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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
二章~交渉決裂と戦争準備~
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二章~三つの道筋(経過)二~2

悩んでいた。悩みに悩んで、体調を崩し戦線を離脱していた。

心は蝕まれ、肉体は日を追うごとに痩せていった。


病気の類いではない。なぜなら。

『し、死ぬ。心を死滅させないと物理的に死んでしまうぅ。どうして何時もこんな事に毎度のように結果が有り得ない方向へと向かってしまうんだ。これで死んだならああどんなに楽だろうか。それでも死ねないんだ。これまでだってそうだったんだ。自分の周りには幾つもの笑顔が輝くように存在していた。でも時を重ねれば全てが足下に寝転がる。それも永遠に朽ちることなく。言の葉を発さず。永遠に眠る肉の塊と成り果てる。どれ程の勢を張っていようともその結果は何時も。そう。何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も。永遠(とわ)に動かなく、朽ちることを運命付けられた存在。はは。そして今回もそうだ。だから表層だけでも取り繕うとしていた。なのに。どうして言葉を聞こうとしないのだ。』


急遽設けられた医務室の床で眠るも深くは眠れず、先の事が頭を何時も過る。

「き、急遽。殺害現場が荒らされ保存不可能。証拠も紛失した模様。出来れば急ぎ収拾を願いたく。」

「がはっ。そうかい。では準備しますので先に行って下さい。」

敬礼して出ていくと途端に全身が意識と関係なく震える。

「は、はは。くおっ。狂えるなら狂いたい。はあ、はあはあ。何でこんなことを引き受けたんだろう。はあ。」

項垂れグチを溢したところで事態が収まることはない。仕方なしに着替えて気合いを入れる。

噎せてしまうが気を取り直して部屋を出る。


思考が停止していた。

答えは単純に、膝を折り、頭を下げた者達が居たからに他ならない。

心で動揺し、表向きは無表情を貫く。

「何か。」

「はい。先程の件ですが此方で内々に調べましたところ、犯人が絞れました。しかし三人残っており、三人共々に犯行時刻には映像から証言に至るまで完璧に証明されております。何卒、ご協力を承りたく。」

「そうか。判った行こう。」

「はっ。」

先頭を歩き、着いてくる者達。

心の中は。

死ぬ寸前であった。


着いた部屋前に関わらず噎せる臭気が漏れだしていた。

控えていた者達は様々な様相で部屋前から遠ざかる。

他には見えていないが見えている。恐ろしく悍ましい無数なる触手の様に手を招いている。

一つが手に触れるように近づくと痛みが刺す。

素直に退きたいがこの場でその様なことをしたならばどうなるかは明白。目を細め小さく息を吐き出す。

震えるを抑え一人部屋へと足を踏み入れる。


折って膝を付きたい衝動。

咽び鳴いて発狂に沈みたい。

八つ当たりのように全てを壊したい。

自身を傷付け死にたい。


「かはっ。がひへはあっ。すはっはっ。」

意識が正気になると自分の置かれた状況を理解した。

短くもそれでいて感情を表すには充分な言葉を吐き出し、へたり勝手に震えてしまう。

「な、なんだ。」

狂った言葉が直接頭に囁きかけてくる。

重いのに軽い。

寂しいのに楽しい。

叫びたいのに黙りたい。

感情が言葉により言葉通りに狂わされていく。

心理を侵食し、精神を侵犯しながら神経を侵襲していく。

呼吸もさらに速く鼓動も激しく。

気持ちが落とされるように落ちたい感覚はさらに増長する。

胃の内容物を吐き出しても収まらず、踞るような姿勢を維持するしかなかった。

呼吸も荒く振るえも収まる気配もない上に多量の汗が吹き出して止まらない。

「おうげぇ。」

緊張からくる何時もの体調不良とは明らかに違う症状に早鐘が鳴る。

死の。

恐怖が。

囁きを持って。

近づいてくる感覚。

幻覚が足を見せているのか。

現実のように目前で止まった。

手を背に宛がわれると無意識に反応してしまう。

『大丈夫かね。君。こんな異常以上空間に単身入るとは無謀でなく愚行だぞ。』

「あ、かへぇっ。うぷっ。」

『お、おぉお。大変。さて愚行示す物よ外で逃げている。あ、物理的にだな。あれ等に諭されて無理矢理に来させられたか。くくくっ。愚かにしてお粗末にも程々に。なあ。』

耳元に近づけられ。

『偽りにして愚かの下地に虚栄を厚塗りした物体よ。』

振るえがこれまでと違う振るえと変換し抑えていた深層恐怖が登ってくる。

『ははっ。さてこれを貼っておきなさい。少しは楽になるだろうね。まあ個人差までは責任とれないのだが。』

振るえる手でそれを受け取り適当に張り付ける、幾分かマシになって顔を上げると其所には。

「ひあっ。あ、貴方は。あなた様は。まさか。」

剥き出しの感情を殺すように貼り付けられた微笑みを象徴する仮面。

小さな痛みとともに強烈な気だるさがのし掛かり意識が遠退いていく。

『おや、少し強かったか、まあ良いか。どうせ実験用だ。』

後の言葉は聞こえなかった。


淀む視界に映し出される過去の出来事。全てが手を此方へ差し伸べ、全ての眼が訴えるように向けられる。口は開かれていても音として聴こえてこない。

続く映像には拒絶を示したところで無意味と理解していても流れていく。

多量の肉の山と。切り裂くような向けられる視線。

逃げ出したくとも逃げられない。

忘れたくとも忘れられない。簡単には。

視界を遮っても聞こえてくる言葉の整列。

耳を塞げば肉体に走る痛みと遂行する負の感情。

堪えきれず。堪えられることもなく。全てを拒絶した。

自然と言葉が漏れていた。

「ほう。存外速く覚醒できたか。」

人が手に何かを持って、興味薄に聞いてきた。

何があったのかを聞こうにも上手く言葉が出てこない。 出るのは。

$=¥+*〜@^&>&(;?{-})∥※と。まあ表現に困ってしまうが。

「おう。まだ抜けきってないか。」

対象を認識から把握までには時間要したが、頭の覆われていた部分が払われるように引いていくと。再びの悲鳴を上げてしまう。

「と、それを繰り返されてもな。一応言っておくと、察しの通り。」

床に降りると足場に腰を降ろす。

「では結果を申告しようか。なあ。」

「ひぐっ。」

醸し出す何かに怯え後ずさりたいが何かに背があたる。

振り向くと足。

上を向くと向こう側から冷めた視線。

小さく声を漏らす。

前を向くと足場しかない。

「怯えるなよ。言ったろ事件の結果を述べるだけだ。なんもしないしそれ以外は興味もない。」

言葉を出すこともできない。

何か反応を示したいが目の前の存在が出す空気に充てられ萎縮してしまう。

「では説明といこうか。結論から話すと統べてが示し合わせた虚言と詐称。そう残った三人全てが共犯者。それ故の証言の不一致と完全なる一致。さて何を根拠にと言うだろうと思ってこれを用意した。時間を省くためだ。」

差し出した端末を渡し、一つ欠伸を噛み殺す。

受け取った端末にはいつの間に撮られたのか脱衣場の場面が映し出されていた。

「これは。確かですか。」

「ああ。なんなら其処に転がして山積みにした三人を見てくれて構わないぞ。検分は済んでるから。」

山積みと言われて見るのは最初に目にした足場。軽く視界に入らないようにしていたがまざまざと直視させられた。

容疑をかけられた三人が折り重なって気絶していた。

「大丈夫だぞ簡単には動かないから。じゃあ検分が終わったら言ってくれ一杯呑んでるから。」

重たく硬い音が鳴る。

がそれどころではない。一番険悪な三人が共犯。それこそ有り得ないと思いつつも何処かで納得している自分を否定できない。

あの端末で確認した部分を捲ると確実に在った。

三人ともに。

()()()()が在った。

「ふむ。それか何か知っているか。ふうぅ。」

軽く硬い音が鳴る。

「んくっ。四集の一つに似たような。」

「似た。ではなく同じだ。正確には所々を歪に一致しない様にしているが。」

「これがどうして。」

「それも調べてある。これが連続の根拠。四番目以外は目眩まし。かもしれない。」

「かも、と言うことは確証は。」

「いや偶然を装った必然的結果かもしれない。という事を排除しきれないだけだ。」

「それは俺。いや、僕を含めてですか。」

「それは知らない。まあ予想だよ、他の調査まではまだ途中だけど。これだけは言えるな。四番目が目的だと。それ以外は。」

「では何の目的で。」

「簡単に云えば粛清。難しくいうなら、機密漏洩防止による逃亡者の暗殺かな。それか両方。まあ過ぎた話なので真相なんて無意味か。」

空気は変わるようで変わらない。

「さて。この三人ともの繋がりは見てもらったように例の集団の一つで終わったこと。目的は遂行されたので勝ち逃げ。これがあの存在なら別の世界が広がっていたのだろうが、まあ終わったので後はお前に任せるよ。依頼外に時間を割きたくないのでね。ではこれにて。」

止めようと手を伸ばす。

扉に手を掛けて振り返る。

「あ、そうそう外の戦場鎮圧は此方で受け持つから。これ以上待っていても無駄と判断したので悪しからず。では後程。」

静かに開けると身体を向こう側へ。次には轟く音を鳴らしながら閉められた。

床には忘れられた端末。映されているのは物的証明。

逃れられない確かなもの。

これを生かすも殺すも自分自身。

「はふっはははははははっ・・・・。」

笑いを堪えない。抑えていたとしても無理だろう。

理解したのだ。

あの存在確実に噂以上の聞きしに勝る脅威。だと。

項垂れている場合ではないと判っていた。なぜなら後ろには殺人犯達が積まれているのだから。

「ああ。世界は僕を殺してくれないんのか。諦めてたけど。」

意味もなく。いや吐かずにはいられない。

気分が落ちかけていたので吐いてみたが落ち込みは収まらない。

気分転換に外へと扉を開けると。

視界全ての天井が崩落した。


口は動けど声は出ず。

鼓動か加速する。

事態が呑み込めないままに推移していく。

崩落の後には拡がる戦禍。のはずなのに黒煙すら上がっていない。

それも自軍だけでなく敵軍までも影すら見当たらないのだ。


意を決して崩落した天井を慎重に進み、瓦礫から抜け出すと有り得ない光景が広がっていた。

敵味方。全ての姿が消えていたのだ。

何か嫌な気分が走ったがこの不可解な光景を理解するため戦禍の中心地へと急ぐことにした。


言葉にできない。

いやしても構わないのだが距離はあるし見間違いという可能性も否定できず、その意外な光景にどういった言葉を充てれば良いのか悩んでしまったのだ。

自ずと歩く速度も落ちていき、思考の時間を取るように愚鈍の歩きへと変わっていく。

水辺に到着し、濁る水面に見え隠れする人形の残骸や多様な死骸に兵器。対岸の光景は一人立つ影。

それを囲むように。

なんと表現すれば良いのか。

とにかく両軍が両手足を真っ直ぐに伸ばしその姿勢でうつ伏せに寝転がっている。

そして。

「「「「「「申し訳ありませんでしたああぁぁぁぁ。」」」」」」

というどうしてかの謝罪の言葉であった。

言葉が思考を凌駕して短慮な声しか出なかった。


事態が突如すぎて時間を懸けようとして愚鈍の歩きで向かっていたが、その者の一喝で跳躍して対岸へと降り立つ。

「やあこれにて長きに渡る愚かにも度しがたい‼️戦場の終局となった。暗躍していた組織と支援者にもご退場して頂いた。物理的には完全なる拘束による思考の混濁状態だが。ではこれより水の浄化が終わり次第双方の交渉を行うものとする。むろん、拒絶拒否妨害は一切認めないものと宣言する。交渉まで双方傷を癒すように勤めてもらう。」

即席に作られたような台に立つその者はそれだけを告げると解散を命じ、数時間の時を持って濁り死んだ湖に手を施していく。

「ふう。疲れるな。思ったより死が根深いてのも長い果ての結びかね。これは予想より。」

波の立たない水面を眺めながら呆けている。

「で、話したいことがあるのだろ。」

「んぐっ。気づいてましたか。」

「それはまあ、これ程の熱意を向けられれば。で何を話したいのかな。元指定危険人物指名手配犯ドゥーフェ・スレイブ。」

「うあっ。」

細めた視線に射抜かれすくむ。

「ははっ。それほどに重いか。」

「ぐっうぅ。」

「それなら自ら剥がせばいいだろ。それをしないということはすがり付いてでも生きたいのだろ。無駄な死を避けるために。なぁ。」

悲鳴が短く。

振り返るその顔には感情を殺した仮面を張り付けていた。

「では聞こうかドゥーフェ・スレイブ。時間は有限だ。無駄にするなよ。」

全身を握り潰される感覚を覚えながらも話していく。


乾いた笑い。だが、小さく心許ない消え入りそうである。

対して。殺すようでいて殺しきれずにいる笑う声。

腹を押さえて仰ぎ嗤う。

二つの異なる笑いが水辺で共演する。

「はあぁ。笑った。ああ嗤わせてもらったよ。そうかそうか。死にたいのか。それでも死ねないと。そうか。うんうん。それは。」

「ど、どうすれば死ねますか。教えて下さい貴方はこれまで幾つもの死をその手でお造りになられたのです。なのでどうか。お願いします。」

土下座に額を地面に擦り付ける。

「ははあ。それで死を願うのか。他者を使って。うんうん。確かにな。その方が確実に迎えられるだろう。で」

「は。」

「いや、で。」

「へ。」

「おお。解らないというのは無しだぞ。なあ。」

手を差し出す。そして指二本で輪をつくる。

「解るだろ。」

「は、それはもう。これまで蓄えた品々や情報を全て差し上げます。」

「へえ。そうか。なら。」

空気が。

「え。」

気分が落ちていく。

「うがっ。」

気がつけば鼻頭が痛む。触れると滑る感触。

見た指には赤いものが付着していた。

「お、おお、えぇ。い、いいいいいいぃぃぃぃぃ。」

気分の落ち込みが加速する。

加えて止まらない赤。詰まんでも何故か泉のごとく溢れ出る。口を抑え耳を詰め。目を閉じ。下肢の穴をも塞ぐが全身の穴から無限に溢れ出る。

気がつくと地に蹲っていたが時間と共に全身から熱と力が抜けていく。

呼吸も少しずつ浅くなり視界もぼやけ暗くなる。

力はもう入らない呼吸もできない。

眠くなる。

鼓動の停止

思考の停止。

熱量の低下。

硬直していく。

これが。

死。

「では行こうか。」

直後に走る死んだはずの感覚。そこから走る激しい感覚から熱い感覚が波紋のように拡がっていく。

「くはっ。」

息ができる。

赤も流れていない。あれだけ流れていたはずなのに痕跡すらない。

「で、今から同じ目にあうがどうするかな。死を選ぶか、それとも。」

仮面越しの威圧感は無言を許容しない。

「今のは。幻覚。いえそれにしては現実感が。」

「言ったろ。同じ目に。てな。それの予行練習。といったら解るか。」

「ま、まさ。かきゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。あおおああああ・・・。」

「死にたいなら止めはせんよ。このまま転げ苦しみ無限の痛みに晒されながら旅立つ。という現実がまっているぞ。望みなんだろ。死を。なら受け入れろ。そして無様に醜く這いつくばりながら自分を終わらせろ。」

これまで幾度も願った死。

苦しみも痛みも困難さえも受け入れる覚悟は有った。有ったのだが。

「げびべべべべべべべべべ・・ぺひゃっ。きひっ、ひ、ひ、ひ、ひでぃぃぃぃ。」

いざとなると。単一でなく死への誘いが複数同時である。いかに強靭な精神であろうとも突然であれば心は折れるもの。

そして精神崩壊と共に思考停止から命を散らしていく。

「がふっ。」

倒れる。

これで偽りの人生は終わった。

「と思うのも早計だぞ。なあ、偽りの罪人。」

「え。」

勢いよく起き調べると何も無い。これも何かの。

思い見ると背筋が凍る。

「なあ偽りよ。これでお前は二度死を経験した。これでも死を望むか。」

表情なき仮面であるのに向けられる感情は底見えることなき冷たさ。

「狂いたいだろう。だがな簡単には狂えない。これまで偽ってきた。心は死を望んでいても思考はそれに甘んじている。何時でも偽物だと言えたはずだがそれを言わない。どうしてか。はっ。その名の意味を十二分に理解しているからだ。本当は言いたいだと。笑止。違うだろう理解していたからこそ言わないのであり、そこに罪悪感など微塵もない。死を望む。それはただの言い訳にすぎない。自分自身の心を護るために、いや、自分可愛さから言わないだけだ。まあそれを罪悪感からと言うなれば違うよな。はっ拒絶など烏滸がましい。否定するなら。お前。」

冷酷な視線を向ける。

「嗤ってるよな。」

「え。」

顔を触ると目尻が下がり口角が上がっている。

理解した。これまでの自分を。

「振り返ろうという時間を与えない。なぁ。与える気も失せる。」

「ぐえっ。き、は、かっ。」

「面白いな。彼方に相談して処遇を決めようか。それとも私の判断で。いやそれは後々に禍根を残す。では答えは簡単だ。それまで永眠しておこうか。」

翳された手から何かを撃ち込まれ意識が消えていく。


「お、丁度良いな。浄化完了だ。さて、後は両陣営の紛れを排除し。終われば机に着かせるだけかな。」

濁り澱んだ湖は暇潰しにしていた話の最中でも継続していた。

なので現在は光を反射し底が見えるほど透き通った水面。小さな虫が飛び交っている事を確認した。

「うああ。半分が終わったか。これで。では、んぶ。」

用意していた食事を食べる。

「ではんん。『全員に告げる。これより掃討作戦という名の虐殺行為を開始する。くれぐれも漏らしなきよう願いたい。いや命令する。では始めようか。』

沈黙。

『作戦開始。存分に暴れよ。』

遠くから怒号が聞こえる。

「さてこれを収容して動くか。」

泡吹き目を明後日に向ける遺体と同等の者。冷徹なる視線で向ける感情はなんだろうか。

だが、自分に向けられる視線に気づいて向き直ると。

「ああ。もうその時期か。ふふ早いものだな」

向かって歩く。

「では聞こうかこれまでの彼方の行動を。」

森の奥よりいでし者。

その風貌は薄汚れ見るからに汚ならしく放つ臭いも鼻が曲がるように強烈で近づくことも憚れる。

手を差し出すと大きな端末を出してくる。

受け取り起動させ軽く流し見ると脇に抱える。

「では引き続きお願いしますね。何せ深すぎますから。根本が腐ってるよりも酷い。」

頷きを感じながら視線を相手に戻せばもう居ない。

「はは。早いな。さて今度こそ行くか。」

倒れた者の足を持って引きずりながら目的地へと歩く。


短時間で紛れを排除し、数える残りを照合する作業を終え、分散して隔離し然る後に移送する手筈となっている。

「最後の照合が終わった。紛れに扮した者達は別に調べるとして確定した者は全員枷をしてから隔離。」

と説明し見回す。

「ぐっ。まさか。」

「最も信頼していたアイツ。まさか。」

机を挟んだ二人が曇らせる。

「悔やみは後にしてくれますか。今はこれからの事を話し合おう。おっと、先に言っとくが我々は中立なので片方に。というのは有り得ないし袖の下からの行為も我々には無意味と理解しておいてもらいたい。では始めよう。」

「では始めに。この島での紛争の発端に関してですが。調査したところやはりそのような事象はなく。正確には似たような事柄が見受けられ、その情報に脚色を加えて伝播した。双方に流された情報には幾つもの矛盾がある事で争いの種を植え付け、そして芽吹かせ成長させ機を熟して一気に刈り取る。というなんとも手間隙掛かる方法ですね。では何をという疑問は氷解してます。そう武器兵器の実験です。若しくはそれに準じるなにか。でしょうか。さてここまででご理解して頂けましたか。質問はどなたでも受け付けますよ。」

一人が手を挙げる。

「ではどうぞ。」

「宜しいか。では。んん。今の話が本当ならば。いや本当なんだろう。しかしそれをして旨味があることは理解するが、膨大な歳月をかける理由はなんだ。」

「ああ。それか。なに簡単だ。武器兵器の精度。費用対効果。そして量産体制の確立。等々。言ってみればこの島での戦争はある者達の試験場ということさ。んで双方に提供された武器兵器の出所を調べたら複雑に仕組まれていたが、先に結果がでたよ。」

「何処ですかな。」

「ああ。有名な名を冠していたが全く関係ない完全な偽装会社だったよ。大元はなんだったかな。」

「カリオガ総合公社という老舗の会社です。」

「だ、そうだ。んで確認のためにその本拠地を探らせたが。」

「もぬけの空ですか。」

「ご名答。で納得したかな。」

「腑に落ちない点が幾つかあるが今は納得しよう。」

「では。この件に関しては我々中立である仲介が引き続き調査。という事で。経過は随時双方に送るよう手配しておく。次に島の所有陳びに土地管理についてだが、現状、島の大半が住めるような環境ではない。結局限られた土地を巡る争いは避けられないだろう。ならそれまでの一時的な案として我々はこれを挙げさせてもらう。」

手元の端末を操作し大画面に映す。

「これは。」

「何処ですかな。」

「これは世界に点在する建設途中の人工島の分布図。最も遅れている島は赤で表示している。で本題だが、この建設を対価に君らから提供してもらいたい人員を。そして上からは最優先で島の浄化を進めてもらうことにする。確約しよう。そして建設現場にはもちろん居住区画もあるしこの技術を学べば戻ったときの島の発展に大いに役立つだろう。どうする。旨味があるし見返りも大きい。」

「ふむ。確かにな。だがその確約は貴様等が勝手にしたという言い逃れをされる恐れがあるよな。」

「ならここで上と回線を開いて確約したと証明しようか。我々はあくまで仲介役。上の伝言や両陣営との橋渡しだ。改変虚偽はしないしできないようになっているでは開こうか。」

大画面に一人映される。

『始めまして諸君。私は統合管理会委員属島部門所属ヘグウェスと言います。では。事前に送られてきた資料を拝見しまして、すでに上には報告済みです。結果は後日に。高速船を派遣しよう。参加者数はこちらの報告と交換で提出してもらおう。では。』

画面が切れる。

「これで確約はされた。島の除染と修復には時が必要だろうが大丈夫だろう。では次に双方の被害報告だが、歳月を掛けただけあって莫大な補償費用だ。これを支払うには時が必要。なので少し待ってもらう。」

端末を操作する。

「画面を見てもらおう。最後に報告だ。」

画面には双方の人員が表示されている。」

「調べた結果は先程述べたが詳細を説明すると。上層部は全て黒。そして関連した施設に至るまで全てが等しく腹黒い。完全なる遊技場だ。その二人。知っているかな。」

立ち上がり驚く代表二人。控えている者達も同じように。

「二人を詳しく調べてみたのだが、完全一致したよ。そう同じ人物だ。」

「ま、待て待て。ではなにか。俺達やこいつらに提供していた支援者は。」

「ええ。兵器。武器。そして情報をそれぞれに提供した会社は全て存在しない贋の存在だよ。そして巧妙に隠されていたが大元を辿ると共通の組織へと行き当たった。何度も多角的に調べた結果だ。疑いの余地は微塵もない。」

歯を悔いしばる二人。

「ん、でも俺達が数回交渉した時には。」

「そんなもの変装して一方を作りだせば問題ない。見させてもらった画像と残っていた画像。そして交渉時の集合画像を照らして一致したよ。同一人物だと。なので暫く探させたが、はは。手が速い。死体として発見されたよ。」

画面には一つの死体が映された。

「結構酷い画像だが骨格は嘘をつかない。先程の画像と一致した。全く、先手を打たれたよ。残党も目下捜索中だ。今は捕縛した者達を尋問中だ。」

悔やむ二人や双方の配下達。

「では次だが此処が重要だ。島が復権した場合の領有権だが根本から考えて分けるという手を提案する。長い時間いがみ合い歩み寄るというのは簡単ではない。なので初めは分けることを推奨する。もちろん時間を掛けて一所でというのが理想だが無理だろう。なので分ける。だが、知識の宝庫は一つだけ。双方の中心地を起点に展開させる。と簡単に説明したが納得は出来ないだろう。これを草案として双方で詰めてもらおうか。完成案は提出してもらうが。」

納得はできていないという代表の表情。だからこそ〈草案〉としたのだ。

「丁度時間か。では完成案の期日は設けませんが、早めにお願いします。では解散。」


足下の空間には蠢く命。

冷徹な視線を向け吐き捨てるような雰囲気。

「さて。時間をおいて仕掛けてみたが、一向に向かってくる気配なし。か。だがこれでお前達の帰還場所は無いものが確定した。そしてこれよりお前達は本部まで移送し更なる調査が待っているだろう。ふふ。楽しみだよ。ではもう会うことは無いだろ。お別れだ。」

怨鎖が響く。

振り返らず外へと出る。

深く息を吐く。

「終わったなこの件に関しては。で、何時までその姿勢でいる。解放したんだから何処へなりとも行っていいぞ興味も失せている。」

手を振る。

「は、ですが俺には戻る場所はない。充てもなくさ迷って無意味な死は到底受け入れられない。頼みます。俺を連れていってください。」

「はあ。自由にと言ったがね。なら途中までだ。それ以降は許可しない。本当の自由だ。」

「は、有難うございます。では準備をしますので暫し。」

早々と何処かへ行ってしまう。

「はあやれやれ。荷物は軽く。が私の矜持なんだが。数日でこの島を脱出して次は懐かしき地。」

思い馳せるには早いがそれでも何かを思わずにはいられない。


数日。港での手続きを終え出港の日。

用意した戦艦に乗船し、一団は次なる目的地へと出港したのだった。

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