二章~準備期間~
世界で新たに始まる年を迎える準備も佳境でいる時期より三月前。
公式に建造途中の人工島。
名も番号もなき島に世界の要人が集まっていた。
本来ならこのような場所での集まりは危惧されるのが当然なのだが、とある理由で集まっている。
いや正確には集められた。という方が合っているだろう。
全員の表情は剣呑とは程遠く険しい。
周囲を駆け回る者達も
建造途中と云われるだけあり至る場所に資材が置かれている。
放り出されたような格好でだ。
一応ではあるのだが隠すように覆いをしてあるが効果は無いものと同様である。
何故この様な場所に集められているのか。
それは。
ある行事に出席するためでありどんなに追われていても外せない。重要行事が開催されるからである。
その行事とは。
《世界会議》
そして。
《集団交渉》
である。
前者は現在進行での世界中に建造稼働問わず廃島も含め管理されている島関連の情報共有が主であり、幾つかの世界情勢に対する調整等も行う。
そして地図更新も含まれる。
そう廃島ということは即ち、島内から排出される良いも悪いも含めたモノが停止するということであり、それは一帯に築かれた生態系が狂い崩壊するということである。
そうなのです。一つでも停まれば周辺を住みかにしていた生物を保護または処分する。
保護に関してはそれ相応の巨大施設が必要になり費用が嵩む上に時間を費やして建造する。
ですが、事前であれば計画的に幾つかの行程を踏んで十分に確保できます。
なので処分など従来ならば無いのです。
危急にして時もない場合は別ですが。
後者は各国代表による様々な物理的であれ物質的であれ。様々な事柄の交渉である。
前者にも掛かるのだが調整には一人で決めることは出来ないので、幾つか機関部署がの連絡を密にして進められる。
開催期間は一年にも及び開催される世界安定会議。
こうした行事。本来であれば開催数年前から時間を掛けて入念に準備をし、数ヶ月での代表達の日程調整を施す。
だがこの会議は表向きに公表されない。言うなれば裏会議というもの。
一年間も姿を隠せば疑われるのは必定。
そして下手に影を用いれば隙を衝いて、敵に全てを奪われる。
なので、幾つかの理由を作り上げ、姿を眩ませる方法が主流であろうか。
そう通常公表されている会議。
《世界議会》
正式名《世代育成多業界運営議有数会》
この会議は各国、島からの代表が参加する。先を見越した運営から情報の共有などの大まかな枠組みが主な議題であり、安定と均衡が絶対である。
そして名の通り各世代を育成する目的の組織。
何時もならこれが進行内容なのだ。
が今回開催されるは世界の勢力図等を突き詰めるまで話し合う場であり、戦場に流す情報管理までも行う。それ以外にも細々したものを管理統制する。枠のみならず中身も取捨選択する。そのような会議。
その最たるものが先述のとおりであろうか。
本来ならば微調整などの意味合いで、毎年でなく数年から十数年単位で開催される。
そう世界を動かすための会議。
だがこの開催は要人達が想定していた年数より早く、開催の運びとなってしまった。
一つ目などはついでにしか過ぎず二つ目が今回の主議題である。
がその内容は逸脱している。
し過ぎている。と言っても過言ではなかろう。
世界の管理者達が震撼するほどの驚異となっているのだから。
主議題である《集団交渉》。
表本来の意味合いである言葉ではなく、まさに集団。それも詳細不明な得体のしれない存在達との交渉である。
手は打っているが。
たった数ヵ月の内に世界中に現れたその集団。
最初の出現場所も曖昧。個別の事案として処理される運びとなっていた。
が二度三度と続くなかで起こる戦場の破棄と中止。さらには後の再開までも不可能となってしまった。
その経緯や行動理由に詳細な情報も判明せず世界の戦場や属島を破壊され続け、全て見るも残酷な景色が拡がるばかり。
残されるは使用不可能の土地。
さらに前述のように十全な準備の下であるのならば撤退の末に全てを保護できよう。時間を掛けてである。
が今回は全てが全て、想定外であり早急に土地と施設を用意できようはずもない。
上も中も下も困惑と混乱と恐怖に右往左往していた。
この三要素が絡んだ状況で、ある情報が特別回線にてもたらされた。
脅しの文句をつらつらと書き列ね、交渉の場を設置すること。拒絶なら更なる世界での破壊行為と破滅への継続。
反論など受け入れる隙さえない一方的な要求。
これが要人全てに強制送信されたのだ。
最初は大多数が無視した。
確たる証明は無限のように提示されているのにだ。
そう大多数。
少数は危険視していたが黙殺され軽んじられた。
なのにどうしてありえないっ。などと嘆くは現場を知る者達。
だが、簡単に表へと出ることは出来ない。
存命を危険に晒すため。という最もらしい言葉を並べ立てていたが。真実は異を唱える。
要人達は表へ姿を表すことなく会場へ入ることが常。
いや公に姿を見せていよう。
だがそれにも理屈はある。
どの様な状況に置かれようと関係なく簡単に会場へと入ることができる。
その方法は幾重にも張り巡らされた下層の秘密路。そして影を用いての陸路。
この二通りが一般的である。
さして公に姿を表している場合全てが影である。
なので先述は誤りと云わざるおえない。
では何故に無視したのか。
簡単なことだ。上に君臨する者達が一々下の意見に惑わされる事に関わるなど愚行と考えた。
さらには最悪なことが重なり、各要人の近しい者達が次々と姿を隠し消息が不明という表だっての事件に出来ない事態が頻発していた。
それも一切の通信手段を遮断されてである。
右往左往する下から送られる情報は全てが偽物。辟易しても時間だけが無情にも過ぎていく。
このように他を気にする余裕すらなく無視されたのだ。
信憑性があろうが全てが真実だろうが結局は傲慢と保身と絶対的地位による盲目なまでの浅はかな思考。そして近しい者の失踪が正解を霞ませ高を括り侮る結果となった。
二日して再びの情報である。この時は情報に映像が添付されていた。これには全員震撼した。
先の一回目で使用された情報回線には様々な強化策を抗じており、簡単には接続し侵入して侵食など出来ようない。という信頼できる技術屋に改造させたのだ。
恐怖。の一言で片付けるにはあまりにもありきたりすぎる。
大多数の要人が態度を一変させた。
その後も続く真実と云わんばかりの世界中で勃発する謎の集団による蹂躙行為の数々。
死者負傷者行方不明も日に日に増していく。
添付されし資料には事細かに記され状況から介入停戦から交渉そして、捩じ伏せて協定を結ばせ、以後は行為全ての完全禁止。
破棄はそのまま海域含めた完全なる粛清。
女も男も子供も年寄りも病も傷も関係なく。
向かうも逃げるも媚びるも追い縋るも関係ない。
賢者だろうと愚者だろうと凡人だろうと天才だろうと無関係。
平等に均一に平坦に淡々と粛清される映像。
そして止めのある島での遠方から放たれしあの忌まわしき兵器の使用。
戦慄と戦き。
ゆえに全員が後に参加を表明。
真偽はなんであれ十二分に発揮したことは想像にかたくない。
数日後、場所として建造中の名もなき島指定され、綿密な調査の結果、交渉地として確定した。
さらなる調整を施し、会催時期が決定される。
こうして建造中である島での本来の作業を一時中断。急遽会場となる施設と関連した建造物を造ることとなる。
それは不満が漏れるのだが一時的な値上げを理由に鎮めた。
このようにして目的とは違う施設を複数建設したことにより予算が膨らむことは予想されていた。
ああ。その辺りの込み込みは此方が負担しよう。上限は設けないので出来るだけ頑丈で警備も充実させてくれた方が好ましい。
可能で、あれば。
という注文があったし、予算への増額負担もないというのである。
が開催までの期間は短く、既存の技術に多少の上乗せ程度のことしか出来ない現状である。
嘆くだろう。
まあ嘆いても無駄な浪費しかないのだが。
その無駄をするのが性なのだろう。
そう時間もないのに無駄な費用と時間を費やして一つの結論すら出せないのである。
結局のところ無駄な行為は無駄に終わる。
これを何度も繰り返し、現場が爆発した。
当然の結果である。
暴動が勃発し時期遅延するしか無くなる状況を造り出したのだろう。
これを狙っていたのだろうか、上はこの暴動に対策をせず流すままに放置していた。
痺れを切らした情報が舞い込む。これにより発信源が特定され急襲部隊が突入。
その場の一人を除いて処分し拘束され足元へと護送されたのだ。
笑っていた。嘲笑いであり、愉悦であった。
床に頭部を抑えつけ膝を搬送途中で捻り切り両手には針山のように串刺しにされている。頭は覆面で隠していた。数人が見ているその状況に喜悦が溢れていよう。
あれ程まで追っていたものが愚かにも仕掛けに嵌まり簡単に拘束できた。
集まる者達。特に上に近い者達は胸を撫で下ろしたろう。
しかし興味本意での野次馬が大多数。通常なれば関係者のみを留まらせるのだが上位に位置するもの達は閉め出しを行わず見学を許可した。
指示により覆面が剥ぎ取られ、全員が悲鳴を挙げる。
ああ。その反応は間違っていない。
が悲鳴は正しいのだろうか。
何故なら同じ悲鳴であっても感情が違えていたなら意味もまた違ってくる。
さて、それは幾つの感情が混ざり何がそれを知るのだろうか。
その頭部には人の形をした者はなく異形の形が乗っていた。
そう乗っていた。首の丁度、声を発生させる器官の上からが繋げたような傷痕が一周。
なのだが出す器官である口がない。
どうしてか喉が振るえ空気が振動し全員の思考に強制介入してくる。
声はあるものは可愛らしくあどけない少女か少年のように聞こえて。あるものは底を這いずりまわり引きずり落とそうとするように聞こえていた。
癒しと発狂である。
振るえた。その場にいた者達全てが畏怖を抱くには十分だろう。
誰も彼もがその発される言葉の一言一句を刻み込まれ微動すら赦されないように息を殺して聞き入る。
最後に一通りを終え、理解できない言葉を発すると異形の部分から煙を立ち昇らせ燃えて濡れて泡となり乾いて塵と化して消え失せる。
認識出来たのは幾人か。
が、何人か再びの悲鳴をあげた。
怯えていたのだ。
何に。
決まっている。
そう首から上の異形の部分にだ。
いや違う。
では何だろうか。
さあ。その答えは絶叫した者達でないと理解されないだろう。
誰も動けない。
悲鳴を上げる者を抑えよういう思考も考えられない。
あまりの異常にして異様な存在が確たる証拠として眼前に居るのだ。
その場の全てが静止し続けることで拒絶すると答えているようだった。
最初動いたのは誰だろうか。
異形以外の、人であろう残された部分の回収を指示すると動揺を隠せないままに強制的に解散させた。
そうでもしなければ何かが保てなくなるのだ。
これは後に影響はないだろう。
絶対。
多分。
少なくとも。
一部には。
極秘裏にあの肉塊は処理され行方を知るもの皆無。
幾つもの道を使用して運び出されたのだから。
そんな事とは関係なく島は一部の予定を大幅変更し急速に建造されていく。
部屋。広場。食堂。遊技場。等々
これら全てが高く厚く建造された壁に囲まれた区画の内側にて増設され、完成後は出入り口が二ヶ所のみという構造となる。
数々の施設が建設される。
目まぐるしくも現場は地獄の様相で死に体の作業員が途切れることなく医務室へと運ばれていく。
そうして品質を保ちながらも近海には配慮した形で完成させた。
この事業には表からは見えない彼らのたゆまぬ努力が在ったればこそ。完成は何とか期日までに間に合った。
本当なら落成式。というものが必要なのだろうが、完全なる成立までには至っていないので省かれた。
ま、費用も膨大な額に昇りすぎ、支払いがあり得ない事になってしまったのは別のことである。
なにせ本当に払えるのか。という疑問が付きまとっているのだ。
これ以上の負担額を増やせばどう成るかを想像できない者達ではない。
たが。
余裕よう。好きに使っちゃって構わないよ。それに手を抜いたらどうなるのかは理解してるでしょ。ならこれ以上時間を無駄にしないようにね。
あそうそうあれは小さい方だけど、もし仕掛けてくるならどんな理由であれ全てを始末するので、では当日を楽しみにしてるよ。
微調整を施して数日後。要人達が集結したのだ。
さてこれにて恐怖が蔓延し思考はあらぬ方向へ迎えるだろう。いや向かうのだ。何かの集約から終結へと。
何かの思惑と思想を孕んで。




