四章~幾つもの視点から見た戦の象(かたち)~混迷極める戦場1
島の先端。対岸に位置する離れ島は現在進行で全区域が焦土と成り果て生存すら絶望的だと誰もが思っていたし実際生存者は一人としていない。
元凶の一人を除いて。
最初に到着した部隊はその光景を認識し全身が戦慄いただけでなく根底から絶望に押し塗り潰されていく感触を嫌でも理解させられた。
そう対岸の見える範囲全てが燃え砕け破壊され抉られ微塵となっている上に島の底から噴出しているであろう滾る溶岩が数箇所見受けられ全員が全員その一歩を躊躇していた。
風に運ばれる噎せる臭いは腹底から込み上げる云われぬもの。認めてしてしまえば現実に戻れなく。
いやこの先の日常を謳歌出来なくなるであろうと理解してしまった。
否定しようにも否定する要素はなく自身の前の惨劇たる現状は見て見ぬふりなど不可能であり不可避である。
風に煽られる火の勢いと音に混ざって一つの高く愉しく笑い悦に浸っている人外の声。火の中でさえモノともせず死をも弄ぶかのように蹂躙を繰り返している光景。
生きているモノなど皆無だというのに、その足元に散らばり、或いは転がる数々の黒い塊を踏み潰し拾い壊し蹴りあげて叩き割る。
仰け反る部隊。合流してきた別の部隊も光景に引いた。
戸惑っている場合ではないと鼓舞し対岸へ渡る決意を固める。のだが。
照準が此方に向いていた。
気づいた時には数人が赤の溜まりに身を横たえ調べるべくもなく事切れていた。
飲み込み指示を出す前に全員が行動していた。
だからこそこの行動に僅かの躊躇いがない。拘束ないしは命を害する。
大人数に対しての一人。
さらに増強されるのだ。この差を埋めようなく圧倒的な力に屈すると全員が思っていた。
同時に飛び出し避けても時間差を幾つも重ね無力化できた。はずで、安堵の脱力感。
がいけなかったのだろうか。
僅かな隙間を狙い綻びから包囲は潰され上空へ包囲網の一部が飛ばされると自身も跳躍し追い付き、躊躇いも慈悲もなく全ての命を削り果てさせ地に赤を降らせる。
着地し高笑は轟く。
不穏を体現したその歩みは一歩だけでも精神を削っていく。
喪失した肉体は気力だけで動くものでない。
頭に媚りついて離れない先の光景は容易に肉体を硬直させるに充分で、あるものが目にした最後の光景は鬼神たる奇人の忘れえない最高に最悪な笑みだった。
遅れて到着した部隊が目にしたのはたった一人。
救護しながら話を聞いてみるも要領を得ることなくそのまま気絶し詳細に知ることが出来なかった。
だがその負傷した者意外は気配すらなく、残るは見るも背ける陰惨なる永遠と続く大地。
風は臭く立ち込めていく。
急いで離れなければ二次三次の被害が出るだろう。
こうしてこの戦場は開始前から始まり。そしてものの短時間で終結した。
あれ程に備えていた設備等は全てが微塵と成り果て回収はおろか拾い上げることすら叶わない現状である。幸いなことというなれば、たった一人だけ生き残りがいた事だろうか。
これを幸いと呼べるかは別なのだが。
この者が辿る先の生は深く大きな谷が待ち構えているだろう。
そう誰もが想像し気を落ち込ませてしまった。
負傷者を後衛に預けようと陣営最後尾に到着すればその目に見受けられる光景はあの場とは遠からずだろうと近い。二度目の鮮烈な負傷者の数々。呻き苦悶悲鳴。命在るだけましだと言えば良いのか、この光景を見て命を失くしたほうがましだと言えば良いのだろうか。悩んでしまう。
近くの者を呼び止め聞くと。
「見た目は軽傷なのですが、傷口から短時間で菌が増殖。それ故に抗生物質への耐性獲得が速すぎて新たな薬剤を開発に短くて半日。長くて3日は掛かります。それも開発場所からこの戦地まで速くて5日。手続きに半日。その場所から更に数時間なので大雑把に見積もって、9日は速くて7日。投薬にしても手続きに時間を要しますので更に時間が。」
見た目通りの軽傷だというこの有り得ない光景は思っていたより深刻だと理解した上で、此方の重傷者の収監を依頼すると困った表情を向けられ。待機を言い渡され待って暫くすると、一人の老人を伴って戻ってきた。
短い挨拶を済ますと運んできた重傷者を見るや拒否した。理由を聞くと。
「これは此方の専門外。此処から向こうへ行くと重傷者を受け入れる天外がありますのでそちらへ。願えますかな。」
何か納得できるような真逆なような感情で老人の反論拒否という雰囲気に気圧され教えられ離れた天外へと運んで何とか受け入れてもらったのだった。
その後、陣営中央への通信のため通信記録部隊へと向かうと何やら喚いている者を諌める複数人。全身が治療中なのか保護被膜に覆われて見える部分だけでも痛々しい。
だが目下それを気にしている余裕はない。報告を優先しなければ。
通信部隊の暗幕を開けると予想外に混雑していた。
呼び止めようにも待機するよう指示されるが急を要するため急ぎを伝えるも奥を示され見るとその場には十数人の人が苛立ちながら待っていた。
驚くが本当に急を要することを伝えても。待っていると人達も急を要していて貴方だけではないと返された。ならばと先の情報を入れた集積体を渡し外へと出る。
外には残した待機するよう命じたはずの部下。
小言を言おうかとしたのだが、近づいたその皆の表情は芳しくない。
「どうした。」
一人が迷いながら敬礼した。
「た、隊長。此方を。」
差し出された大型端末を受け取り確認するとその内容に驚くしかなく。
再確認のため目線を上げれば差もなく頷くだけだった。
受領の記しをして返信し部下をその場で解散させてから本部へと足を向ける。
実は、これが、最後になるとは思わず。
双方が生きてる姿を見た時間であった。
内容は。
《第98連隊13大隊第6歩兵部隊127班隊長。ホーリット・アルニクス。上の者はこの閲覧後に中央本部連隊責任陣営1番まで出頭するものとしす。これを如何なる理由であろうと破棄とするならば終結後にて軍事裁判へと出廷してもらう。以上》
拒否権のない命令である。
隊長や部下含めた全員が困惑し、命令には従うしかないと理解していた。だから解散し指示された中央本部へと向かったのである。
ホーリットが到着すると目に入ったものは、恐慌状態といって差し支えない本部の体たらくであった。
取り敢えず指示された陣営まで向かう事にしたのだが、途中で止められ、指示を受けて来たことを伝えても話が通じず端末を指令書を表示させようと操作するもその辞令書の痕跡すらなく。困惑していると別の方面から声が掛かった。
そちらへ行くと背後から有無を云わさず地面へと押さえつけられ訳も判らないまま地面を深く掘った檻へと蹴りおとされ硬く閉じられた。
議論の余裕すら失った議場は紛糾していた。
突如の開戦というより想定外によって綿密に練り尽くし練られ尽くした進行計画全て破断し無断に成り果て、最終的に誰が此度の責を負うのかのという擦り付け合いが行われていた。
と高らかに宣言するものが存在した。
それは、異質にて異物。異害にして異常。
これを認めたならば動けるものなく。
異界にして異様。
言葉を紡がれ議場に居合わせている全てがその言葉を肯定し実行へと移すのだった。
移ししか無いというべきだろうか。
言葉に逆らえる者は皆無であり思考は別の思考に塗りたくられ移していくのだ。
想定外でありながら積み立てた作業を廃して替わりを用意するなど無謀だが見透かしかのように代わりが用意されていた。
誰も不思議と考えず享受し宛がわれた役目を果たしていく。
耳に響く音を共にして。
迷っていた。
彼は本当に迷っていた。どちらを選ぶべきなのか。これは今後に関わる重大事項なのだ。これ如何によっては本当に戦局を大きく左右するだろうと。
だから迷っていた、そう。
一方は甘く芳しく鼻腔を擽るとろけるお菓子の山。
一方は刺激強く鼻腔を突き刺し思考を拒絶するが掛かる靄を弾け飛ばすに充分な激辛料理の品々。
迷って選択したのは。
「お疲れ様です総司令官。進捗は現在一割しか改定できておりません。」
「ぶふぉっ。」
「うわ、きたね。あ、失礼しました。」
敬礼したがその顔には最悪だという表情がでていた。
「うぼヴぉっごはっかはっがっうぇ。はぁ。」
「総司令官。何をしておられるのですか、この一大事に。」
「んん。すまないな。なに、少し運勢を試したのだよ。」
「はぁ、それで、どうなりましたか。」
「ああぁ、どう道を未知にしたところで行き着く地点は変わらずだ。こほっ。」
「そうですか、ではどの様に。」
「ああ。そうだな混乱混迷混線だ。こう伝達するように。」
各部隊以下。勅命である。
現在の状況をもって各部隊は各自の判断で行動せよ。尚、この指令を最後に長距離通信1964.625.9483は使用不可能となる新たに各部隊内で設定せよ。
「ん。どうした。復唱。」
「あ、失礼しました。『各部隊以下。勅命である。
現在の状況をもって各部隊は各自の判断で行動せよ。尚、この指令を最後に長距離通信1964.625.9483は使用不可能となる新たに各部隊内で設定せよ。』と。ですがこれは。」
「ん。言いたいことは理解している。だが、この現状で虚実を正確に判断できると思うかな。出来なくは無いだろうが、全人がそうとは限らないだろ。なら各部隊内だけでの情報共有で事足りるだろうし、別々であったなら現状把握で部隊間での共有も出きるだろうしな。」
「で、では各部隊へと伝達します。」
「ああ。頼んだぞ。」
機器を操作し伝達する。
ふぅ。不明瞭な天外となるがまあ、転んで落ちて轢かれたとして外れはないだろう。なら、従って命を拾うだけだ。無駄な事をする必要もない。はは。乾いてるなもう。




