三章~謁見~
風を感じながら眺めている海。波立つ海面から現れる影は大口を開けて海上を飛び交う翼魚を大量に補食し堕ちる時リートを見ていた。
「ように見えるよね。あんなの知り合いにいないはず。私は記憶がないから完全否定できないけど。はぁ。」
膝に腕を乗せながら考える。
考えても記憶がないので思い出すもない。
「ふあぁ。時間は充分かな。もう戻ってこないなら戻ろ。」
立ち上がると後方から強風が吹き込み体を前方に圧され一歩手前で踏み止まる。
「むむ。危ないな。」
縁に掛かる重さに僅かな欠片が落ちていく。
瞬間。海面が急激に引き波が遠方から襲い来る。
「ああ、これは投げやりに考えた方が得策かなぁ。」
高くどのような場所に逃げようと波に足を食われ引くと同時に地から剥がされ海面に叩きつけられると同時に世界が暗転するだろう。
が。
先ほどの風より暴風に近い風。体が浮き上がり地上から遥かな距離を飛ばされる。考えるより無意識に方向を確定させ、状態を安定させると眼下に抉れる地表と暴風により凶器となる石粒。さながら方位無視の散弾銃。
標的は海上に姿を現し腹を見せている格好の外すことない標的。
全ての石粒が命中し深々と抉り体内を容赦なく蹂躙する。
はずなのだが、見ると彼らの表情は重く暗い。
答は直後に理解できる。
高速にして捻りまで加えられた石粒は体表に触れるか触れないかの位置で粉となり吹き荒れる風により霧散する。
反転し。
うぐ。
視線が合った。
目が。気分悪くなる視線を向けられていた。
あ。
1つの懸念が。最初から在ったが消失していた。
着地できない。
上空遥かな高さ。何もせず落ちたなら赤い花が綺麗に醜く咲き乱れる。
絶叫。いや吼えたのかもしれない。もしくは自身の現在を悲観して咽んでいたのかもしれない。
上空への滞空も風の停止により途切れ、地に引き落とされていく。
短く確かに表す心情も瞬間で地面が近づく。腕を犠牲にしてでも身体の重症を避ける。
が体感的に待っていても聞きたくない音と腕に掛かる衝撃がなく。代わりに息が出来なくなり意識が遠退きかける。が予想外の部位に衝撃を受け意識が逆に冴えてしまう。
噎せて肺に入った物を出しながら体勢を持ち直すと。
何か言葉に表せない表情で何かを言われていた。
耳が聞こえていないのか。とそう思ったのだが、違う。
困惑した。此方の言葉は通じている。確実にだ。だのに何故か言葉を言葉として、いやそれよりも音として相手が発しているものが認識されないのである。伝える空気は存在している。音なのに音であることを許諾しないのだ。
考えが纏まらないが事態は無情に進む。
誰かが何かをしてリートを担ぎ何処かへと連れていこうとする。
抵抗虚しく腕に押し当てられた何かを使用され、手足の筋肉が硬直し言葉も発せなくなる。
その部屋にはこの世界で物理的にも物質的にも最高硬度の素材を加工して創られた机が1つだけ存在を許されていた。
一人が机の前に一人が床に座して。双方の背後に各々一人が立っている。
1つの端末。
「さて、何か申し開きがあるなら聞こうか。」
鼓動が速く。汗も出ていた。
聞くとあの事から短時間程しか経過していないらしい。
「え、ええ。と。それでは、質問を。」
「何かな。」
「1つだけに答えてくれるのですか。それとも複数に解答をしてくれますか。」
「ふむ。そうだな。私の権限内については応えよう。」
「そうですか。では。」
目は瞬きせず見つめる。
次の言葉をまつ。
待つ。
待って。見られている。
負けじと見返す。
だが微動せず。見てくる。
何なのかを心構えているが。一向に次へと移らない。
時間が消費されていく。
無言が続き。
動いた。
「寝るなっ。」
「ふがっ。ほあっ。うぐああぁぁぁ。」
後ろに立っていた者に殴られ驚き目の乾きに悶える。
「ふ、ふふはは。その態度。二度はない。」
「ん。むむ。何か眠くて。」
「さて質問を聞こうか。」
「質問。ああ。そうでしたね。では。一つめ。いえこれが最も重要かつ重大な質問です。」
「むなにかね。」
「どうして、僕は。」
「ふむ。もしかしてその先は。」
「なんだ。察しているなら話が早い。でどうしてこのような状況であり、状態にされ、処遇を待つような事になっているのでしょうか。」
「理解していないと。」
「ええ、そうです。ね。不可解です。」
「そうか。ではこれを見て、何も思わないと。考えないと。」
寄越された端末にはある情報が映し出されていた。
「えと、これは。ああ。なんでしたっけ。あ、そうか。僕が話したあの方の肩書きでしたか。」
「ふん。正確には所属組織等の情報だが。あの様な場で簡単にそれも短時間という話でなく、君は、何時調べたのか。監視があるだろう。」
「ん。さぁ。僕は何故かあの時見た瞬間に頭に浮かんだのでそれをそのまま復唱した。そんな感じです。」
抱えるように唸る。
「そう、か。では私の所は終わりだ。」
「そうですか。では、失礼します。」
部屋を出るときに何か逃しているような、そんな事を思いながら部屋を出る。
と体があり得ない方へ曲がり、聞きたくない音を複数回聞くと視界の端に会いたくない人物が嫌な笑顔を向けて親指を立てていた。
気絶しなかったが、引きずられて連れられた場所は倉庫。
その管理事務所である。
指先と脇腹に鎖の付いた枷を撃ち込まれ、赤は出ていないが苦痛が意識を無理やりに保たせている。
「さて、聞きたいことが一つ。」
目で先を促す。
「実は数日前、宝物庫から紛失した事が発覚した。それも一つでなく複数もの品が。」
静寂。
「さて単刀直入に言おう。君が盗んだな。返答次第では罰房送りに処するが。」
「ん。盗んだ。と聞かれましても。く。何を指しているのか判りません。き。」
「そうですか。ですけど目撃者が多数いるのですよ。」
「ふ、ふうぅ。その、目撃者。でしたか、あぐっ。本当に、いたのなら、どうして。」
「簡単です。発覚したのが昨日だからね。」
「こふ。た、確かに簡単に言います、ね。」
「さあ、証言もあり、尚且つ君が入っていく映像もある。言い逃れは見苦しいと思うけどね。」
「く、くフッ。そうですか。それで最高責任者は。なんと言ってますか。」
「なにも。」
「ふくぐ。ひひ、そ、それは。二つの意味を、考えます。」
「そうだな。」
「どちらだと。」
「知れたこと。あの態度は方は個を主張して下さる。」
「そ、そうですか。なら。はあ。」
突然顔を下げ、何かを言っている。
「言いたいことがあるのなら相手の目を見て、大きな声で。と教わらなかったか。」
「んぶ。ああ。気にしないで、は、ふうぅ。ではそのぐきぎゃりがべりだなVMJ4』
急に狂い目の光が失われる。
「む、どうし、・、・・・。ぎっ。」
異変。
「ぐきかっは、い、き、か。」
意識が途切れ倒れる。
動く者ない事務所。
「ふ、はあぁ、早い。まあ何時もの事か。で。だ。盗んだ理由を話すなら。簡単だ。あの品々は全て所有権を有しているからな。だから元ある手に返してもらっただけだ。さて、傷の治りも遅いし、沈むか。ん。」
「くはっ。は、は、は、はあ。あれ。え。」
意識が途切れ気づいてみれば枷は外れ、質問をしていた相手は泡を吹いて苦悶の顔で気絶していた。
捻る。
いや腰じゃないよ。
首を傾けるといった方が的確だろう。
「ううん。あ、成る程。そうか。世界が僕を。うっ。おげえ。」
盛大に吐瀉物を掛けてしまった。謝罪の言葉を口にせず何も感じず、放置して事務所を後にした。
「まあその内、誰かが見つけるでしょう。行こ。」
この日から何日後に発見されるが、その時には記憶の外に投げ出していて覚えてもいなかった。
一階に出ると空気が緊張したように漂っていた。
目の前を通る者に足を引っかけ、倒しながら起き上がりに質問する。謝罪はしない。
が、言葉少なく、いや何も話せないのか。小声で何かを呟くと起き上がって駆け出していく。
その後も数人程に似たような事をして内容を少々変えながら聞くも確信する話しは出なかった。
諦めて部屋へ向かおうとするが呼び止められ、ある場所へ向かう事を言われた。
行き先は決まっていたが、急ぐでもなくただただ、そう休みたいのだ。
断ることも考えるが休むだけである。暇なもので潰しとして一興かと。足は向かう。ある場所へと。
「疲れるけどどうせ寄り道するつもりだし、まあ、いいですかね。」
怠そうに慌てている人の波を避けながら進んでいく。
次の階は誰も居らず、静まり返っていた。ただ階下の慌ただしさは聴こえてくる。
その反する異様な落差に何か心が。
「さて、では上に行きますか。」
てええぇ。調べるとかしないのかよ。
「という事を言われるかもしれないけど、面倒だし。」
目を細めて視線を階段へと移す。
「上。なんでしょうか。僕に用があるのか。それとも、さて何が飛び出してくるのか。」
上階から落ちてくる空気の流れ。
様々な感情が乗せられ、確たる認識をもって向けられている。
「ん。、おお。これ、は。だめですね。」
頬を解し、気を改め階段を昇る。
昇りきり最初に痛覚。耳に届く奇声。体は浮遊感に、床を滑り止まる。
続けられる奇声は近づく。
倒れているが容赦なく執拗に満遍なく蹂躙する。
全身に無事な箇所はなく、骨は砕け、内蔵も損傷し、頭部に至っては眼孔も堕ち窪み、鼻から止めどなき赤が流れる。
最後に動かせない腕を一刀両断し、ごみ屑のように投げ捨て、満足して何処かへと消えていった。
呼吸音。これは僕自身の。声は出ても切断面から漏れでるものを起因とし体が動かなくなってくる。
命が。
尽きる。
潰える。
「へあっ。と。あれ。ここは。」
消えた意識は戻っていた。
確実性をもつ意味なら、戻されていた。
手は動く、足も。
「良かった。」
体が驚きの行動をし、声の発生源へと頭を動かす。
「誰。ですか。て、きょわっ。」
ぼやけた視界が鮮明になってくると顔を見て、声が出た。
理由とするなら二つ。
一つ。その顔には普通の表面でなく。幾つかの凝った装飾と気分を害する面が歪に配された品。
二つ目はその顔に付着する物。
生物的な物が。
「ん。気付いたかな。ふむ。しかし起きぬけにそれは、想定内だ。」
「そ、うですか。じゃあ、傷を」
「いんや。それは違う。」
「え、でも。ほら斬られた腕とか、あと体の中も。なおっ」
「不思議でね。到着したときには治っていたよ。」
「治ってた。ですか。」
「質問。良いかな。」
「良いですよ。」
「む、想定していたが、即答とは。」
「そうですか。でも、まあ時間はありますので。て、どれだけ寝てましたか。」
「ん。極々短時間。気にしない。では初めても。」
「んん。どうぞ。」
「何、気構えなくてもいいよ。一つだけだ。」
「ん。どうぞ。」
「異常すぎる回復。否、再生力か。その根元が何かを知りたい。」
「えぇ。そうなんですか。」
「ん。まさかその異常も知らないのか。」
「ええ。名前も知らないですし、自分。その異常なものか何かを聞かれても答えられません。正直、僕か知りたいです。何者なのか。」
「そうか。」
細めた視線に心が落ち着かない。
「それで、此所は何処ですか。」
「見て判るだろう。」
「ん。」
二択か三択か。
「医務なのは理解してます。」
「ほう。では何処。というのは、階。のことを言っているのなら、三階だ。」
「では行っていいですか。」
「まて。」
「質問は一つだけですよ。では。」
扉に手をつく。
「あ、開けてもらえますか。無理と言うのであるのなら。」
空気が変移する。いや、変異か。
医務室に立ち込めていた空気は主たる者が支配していた。この空間では如何なる者も物であろうと支配下にある。
「ふ、ふはっ。そうか。良いだろう。開けよう。だが、その先には君にとっての蕀など生ぬるい道が永遠と続くだろう。」
竦めて、促し部屋を出る。
「ふあっ。眠い。」
微睡む眼をどうにか見開き、上階へと通じる階段を探すも。
「ん。見つからない。」
そう行こうと退こうと永遠と続く廊下。出てきた扉もない。
「これは。」
壁を叩く。
「ん。これは。」
言葉を創造する。そして最後に叩く壁をもって自身の頭を殴り付けた。
「うあつ。と。おおう。これは。」
視界に侵入するは一変せし光景なり。
崩壊す。砂の水。壁は気づくと消失、消滅。蒸発。
真なる姿を見せた。
見せてしまったのだ。
「ふうん。」
「か、」
「構いたがり。」
「うええぇ。」
思考は何時から鈍っていたのだろうか。
「何時からなんて考えても無駄。で。これはなんですか。言い澱むことならいいですけど。何か目的あっての行動。強襲したのかな。」
答は言葉として返らず、代わりとしての行動が示す。
「まあ、不平不満は受けたいのですけどね。僕も急いでいるんですよ。呼ばれてますし。そんじゃ。」
停められた。
振り払うことも考えたのだが、あえてしなかった。
時間の浪費してしまうだろうと考えたからである。
差し出された物は表情を隠すための品。
素直に受け取り、次の階へ向かう。
次の階での最初の一踏み。思考するは。
「はあぁ、あと何階あるのですかね。」
「ん。それは確か、全部で二十は有ったかと。」
「そうですか。では、あと。大変ですね。さてどうしましょうか。」
「まあ地道に昇る他ないね。」
「では行きますか。」
幾つかの階を制圧に近い対処で通り、二つ手前の階で一息。
服を扇ぎ空気を通す。「でだ、君は何時まで私を素通りするのかな。」「うええぇ。汗が気持ち悪い。少しのつもりだけど引くまで休もうかな。」「聞こえてるのだろうが。」「お、ちょうど水分発見。」「ん、ちょっと待て。の、なな、なんだその表情。い、いやあああ。」
「ふううま。」
「う、うっ。ひ、ヒドイ。は、」
「気持ち悪い言葉は撲滅退場。」
「うぐ。最後まで、言わせて。」
「少し回復しましたし行きますか上の階。」
次は手前である。何もなければ僥倖。あれば幸い。
「はは。面白い。そして、くふっ。」
階上へと向かう。
先に言ってしまうとかなりな残虐に暴虐に酷虐し懇願を崩壊させ恥辱屈辱嫌悪を厚めに塗り重ね幻想を抱かぬよう手を尽くし放置し最上階へと到達したのだ。
「疲れました。はあ。手に入れたこれは意味ある物と思いたいですね通過の過程で何かが動かぬ何かに成り果てたのは仕方なし。行きますか。」
階段を昇る。
通過したその痕には言葉を創造するしかない。
最上階である。
「何もない。」
言葉は紡がれる。造られる。
見えるは廊下と永遠と連続する壁。天井。
細工は負の考え懐かせるだけあり、その筋が見てしまえば一ヶ所で長時間佇むだろう。
「殺意、違いますね。憐憫ですか。」
慰めたくなる想を貶し口内に溜まった透明な液を吐き出す。
「行くにしてもこれは意味あるお、違いました、あるものと想いたいですねぇ。」
比較的に細めた視線の永遠とも考えられる終着地には窓。取っ手なく待とうとしたが瞬時に無駄として掴んで開けた。
直接思考に介入する。弾いて惨殺。
「二十に耐性せしある。入室許可証発行。直接入ろうか。」
落ちたよう。入室。鋭敏な感覚排除し両目を抑えて視認する。
「認識と許可の手続きは省こう」
1つの色に犯された空間で大きな大いなる何かが集まった。
虚無を言葉紡ぐ空間で一人と最高責任者が対話する。
「良く来てくれました。まずは、喝采を送りましょう。」
確かに喝采だ。が感情の気迫な喝采である。
「さて、時間も無いので本題へ。」
「それならさ経緯を説明した方が速くね。」
「む、そうですね。ではお教えしよう。現状と理由を。」
話しは長く、最後は聞き流していた。
「それを要約しますと、去る高貴な人が忍んで来られる。と。合ってます。かね。」
「ええ。」
「それでその相手を貴方が直々に。ですがその日、それも今日は最も重要な事があり、外すこともできない。そうですね。」
「ええそうです。」
「ですが蔑ろにしてしまえばそれは大問題。下手をすると命すら危うくなる。と。なので代役を立てることにした。それは理解しました。」
「ええ。なのでこうしてご足労願ったのです。見事に応えてくれた。」
「で。」
「で、とは。」
「いや、だから、それで何が言いたいのかな。と。」
「察しが悪いですね。話の流れで理解できるはずですが。」
「察し、ですか。そうですね。流れを汲むならそうですが、簡単に答えるなら断ります。」
「理由を。聞いても。」
「簡単ですよ。面倒です。の一言ですね。僕にはなんの得にもならない。損しかないですよ。この場で見返りを述べてくれるなら別ですが。」
「そうですか、ではこれを。」
出された品は丸とも多角とも云えない不理解な品。
「聞いても。」
「ふくく。簡単に答えると。」
「そうですね。でこれはなんですか。流れを汲むなら。僕の欲しい何かがあるのでしょ。」
「うん。欲しいかい。では受けてくれるかな。」
「嫌だ。絶対にっ。い、や、だ。」
「おいおい。素直になろうか。はな」
「拒絶したい。ですけど、切っ掛けを掴んで何かを知ることが出きるなら。」
「おお。引き受け」
「なんの因果か僕は断りたいです。でも、無理そうなので。」
「引き受けるかよ。」
籠ります。という言葉を既存に創出して姿を眩ましたいが。
「無駄をするな。この空間は支配している。何者で、何物で在ったとして不能で不穏なのですよ。」
意の外である何かに働かない。赤い感情の上位の更なる特位が、発露する。
影響も皹を穿つのみ。
「は、ふうううお。」
「気が、済んだかよ。話を戻したとしてどうするよ。」
「省きましょう。答えは。受けますよ。どんなに言葉を尽くしても潰し繋いで無謀と現時点で地点で次点で認識したので。」
その表情には引く。
あ、その表情はこの最高責任者の事であると確定しよう。ん。
軽くはないが。引き受けて時間と混同するように思考は苦痛を久遠のように沈み、考えが求めることと反して離れていくし剥がれていく。生物が発していい音を越えた言葉を意思外で世界に貼り付けていた。
事を浅はかに考えていた自分を狙うように去来するが否定する。
「どうしても考えも手元に流れる情報も混在してますね。整理して僕の入手したい事の大体がないので、面倒すね。」
立っていたのに落として座った。
契約内容は二つ。
一つは彼の存在には誠心誠意を浸透させるように持て成し敬い対すること。
二つ目は品を付け、布を着こなし用意した部屋で待つこと。
以上の二つを守られるならあらゆる権限を貸し与える。
「これが、ね。ふうん。で、用意された部屋がこれ。』
渡された鍵で開けて入ると簡単に整理された部屋だった。
大きな机に二脚の椅子。あとは何もなく、広くも狭くもない至って普通の部屋。
『話では。ほ。』
渡された端末を操作して頼み事の内容を確認する。
《この依頼は秘匿扱いであり、一部の者しか知り得ない。漏洩したなら相応の処罰が課されると認識されたい。》
是非が表示され非。を選択した。
直後に扉が開かれる。
「入っても良いかしら。」
『どうぞ。』
「あら。」
入り、対面の椅子に座る。
「この施設での最高権限保有者ではないのかしら。」
『説明しても』
「ええ。聞きたいわ。」
『実は本来、あなた様をもてなすお方は急病でして、少し前に簡単な処置を施され病院へと搬送されまして、その折りに急遽、私のような若輩が選ばれました。それゆえ此度はご容赦願えますでしょうか。』
「ふ、うん。そ、まあ良いわ。私の知りたいことを知っているかどうかの確認だったし。それで。」
『はい。承っております。失せ物。ですね。詳細は本人の口から直接。と明記されておりますので失礼ながら、お教え願いたいのですが。』
「ふう。そうね。経緯を話したなら長くなるけれど、でも、そうね。うん。簡単には説明しずらいわ。何せ、長年探していて手がかりが見つかっては消えての繰り返し。と聞いているから。」
『ほう。聞いている。それはつまり、あなた様自身が欲しているのではない。そういう事で解釈しても宜しいのですかな。』
「あら察し良いわね。そうよでも見つけたとして私自身が何をしたいのか、判らないの。」
『そうですか。では、何をお探しで。』
「それは私が焦がれるお方の所有物。私自身、何度か見たことがあるけれど近づくことさえできなかった。でもある日を境に目の前から消えたそうよ。」
『その所有物の特徴は。』
「さあ、何度も見ていたのに不思議と覚えていないの。どうしてかしら。」
『そうですか。何か些細な事で在っても宜しいので覚えてないですか、そうですね、その所有物の持ち主が対する表情や仕草でも構わないので。』
「そうねぇ。あ」
『なんでしょう。』
「あれは、そうね。」
『言いにくいのなら言わなくても。』
「焦がれ、それも一途な感情。それかしら。」
『ほう、焦がれですか。それはあなた様が抱いている感情と同一のモノでしょうか』
「ええ。近くて遠く、想っても届くことのない心。ただ。それ以上の何かを垣間見ることもあるかな。と。」
『そうですか、では、こちらに、今の事柄を含めた些細な可能な限りを書き出して貰えますか。参考にいたしますので。』
「ええ。判ったわ。でもこれ機密よ、知っているわよね。」
『はい。理解しておりますれば。ですが記録を録らねば調べようもないのです。ご理解ください。』
「はあ。判ったわ。でも余り憶えていることは無いわよ。それで良いかしら。」
『ええ。些細な中に答えが。ということもありますので。』
「ふふ。」
『おやなにか失礼をしましたかな。』
「いいえ、何故か心が踊るとおもったの。」
『そうですか。』
書き出していく情報。
用意した飲料を遊びながら待つ。
「終わったわよ。」
『失礼する。』
流し見する。
『はい確かに。ではこれであなた様の依頼を承りました。上にも報告しましょう。』
「ねえ。相談を聞いてもらうだけだったけど、良いかしら。」
『ん。まだ何かご用でしょうか。』
「いえ、雑談の様なものよ。思ったより早く用事が終わったので時間まで余裕があるの。」
『そうですか。まあある程度の権限を与えられているので可能な範囲でなら受けましょう。』
「ありがとう。でも本当に雑談よ。中身のない話ばかり。」
『良いですよ、それであなた様の気分が晴れるのなら。』
「ん。良いわ。でも話すことは時間までよ。」
『はい。ではお聞きしましょう。あなた様の雑談。を。』
含むような言い方は無視され話しは続けられる。
「だってね。面白くないのよ。仕掛けた端から壊されて。しかも本当に手に入れようとしたのに失敗するし、だか、ら。んふふ。壊したわ。全ての関係を破断して遮断して切断して。それで最初から構築したの、あ、壊したことは表向き美談として整えたわ。それで今はその途中。はあ、疲れたわ。あんなに疲れることなんて無かったし、まあ少しは勉強になったかな。」
『それにしてもその決断はかなりの無理があったのでは。あなた様お一人の繋がりではないのでしょう。』
「良いところに。でもね、言ったでしょ。表向き美談として、て。」
『そうなるとそれを知ってしまった私はこの後、危ないのでは。』
「あ、そうね。んん。でも大丈夫かな。なんでか判らないけど。」
『そうですか。しかし、それ以外のお話しされた内容はまた本当に雑談と捉えられなくもない。本当に機密と言うものは先程の話ですか。』
「ねえ。」
『はい。』
「ん。いえなんでもないわ。」
『そうそう、忘れてました。ん。』
体をまさぐり、ある場所で目的の物を取り出す。
『これを進呈しましょう。』
「なに、この良く判らないものは。」
『ん。さあ、今、何となく渡した方が良いのかなと思い付いたまでです。深い意味はありません。迷惑と思うなら破壊しても良いですよ。必要と思いになるならその瞬間までお持ちください。』
「この詳細は。」
『さあ、判りませんね。いつの間にか私の懐に有ったので何となくあなた様にお渡しすると良い方向に向くだろうと何故か思ったまで。』
「へえ。なにか面白そうね。有りがたく貰っておくわ。」
『どうぞ。では時間も迫ってますし、そろそろ終わりにしますか。』
「もうそんな時間なの気づかなかったわ。そうね一応の依頼はこなしたし、後は、時間の許す限りで待ちますわ。朗報を期待してます。」
『それ困ります。』
「は、なにを言ってるのかしら。私の依頼なのよ完遂させるのがお前達の義務でしょう。」
『くく。最後まで被っていて欲しいものですね。言っておきますがこの不明瞭な情報では時間と手間と掛かる費用は莫大な事になりますね。人員も割かなければならないので余り良い話にはならないかと。それでも受けたので気長に待っていて貰えれば此方としては気が楽なのですがね。』
「ふうぅ。失礼したわね。でも時間は掛かっても良いけど、気長には待てないわ。そうね。中間報告までの期間を設けましょう。」
『何時に。』
「来年の頭でどうかしら。」
『いえ、それでは短すぎますので来年の6月を目処に。』
「言ったでしょ気長には待てないわ。でも頭ごなしでは私の器が試されるわね。そうね、じゃあ3月何時でも良い。でどうかしら。」
『たしかに余裕が有りますが、その月は各支部との会合等で繁忙期。そうですね。では6月初めでどうでしょうか。情報収集に掛かる時間や精査にも時間が必要ですのでそれでなんとか。』
「ん、確かに、でもその収集した情報の精査は私の方でするから必要ないわ。そうね大幅に譲歩して4月頭でどうかしら。」
『いえ。済みませんが4月頭は各施設の様々な搬入出の影響でそれまで収集した情報が紛失する可能性がありますのでそうですね。では5月末はどうですか。勿論精査を少ししますが時間を掛けないのであれば精査分を分けて一括でお渡しできますが。』
「少ししてくれるのは有りがたいけれど何かの不備が在ってはそれこそ時間を無駄に浪費するでしょうから。そうね。では5月の中頃でどうかしら。これ以上は引けないわ。私も暇ではないの。」
『ふむ。そうですね。では此方である程度の纏まりを作らせてもらえますか。何分膨大な情報量になると予想できますので、5月の中頃を少し過ぎた、そうですね、20日でどうでしょう。』
微笑む。
「ええ、それで良いわ。そうね、後日詳細な手続き方法を送るわ。」
手を差し出す。
『ではこれで締結ということで」
握り返す。
短い時間で二人は考えていた。なにかを。
手を離す。
「それじゃあもう時間ですから行きますね。」
『ええ。では。そうだ。』
「なにかしら。」
『手続き方法に関した連絡は最高責任者へお願いします。私はあくまで代理ですので。』
「そうね。そうだったわね。ではその手筈でいいわ。」
『それではお帰りは護衛の人を呼びますのでお待ちを。』
この島を出るまでに何かあれば大問題になる。
「その必要はないわ。護衛なら信頼する者が来ているから。」
『そうですか、ではどうぞう退室ください。』
「ふうん。貴方。私を。」
『その必要は無いでしょう。其処にこの方が来られるより前から潜んでいる君。姿を現してくれますか。なに私が危害を加えるなら入った時にしてますよ。』
部屋の角。何もない壁しかない場所が歪み姿を現す。
『では、どうぞ今度こそ退室ください。』
深く深いお辞儀をする。それは元からだが表情の機微を読ませないためである。
「っ行くわよ。」
足音が扉へと向かい、開かれ、閉じられる。と。もう一度半分だけ開かれる。
「あ、そうそうやっぱり聞いて良いかしら。一つだけよ。」
『なんでしょうか。』
「貴方。前に会ったことがあるかしら。」
『いえ、あなた様とは今日お初でございます。もしお会いしていたならあなた様のようなお方を忘れるなど生涯の恥でございます。』
見つめられるが。
「そう。なら良いわ。ではさようなら。」
今度こそ扉は閉じられ開かれることはなかった。
足音が遠ざかっていく。
静寂を置くように。
一人歩いて自室へと向かう。
途中で呼び止められまた向かう羽目になった。
時刻は昼を過ぎていた。
この日。
在らざる者にして脅威を孕む長く抑えられし感情が解放され二つの路を示す。だが彼の者らの願いが叶うことなく、総じてあの高貴な者の願いも白紙となる。
実際、二つ共々白紙になることは確定しているのだが。
さて佳境であるかもしれず路半ばかもしれない。
これより先は根幹を揺るがし根元を否定し根底を覆す。
真実とは正に非道で非情なり。
「そう言えば、聞きたいことがあります。」
「あ、なんだよ。」
「いえ、遠回しに言っても素直に答えないでしょ。なので答えてください。」
「俺が何物で何者であるのか。てことか。」
「あの場では無視しましたけどあの人はあなたの言葉を聞いて話を進めました。ですがそれだけです。もしかして僕しか見えない何か。ですか。」
「んんん。答えられないな。まあ進行役。見たいものかね。多分。」
「そうですか。で、まだ着いてくるのですか。」
「いや、もうやりたいことはやったし。消えるよ。」
「あ、」
「ん。何かな。」
「あなたは僕の事を知っているのですか。」
「それは知っても無意味。なのでこの場で答えたとしても時間の無駄。」
「そうですか。それならまあどの様な方法を用いたとしても。」
「答えない。」
「はあ。なら良いですよもう。」
「ん。怒った。」
「え、別に怒る理由が見つからないのですが。」
「なんだ。おもしろくない。」
「あ、見えなくなった。」
何事も無いかのように廊下を歩いていく。
軽い欠伸をしながら。




