濡れ光る唇からぶつぶつと紡がれる思いは、呪詛のように繰り返された。

 頼りない布の壁に立てかけられた剣をすっと手にとり、グリーブに包まれた足が外へと向く。


「おいこら。まだ早い」


 逃すまいと明人は、よろよろと歩き始めた手を捕まえる。

 およそ剣を握っているとは思えぬほどその手は、繊細さの宿るしなやかさがあった。


「……なに? この手?」


 ぼんやりとした顔でフィナセスは、腫れた瞼で美貌を傾ける。


「ま、また魅了を使うの……? 今の私なら命令を下す前にアナタの首なんて叩き落とせるわよ……?」


 およそ生気を感じぬ声色。手にもった剣が鞘から押しだされて髪と同じく鈍く光る。

 しかし明人はひるまない。もう臆病者ではない。そして今回の戦いもまた自分のためだった。


「もう魅了の必要はない。だから闇雲に突っ走らないでほしい」


 身を寄せ合うようにしながらクロトたちも、こちらを案じるような視線を向けている。

 その身には、ルナ以外が模造品を帯びていた。


「……どういうこと?」


 僅かに驚きを孕んだ、それでもフィナセスの凛とした囁き。

 証拠に肩から垂らした三つ編みがゆらりと揺らぐ。

 ようやく話し合いのテーブルについた。そう感じた明人は、フィナセスの手を杖代わりにどっこらと立ち上がる。

 おもむろに左手を掲げて全員に見えるよう、その薬指の抜かれた革手ごと指輪を突きだす。

 するとざわりと部屋の一角だけが波立った。


「そ、その指輪はっ!?」


「わ、私たち同じ指輪……?」


「あのエルフさんが売ってたものと同じ……?」


 三者三様に選ばれた者たちは、驚きの色を見せる。

 サナとクロトは、愛を誓うかの如く自身の指にハメた指輪と明人の指輪を見比べた。

 明人は、だからどうしたとでも言いたげなフィナセスの瞳を正面からじっと見つめる。


「オマエを女にした理由を教えてやる。今のオレには、世界には、聖女を助けるためにオマエの力がどうしても必要なんだ」


 交差する銀と黒。掲げた目的は、方法は違えど同じ道を辿る。

 それは、聖女の救出を到達点とした拡散する覇道の意思の討伐へと繋がっていく。

 危険極まりない敵地で明人は、聖剣の納まっていない開いた鞘は、相棒を求める。背を任せられ、己の弱さを埋めてくれるような切れ味の良い折れない剣を。


「…………」


 するとフィナセスも明人のことを真っ直ぐ見据えたままきゅっと唇を結んだ。

 全体的に線の細い四肢は引き締まって、女性らしい。目を鋭くさせていても振るい舞った愛嬌は晴れやかな活発さを感じさせるもの。

 そして静かに首を縦に揺らす。


「わかった。ワケありのようだし一応話だけは聞くことにする」


「そっか。ありがとう」


 そう言って明人は、軽い頭を下げて礼を口にした。

 しかしフィナセスは、納得いかないとばかりにため息漏らす。

 手近な壁に剣を立てかけて、眉を寄せ、色っぽく唇に細白い指を添える。


「ハァ……私の均整のとれた豊満な体を望んでいるのね。肉欲の限りを尽くしたいってことくらい見え透いているのよ」


「だから違うって……。え、なに? 無理矢理にでもそっちの方向にもっていきたい感じ?」


 訝しげな視線を向けられたフィナセスは、明人の手をさっと振りほどく。

 よくくびれた腰に手を添え、顎を上げて誇らしげな態度でよく肥えた胸を張った。


「ちなみに私は未経験だからね」


「だからなんだよ……?」


 なぜか色気づくフィナセスの心中を察せない明人は、もう放って置くと決める。

 こうして星降る夜に出会ったあべこべな者たちの会議が始まった。



……………

どこかで話数がズレていました

それだけです


それではっ

挿絵(By みてみん)

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