四章~幾つもの視点から見えた。もしくは見た戦の象(かたち)~内外処理
暗く僅かな照明にて手元だけが照らされてやいた。
その手の下には出来るだけ簡易に表示された戦場。
地形海図が網羅され空白などない緻密な地図である。
指で大きく振ると画面が縮小し小さく振ると拡大し画面を叩けば標準の大きさに戻る。
一つの印に触れると詳細な個人特定情報が示される。
生年月日、血縁関係、交遊関係等々。様々な情報が網羅されている。
思案するように表示されている項目を適当な速さで見ていく。
だがその目に情熱はなく決められた何かを当たり前のようにこなしているだけのようで。
機械のように表示しては流し表示しては流していくという単純に単調な作業である。この作業に意味はなく実際は暇だと感じている。
どうしてやる気が無いのであろうか。と誰かが聞いたならこう答えるだろう。
はっ先の知れたことほど詰まらないもは無く、この戦争の結末は原因から終結まで全てを知っている。
だからこそ詰まらないのだよ。
これまでも外れたことはなく、幾つも見て派遣されてきた戦場は外的要因があろうと全てが決められた終結へと帰結する。路を違えることなく全てだ。それを知ってから全てが虚しく馬鹿らくしなった。
現在もそう今この座っている椅子も用意された場所に過ぎない。
だがそれで良いと思ってるし素直に受け入れてもいる。
苦労せずこの椅子に座っているのだから。
たとえこの先に絶望が待っていようとも。
手を組んで笑みと哀愁を隠しながら画面を見る。この戦争の結果は知らされていた。多種多様、有限有限原因要因を含めて進行速度も把握している。
相手の素性も判っている。
自然と一つの息を吐いてしまった。
どの様な経緯であれ。と呟き。
この戦場に立ったのなら敵として認識しますよ。と。
一角といえず、その区画の半分以上を占領していた一団は混迷と混乱により困惑を表出させ収拾がつかなくなっていた。
勝利確実とされる儀式は成功したが、不測による上書きのため上位たる者達以下が情報の錯綜に翻弄されていたのだ。
本来ならこの一団から戦端を切る手筈であったのだが、誰が予想したのだろう。よもやと言うべきか。
だからといってこの狼狽えは看過できず。
轟音を響かせた。
上位たる1人が紡ぎを放ち場の乱れを沈め静めた。
他の上位者は気分を害したように頬を触れたり掻いたり刺したり抉ったり。
心を棄てるように傷つけていた。
この光景は全ての者達を一様に自分達の有方を再認識させられた。
振るえながら正面を向き涙を衣服に濡らす。
作戦概要は全て把握していたが、今般の作戦開戦はこの一団からと協議にて確定していたと聴いているし確約されていたしこれは此方の譲歩と記されていた。納得はしていたが不満が無かったといえば嘘にはならない。
選ばれた贄は願望を口にし捧げることを誓ったのである。
完全に漬かりきった深層精神である。
称賛したが。
さて本当にそれは感嘆の涙か悲観の涙か。誰も解らないのだろうか。
決意したその気分がその情報をもたらされ心が沈みから浮き上がっていたことを自覚してしまった。
悲嘆した自身の此までを否定してしまった瞬間だった。
涙が滂沱のように流れていく。
一つの事象は全てに伝播する。とかないよ正直。
さてさて準備していた全てが無駄となった。ことはなく。ごく一部であるにせよ、戦争の流れは大きく畝ってしまうだろう。何者であっても予測出来ない事態が引き起こされる可能性さえあるのだから。
それらを証明するように。
上層部は冷や汗しか出ないし計画修正に迫られていることは臓腑に色々な様々な多様な痛みが舞い踊った。
笑い転げるは一部だけ。全部を知っていた複数でなく、たった一人だ。
だが誰も気づかず気づけない。その笑いは確かに同時にその場に存在して空気を震わせ耳に届いていても誰もが気づかない。だからこそ笑いとは正反対の表情をしてそのまま消えていく。
ある地点で部隊が右往左往していた。世界府庁が派遣した部隊である。
派遣される前に全ての情報を知っていたし、存在全ての配置を熟知していた。戦争という事象に対する内外的な要因や原因も複数示されていた。本来ならこの程度で狼狽えることは無いのだが示されていた規模と現実が結び付かなかったのだ。
ゆえに慌てて情報収集を初めても錯綜して虚実が判らなかったのである。それは上に存在する者達も同様であった。
その者は困惑していた。
何にという問い。
に対しての答えは。
一つ。
知っていた情報と同等の久方ぶりの混乱。
一つ。
聞いていたより有り得ないからという望外の状況。
両方である。
なのに身体は是。とはしなかった。動かなかったのである。勝手に口だけが動いて指示を出していた。
これはと。踊った。心だけ。
即座に収集され持たらされた全ては現場からの詳細な物と掛け離れていると直感に理解して破棄を命じた。
定点映像を映し出そうとしても混線しているのか繋がらず諦め現場へと向かった。
その顔に隠せぬ嬉々と鬼気が表れている事を自覚しながら。
右往左往は上位たる子息共にとって更なる恐慌を持たらした。聞いていた事と現実が考えるだけでも乖離しすぎていた。
自身の言葉は全てに優先される。だから気分であれらをどうにでも出来たのだ。
だが現実はどうにもならない。そう。ならないのだ。だから本来なら助かる筈だった地点からの訃報に全身の脱力感が現実を突き付けた。
誰かの笑いが響いていた。
目の前が暗く開けているのか閉じているのか理解が追い付かず腕を動かしていたと思っていたら感覚はなく。足を動かしても片方の感覚もない。全身に走る嫌な感覚は如実に現実を突きつけた。鼓膜は破れてなかったのか次第に遠くに聞こえていたと思っていた笑いは意外と近くから聞こえていた。
声を出すが喉が焼けるように痛み、同時に出たものは声とも言葉とも取れない音漏れのような空気音。
笑い声は仲の良かった部下。一番に気に入り手塩に掛けて育てようとしていた。
だがそれはもう叶わない。叶いようがないのだ。
笑いは部下のものかと思っていたが。何かの違和感を憶え声に成らない音をなんとか出してみた。だが一行にその笑いが止まない。
止まないどころか次第に大きく曲がり狂いの感情さえ伝わってくる。
思った瞬間。
嫌な音が鳴った。
尚も笑いが止まらない。
異質。異様。異常。
否定の音漏れは即座に更なる否定により掻き消され潰された。
時間差による痛みが駆け巡る。
何が楽しいのか執拗なまでの行い。理解した。これが全ての元凶であると。そして、もう先は無いのだと。
直後。この一帯は不明な数えられない爆発と一個大隊全滅という情報が各部隊にもたらされた。
あ、云っとくと、彼等には無用な情報であることは云うまでもないかな。
ではではこれより先は誰が損を得。誰が益を得るのだろう。
慌てふためく者達を置き去りにして戦争は彼等彼女等の思惑を外れ意図せず火蓋は切られてしまった。
見物である。




