四章~掃討~
満たされぬ充たされぬ。
と老人のように念仏を紡ぎ続けている。それは全身を本来なら棺桶に突っ込んでいるであろう肉体を正に姓に生に性に精にしがみついた盲執。
求めるは一つ二つ三つ四つ。
増えに増えて煩悩というしがみつく意味となる数と同じ数字を越えていた。
抗えない渇きは喉か心か。世を恨み命を絶つも何ゆえ世に戻るのか。世を儚みながら絶っても戻ってしまう無限の何か。誰も判らないこの感覚。覚えもなく。次々と次第次第に枯渇していく、意識。行き着くは。
全戦場での初戦というには一方的すぎる殺戮の虐殺行為にて一つの区切りとなった。
だがまだ駒が揃っていない。まだ足りないのだ。
故にと歓喜に沸く全土に次の装置を投入させる。
させるは一つの絶望。
その初源能力は狩人。
複数の思想を根幹として設計され製造された中での最も基本的な力。
後方の更に秘匿されし地点より放たれる大きさは岩と見間違う塊。
生き抜けることは不可能。傷つけることもまた、そして死を与える事も同議である。
一つが射出され他の地点へも向けて同様に放たれる。
そうそれが先の大戦により投入され多大な戦果を持たらした生物兵器。
その名を。
歪なる変容。
絶対殲滅を基本理念とする外道にして非道の最悪なる存在。初第一の力を基本としながら終戦まで数々の進化を遂げた最悪の兵器。
一度起動したら目的完遂をするまで停止する事はなく別の意味での欠陥品とも称されている。
本来であるなら先の大戦終了と同時に現存個体と関連資料は廃棄されるはずの汚点とも云うべき存在であるが、この時まで秘匿させ温存していた。
はずだ。
上層部と更に上に位置する者達にとって作戦という名の作業に則した行動であっても戦地である現場では先の大戦からまだ数年も経過していないのだ。良識的な考えから当然中止されるが普通だろう。しかし此度の戦争は普通ではない。始まりが異なり主旨が違う。それを踏まえて誰も反論しなかった。する理由すら見当たらなかったのだ。
それだけでこの兵器起動が承認され実行されるのだ。
着弾地点では発狂する者も居るのだろうが関係ない。だが遣らなくては自分達の身すら危うくなる。
断腸の思いでこの兵器を起動させたのだ。
後に何があるかなどこの際脇に置いておくしかない。
戦後処理を考えたところで無意味なのだから。
それに最悪にして外道最強と名を馳せる歪なる変容は全て射出されるよう手配されていた。
現地にしてみれば問題発生。
「少佐。」
「何でしょうか。」
「確認なんだが、射出は各地に一体ずつ。そう伝令したはずだが。」
「は。ですが短期決戦を想定し全個体射出を上より命じられましたもので。」
「上、とは、まさか本部か。」
「いえ、総統府です。」
「何時、だ。」
「伝令した時にはもう伝わっていました。我々には事後報告として伝えられ、知ったのは先ほどです。撤回しようとも指令書自体は全て本物で覆しようはなく。」
「おいっ戦場の報告作成に頭を抱えると言うことだよな。上の方々は何を考えているのか。現場を無視するなど。机上で戦争が成り立つと考えておられるのか。」
「ですが先端を切る前から此度は瓦解してましたし、どんなに言い訳しても上は。」
「ではこのまま見続けるしかないのか。我々はアレを投入して見続けるしか。」
「はい。なので射出終了と同時に最後方へ撤退と伝令しておきました。」
「そうか。」
無言、そして少佐は退室して一人となる。
「最初はどうなるかと肝を冷やした。しかし運命は此方側に転がるように世界は出来ているのだろうな。はは、は。」
乾いているような表情を造りながら笑うしかなく画面を見続ける。
戦場は次の段階へ進行する。
弾着少し前。
東区域。
瓦礫の山が一つだけとなった戦場。
後始末として散乱してい諸々をかき集め出来上がった大きな山一つ。
過去を想起させるがその違いとするなら、遺体は病気等ではなく命掛けた結果である。
本来なら、遺体は丁重に扱い、家族の元へと送るが敬意を表すのだろう。戦争は続いている。一々個人を調べ送り届けることは手間がかかる。その上に費用も莫大に膨れていく。ならこの場で一塊にして処理した方が手間が掛からず済むというもの。
なので清掃のように片付けていたのだ。
その報せが届けられた時には周辺の生存者が次々と命を散らしていった。
範囲は星のように拡大していき、短時間で東区域の生存者を呑み込んでいった。
原因は単純である。
歪なる変容を内包した巨岩が地面の僅かな位置で停止すると十の触手が伸び宙をさ迷う。
生存者は皆無だが器が残っている。
残っているからこそ触手を伸ばし、そして触れ一本の触手からさらに無数の触手が派生し器を包み圧縮して赤が滲み出るも堕ちることなく触手に絡み喰らわれていく。
繰り返すこと数時間。東区域に死を纏う器は全て呑みくだされ歪んだ大地が残るだけとなった。
時を同じように西区画。
耳に鳴り届く音を察知して振り返る間もなくそれは空気を切り裂き着弾した。と同時に近くの者達は不理解のままに命を断絶され地に倒れ付す。
離れていた者達は幾つかの行動に分かれた。
理解ができず立ち尽くす者。
救出に向かい二次的三次的被害を拡大させる者。
戦くと後退りながら逃げる者。
直感を信じて即座に退避する者。
対応が分かれるが結果は同じである。
刈られるは逃げを選択した者。
想定していたより外れ一歩を出すより早くに背後へ到達しそのままに次へと向かう。
そう存在が違法なれば能力もまた、違法なればだ。
常軌を逸する力の前にどのよな力を持ち合わせていたとしても出会えば命を失う事が確定する。視線を合わせないとか認識しなくてもとかいう話ではなく、その場に居ること自体が力であり絶対の権利。
それゆえに逃れる術は、無い。絶望を振り撒く大戦の生物機。そして停める術なき殺戮の掃除屋。
だが不可解が一つ。
命を狩り取られた者達の周囲にその存在たる元凶は見当たらずあるのは不動の岩が数個。
周囲中距離に命は狩尽くされ、殻に亀裂が走り崩壊と同時に内部のに収められていた歪なる変容が姿を現すしても影を捉えるより早くに消え去り直後に遠距離より命が狩取られていく。
命は短時間で全てを狩尽くされる。
残されたのは同様の景色であるが砕けた欠片は地に浅く埋まっていた。
誰も居ない南領域。
着弾した弾岩は地中へ半分めり込み命を吸い付くしていく。
枯死していく大地に命の欠片は残らず。乾いた大地と踏み込むだけで命を喰われる不毛の領域が出来た。
戦後にて《極地の世界死》と呼称される区域にして手出し不能な領地となった。
はずだが、何かに阻まれたのか張り巡らせた根の様な何かが逆に枯死していく。
限界を越えたのだろうか。
いや違うだろう、この弾岩に限界など無い。
ではなぜか。
その答えは、地に張り付いた歪なる欠片。欠片と云えども表面的にはだ。地に面した部分には一本の細く長い糸か針のように変化させたものを深くまで抉るように刺さっていた。
地を張り巡らせた根の様な何かは地を進む度に周囲へ特殊な振動を伝えていた。これに反応し通常なら細胞単位で崩壊もしくは崩落するのだが振動に反応し活性化。逆に巡らせた全ての根を食らうように侵食していったのだ。
結果は、枯死して内部に納められた本体は機能を正常に稼働できず餓死のような形で壊れてしまった。
残されるは別の意味での不毛の大地。
腐臭立ち込める北禁足地。
除染作業は大方終わっているが、地面の隙間に入り込んだ諸々を片すのに苦労しながら追われていた作業者。
一息付くという暇を着弾が掻き消した。
何故か、その着弾と同時に作業者全員が簡単に逃げられたのだ。一人の犠牲も出さずに。
理由としては地面へこびり付いた諸々が原因だと考えられるが、詳細は不明。着弾してなおも展開すらせず直立にして不動続けていた。何かを待つかそれとも壊れたのか。
離れた陣地。負傷者等を収用し看病したり、武器や弾薬、食糧に力石を保管していた。しかし、この地域に動く者はなく転がる言わぬ肉塊。
複数の煙を上げる瓦礫となった何か。
転がる者達に傷の重軽傷は無関係に命を断たれていた。
無残にも心臓や頭を一撃で潰されていた。
大量殺戮の後。
風が強さを増して何もかもを薙ぎ払っていく。
逃げていく清掃者達は目もくれず走り去っていた。
こうして拡大の一途で後の報告書では死者は数十万とも数百万とも云われている。
が実際には死者しか居なかったのだが。
例外として空白地に殻は撃ち込まれることはなかった。
指令部。
大佐が見ている限りで戦場の掃討は終わっていた。しかし、不安が溜まる。
終わったはずの画面を観ながら言い様のない掻きむしるような感情が昇ってくるのだ。
出かかる声を抑えながら見続けると慌ただしく出ていった。
直後に画面は揺れ天地が逆さになり切れた。
掃討された戦場にて。
立ち尽くす微動しない弾岩。
表面が収縮すると蒸気を噴き上げる。
静かな時間が世界を食べていく。
退出する前。幾つかの画面に映し出された戦場から離れた場所。瞬時に切り替わったが大佐は見落とすことなく認識してしまった。
見知った人影があったのだ。
その表情は困惑と疲弊が同居した絶望に彩られ慌てて出ていったのだ。




