二章~交渉開始~
当日である。誰もが待ち望み、誰もがはよ終われ。と願っている。
さて交渉の島には各国要人が集まり周囲周辺には厳重な警備が敷かれている。
要人には最低二人が付き従う事としているし、外からの侵入は容易ではなく簡単には突破出来ないだろう。
されても正直困るのだが。
では内からではどうであろうか。
実際、いくつもの妨害工作は在った。
それも死人が出かけるほどの規模が頻発していた。
しかしながら不可解にして不明なり。
この交渉は秘密裏に進行され、知るものは一部しか居ない。
その様な状況にも関わらずどうしてか妨害工作は日に日に頻度が増していた。のだが。
いつの時期からかそれらが収まるどころかその気配すら無くなった。前日にはもう全てが忘れられていたほどである。しかし如何なる場合であっても気を抜くは愚行にして愚考。それゆえ警備は数段上げられ様々な理由をもってしても簡単に侵入出来ないようになったのである。
これは無限とも近しい資金が有ったればこそであり、通常ならば不可能である。
して、開始まで余裕があれど皆が慌てていた。
当日であっても微調整を含んでいたのでまだ終わっていないのだ。
各要人の個人情報は厳重にして機密である。
簡単に差し出し、何かの切っ掛けで引き抜かれては後々面倒になることは誰もが理解していた。持たらされたのは其々の到着後。それも物理的な装置を厳重に保管した状態で運ばれてきた。
中を確認するには専用の鍵と暗証に必要な百の番号が必要である。
無理矢理に取り出そうものなら瞬間に記録媒体ごと消滅する。
そんな中で。
慌ただしく駆け回る者達。入出口一ヶ所しかないー無論錬度を高めた者が警備している。ー気密性の高いさ空間に前兆無く突如吹き荒ぶ風。
煽られ飛ばされ掛ける者が数名。
中空に亀裂が走る。
気づくまでもなく空間を覆うかのように嗤いながら一人が現れた。
情報にて知らされた仮面の異界である。驚愕と同時に警戒体制は厳重。
動揺が走っていたにも関わらず警備が機能した事には理由がある。
現れ方と場所がまずかった。
なにせ交渉の場所たる多重の厳重な会談が開かれる場所。
それすら嘲笑うようにー実際、嘲笑いながら現れているが。ー簡単に侵入を許してしまった。
面目が潰れたことを外しても非常に危険な状況であった。
要人が数人確認のために居合わせていたからである。
現象は先の通りの風から始まり裂け目を通じて放電。縦横無尽の切り裂きに続き向こう側から巨大な腕が突き出し引き裂くように開かれる。
そうして現れる外套を纒しは小柄にして不理解な風貌たる者。嗤いを伴い現出した。それも泥にまみれた状態で机の上へと。
全員が。ああ要人が怒り心頭であった。
《崇高など我らには無意味と先の事変で理解しているかと考えていたが。存外鈍いな。潰す価値もない。おやその構えと殺害武器は頂けない。良いのか。》
震える手が付随する品に掛かる。
微かな嗄れるような声が漏れるが消される。
外すと一人の老人が発狂する。
《ではこれを此方の今回の対価と理解してもらおうか。あああ。無理に何かを触れたなら命を断つように仕掛けてあるので悪しからず。》
『くかかかか。気づきましたか、我々に浅くも深きも傷をつければ即ち、さてさてここで死んでしまうはこれら。だ。その証明は、不要ですな。その死に損ないである老人が良い反応をしてくれた。ではこれにより現れる潰しを冠した者達を害した場合はうんうゆ。あ、失礼噛んだ。うんうん。全員が永遠に再会不可能とご理解願いたいものだねぇ。ではこれより交渉団体を送り届ける。と、同時にこの器。かねぇ。もうそれはいいがね。解放しよう。むくくくく。』
嗤い終わると切れるように崩れ落ちる。
まあ悲鳴悲観絶望が響いたことは想像する事すら烏滸がましい。
叫んだ老人が真っ先に駆け寄った事には触れない方が良かったかな。
交渉には仮面を着けた者四人と付帯した各々と同等に近い仮面を付けた者達。集団である。違いは纏う外套の色と刺繍か。
対して交渉に臨むは。
世界貿易機関支局長。
世界人工島管理局局長。
世界海洋支援部局長。
世界府庁米都支局長。
とかとか。
所謂上に。
一応は。
位置してる。
者達が。
着いていた。
双方が軽い自己紹介をし着席を促される。
一人は挙動不審だが妨げになるだろうとし全員が流す。
用意されし机は五つ。
各局長級一脚ずつ。
仮面の異界上位と黙される者達に長い机一つ。
これが完全な態度だと示していた。
『では交渉といきましょう。』
「まて。何をいっている。」
机を叩く。
背後から短い悲鳴。
振り返ることない四人。悲鳴は部下と思われる者達からである。
「はは。素直に交渉すると考えていたのか。こうして貴様達を捕らえるための方便よ。」
『宜しいので。我々に危害ありはそなたらの関係者に。たしか見せしめに一体現した。はずだが。』
「はは。それに関して上からは関係ない。あれらはその程度の覚悟などとうに出来ている。と言っておられる。」
『そうなのか。ではあれを此方がどう扱おうと文句はなし。と言うことだな。ようしんじゃ好きに使って良いと伝えといて。』
「んな。」
『さて。我々に危害。とは言いましたがね。だからと言ってあれらが何かになるなど端から考えていないのです。では何にと訝しむでしょう。それはですね幾つかの理由と意味があります。そうですねぇ理由だけを話しますと。』
軽く机を叩く。
『暇潰しと実験を兼ねた所業だとか。あ、詳細は我々に知らされてませんのでどの様な事を課されても真相闇に塗り固められた状態です。意味は知りませんよ。何せ理由しか知らされてませんから。幾つか質問書を送っていますが、全てに対しての明確な返答はなく。さらに申し上げれば、どうやら最近は読んでもいないようで。あ、ちょうどいい感じだな。』
勢いよく扉が開かれる。
「どうしました慌てて。何やらあったと。」
その場で敬礼する警備員。
「ほ、報告します。さ、先ほど。局長達の乗ってきた船が全て爆発炎上しました。」
『ああ。そうなるね。予想通りだ。』
「き、さ、まぁ。我々の船に何を」
『え、ああ勘違いしないでもらいたい。なにもしてませんよ。我々は。言ったでしょ予想通り。だとね。』
「予想通りだと。何を知ってる。」
『んくく。そうだな。船を破壊して何が起こるのか。理解できるかね。』
「まさか。俺達をこの島に留まらせて旨味があるのは。」
『ほほう。何も言わずにそこまで理解できるとは。いやはや局長職に着いているだけはある。ではその犯人などは判るね。まあこの事案は帰ってからに願いたいが。どうだろうか今は交渉と行きたい。』
必要な指示を出し警備をさらに厳重にするよう指示する。
双方の間には中立である人物が三人。
どちらにも偏らないように適当に選んだ人物である。
「ええ、ではこれより交渉を始めます。先ずは世界府側からお願いします。」
「では世界貿易機関からです。率直に申しまして貴殿方したことの重大さをご存知でしょうか。本来流れる物。人。そして出来上がっていた流れまでもが完全に断ち切られました。その損害額昇りに昇って現在はこの様な額に。」
中央に位置する映像には莫大な金額が表示されていた。
「本来ならこれ程の被害額は出さないというのに、お前達が介入した為に戦禍は拡がり、最終的には収集がつかなくなってしまったのだ。どうしてくれる。」
「では回答を。」
『んおう。そうですね。我々としましても。本意ではなく。つまるところ意外な結果となってしまいまして、残念でなりません。なので関連した損害を出す。』
ほくそ笑みする者達。
『何てことはなく。それは我々一同預かり知らずなので賠償責任を求められても困る。元々の仕事内容から逸脱した行為に他ならず。というのが我々の答えです。ああ。そうそう。もし責任追求なさるなら全ての質問に対しての我々の明確な意思を聞いてからにして頂きたい。では。この話は一旦中断という事で次へと行きますか。』
騒然であろう。
戦禍を拡大させて現在も続いていることに自分達は仕事をしていただけであり、何もしないというのだから。
「では次へ。おね」
「まてまてまてまて。可笑しいだろう。どうして、そうすんなりと次へと行こうとするのだ。解決策も見いださず次へと行けると。」
『思ってるよ。おお。それに質問全てに答えるのは君達の問いが終わってからだ。それまで大人しく質問だけにしておいてもらえるかな。そう取り決めてなかったか。たしか。』
実際はしていない。
のだが、異常な状況なので思考が正常には働かず。
なので。
「ふん。たしかにその様な取り決めもあったと思うが、それにしても急ぎすぎではないか。」
『急ぐ。はて我らには急ぐ理由がない。なんなら時間を掛けてじつくりと進めることも一考に対するのだが。』
軽い。軽く。軽薄すぎる。という答えを返したのだが、誰も反論しない。
これは他人事のような物言いであろう。
このような態度は相手を刺激して事が運ばないのだが。
「では続けましょうか。次は。」
「私だ。」
手を上げた者は貿易機関より年は上だろう若ければ周囲から黄色い声が浴びせられていたことだろう。だが削ぎ落とすには十分といえる深い傷痕。
側に立つものが質問内容を読み上げる。
「んんでは。世界海洋支援部からです。ええ。とあれ何れだったかな。あた。これだ。んん。失礼。では」
『いや、別に全てを読まなくても良いぞ面倒だし。内容の要約点だけを述べてくれよ。時間の省きになるだろ。その方が都合が良い。』
「んぐ、だが、」
『反論結構。ですがね。悠長に問答できますか。今現在でも世界中で予期せぬ事態が拡がってますよ。貴殿方にとってね。ああそうだ。この際なので言っておきますが。我々は個にして絶。絶にして個。そういう存在の下に集まったのです。のでこの場で我等を全滅させたところで。無意味。とお伝えしましょう。代えは幾らでも用意されてますので。ふふ。』
数人が戦慄した。
空気が凍るように漂う。
『で、どんな影響が在ったのか述べて下さい。』
涼しい声。
不思議と心が落ち着いていく。
「で、では要約しますと。君達の行いの影響で海洋生物に対する甚大な影響がありました。世界中で起こる廃島による影響と確認できました。これは当初計画以上の数です。処理しきれません。以上です。」
「では。次」
『ああ。まて。一つ聞きたいことがあるんだがよ。』
「え、ですが。」
『なに、些末なことだ。すぐに済む。』
「どうしますか皆様。」
目配せして頷き合う。
「良いだろう。」
「では、どうぞ。」
『いやな。どうしても気になるんだが。何がという答えは自分でいうがね。で何かと云えば、どうして海洋支援部。なのに部長でなく局長なのだろう。と思ったのよ。でどうしてだ。』
「な、その様な本当に些末な。」
「まあ。まて、これはたしかに異界なる方々には不思議に思うかも知れないがね。簡単だ。」
『で回りくどい説明なしで願いたいねぇ。』
目配せする。
「そうですね。簡単に云いますと。昔の名残ですね。話が長くなるので省かせていただきますが、海洋運営に携わる当時は各人工島が一帯を管轄管理していました。ですがある事案を契機に情報統合と共有が急務となり長年の統廃合を繰り返し今に至ります。そして初期の段階では共有されるまでの一時しのぎで各支部を設け即応できる体勢を整えました。海洋支援部は海を監視する部隊の意味もあり部長という肩書きがそのまま流用されているのです。理解できましたかな。」
『ん。ああそうなのね。うん納得した。でもなあ。これは時間が無駄ろうし別の機会にでも。では次に進めてくれ。』
『うお。』
『どうしました。』
『いえ。何かの言い知れない空気が。』
『ああ。あの態度ですね。質問して答えてもらってあの態度は。だめですね。後々凝りが残りそうですね。』
『まあでも。』
『ええ。訂正はしませんけどね。』
何せ彼らは控えしモノ達。
簡単に発言は赦されていない。
なので。
『そこ、後で反省文提出。枚数は二桁一杯。』
二人が愕然とし落ち込む。
『失礼、下が無駄口を。では続けようか。』
指し示すように手で促す。
流れる空気の中進行していく。
「では、次をお願いします。」
「では僕達かな流れ的に。」
「ではどうぞ。」
「んふふ。僕は世界人工島管理局支局局長。そして最も被害を被っている部署であろう事は理解していますか。先程そちらの方の報告通りに人工島管理は何分一括管理が難しく。まあ、だからその島を統べる者を配置しているのですが。それでもまあ、在る時期より慌ただしく、数ヵ月の間に幾つの情報収集に奔走したか。しれない。人員をどれだけ割いても後から後からもたらされる廃島と戦乱拡大。そして人命を軽んじた行い。はあ。罪状が増える一方ですよ。さて。これで終わりです。」
『くひゅひゅ。そんな事になってたか。知らなかったが面白い。』
空気が更に重く。
『直接間接我ら一団含め全てが君達。そう上の方にとっての有益か無益か有害か無害か。くふふぃ。どう転んでいるのか理解できるというもの。たがしかしてねぇ現在進行形で我々以外の方が。進めていますよ。くひゅっ。世界で紛争させている戦場も悉くが絶対なる力の前で終わらせるだろうねぇ。くひひゅ。』
動揺がさらに拡がる。
『おいおいおい。それは言わねえことにしただろうが。最後にばらす。そうじゃねえのか。』
『ふふ。早すぎますよ。もう少し時間を掛けてからで宜しいのに。』
『はひっ。それは申し訳ない。なに興が冷めたのでね。ではでは早速続けますかな。皆さん。』
四人から言葉と共に流される空気。軽く重く鈍く包む。
空気は重いが軽く。観ている側には何もなく。
当事者であれば両肩に。そして全身にのし掛かる圧は如何ほどだろうか。
「では次へ。」
最後だがどちらも発言せず。
『どうしたのですか。ほら次の質問を願いませんかね。我々が時間を労するは良いのですが貴殿方が困るのでは。』
沈黙。
『宜しい。ではこちらで預かった貴殿方の提出書類を元に進めましょうか。ええ。残りはたしか米都と不然物管理でしたか。』
凍る。
『おま、え。』
『ふむ。これは失礼。いや余りにも管理が行き届いていないのでね。それで増やすのは自身の全てを締め上げる事だとおもいますがね。』
『まて、刺激しすぎては意味がなくなる。その辺で。』
「し、資料とはなんだ。」
『ああ。つまりだねえ。事前に寄越して貰っていたのだよ。まあ概要だけで具体的に記されてないのだがね。だからこうして足を運んできたのだよ。そして誰が渡したかを詮索しないでもらえるとありがたい。では最後なので補佐でなく本局長直々にでいいですかね。』
目線がその者を射ぬくように定める。
「渋っても無意味。ではこちらの言い分を。んん。現在。世界に点在する建造途中含めた人工島。数は有に百は越えている。無論一元管理など出来ようもなく、分割管理の下で稼働している。中には廃れ廃止された島もある。まあ処理費用がバカに出来ないので一時的に立ち入り禁止。としている。そして自然島への入島制限も掛けている。さて今回、我々米都支部からは幾つかの事案に対する説明と賠償を求めるものとする。もちろん、君達には黙秘権などない事を留意願いたい。以上だ。」
『へっへえぇ。面白いな。私達が何者かも知らぬ内にそれらをか。まあ。そうだね今は置いとこう。』
「ではそろいま」
『さて最後ですね。アナタはどうですかね。』
皆がざわつく。
当然だ。
4つの質問が終了したのだ。
なのに次を示した。
『おや。もう一人いたと。』
その向けられた言葉と仕草を全員が追う。
『《あひゃひゃひゃ。バレてたのか。》』
『おや、貫き通すと考えてたのですが。簡単に口を開きますね。どうしてですか。』
『《うん。観ていたけどさ。もう少しは捻りを加えるとかしてくれないかな。全然、面白味がない。》』
『おや、面白味をご所望ならば暫し待ってもらえないだろうか。なあに。捻れに狂った事柄が幾重にも絡み付いて楽しくなりましょう。』
『《ふうん。それを信じても。良いのかい。逃れるための。なら今すぐにでも全てを奪うけど。》』
『聞きしに勝る堪え性のない。なあにそれならこれでどうです。うぐ。』
悲鳴。
突如の行動に皆が動けない。
中で動いている一人。
額に手を当て、今にも笑いそうな素振りであるが状況が許すこともなく。しかし性分か。
『はっ。おもしれえ。そうかよ。だがな事前準備無しに行動を起こされちゃ動揺が隠せなくならあよ。』
懐から簡易の治療器具を出し処置を施す。
その手捌きは慣れたもので速く正確である。
拾い差し出す。
『さて、これを対価にして頂けるなら面白いのですが。』
『《うん。思い切りは過ぎると逆に引くわ。はい、もういい。なら引くよ。これで良いかい。》』
『ふふ。では次へと至る道を。』
軽くお辞儀し視線を戻すと時は戻っていた 。
『失礼しました。どうやら私個人の勘違いのようです。ではこれにて全ての質問が終了しました。我々の答えですね。ん。』
裾が引かれる感覚で向けると鋭い視線を二人から向けられていた。
困惑戦き動揺。
手を上げ視線で制す。
縦に首振る。
『では後で言いましよう。そして、つまらないですねぇ。』
絶叫と苦悶の声が集団の中から漏れ出る。
『まっっったく。少しは自重してほしいものです。じゃないと命を奪ってしまう衝動が抑えられませんよぅ。かのように。』
倒れ酷く惨く歪に騒ぎ倒れ両目から水後に赤。
口から無数の這い出る何かは小さな音を出して霧散した。
間近で見ていた問わずの者達が小さく悲鳴を上げた。
『ああ。今騒いだ者は先と同じ処分だ。』
非情である。
『さて、これは危険ですね危険ですねええ本当に危険です。なので此方から特化した者を。そして貴殿方らから同じように。それで調査しましょう。それまで交渉は中断で。』
三人が見ると対岸たる要人四人が困惑していた。
察して。
『それではそちらには我々から二人の殺戮専門を付帯しましょう。心配ならそちらからも同数を願いたいです。』
笑みを携える視線にまたもや癒しを感じる。
『お、そうだ私の紡ぎだす事座は、クソ。んんでは。もう一度。私の紡ぎだす言葉にはあり得ない力が宿ります。なので自我を保つことを推奨します。もし力に喰われたなら手を出すことは出来ません。』
戦慄か。
当然だ。その者の発する言葉を聞いて穏やかな気持ちになったのは事実。
それを自身で暴露する。
通常ならその言葉に説得力をつけるというものだろう。
だが突然であるこの発言には確実な信憑性が内在していたし、疑いの余地などない。
この不意の言葉が小さな打撃となり動きを揺さぶった。
揺さぶりが思考を乱し、動きを抑制する。
が、それすらに支配されないものが動いた。
『ぐけけかけっ。判りやすい。して御しやすい。』
視線は確かに見ていた。確実に視界に納めていた。
「消え。」
「馬鹿な。」
「我々の。」
「範囲に座している限り外れなど。ん。」
全員の視界に上から何かが降り注いできていた。
濡れる部分など全身なので何処かを触れ見る。
当然ながら。はは。
局長達と部下含めた政府機関側は全員が声を張り上げた。
もうね。混沌としか言いようがない状況に陥ったの。
が対岸たる仮面の異界達は動かない。
面白いように動かない。
その微動すらない息を殺すように頭を下げ片膝を着け待っていた。
何を。
決まっている。
終わらせる事象を。
『さて事の起こりを議論するより先にこの人形を片付けてしまわないと進みませんし。では少しばかり場の掃除をしますか。』
というかもう始めている。
始めていて事後報告というのはどうなのだろうか。
『お、そうだ。見たいなら止めないが、見てこの先に何かを植え付けたくないなら見ないほうをお勧めする、ぞ。』
言葉通りに通常思考や環境に置かれた者なら異常に狂乱で絶死するだろう。
一人は見てみたいと思ったが口に出す気はない。
その光景は対岸たる世界府の者達が恐怖するには十分であった。なにせ厳重かつ広大に建造された交渉の場。
空間全てを埋め尽くす単色が見る見る内に染め上げられていく。
吐き気、気絶。発狂、錯乱。
乱れる室内では対岸がその様相を呈していた。
では異界たる者共はどうしたのか。
何もしなかった。
そうなにもしないで、かしずき見て見ぬふりをするかの如く動かなかったのだ。
その身に浴びる赤の水を動かず動かなかった。
いやはや恐れ入ろうか。
かくて事は短時間で終息し、残されしは一面を隙なく塗りつぶす色と散らかされし臓腑。
全ての感覚を鈍らせるには圧倒的なその光景に耐えられる者など皆無。
『たくっ少しは加減というものをだな。』
『いやいや、これでも加減したのですが。中々に手間取りました。それで』
視線が流れる。
『どうしますか貴殿方は。これでは交渉も続けられない。一時的に解散して清掃の後で集まりますか。それか場所を代えて続けますか。』
全身を染め上げながらも気にせず先を聞いている。
「ひっ。」
以降は何も発さず貫く。
『おうおう。まともな返答は出来ねえのかい。それとも黙りを決め込んで選択権を此方に委譲するつもりかの。面白味に欠けるがどうするね。』
『では其処の君。』
「え。」
『ああ違う。その後ろでほくそ笑んでる君だよ。君に着いてきてもらいたいな。無理だと言っても強制連行させてもらうが。』
「(くはははは。よく気がついたね。どうしてだい上手に紛れていたのに。』
『くく。漏れてますよ。一端がね。だが関係ない。何故なら。今この状況で動けるのは君しかいないでしょ。それに』
息を軽く。
『全ての思考を無限に費やせるのはどう考えてもあり得ないがそうだろう。この場での現行の権限所有者は君だ。他はあれをみて恐怖に萎縮に弛緩して動けそうにない。なので君が適任ださてどうするね。我々としては強制はしたくないのだがね。君の自主的行動に期待したいのだが。』
何も答えない。
『そうだ。答えなき場合はその場での強制連行も、やむ無し。となるがね抵抗しても良いのだがそれは君を含めた者達には益にならないだろ。ならば素直に従ってもらいたいものだがどうだろうか。なあに短時間で済む。さあ。返答を。』
突きつけられた選択。如何なる場合であろうと責任を負うという。
「『うん。無理。だってさあそんな交渉に一人で背負えなんて酷すぎるよね。だったら断ります。》」
『そうですか。ではそちらで構えている方の後ろで偉そうに睨んでいる貴方でお願いしたいですけど。無理そうならまあ保留として清掃をさせたいと思います。どうしますか。』
「ほ、ほうこの状況でそうほざくか。言い訳は通じんぞ。」
『はて、言い訳とは何の事でしょうか。我々はただ単に降り来る汁を払ったにすぎず。不可解な物言いは止めていただきたい。』
「はは。惚けるのかい。まさかこれ程の事をしでかして、言い訳がそれとは。」
『くひゅひゅひゅ。奇っ怪にして心外。貴方様方は。こう仰るのかな。〈この事態を招いたのは根本を質せば我らの方に在り、故にこの惨劇は我々が仕組んだ喜劇〉だと。そういう解釈で宜しいかねぇ。』
「はっ。そら見ろ。やはりそうだ。だから開始前に一網打尽にするべきだと言ったんだ。」
『ほう。何かい。そちらさんは端から交渉でなくその場での処刑。そういう魂胆だったのか。がはははは。ふう。見くびるなよ若造どもが。言っとろう。俺達は絶に集まる者。いや、あれにとっては物。だな。くく。俺達がどの様な場所でどの様な行いによりどういった最後を迎えたところで気にするなぞなく、霞のように記憶から消えているだろうよ。』
『ほほほは。結論から申しますと、我らを対価として捕縛、又は断罪したところで、あの者にとっては小さく儚い事象の一部として処理されるだけで終わる。そして、反故にしたしたということで、残りの戦場全てがこれまで以上の目を覆いたくなる陰惨な光景が残されていくでしょう。そうなれば貴殿方の上はどういう反応をするのやら。まあそれを見れないのは残念ですがね。』
『追加するなら最初に言いましたよな。我々とこうしていて宜しいのか。と。貴殿方を疎ましく思う者達に対して時間を掛けるほどに猶予を与えているということを。』
『ああ。それとですね。言い忘れてましたが。我々が貴殿方に縁ある方々をどうにかした。もしくはどうにかしている。というのは知らされていません。正直に申せば、数日前にて知らされまして、これを材料にしても良いという事なのですが、いやはや、即座に切り捨てるその判断力はやはり上に立つ者としての気概を感じますなので。そうですね。時間を開けましょう。我々も何分簡単に事を運べるなど思ってもいないのでね。それに其処の者が言ったでしょ幾つもの質問が曖昧な答えで返答され最後にはそれすら無いとね。では時間も惜しいのでこの時間を示す機械がこの時間を示したときにでも再開という事で宜しいかな。その間に清掃させますから。どうでしょうか。』
四人が目配せする。
そして全員一致のようで頷く。
「い、良いだろう。ではその時間で再開を。」
『ふふ。ふははははは。良いでしょう。では皆様、時間になりしたら再びお会いしましょう。失礼。』
小さなお辞儀と同時にその者達が消えていた。
一瞬の事であった。だが残された者が数人。それは。
『では皆々様。これよりこの部屋を一時的に閉鎖しますので退室願います。勿論、我々の監視を為さるかたは残ってもらって構いませんが、邪魔を為さらぬようにお願い致します。何かあれば、この交渉は決裂となりますので。悪しからず。』
その品越しに向けられる言葉には静かでありなが優しくそして重い感情が乗せられていた。
反論しようものなら出来たろう。が、それすら赦されない雰囲気を醸し出していたその者は不思議で不理解な凄みがあり、すごすごと退室するしかなかったのである。
無論、監視する者を残してであるが。
扉が閉ざされ内から鍵を掛けられた。
これで易々と出ることは出来ないので警備を一割減らして用意された部屋へと戻っていった。はずだ。
『ではこれより清掃を始める。時間もないので的確にお願いしたい。解らなければ各班長に聞くように。では始め。』
そして室内の清掃が開始された。




