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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
二章~交渉決裂と戦争準備~
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二章~強襲~5

ホロホロ。という言葉がある。これには幾つもの表現が存在する。

一つ。軽く小さきものが静に、溢れていく様子。

一つ。涙。

一つ。儚く崩れるさま。

一つ。鳴き声。

一つ。島。

一つ。名前。

本来、最初の意味が正しいのだが、意味を知らなければ響きや言葉で以下になるか。

その中の一つ。

光魔の前には文字通りホロホロと涙を流すカンタルブローミネと慌て自分達の置かれた状況を、正常に判断できない大多数の参加客達に僅かに冷静な者。

あの轟音は報告通り本当だと理解しながらあの崖上へとどうにかして移動し、遠くに見える海面を埋め尽くす艦隊の明かり。

通常なら位置を把握させないために消すものだが、敢えて晒しているのは余裕の現れだろうか。

全てを逃さぬよう脱出手段は事前に全て破壊されていた。

五人を主としてそれ以外は絶望に彩られた表情をしていた。

滂沱の表情である。

事の口火を切ったのは自分だとしても、これほど手際よく展開していると云うのはあまりにも予想外。

と言うよりもむしろ面白くない。というのが本音なのだが。言葉にも。

態度にも出してはいけないと解っている。

隠し通路という脱出路を通りながら布陣と強化を指示して徹底させていたのだ。が。

「さてさて。どうするのかな。くくっ。その場で素直に。心の赴くままに逃げたらそれはもう。世界を敵にしても。くはっ。たりないだろうなあぁ。」

誰もが絶望する状況の中で嫌な笑みを貼り付ける。

正直なところ楽しんでいる心の部分が有ることに否定はしない。


実際のところカンタルブローミネや参加客達は、報告を聞かされても信じてなかった。勿論、映像も現実時間で見せていた。それでも頑なに信じようとしないのである手段をうった。

それが医務室に運ばれてから一度も顔を見ていない、憎たらしい子供達や気が狂った者。更には付き添いとして来ていた者を含めて映像の中で拘束した状態で運び出させた。

疑うなら行ってみるといいと。促して、実際に向かわせ、そして現実を理解させた。そして、港まで運ばせ、放置した。

その結果は、無残な肉が転がるだけの、無情な映像が流され続けていった。

悲鳴を上げる者とか憤怒に任せた行動を取るものを押さえつけ、驚くほど冷静な者達に避難を指示させた。

その脱出通路はあの森の真下に造られていた。

常に整備されていたので簡単に抜け出すことが出来たのだが、驚いたのはその出口。

あの崖の上だったのだ。

そうして全てが避難し終わり、赤と灰と黒に染められていく眼下の光景を見続けているしかなかったのだ。


「さて、そこの1人にお尋ねします。これを見て虚偽と思われますか。それとも真実を受け入れますか。」

向けられた言葉は誰に対してではない。何故ならその1人という言葉とは別に視線も、頭も体でさえも向いていないのだから。

「これは世界を崩壊させるぞ確実に。此方には世界の名だたる方々がいらっしゃるのだ。それを」

「関係ないでしょ。調べたによりますと、この場には存在しないことになっていますよね。全員が何かしらの協議に参加中。これらが公になったら。うん確実に世界とか秩序とかあとついでに、権利なんかも崩壊しちゃいますね。なので当初の目的通りにこの島ごと葬り去る。そうすれば後々何かあったとしても上手い言い訳を考えて、勿論真実も織り混ぜて公表するでしょう。だって、この島は犯罪の巣窟なんですから。」

誰もが反論できないでいた。

「で、逃げますか。泥被り、汚水を飲んで自身の命のためなら他を蹴落としてでも。」

沈黙。

「ふむ。可もなく不可もなくですか。良いでしょう。ならなにもしないでもらえますね。確実に邪魔と判断したなら、あの映像の様に切り捨てます。では、」

前に一歩出る。

いつの間にか、何処から出したのか仮面を着けている。

端末を操作して確認する。

「んん。ふう。」

通話口を近づける。

『艦隊の諸君。初めまして。我の名はヴェリーチア。交渉人という仲介屋であり、この島は対象外な上に面倒事を押し付けられししがない塵芥である。』

拡声された響く言葉は島の全てから聴こえてくる。

『遠回しは好かんのでな。単刀直入に言わせてもらう。素直に反転して帰ってくれないだろうか。素直に帰ってくれるなら追いはしない。確実にして絶対だ。』

その場で崖の縁まで歩む。

『だが、砲撃を続けるのならば、弟分と同じよう全滅という我の返礼を土産とさせてもらう。』

直後に島へと砲撃が加えられる。

『そうか。なら。終わろうか。総員。慈悲も道理も懇願もない。好きに沈め、自身の愚かさを知らしめ。無力を刻ませ、その存在を奪え。』

一筋の何かが艦隊へと向かう。

何かが一隻に接触すると竜巻が発生、高く舞い上げ風の刃と水の刃そして石の礫が降り注ぎ船体をひしゃげ、切り刻み砂粒と化した。その中には赤も混じり霧を発生させていた。

通信先を変える。

『初激でこれ程の威力。さあ思う存分八つ当たりしてやりなさい。我が許可しよう。責任は其処のジジイがもつ。』

んなっ。と驚きを隠せないが。

『そして。』

「うぐっ。」

「このような者の存在なぞ感知しておる。何のために逃がしたと思っているのか。ふん。」

倒れた斥候の足には深々と鋭利な武器が刺さっている。

「さて、聞こうか名も知らぬ斥候よ。貴様はアレに詳細なる報告をしたな。その上で手ぶらで帰れぬと短絡に考え、我を潰す機会を伺っていたのだろう。くくっバカが。それすら折り込み済みよ。くはっ。くはっははははは。」

笑いは周囲を引かせるに十分。

何が楽しいのかすら理解されない。

そうそれで良い。

「さて、質問じゃが。素直に答えよ。」

睨みつけられる。

「なに簡単よ。」

貫かれるか。片方を失うか。

「それだけで良い。さあ。選べ。無理強いはせぬから安心せよ。だが無駄な時間は省くがな。」

此方も仮面越しに目を細める。

「なんじゃ。折角、選択肢を与えてやったのにのう。仕方ない。では、此方を貰おうか。」

皆の前で一瞬何が起こったのか。

それだけで自然すぎる動作で斥候の一部を切断した。

「ほう。呻き一つ上げなんか。ふほほほ。では端末を貰うぞ。」

懐をまさぐり、端末を手に入れる。

何かをして外套にしまう。

「ふむ。もうこれの利用価値は無くなったの。」

宙へ放り、再び皆の前で処分した。

何故か笑っている。

「ではその顔を拝ませてもらおうか。なに。未来を奪う気は、無いので安心しろ。」

被っている物を剥ぎ取り、口宛も取る。

「なんじゃ女か。つまらん。もうよい。誰か此を何処かに放り込んでおけ。だが、それ以上の傷付けは赦さぬ。」

渋々という感じで女二人が斥候を連れていくのを見届けて。続けられている砲撃の蹂躙を眺めていく。

闇一色の海に赤を中心とした鮮やかな光が走っては上空へと上がっていく。

「ふむふむ。少し足りないのう。そうだの。」

端末を口許へ。

『くかかかっ。命乞いは無意味だと言ったかも知れぬが、変更しよう。なに艦隊総指揮者と各艦長を引き渡せば砲撃は止むかも知れぬがどうする。』

艦隊から明滅される。

『ほう、時間は有限。決まるまで砲火は止まらぬ。それに留意し答えを出せ。』

周囲から。鬼。悪魔。人非人。という冷笑を含む蔑みの言葉が聞こえていたが、無視する。

「じゃあ、行くかのう。彼方も次の一手を打ってくるだろうし。それの対処をせねば。」

傾けて、落下しながら視線を前方の艦隊へ向ける。

着ていた外套を脱ぎ捨てる。

その全身は生身という箇所が見受けられない。

完全武装である。

落ちていく姿を見て崖縁まで寄り眼下を見ると、知る者は全身の血が引くことを認識し、知らぬ者はその余りな異常すぎる過剰な武装に気が引けていた。

が全ての視界の中で忽然と消失し、次に聴こえるは森に響く悲鳴のようなもの。

森へと視線を向ければ木々が飛び薙ぎ倒され、道筋が出来上がっていく。

「うげええぇ。」

「うわっ。汚いなぁ。何をいきなり。」

「ぶえっ。分からない等と宣うなよ。ゲアッ。あの完全武装はもう二度と拝みたくはないと。そう思っていたのに。どうして。」

〈舞いの蹂躙〉

「此を理解できるか。」

「まて。待て待て待て。可笑しいだろ。全てを。関連した物を含めて破棄したと聞いている。現にその目で見たのだろ。」

「ああ。だから突然で心が悲鳴を上げた。久方ぶりになっ。クソッが。」

拭い。唾を吐き捨てる。

「では復元。」

「違う。あれは本物だ。それに知っているだろ。あれを復元できる者はこの世界でも限られている。」

設計開発者。

製造運用者。

試験運用者。

武装管理者。

「そして完成型使用者。」

「それも知っている。全員粛清されたろう。俺達の前で。なあ。」

「ふくくくくっ。今思い出しても笑える。」

「はあ、お前に聞くのは間違っていたな。だが確かにあれはいや、あれほどの滑稽は笑える。」

「でもさ。僕達はその後の処理は見てないよね。」

この言葉に全員が戦慄した。

「ま、待て。それはまさか。」

「謀られた。と言うことです。か。」

「だが証明出きるのか。」

「不可能ですよ。そんなヘマをしないでしょう。用意周到に最後までやり抜きますよ。」

「はあ。我々は。どんなに足掻いたところで抜け出せない。そう言うことなのでしょう。」

黙ってしまうが破る者がいる。

「聞いても良いですか。いえ、答えられないならいいです。」

「おう。若い兄さん。何かな。」

「いや。気になる事を言っていたので。」

「む。若よ、何を。」

「アニコは黙って。」

「むむ。」

「あ、ごめん。でもね。」

「は、はははははは。まあ、この様な場所で話していては気づくだろうな。だが一応聞いておこう。なんだ。」

「いえ、先程から仰るのは最近資料でみた。消失兵器。とかの類いですくかっ。」

気づくと首に手が掛けられていた。

「この場合、どうするのだ。」

「くくっ運が向いてきた。」

「いや、否定させてもらおうかの。」

「んな。どうして。」

「世界調停書。」

「い、いやだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

「お、親父。どうした。」

「内容を知っているのは、当時の経験者故か。」

「な、何をしたアニコ。」

「『以下に記すは千変万化にして不可侵及び改変改稿も不可能。』」

「な、何を。いきなり。」

「知ってるでしょ。大戦を。」

「大戦て、それが、あ。」

「『消滅消失に関しての法令三ヶ条。(簡略)

一条一項。消滅消失名を関する道具は全て破棄。例外はなく。又、これより先の設計。製造。開発。改良。運用。保管。保有。貸与。借用。など関連した全てを禁ず。

二条。一条一項に抵触した場合の処罰。

関連する全ての資料の提出。無いしは没収。製造時点では回収後に破壊。保管。保有であれば同様に回収。後に施設の破壊と現物の破壊。貸与。借用であるならば。全ての資料を調査。追跡し、回収。現場での破壊を原則とする。

三条。二ヶ条に抵触した者は裁判なしの上、仮釈放なしの永久収監とする。』」

息が詰まる。

「それは。今現在、使用しているあの者達は。事が終われば。」

「そう。どう足掻いたところで表に出ることはない。どの様な手段を打ったとしても。」

動揺を隠せない視線は、森を海岸をそこどこから放たれる光と言うのもどうかと考える筋をただただ、見ることしか出来なかった。


森。

「ひでででででっ。とまっ。止まれって。くぬぬっ。」

作動させたのは良かったが、その制御には癖がある。簡単には慣れるものではない。

しかも着けていた仮面も外れ何処かへ。検討は付いているが取り敢えずは。

「いい加減にしないと、殺しを、施すよ。」

冷淡な言葉が口をついた。

意志があるのか。

神憑りのように突如、制御出来る。

「事があれば面白い。のに。」

暴走状態の足枷のような装置。いや、装備というのだろうか。

「《羽矢巻き瞬道》か。ふふ。普通ならその速度に耐えられず、体が潰れるなんて。書いてあったなあ。はあ。」

「それもこれもこの腕に嵌めた籠手。なんだけどどれだけ頑丈なんだろうか。」

実際問題、森は大きく広く。そして思っていたより木々が頑丈であったのも一つの理由だろう。

現在、光魔は音と同等の速度を生身で体感しているようなもの。それは通常なら耐えられない程の圧を浴びているが、これを相殺しているのが両腕に嵌めた籠手。名を。

《堅厳両園》

たしか、ええと。その領域を指定した中では、如何なる外的要因であろうと全てを拒絶の如く無効とする。だったかな。

何かに似ているような。

そんなことを思い出しながら森を進み、町の崩落した外壁を越え、先の終着点。艦隊が見える場所まで突き進む。

砲撃が一湊響く。


「おお、お。時間でと思ってましたが、予想外に頑張ってますねぇ。ふもふも。それではぁ。ねえ。そろそろ準備をしておきなさい。くはくは。少しすればあれは射ちきれる。」

返答は聴かず。

「ふほほほか。さあ、あと少しですよ皆様。少しであの島は。ふひひひひふ。手に入れたのですよう。」

艦隊陣形が動く。一目見れば崩れているように動いている。

「さへさへ。準備完了でしたね。発射下さい。」

艦橋から臨む発着場から一部が開き、発射台が競り上がる。

秒読みし、点火、島へ向けて続けて発射する。

「しあしあ。蹂躙しなさい破壊しなさい。そして尽くしなさい。しあしあしあ。」

発射台から少しして、着弾する。爆発音と発光。

予定通り全島から砲撃以上の破壊が見える。

笑いが止まらない。止めようとも思わない。

全てが計画通りなのだから。


あれ。という前に異変に気づくより前に、それに対して心の底から苛立ちが意識と関係なく昇ってきた。

「なんですか。このお腹から無性に感じる嫌な感覚は。と。危ない。」

目的まで走るも先程から感じるそれには、知らないはずなのに知っている。

「これは危ないですね。では、少し早いですが。」

端末を操作する。

『撤退してください。もう十分ですから。あと何があっても振り返らないように。保証はしかねますから。では。』

現在は街の中心を過ぎた位置。

目的まで少しかかる。

「はあ、誰ですか。というのも面倒になりますので。即でそれを、壊しましょうか」

方向を変更する。これが何を意味するのか理解するのは誰1人としていない。それは自身であっても。


いく先々での不要な論争と戦闘。更には無意味と思われる行為。溜め息しか出ないですね。正直な言葉で表すならですか。はあ速く。終わらせたい。さて、一番近い落とし物は何かな。


到着して見えた何かに遠慮なく一撃を撃ち込む。と同時に所有物を回収。それで終わり。次へと向かう。

そう耳に届いた弾けるような。潰れるような、はたまた砕けが響いてもだ。

それは先程から聴こえてくる壊しの音が掻き消してしまう。

一つを見つけて問答無用で地に叩き伏せるは容易いが、なにぶん時間が掛かってしまうことが面倒になる。

ならばと、両手の指と両足の指を合わせた数を越えた辺りからとある地点を探していた。

それは最初に見つけた偉く頑丈な見張り台。

昇れば標的にされるだろう事は承知の上である。

「はあ、船も粗方片付いて、そのまま歴然の差を認識して帰ってくれたなら良かったのに。もしかして、この反抗自体も向こうの折り込み済みなんでしょうか。はあ、手のひらに踊る。ですかね。」

一つの始動装置を取り出し、動かす。

島から事前に設置させた機器が上空へと上がり、花が開くように小さな破裂を巻き起こす。

『ああ。此方は物見矢倉の者だが。これ程を目の当たりにしてお帰り願えないだろうか。本当に素直に正直な気持ちで帰って頂きたい。』

向かってくる殺しの込められた 凶器が向かってくるが、自然な動作で払い落とす。

『これが最終警告だ。聞き入れなければ、そうだな。現在島に侵入した不法者だが例外なく世界から消させてもらう。一つの漏らし無くだ。』

続く込められた凶器は寸分たがわず、同じ軌道に乗せて打ち払う。直後に小さな悲鳴がしたが現状で気にする事もなく、艦隊を見据えた。


報告を聴いていると面白いように填まっていると考える。

この布陣もあの鬱陶しい連中の排除と他方から挙げられる処理一覧。

最初は乗り気も無かったが、これを上手く使えば手を汚すこと無く、全てが片付く。

最初は相手に花を持たせ、中盤で疲弊する頃に本命の一陣を出し、最後は止めの一撃を手向けとする。

簡単でいて実際は難しいものだと常々思っていたが、今回は確りと填まる填まる。

「いひひひっふひっ。どうかなぁ。時間的に島の大部分を制圧できているでしょう。まぁ無駄な抵抗も折り込み済みなのだけどねぇ。ひひひっはっ。」

「はっ。連絡では仰る通り、いえそれ以上の制圧を完了したとの事です。』

「うんうん。ほうはいそうかい。ならあと少しで最後を投入。それで完全にあの島は制圧できる。」

笑いが不必要に込み上げる。


その時は来たのかも知れない。

『此方は世界連合艦隊軍司である。現時刻をもって島の制圧完了を宣言する。もし抵抗せず投降、するならそれ相応の待遇を約束しよう。これは最後通告である。』


ふひひひひはひゃひゃひゃひゃ。まあ投降したところで待っているのは快楽という地獄なんだけどねえ。

まあ抵抗なら世界協定で捕虜を好きにできる。くかっ。どちらに転んでも旨味しかない。

さぁて、見ものだねえ。くくく。ん。なんだ。あ、れは。


画面から見えるは煌めき。


地面に重いものが落ちる音が耳に響く。幾つもの呻きは聞いていても胸くそとしか言いようがない。

簡単に動かれても困るので追加の一撃を各々に加えて落としている。勿論、目的の品を回収してだ。

「はあ忍ばせて。使わずに済むなら良かったのに、どうも簡単には終わらせてくれませんね。」

独り言を言うが、その体は止まらず、向かってくる殺しの意思を砕いていた。

「それにしてもあれの返答が無いのはいただけない。無視にしてもですね。何かしらの反応を示すのが礼儀でしょうに。さて。お、もうそろそろ終わりますかね。さて。これを、て何処に仕舞ったかな。」

まさぐり、取り出すは一つの小さな箱。

「さて、ではでは擬似も収まりますし、此をもってもう一つの仕掛けとしますか。」

回収した工作部隊の端末を全て箱に貼り付ける。

「では起動を。」

総勢にして十にも満たないが特殊な端末だと見た瞬間に解った。なので、この箱を用いる。

「たしか。強制型接続装置。見たまま。《黒い箱》でしたか。まあ詳細は知りませんが何かと便利とか書いてましたかね。」

上部の凹んでいる部分を押すと、振るえ、内部の装置が起動したことを伝えてくる。

「ものの数秒で障壁を破壊するんでしたか。さてどれどれ。」

端末の一つに触れると通常通りに起動した。

そしてあることを入力し、最後に箱へと命令し、端末を外し、仕舞う。

「あとは待つばかり。てね。」

こうして向こうの反応を待つ間に工作部隊を全て後方へ回収させる。

「後は頼みますよ。ねえ皆さん。」

親指を立てる事で返された。

「では少し休息としますか。」

その場で食事を始めてしまった。


予想より遅く、気が付くと軽く眠っていた。

起きた原因は、島の制圧完了を告知であった。

「ふあっふう。やっと来ましたか。随分とのんびりしましたね。まあそのお陰で心身ともに回復できましたし。では始めますか。」

外していた目隠しを着ける。

軽く乗り出し物見矢倉から見える分には大分空が白んできた。

外套の頭巾を被り、呼吸を整える。

「掃除といきますか。」

言葉のようにこれより先は、世界を覆す単なる掃除となる。


艦隊から見ると島から輝かしいものが煌めくと、認識したときには数隻が、抉られたように穴を空け、海に飲まれていく。

「ふむっ。何があったのです。」

『そ、それが我々にも。』

「詳細は後で提出しなさい。これより彼の島へ上陸します。準備と警戒を怠らぬように。厳命しなさい」

『はっ。』

通信を切り暫し考えるが何かを感じたのか。その場から出ることを決意する。

本来は契約違反と分かっているが。


甲板へ出ると白んでいる空。周囲には配置していたはずの護衛艦含めた戦艦は、自身が乗っている艦以外は一隻しか残っていなかった。

それも無事とは言い難く、砲門は抉られ、または熔けたように使い物にならず。更には壁面にも痛々しい深い傷が存在していた。

距離を離れている戦艦は対応に苦慮しているのか動きが見られない。

「何があったのですか。用意させた戦艦が悉く。」

「報告します。」

突如後ろから声をかけるもの。

振り替えれば衣服に擦過傷。火傷が痛々しい。

敬礼しながら報告してくる。なんとも軍人らしいではなかろうか。

「1人だけですか。」

「いえ、皆は消化や負傷者対応に当たっております。」

「そうかい。ひふふ。では先程の報告を元にして此を組み上げたので。負傷者にも開示するように。」

端末を近づけ送信する。

直ぐに部下は戻っていく。

見送りながら島を見る。

直後に再びの明滅と閃光。さらに触れた戦艦は、融解し蒸気も上げずに消滅した。

「え。」

言葉がこれしかなく、不自然に体が振るえてくる。

ダメだ止めろ知覚するな思い出すな。

思考は否定すれば、それだけ鮮明に呼び起こされるもの。

過去の出来事は消えるように忘却し封印した。

どんな衝撃も響かなかった。

「響かないように、鍵を閉めてもらったのに。なんで。」

胸を握り、睨む。

続く光は容赦なく艦隊を崩れさせていく。


狂気の沙汰ではない。

あらゆる兵器が島の至る場所から咆哮を放つ。

港より移動して用意させた森林を引き抜き剥げさせた山頂にて狂った笑いを放つ1人。

「ふう。笑った。ふふふ。さてさて、これで艦隊は全滅に近い。あと数隻で終わりますかね。ですか。」

そう簡単に事が運ばないのが彼の運命。

艦隊は編成をして向かってくる。先頭に硬い防御を施した戦艦。中央に旗艦。最後に援護の戦艦。

幾つもの筋が触れるが全てが直前で消える。

「へえ。消えない。のですか。それも致し方とかでなく、面白いですね。では。」

『前方の三隻に告げよう。諦めず向かってきたことは誉めてやろう。だが、終わりだ。』

荷物から引き抜いたのは。

装着型の砲包だが、様々な機構が付加されており、単純な代物でないことは明白である。

「抜刃。光輝く力をもって彼のものを断罪せよ。」

静かに吠えてみる。


一方。艦隊は。違うか。現状艦隊とは言えないかもしれない。

中央に位置する旗艦。その甲板で1人が振るえていた。

歓喜。違う。

混み上がる恐怖により抑えが効かなくなっていた。

頭を抱えて俯き、がその表情は笑顔に近い悲壮を表している。

「あ、あり得ない。どう考えても。あり得るはずがないのですよおぉぉ。」

その否定は次に上げた視界の中で完全否定される。

島の中腹。海より未だに薄暗い空の下。

山の頂より一筋の光の柱が形成される。

『全艦、右舷へ回避せよ。』

突如の指令であったが、三隻は直進路から右へとずれていく。

直後に。先までいた場所が言葉通りに消滅した。

通常なら海を割ればそれに伴って戻りの力が働くのだが、光の柱により消滅した場所は、最初から無かったように書き換えられる。

「ひ《光の観柱》。なんであの時に全部壊したはずじゃ。どうして現存しているのです。かっはっっ。」

混み上がる否定の吐き気。

再び山頂が光る。

「か、回、避」

恐怖により次の指示を出す。


力が吸われる。

足にも力みが無くなっていく。

「うぅ。思ったより力を、吸われる規模が、ぼ、膨大。」

何か切れた。

「うがあぁ。」

吼え。

「て事が運ぶ事はない。とっとと締めよ。」

踏み出し、思ったより長大な光を見上げ何か感心してしまう。

「ふん、圧倒一閃。」

形成されし光は。

「放つ。」

分離し。

「切り消せ。」

小さく振り、小さく抜いた。

三隻をかするよう投擲し光の柱は海を消滅させた。

「くはあっ。あ゛あ゛あ゛。思ったよりずれませんね。ふうぅぅぅ。」

手を離し、荷物へ落とす。

「さて。これを着けて。んんっ。」

回収していた画面。

『さて此度の遊び場所は中々に愉快であった。もうよい。これ以上望まざる事はなし。肝に命じお帰り願おうか。くかっ。拒絶なら容赦なく残りを喰らうとしようか。のう。』

屈んで荷物に腕を突っ込む。

次に引き抜いたのは先より同等かそれ以上の品物。

『返答を聞かせて貰おうかのう。』

『こ、こちら第8艦隊残存。り、了承した。これより我々は本部へと帰投する。これ以上島には関わらないと約束しよう。』

『ほうかい。では死ぬかのう。』

『んなっ。帰投すると。』

『なあにを戯けた事をほざいておる。貴様らは島を諦めると言うただけで、島の名を言うておらんよなあ。それはつまり、如何様にも解釈できるよなぁ。最終的には反故にして島を強襲する腹なのじゃろうが。』

返答はない。

『ほはっ。やはりその腹積もりだったか。はあ。もうよい。これも見せしめとして、土産としようか。』

外し。

『なあ。』

動作は単純にして簡潔に終わる。

取り出したるは大戦時より遥かな過去に造られし物。遺物にして異物。

始点にして未だに支点。

『中試基《事に至る道のり》』

先程とは真逆にして範囲も小さく。世界への影響も微小なのだがそれはそれとして、筒に納められた状態で大きく振り抜く。

『借り名を《城前秘湯奏紅葉》』

力は脆弱にして矮小。

当たっても吹き飛ぶくらい。

まあ、規模は大きいのだが。

回避運動をしていたろうが無駄な事とした結果。

振り抜かれた力は、戦艦の側面に触れて三隻ともを眼前海域から吹き飛ばした。

勿論、その後どうなるかの保証はしない。

「ふいぃ。これで終わりですかね。何もなければ。なんですけど。」

仮面を外して荷物に落とす。

事が終わったことを示すように、空が光を灯していた。

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