嗤うモノ
純色にて彩られる物語で。
流れるは過去。
覆ること無き記憶にして記録。
そして叶わぬ幻である。
これは懐かしい。そう想えるほどの時が経っているのだと実感してしまうのは悲しさか、それとは別の。
遥かな時の真なる器だった時代。
今でも思い出すあの洗練されし日の数々。
輝く景色をかつての懐かしい顔ぶれが談笑している。
その光景は二度と戻ることはなく、永遠に喪われた手の届かない景色であり古の風景であり時間。場所。思い。
当たり前に続くと信じていたあの瞬間はしかし、あの矮小で歪な愚行者が崩壊させた。
事象の始まりとは遠いだろうけど原因として合っていると核心している。
些細な出来事だったかと。
それは何時も集まっていた議論場で出会った。
到着した議論場最上階から1つ下る準議場。
入ると全員が壁際に腰掛け、腹を満たす果実を中央に配置された卓があり各々には一人の使者が控えていて雑用等を任せていたけど。その中に私も入るのですが、当時は肩身が狭く、軽く萎縮していた。入って期間も短く使者すら決まってもいなかった。
思い出されていく光景。
想定を上回る外知を転用した代物の発想。
創造した子ら一つ一つの観察から至るであろう運命。
輝かしく愛しい盤上の世界。
長時を刻んで、その刹那をも思い出していく。
ある瞬間私達の前に現れた存在。
それは切っ掛けだったんだろうと思い知る。
溢れる思考。
迸る情熱。
数多の知識。
無限の時を重ね合わせて紡いでいた世界。
懐かしすぎて自然と笑ってしまう。
失した時間に思い馳せる。
ある瞬間。上界へ来ていたひとの助言によってあれの野望を具現化した欲望が明るみに出たのだ。
しかしそれは仕掛けられし謀であった。
思えば全てから歯車の噛み合わせが狂い始めていたのかもしれない。それか噛み合ったとも見える。
だが今はもう過去である。だからこうして見ることしか思い馳せるしかできない。最後は定められていたような崩壊へ向かうのだ。ぐくく。
私は停滞することを嫌っていたのではなかった。
反対に推奨するほどだった。
ただ子らの進むべき道を外さないように示したかった。
だけど私は当時、一番若く、そして権限も弱い立場にあったから。
だからこそ葛藤と悔しさ無力に苦しめられ日々蓄積する感情を発散できずにいた。
何かに辺り喚くなど愚者である。
信頼もなにもあったものでは無くなってしまっただろう。
その辺りを突かれてしまったのだと今なら理解できる。
その日は何とも嫌な気分だった。
世界の空気が澱んでいるような錯覚さえ感じていたのに。
寝起きもいまいちであり心に何か引っ掛かりのような感じがあったのだろうが解消する事を怠り表へと出てしまった。
見えてる範囲でだが、清み渡る空の下を歩いていく先には建物・上方義会場。
上方会議場か懐かしいな。
世界の創造は単独で作成出来ることは出来るが最終的には頭打ちとなり世界は粛々と滅亡していく。成功例が無いわけではないが、それはその個に内包する資質に依るところが大きく結局は粛々と失敗の現状を見守りながら無力に苛まれていく。それを回避するため複数での世界創造を行っているのだが世界で初期の小さな失敗から我々の存在は現実のものとして認知されていた。それ故に世界の進捗を兼ねて降り立つこともある。
この時はその権限は無かったから他の方々が羨ましかった。
初期で失敗した原因がとある1つの軽率な行動だと後で知ったのも随分と後のことだった。
更には問題視され長い期間視察と監視が義務付けられ苦しみの期間とも聞いていた。
そうだな一人の在り方は破壊と崩壊を呼び寄せる。だから複数での創生を成して進める。だけど結果的に大きく成りすぎたんだろう。と結論は尚早かな。
話が逸れていた。
上方会議場は複数での創造には幾らかの齟齬が必ず出てしまう。それを回避するためと意思の疎通を円滑に行うための云わば話し合いの場。
それが上方会議場。
上方というけどその意味は知らない。
建物に入ると全員が揃っていた。いや、この時は部外者とか有り得ないのだけど。
記憶違いでなければね。
何なのだろうかと疑問に思うより答えは出された。
「新しく入ることになったテ」
ぐ、なんだ。霞みが視界を記憶を覆い隠し、て。
世界が捻れて切れて繋がっていく。
記憶は混乱し気付いて見えたのは対戦だった。
これはあの時のか。
試験である。
世界は1つになく複数が同時存在している。
並行世界概念というものらしい。詳しくは知らない。
この時は他の進捗状況と自分達の差を比較という無理やりな理由を付けているのだが実際は、付加価値の無い箱庭を消すための無慈悲な消滅作業である。
子は駒。世界は盤上であり、ある意味での世界大戦である。
いや次元対戦と言うべきか。
負ければ名にも残らない決死と必死の作業。
私はこの作業が嫌いだった。
育てた子らを無意味に消費していく虚無と無慈悲としか考えられない。
逃避したくともできず。
心を閉まって粛々とこなしていくしかなく。
心は更に疲弊していく。
耳に残響する子等の様々色々な言葉が残っていく。
結果は私の所属していた世界を含め複数が残り消滅や破滅した側の残滓は征した側の運用に回されることになる。
加わってから幾度も経験していたが、この時に僅かな違和感を覚えていた。
もし、そう。もし、この時にその違和感を信じて行動していたなら、あの様な裏切りに遭わずに済んだのかもしれない。
だけど目の前の事に忙殺されそれは霧散していく。
時は進み違和感が薄らいだあの日。
これが最初の撒かれた種が芽吹いたのだろう。最後に繋がる不能なる負の連鎖の先端。
メンスモール戦争と記される事になる小さな衝突から始まった大戦である。
元々は短期間に終了する設定である筈なのに予想に反して長期間の戦争へと拡大していった。
困惑したのは当然で、提案した方も。
提案した方の弁によると元々の期間設定が何者かに書き換えられ手の施しようなく見守るしかなかった。
もし世界創造の初期であるなら拡大したとしても回転を加えて修正を計っていたのだと、しかし世界は中間を過ぎ成熟へと差し迫っていた。
先の対戦による潤沢な資源が確保されていたのにも1つの理由である。
この時に、もし回転を加えていたら歪みが世界に生成され、概念すら及ばない何かが産み落とされ世界は侵しつくされ崩落と崩壊後に切れて消滅していたはずだ。。
須く無意味に成り果てていただろう。
子達は私達、とくに原色の方々に願いを捧げていた。
幾つか回された願いは在ったけど簡単には叶えることはできず心に貯まる嫌な気分。
後に宗教色の強い戦争へと移行し夥しい流血が世界を覆っていった。
メンスモール戦争は宗教間戦争に移っていった。
この時に違和感を再認識した。
不可解な程の進行速度と魂の循環から逸脱した流れ。
世界は呑まれていた何者かの手によって。そして露見していく。その首謀者が。
知らない景色を見ていた。
知らない部分と言えば正しいか。
虚ろな世界を見ていた。と思いたいが無理なんだろう。
現から離れた別世界。
明らかな捏造された。
されているのはなんだろうか。
差出人不明の情報が寝屋に届いて読んでみると驚いていた自分に驚いた部分がある。
即座に他の方々へと相談するため連絡装置に手を伸ばすと鳴り響いた呼ぶ声。
手に取ると私と同じ内容の情報が届いていた。緊急に召集された議場に全員が、いえ一人を除いて揃っていた。
其々の情報を統合して密に調べあげるとそれは真実と全員が認識した。そして。
そう。夜と闇と死を司る子にして害たるクシュラオーロが世界という箱庭を壊していたのだ。
消していたという方が正しいのかもしれないが。
全員で制止しようとしたけど聞く耳を持たず、さながら狂喜の所業であり表情だった。
箱庭の崩壊は数日続いて皆さんにとっての苦渋の決断だった。
進行に合わせて幾つかの罠を仕掛けて足止めして先回りして大掛かりな底深い罠を作動させ捕獲。そして。
その到着は全員が同じであり確信している其々の表情は驚愕と納得と困惑とが混ぜられていた。
あの虫酸の根元は皆の影で見えなかったが存在は感知できていた。
だからこその状況が理解できず困惑していたのだ。
覚えている。直前まで何処にいて何をしていたのかを。
しかし証明は出来なかった。
全てが書き換えられ記録も記憶さえ元からそう在るように細工されていたのだ。
混乱しながら弁明はした。だが聞き入れられず最悪の手段をとっていた。
その場からの逃走。
今は理解していよう。愚策にして愚行であると。
流れは完全にあの思惑通りに推移していた。気付いていたのだが手は届くことなく向けられる意思に翻弄され、追い詰められ器を貫き壊された。
意識はその場でもぎ取られ長い封印を施された。
破壊されないことは幸いであろうか。
最後に見えた刹那の表情は覚えている。
私は事を成し見届けて名を喪い朽ちゆく器を全員が処理し終えるまで黙っていてその先も言わなかった。
全てが片付く時には皆の表情は重く苦く辛く。
言葉はなく自然と其々の寝屋に戻っていった。
耳に、耳の奥に張り付くように残ったあの方の声を伴って。
誰も気付かないままに。時は非情に過ぎ去っていく。
ふむ。益にもならん。浮上しよ。




