二章~強襲~4
門を通ると視界に広がる予想外な町並み。
高い壁により見えずらかったのもあるが、思っていたより整然していて驚きを隠せないでいた。
僅かな汚れはあるものの小綺麗な建物。
一律に舗装された道。
規則正しく動く機械。
聴こえてくるのは足音。機械。風。衣擦れ。
あとは何もない。
早い時間としてもこの状況は些か異常としかいえないだろう。
「静かすぎませんか。」
そう、風が起こす音。機械が響かせる駆動音。自身が奏でる音。これらを除いても音というより。誰もいない。
息を。気配を。殺して潜んでいる。という可能性も無くはないだろう。
もしかしなくても、昨日聞いていた交渉とやらの準備が関係してあるのかな。
そう微かに明るくなってはいるが、洞窟で聞いたあの会話。
「なら、あの警報で一人も出てこなかった理由も解ります。ですが、除外したとしても一人も残さずというのは有り得ない。のですけど、それ程に重要なでしょうか。これは調べるしかないですね。」
適当な家屋へ近寄り、側耳をたててみる。
なんの反応も感覚もましてや、気配も一切がない。
本当に町に一人もいないようだ。
「何処にというと。まあ、港ですよね。大きな仕事とか言ってましたし。なら方針はふふふ。」
夜が支配する時間。
港では夜を徹しての作業が進められていた。
全員の表情は活気に満ちている。
この商談という交渉はこの先の明暗を分けるもの。
失敗は。
命の消失を。
意味する。
なので必死に綻びなく埋めるように動き続ける。
日付が変わり大方準備が終了する。
そして一つの事件が起きた。
夜明けまでには時間があり、暗く視界の一部を除いてだが、効かないある場所からその情報は届けられた。
「危急。第3倉庫から出火。原因不明だが直前に何かのカゲを捕捉した。捜査班は速やかに当該地区より百を目標に探索せよ。残りの物は消火にあたれ。」
一息つかず出火元へと移動する。
知らせからそれほどの時間を要してない。
そうした楽観が脆く崩壊させる。
怒号が飛び交い、指令が混乱し、現場はまさに、烏合混迷であった。
一人が現実を受け入れるためか、もしかして逃げるためなのかは誰にも知れないが。
「ど、どうしてこんなに燃え広がっている。」
集まった全ての目に写るものは燃え盛り、当該の倉庫以外にも延焼した両隣の8番倉庫と4番倉庫。時間的にみてもこれ程早く延焼したことに驚くしかなかった。
手の着けようがないほどに燃え、中の品を待避させることも出来なかった。
幹部が召集され情報の精査が行われていた。
「これで全部か。漏らしは無いな。どうだ。」
「へい。恙無く周辺の記録と内部記録をかき集め、作業班によって当該部分を多角的に調べさせました。皆様に見て頂いた通りです。」
「ああ。俺も同席したから不正はない。内通の線も消えている。なので、確実だ。」
「そうか。アニコ。アナタはどう思われる。一つ意見を聞かせてくれないか。」
「ほほほっ。そうだな。自分の情報網にある一つなのだが。面白い事があっての。それで懐かしくも恐ろしき情報が有ったのだよ。」
「恐ろしい。とは。」
「そうだな。ほい。この辺りを映してくれぬか。」
「へ、へい。」
指定された部分を映し出す。
「これはアニコ様の指示された箇所です。」
複数の視線が注がれる。
少しの静寂。
「お、少し戻してくれ。」
「へい。」
戻され再生される。
「停めてくれ。」
停める。
「アニコ。何か。我々には普通の暗い場所に明滅する外灯と茂みしか見えないが。」
「むむ。まだまだ若いの。これを先代が見たならば一発で見破るぞ。」
「ぐっ。で、何があるのですか。」
「それでは速度を落として観てみようか。」
じっとみる面々。
「判ったかの。」
「お手上げです。判らない。」
「俺もです。」
「あっしもでさあ。」
「ぐっ。判らない。」
苦悩する空気を一掃するものが入ってくると一発で指摘する。
「ここであろう。なあ。」
「ふはは。やはり先代。判っている。そうこの場所だ。」
示したのは外灯の直下。照らされた地面。
「少し見辛いかな。ほれ。」
まじまじと見続けて。
思い至る。
「そうか。でも親父。これは。」
「元から在った。そういいていなら。ほれ少し戻すぞ。」
戻して停める。
その地点には何もない。
「な。それで動かせば。」
何もない地点に僅かな陥没が出来上がる。
「で。アニコ。これが何かを知っているようだが。」
「ふむ。あれより進化しているやもしれないが、そうだな。この場の者達には知っていてもらおう。その経緯と名を。」
どよめきが沸き起こる。
消火終了後、一部を除き幾つかの班に分かれ捜索をしたが、結局確定的な証明を得られず時間だけが過ぎていった。
交渉日の朝が来た。
幸いな事に出火元と延焼した倉庫にはこれといった貴重な品はなく。損害も建物くらいかと。
そう皆は思い考えていた。
一人だけは違っていたが、時間も差し迫ってきており、事の詳細は事後にするつもりだった。
結論から言うとそれは叶わぬ願いだった。
燃え尽きた倉庫三棟を片付ける人員を割くこともできず、応急処置として一定の範囲を立ち入り禁止とした。
そして朝。港に全ての者達が集まり、凪の海を見ていた。
「おかしい、もう見えて良いはずだ。」
「時間まで少しある。がそれにしても陰すら見えないとは。」
「はっ。下に見られたものだ。遅れても問題ない。そういう事だろう。」
と数々の不安と不満と悪態がざわめきとなり、焦燥感を募らせる。
そして約束の時間に凪の海が荒れる。
動揺し避難しようとするが、何処からか歌が聞こえてくる。
それは心地よく、これまでの感情が無かったように消され、全身の力が抜けていく。
そして、歌が大きく聞こえてくると海面が競り上がり、現れたのは大きな鉄の塊。
色も何もない素材のままの色。
戦艦と対をなす海中潜艦機。
それが彼等の前に現れたものの正体であり、本来、この場に居てはならないものなのだが。
幹部を除いた者達には動揺が走り、その更に一部は腰を抜かしていた。
自然と笑いも。
海中潜艦機を契機として!次々と海中から同級かそれより下の級位が姿を現していく。
その数。
数十である。
総員にしても千は下らないだろう。
壮健たるこの光景をもしある種の者達が見たならば、確実に発狂する事間違いなし。
それほどの光景が目の前に。
その中の一機の上部が唸りを上げると人影が出てくる。
その者を認識すると先代が歩み出て一礼する。
「お待ちしておりました。この日この時この場での出会いに感謝を。」
顔を上げるも相手は降りてこない。
何故かを問う前に返ってきた。
『ふむ。やはりあまり宜しくないな。なればこそ。だ。しかし、それをしても無意という。なので、』
視線が眼下の者達から、背後の倉庫区画とさらに奥の居住区画へ。
そして先にある壁。
『それでは降りようか諸君。』
言葉を待っていたかのように次々と上部や側面が開いて岸へと橋が架けられる。
実はこの時、逆光で見えなかったが最初の一人は小さく笑っていた。この意味することが何なのか自身も周囲も判らない。
案内と護衛の意味をこめて総勢一五〇〇人もの交渉団体がこの島に上陸した。
大部分は居住区画とは別の区画へと案内されそこで滞在に際しての注意事項等を説明される。
「それでは最後に一言。申し上げる。」
視線が痛いというのを彼は理解していた。だがそれほど場数を踏んでいなくても、遣りきらなければならないのが任された責務である。
「初日の開始は夕刻であります。それまでは一部区画を除き自由に探索するもよし、眠るもよし。束縛は致しませんのでご自由にどうぞ。では。」
深々お辞儀し高台から降りる。
「ではごゆるりとお寛ぎください。」
静に聞いていた者達は自身の目的のために行動する。
同時刻。幹部級を招いての相談会という別口の仕事依頼である。
顔触れは、客陣からは。
船団総長。
副総長。
護衛隊長
世界貿易同盟盟主。
財団統括本局局長。
造船統括理事会会長。
情報統制管理委員会会長。
武器兵器運用監視情報院院長。
救済支援団体団長。
獣人保護部隊統括長。
有力者研究機関特別顧問。
歪曲研究機関上級研究室長。
対して旅団は。
先代。
当代。
次期頭領。
旅団相談役。
旅団幹部。
外套を目深に被る二人。
と少数。
最初は。
「ははっ。懐かしい面々だ。なあこれだけの顔触れはあの戦役以来か。なあ。」
「くくっ。本当にそうだよね」
「たしかにあれを生き残った者達がなあ。」
「今や其々が幹部級にまで上り詰めている。」
「で、こうやって顔を合わせたのは何かの因果かね。」
「さあ、偶然とうより必然か。」
「まあ、今日のこの時に我々は集まった。それでいいだろ。」
「そうだね。あの時から幾つの年を重ねても我々には昨日のように思い起こされる。」
「一種の呪いだな。もう。」
うん。なんだこれ。
集まって最初の会話が雑談とはなんなのだろう。
「ふははは。面白いな。相変わらずずれず。触れず。我を通すか。おのれらは。」
「ふふん。俺達も驚くしかない。まさかオウがこのような場に、なればあれも、居るのか。」
横に振る。
「そうか。では、積もる話は別の機会に。商談といこうか。この先の。」
こうして1日が過ぎていく。
のなら良いだろう。
一方。時間を朝方に戻す。
静寂な街。
「ああ、総動員させるとか言ってましたね。それならば好都合。では時間もありませんし、調べられる事は調べときましょ。」
これから遠慮なしに情報収集していく。
もちろん、悟られないようにだが。
さてさて何処から調べましょうか。何せ上手くすれば此方の手札が増えますからね。お、あれは。ふふん。面白そうな場所ですね。なら行きますか。
向かう場所は最も高く位置的にも間違いない場所。
見張り台。
その上部ではなく下の建物である堅牢な建物。
襲撃に際してのの一番に破壊されるであろ場所ゆえに、そして警戒の要であるため壁の厚さ。防衛機能はあの壁に劣るものの遜色無いものである。
侵入者は知らないが。
「お、鍵は閉まっていますか。でもこう言ったのは。ほら有った。ではでは失礼しますよ。」
内部は思ったより綺麗に整理されており、情報収集には余り的さなかった。
極力見える範囲だけで資料を見ていく。
ま、それでも限られてしまうので有益なものと欲しい物は見つからなかったのだが。
諦めて次へと向かう。
そんな事を繰り返しやっと有益な情報を見つけられた。
実際はこれ見よがしな汚さの一見に踏み入れようか迷うほどの家だったのだが、戸惑う時間も躊躇する余裕もない事態であるので諦めて、意を決して入って見つけた一つの資料。
それは交渉で出される品と、相手に関する全ての情報だった。
ほほう。これは面白いですね。この一覧表と目録は一種の対を成しています。そして。この交渉相手には小物から大物までいらっしゃる。ふふふふふ。ではではこれを元に組み立てましょうかねぇ。破壊という名の、崩壊を。
「なんて簡単に考えられたら面白くて助かりますけど。はあ。これは正直に言って、面倒になりますね。そう。普通なら。はは。これも組み込め。そういう事なのですかね。まったく、面白くない。」
資料を戻して建物を出ると。
二つの声が重なる。
一人はよろめくが一人は突然につき尻をついてしまう。
「うえ。な、なんだ。」
「ひあぅ。」
慌てて口を覆い相手を見る。
驚きと困惑の視線を向けてくる。
そしてそこからの行動は速く、起き上がりに相手の腕を掴み、引き込みと同時に扉を閉める。
大きく響かせる扉。
不審に思った者が声をかける。
それに対して耳元で指示して喋らせる。
これに何の疑問も持たない外の者は遠ざかる。
「はあ、助かりました。」
「くはっ、何者だ。まさかあれの犯人か」
「何を言っているのか知りませんけど、今、貴方の全てを握っているのは此方です。下手に行動を間違えれば、その先はないと考えてください。」
言葉に含まれる本気の雰囲気を察して口をつぐむ。
「ありがと。早速だけど質問に答えてくれますか。もし、素直に答えてくれたなら危害も危険もありませんから。」
縦に振る。
「それではこれに関連しての質問です。目録は正確ですか。」
「あ、ああ。何度か仕事で現物を見たことがある。その時と違いがなければ、だけど間違いはない。」
「そうですか。では、此方の一覧表の方々は本当ですか。」
「こ、これには知らない部分もあるが、それでも何人かは居た。」
「ほう。かも。でなく。居た。ですか。」
「ああ。さっき案内した中に居たからな。確かだ。」
「そうですか。で最後に。」
指し示した部分に関しての質問には首を振る。
これには反論はしない。
「では次で」
「まて、まて」
「なんですか。」
「質問は全て答えたろう。最後とも。」
「それはこの資料に関しての最後です。」
「んな。話が。」
「と。危ない。」
喚き散らされる前に口を塞ぐ。
「話は最後まで聞いてください。なに。素直に答えてくれたので本当に危害は加えませんよ。それを犯したら普通に道外れですしね。解りましたか。」
指に込める。
震えているが納得したのか縦に振る。
「では改めて。此処から。正確にはないですけど、その扉とは別の脱出は有りますか。」
「え、ある。が。まさか簡単に逃げられると。」
「思いませんし、考えてませんし、それほど僕は傲慢ではありませんよ。なので足掻いてどうにかしますよ。さて、教えてくれますか。」
「ふ、ふん。そうか。なら後ろの棚を動かして。その壁と床の二つの道がある。好きにしろ。」
「ふううん。そうですか、でもそれをするには少々処か時間をくってしまいます。なので、掃除をしますから、貴方が動かしてください。もちろん。拒否権はありませんから。」
もっと抗うかと考えていたが、素直に従い、掃除を見守る。
物の置場所の指示はしていくが。
ものの短時間で掃除を終わらせ、目的の棚を動かすとたしかに、壁と床に筋が入っている。
これが二つの道。
「壁は外。床は地下。と言うことですか。単純に考えるならですが。さて開けてくれますか。」
「な、」
「何故かを問うより速くしてくれますか。時間が惜しいので。」
語気が強めに出ていたのを自覚していたので抑えない。
「ふん。俺が素直に。」
「あれ。良いんですよ。このまま表に出て暴れても。そうなれば交渉という仕事は破断となり、結果この島は時間もかからず世界から消滅するでしょう。脅しでなく、確実に。」
「ふ、ふん。今俺が。」
「吠えるより速く貴方は世界に別れを告げられず終わります。ねえ。速くしてくれますか。この喋りも無駄なんですよ。それとも、表に待機させている者達が完了するまでの時間を稼いでいるのですか。」
「うかくっ。」
「はあ、解りましたなら。後悔してください。」
問答を諦めて。
引き込み、片付けた物の中で大きな物を蹴飛ばす。
そして壁に打ち当てる。
「がひゅっ。」
「さてこの壁は見たところ堅くて丈夫。簡単には破壊できないでしょうね。だから余裕も見えていた。でも有り体には外部からの破壊できませんが、一拍置いて内部からなら。」
「な、にを。」
「危害を加えないと言いましたが撤回します。まあ、命の危険は無いですよ。長い時間眠りますが。ね。」
背に軽く触れると円を描き全身の力を集約し解放する。
「ぶ、ぶぶぶぶひゅ。」
直接壁に当てれば建物そのものを破壊しかねず、間に何かを置くことで緩和させる。
そして伝わる衝撃は内部へ伝わり、振動を伴って砂塵となる。
緩衝材としていた者は壁の向こう側に倒れる。
「ほほう。外に出るのではないのですね。では失礼して。」
「が。がふっ。ふざ。」
「お、頑丈ですね。意識を保ってますか。では最後にもう一度。ですよ。」
「ひっ、や、やめ。」
宙に円を描き手刀を背に叩き込む。
「ごぼはあっ。」
一点に集中した力は肉体を透過し、床を剥がし突き抜ける。
「お、おお。と。」
階段を落ちると先の方に僅かな光が漏れ見えていた。
「ご苦労様です。さて。あちらもそろそろ破られるでしょう。先程から五月蝿いですし、ね。では、さようなら二度と会いませんように。」
と。一歩を踏み出して反転する。
「そうでした、一つ、忘れてました。では。」
手を振り上げ掻ききるように頭部を凪ぎ払う。
風が舞い上がり、声が反響する。
暗闇に倒れる者と、見ている者。
「では今度こそ、さようなら。」
その場を後にする。
乾いた音が地下に響く。
残された者は。
赤に染まっておらず、その表情は読み取れない。
夕刻。
開催の時間である。
隔離された島であってもその会場の警備は物々しく、厳重に監視されている。
幾つかに分かれた入り口から幾重にも確認作業が行われる。
入り口からの確認が全て終わると、始めに広間へ通される。
その広さは軽く千人は収用可能。
確認が終わった客人は至る場所で雑談に興じている。
もし、ある筋の者達が見たなら戦々恐々か。狂喜乱舞か。
とかくも、そうして広間にはこの日を待ちわびた客人達で賑わっていた。
広間の奥には上下階へと続く通路があり、確認終了と同時に配られたその辺りにある枝を渡されるのだが、これは一種の籤となっており、ある場所に自生する選定キノコ、と呼ばれる固有種に近づけると枝に席番号が浮き上がる仕組みなのだが、その原理を誰かは知っているが知らない。
キノコに近づけ浮かび上がる番号に一喜一憂し、客人全てが席に着いた。
定時を少し過ぎた時間に交渉は開始された。
初め賑やか、照明が落ちると鳴りやみ、舞台に照明が照らされると息一つしていないかのように、静まる会場。
袖から一人が現れる。
司会台に設置された拡声器の電源を入れる。
そして細かく息をして。
意を決するように言葉を紡ぎ出す。
「ようこそお出で下さいました。紳士淑女の皆様。そして次期を確約された皆様。」
一拍と一礼。
「さてこの時より始まりますこの〈交渉〉は、世界全ての物理的ないしは物質的な品が数多に出品されます。
事前に通知し、配布しました追加を含めた資料を元に今回の〈交渉〉を進めさせていただきます。そしてこれ程のご参加を。誠に恐縮でございます。
さて、幾つかの注意事項をご説明しまして、主賓の挨拶。そして〈交渉〉の開始とさせていただきます。では短くも長い至福の狂乱をお楽しみ下さいますよう心よりお頼みいたします。では。」
袖にはけると次に現れたのは。
外套を纏い、仮面を着けた二人。
注意事項から手続きと発送。それら諸々の説明をして同じようにはけていく。
次に現れたのは。
黒のドレス。その縁には赤が配され色の対比がその者の存在を際立たせている。
『ようこそ皆様。今回の〈交渉〉を主賓するクラカスとでもお呼びください。そうですね。長くつまらない話は時を無駄にします。一言申し上げるならば。この出会いが皆々様の糧にならんことを。ではこれにて。』
舞台からはけていく。
照明が落とされ、舞台が慌ただしい。
次に照らされると先程の者が壇上に上がっていた。
「それではこれより最初の〈交渉〉を始めさせていただきます。初日の一番手は此方です。」
運び出されたのは、台車に乗せられた品物。
客席から見えやすいように斜め掛けされていた。
が、瞬間にどよめく会場。
「お気づきの方々は目が肥えてらっしゃる。一応の簡単な説明をさせていただきたく。
これは先の戦争時にて開発された情報伝達装置の一部です。名を『インテギュース』と申します。それの記憶保存の部分と判明してます。さて、先ずは百からと行きますか。」
「500」
「1000」
「5000」
「5001」
「7000と900」
「9700」
「194000000」
ざわめいた。
「さあ、ないか。ないか。」
叩きつける。
「では、そちらの、275の方が194000000で落札。」
「まさか初日の初品がいきなりの億超えとは予想外。では手続きは後程にして。次へと行きましょう。」
二つ目は大きな物を運び出してくる。
布に隠されて。
「さて本日二品目は此方です。」
静に捲られる布。
数名が短く声を挙げる。
「昔の絵画。題名は『意思と意志』です。おや、何を怯えてますかね。」
何人かの顔色が明らかに悪い。
「医療を施してさしあげなさい。」
この言葉で警備が入り、連れていく。
「では100から始めます。」
何事も無かったように進行する。
「済まないが、140000000で。対抗するなら倍50としても宜しいが。」
沈黙が解。
「では、444番が落札。」
どよめきない。
「手続きは後程です。」
そしてその日は粛々と進行していった。
翌日。一つの騒動というより彼等や彼女らにとっては由々しき事態。
島の者にとっては不可侵とした上で、報告に上げられた異変は激震しかなく。
それは定期報告で上げられる一つ。
調査名目での。
外側からのだが。
監視報告に不可解な記述があった。
そう。それ。まさに。激震。
上層部だけでなく、下部の者達が狼狽するには十分。
その日の報告書ではこれが議題となり、二日目開始まで縺れに縺れた。
そんな状況での〈交渉〉が開始された。
「今日もお集まり有り難うございます。さて、二日目の今宵は昨日と違い、生物を中心に出品させて戴きたく。では、一番目の登場です。」
運び出された台には透明の箱。
その中には一つの丸い物体から多方向に伸縮する長い生物。
眠っているのだろう。動かない。
「ええ。では、1000から。」
「7500」
「7501」
「7502」
「7503」
「7504」
「7550」
「8000」
響くことはないが。何かを楽しんでいる空気がある。
さて、これを長々としていてもつまらないので、結果をいうと。
「それでは100020000で651が落札されました。」
と億超えで決着したのだった。
その次の品は出る前より騒がしく。
主たる一つである。
「さて、二品目ですが、実物は何分危険でして、映像での御披露目とさせて頂きます。そうですね。不審と思われるならば係同伴で確認してくだされば幸いです。では、挙手で。」
最後まで言うより早く、場の多数が手を上げる。
「そうですか。では、別室へご案内しますので、係の者には従ってください。さもなくば、命の保証はできかねます。では、どうぞ。」
数名の案内人を先頭にして部屋を出ていく。
残されたのは。いや、残ったのは片手で十分な人数。
「それでは戻られるまで暫しの談笑を楽しんでください。もちろん、区画の外へは禁止しますが。」
残った数名の顔触れもまた本来ならあり得ない。
戻ってきたのは余りに速く。そして人数が減少していた。主に次期である。
「これは申し訳ない。一応の処置として反射を持たせていましたが、思った以上に強力過ぎたようです。万全とは行きませんが、手を尽くす限りはさせてもらいます。では、再開としましょうか。」
映されるのは硝子の容器の中に、黒い鎖で厳重に封印され、さらにその周囲にも注連縄による厳重な封印が施された。一振りの刀。
が映像にも関わらず、体調不良者が続出。中には幻覚を発症している者までいた。
「おや、映像だけで影響とは。仕方ない。」
指示して不良となった者を連れていく。
「さて、もう体調不良者はいらっしゃらないと思います。が、一応の対応としますので。暫しお待ちを。」
「その必要はない。進めてくれないか。」
発言元に全員の視線が集まる。
「理由をお聞きしても。」
「なに。この様な事態は範疇の内にと皆が思っている。それに時間を推してはあなた方にも失礼でしょう。」
本来ならこの時に反論の一つもしてよかった。のだが、確かに時間も推しているというのは事実だし、先には幾つもの品がある。全てを捌き切れなければ利益もない。
だからといってこのままというのも嫌な感じがしているのも事実。
ではどうしたのか。
「良かろうて。実際問題、時間もない。先に進めなさい。」という一言で〈交渉〉は再開された。
「では、改めて。この1つに関しては詳細を語る必要は無用と存じます。なので、名と歴々を。」
《極天分岐》
その能力は選別と進化への選択権。
有るものは祝福と言い。
あるものは呪いという。
これはどちらも正解で、どちらも不正解とも云われているが。真偽は定かでない。
歴代の所有者は皆が大きな力に溺れ、自滅していった。ともある。
その中でも戦時中の大将が最も有名で自身の力の増大に馴れず、悲惨な最後を遂げた。
前所有者はどこぞの曰く有りげな集団の幹部だとか。
「と以上が簡略ですがこの極天分岐の概略です。さて1から始めましょう。」
「なら50000000で」
「他は無いですか。」
沈黙が解。
「では50000000で落札されました。」
誰も反論しない。元から張り合う品ではない。有ったとしても遊びくらいしかない。
映像が消され、画面は次を映す。
「では次の品です。こちらは先の戦争で回収された物です。詳細は判りかねますが、重要な部品だという結果は保証します。」
見た所、それは戦争の悲惨さを表しているように、形は歪にして不快にさせるには不足しているが、そう言われて何も感じない者などこの場に誰一人としていない。
《戦乱虚雑の核式》
設計意図から製造方法と関連する全てが謎に包まれた対戦期に一度だけ使用された亟滅武器。
とされる。
「皆々様の中にはご存じの方々もいらっしゃるだろうと思われますが、そうですね。有名な〈局地の日縮〉は誰でも知るところ。当時の上位様の中でも示すための。そして静めるための犠牲を払いました。」
空気が冷めていく。
「中でも上位のそして当時の中心人物の犠牲は世界を駆け巡り、組織の再編へと移行しました。では、雑談はこの辺で。始めましょうか。」
冷めた空気が。
「では100000000から。」
一気に額が跳ね上がる。
最終的な落札額は。
属島の建設費用を全て合わせても届かない額で締め括られた。
この出来事は後には伝播されないが各々の記憶に刻まれた。
それはその後から数品目での品が更なる衝撃を与えるに十分だったからである。
「では本日最後となりました。此方です。」
布に覆われた大きな品。
隙間から僅かに覗く鉄の檻。
だが、その色は常識的な色。ではなく。どこまでも深く見るものを沈めるような青。
「さて此方がその品です。」
布を引くと、現れるのは細い糸のような物に縛られた生物。
と形容しがたいおぞましき動かぬモノ。
いや微かに腹が律動している。
生物としての成り立ちとか定義など無視すら当然というそれは確かにその場に居た、老いも若きも。自我も無我も。有や無であっても。
全てが平等に。
怒りを現した。
現したとして行動に直結させる事は自尊心をも否定するに等しく、しかしながら数人が押さえられず壇上に迫る。
警備が抑えたがその憤怒は収まらず、仕方無しに薬効を打ち込み静めた。
「ご静粛に。」
硬い音が響き。
「慌てないでもらいたい。あなた方の器の底が知れますよ。」
担架を用意し、静めた者達を部屋から運び出す。
主は付いていかず。側近や近しい者達が一緒に出ていく。
「さて、これが何かをご存知でしょう。なにせ古代の代物ですから。では、始めましょうか。」
落札した者は無名の男女。
見たところ夫婦のようだが、何かを感じてもいた。
だが、その事を報告することなく忙殺されていく。
「それでは明日が最終日となります。今回の目玉であり。皆さま方が待ちわびた事と思います。では明日。お会いしましょう。」
お辞儀して袖へと。
この日に倒れた犠牲者は数百。
その大多数は次期。
次いで齢を重ねし。
少数ではあるが現役も数名。
患者はこれを境に数日から長くとも一月はさ迷う事になる。
幸いか。それとも別の言い方をするならば。
そうそのままに命を亡くしてしまえていたなら。それこそが。
翌日。空はまだまだ暗く。不可解な事に街灯数十本が消えている。
完全に無音状態。
そこに複数の存在が姿を現した。
外套を纏い、顔は個性的な仮面を着けている。
闇の中でも理解しているのか、視線を合わせ、小さく全員が頷くと背後から小さな音がする。
咄嗟に身構え警戒すると、白い外套をした影がいた。
手で制すると此方は仮面でなく、両面部分だけを隠していた。
軽く手を振り、全員に指示を出す。
取り出した物に表示されている内容を読み終え、そして全員から深く溜め息が漏れだした。
白い外套は小さく。嫌な笑いをすると、頷いて。これを合図に白い外套以外が姿を消した。
見上げる空は暗く濁っているように見える。
軽く息をする。
口を開くが、音としては紡がず、動かすだけ。
終わると肩を落として闇夜に徒歩で消えていった。
時間は早朝に近く。だが、光が差すには少々早い時間。
しかして止められる事はなく。
無情にして非情に進んでいく。
早朝。見学する者達が見ている前で組上がっていく舞台。
その速さに驚くと同時に正確さには感心している。
「ねぇ。これは何。」
答えるのは誰であろう。近くに居た者の中で同じように見ていた一人が答える。
「送迎とこれからを祈っての。まあ、軽い祭りのため。かな。」
まともな答えに興味が無くなったのか、新たな何かを探すように何処かへと走っていった。
笑みを携えながら見送り、答えた者も何処かへ姿を眩ました。
その日は数々の拠点で客と商談をしていた。
開始直前まで。
開始前。それは一つの騒動が起こった。
大切な商品を紛失したが、大事になる前に犯人は見つかった。
それが。
「こ、子供。」
その犯人である子供は、商品の一つを大事に抱えていたのだ。
通常なら無理にでも子供を抑えつけ商品を確保するのだが、相手が相手であり手出しが憚られた。
これを見越していたのか。子供は不敵に笑みをこぼし、涙を流さず胸を張る。
「ふふ。僕に危害を加えたならお前達は全員殺されるね。それも有ること無いこと含めて。」
躊躇した。例外はあるだろうが大多数が、誰もが自分が一番目として動く。
そうして子供は商品を懐に仕舞わず、優越感に浸りながらその場を後にした。
残ったのはやるせない気持ちと、無力感。
実はこの日以外にも同じ事例が報告されていたのだが、相手がこれから先のお得意様。
それもその次期を約束されたようなものであるから、表には出なかった。のだが。
最終日。
皆は限界だった。
手を出せないとはいえ、大切な商品を強奪し、尚且つ謝罪もなく。上げた報告も無視に等しく処理された。
これでは組織が立ち行かなくなることは必定。
祭りの設営と準備に追われ、さらには子供のお守りまでやらされた者達は怒りを通り越していた。
「さて最終日となりました。実は、開催に際して一つ、皆さま方にご報告をしなければなりません。先ずは此方をお見せしましょう。」
運ばれた大きさの異なる品々。
それは前日までに倉庫へと集められた交渉の品として収蔵されていたのだ。
理由は云わずもがな。
「こちらの品々は、とある理由から紛失物届けとして、此方で処理したのですが。」
「実は朝早くかに上層部の部屋に届けられていたのです。これの。」
「僕達の物を勝手に売りさばくなんて酷いな。これは世界を敵に回したよ。」
会場の視線は発信場所に向けられる。
その場には複数の子供達。
全員が負傷していた。
「これを見てほしいんだけど」
全員が自分の端末を向ける。
そこには一つの動画。
「これは僕達が襲われて奪われた証拠だよ。」
舞台へと客達の間を意気揚々と向かう。
壇上に上がると機器を強奪に近い形で引き寄せ、端末に繋げる。
「先ずは僕からだね。」
勝ち誇るように操作する。
映されるは何処かの茂み。
子供と複数の大人達。
風は強いのか葉が揺れている。声だけは確かに聞こえる。
『糞ガキ。それを寄越せ。抵抗するなら判ってるよな。』
『う、うるさい。ぼ、僕に何かすれば。』
『うるせい。寄越しな。』
と、あとは暴力の嵐。
異常な光景は途中だと思われるが、切られた。
「これが僕が受けた経緯と傷の理由です。」
「次は俺だね。」
同じようにする。
映されたのは港の倉庫内の一画。
同じような光景だが一つ違うのは撮影者がいることか。
『へっ。思ったより良いものを持ってるな。おらっ。死にたくなかったらそれを素直に渡せ。さもなくば、解ってるな。』
『お、俺は屈しないぞ。どんな事をされても。』
『もう少し聞き分けが良いと考えていたが、はっ甘やかされて思考は停止か。なら世の中を教えてやるよ。』
と暴力を奮う。
「お、同じように私も抵抗虚しく、奪われた。」
三人目。
用意された室内だと思われる。
『はっ。さあ、それを、渡しなよ。そうすればこれを口外しないと誓ってやるよ。』
何かの記録媒体を見せびらかしている。
『わ、判っているのか。わ、私に危害を。あぶっ。』
言葉の途中で側面を蹴り抜かれた。
『答えは肯定か否定だ。それ以外は今の通りだ。』
踞り赤を吐き出す。
『さあ答えは。』
『ひ、否定だ。』
『ふう。そうかいなら世の厳しさを教えてやろう。』
暴力をもった支配。
四人目。
三人より明らかに酷いと思われる容姿をしていた。
ほかの子供に手伝わせ操作する。
映し出されるは境界とされる森の中。
そこでは逃げ惑う子供を撮影し、楽しむ光景が映し出されていた。
『ほらほらちゃんと逃げないと捕まるぞ。』
『ふふふ。素直に渡していれぱよいものを。無駄な見栄をはるからそうなる。これを教訓に世の渡り方を勉強するんだな。』
躓き倒れると背後から無数の不可解な獣めいた何かが襲いかかり、子供が悲鳴を上げる。
それを見て笑う声。助ける気は無いのだろう。片腕を引き千切られ、絶叫する場面で終わった。
「これが僕達が受けた屈辱だ。」
さあ、これの。という言葉を遮るように笑いが響く。
「な、何を笑っているのかなあ。もしかして学がないから、理解できないのかな。」
「い、いやいや。本当に面白い。ここまで用意周到とは恐れ入る。くくくっ。本当に我々を嵌め殺すつもりなのだとこれで理解した。そうですね。次期様方。実はそれらの映像が無力にして虚言という事を証明できるのですが、反論しますか。その上で。ですが。」
驚く子供達。
客の中にも同様に。数人が。
「では、全てを破壊しましょうか。文字通り。にね。」
機器を取り返し、操作する。
「ええ。皆さま大変失礼いたしました。これより、其処の次期様方の証言を覆す証明を全てお見せしましょう。もちろん、上位様がたにも検閲してもらい、証明しました。今から皆々様に御覧いただく映像は嘘偽りなく本物だと宣言いたします。ではご覧下さい。」
一人目と同じ場所。茂みの中での事。
近いこともあるが。それは上手く拾えてない。
確かに数人が囲んでいるが、その言葉は違っていた。
『すいま・んね。そ・は大事な品・して。返して・れませんか。』
『い・だ。これは僕・だ。そ・に証拠・あるのか。』
『あり・すよ。ちゃ・と。』
子供の表情が豹変する。
『ふ・ん。で・さ。僕が父様・言った・。お前・ちはどうなる・な。』
黙る大人達。
『さて。道を空けてほ・いな。も・ろん奪っ・ら色々と言う。』
一人が脇に寄り、それにつられて他も同じように空けたのだ。
『あり・とう。これも勉強だよ。』
大笑いしながら茂みから出ていく。
残された大人達は連絡している場面で画面は切れた。
静寂。
当の子供はいまだにふんぞり返っている。
「へえ。凄いね合成か。良くこれが反論材料だと言えるね。」
小さく笑う。
「さて、続きまして、此方をご覧下さい。」
二人目。港の倉庫の影。別角度と解る。
壁が震える音が反響している。
『それを返してくれませんか。さもないとあっしらが頭や若に殺される。さあ、』
『ふうん。これそんなに大事なんだ。でもさあ。手を出したら解ってるよね。』
『ええ。ですからこうやってお願いに来たんでさあ』
『お願い、ね。でもさあんたら全然誠意が見えないけど。』
歯を食い縛り、地面に頭を着ける。
『あははははっ。素直だなあ。でも残念。これは気に入ったから貰っておくよ。ふふん。もし何かしたら損をするのはお前たちだよ。』
悠々と出ていく。それも大人を踏みつけにして。
「はは。良く撮れてるね。でも証明にはならない。」
「では次です。ね。」
三人目。室内だが今度は両方を収める形の映像である。
振動音が聴こえている。
『お嬢さ・。これは本当で・か。』
『うん。本当だよ。もしお・さんたちが言うことを聞いてく・たらこれを返してあ・る。」
机には品が置かれてある。
『なに簡単なの・。これを私・物としてそれも初めから。そう報告して・しいの。』
『ほうっ。で俺達に何がある。』
『簡単。証拠は用・するから何も言わ・・で。トガが及ぶことはないよ・に計らってあげる。』
『頭が痛い。それが罷・通ると思っているのか・お嬢さん。もう少し。』
『そう・んだ自分達の愚か・を悔いなさい。』
品を持って部屋を出ていく。
『ど、どう・ます。このまま・・。』
『仕方ねえ。一応報告に入・ておけ。判断は上がし・くれるだろう。』
切れる。
「ふん。何かと思えばこれが証明とは面白いわね。」
四人目は確かに森であったが。
そこには。真逆の映像が撮されていた。
『あははははっ。ほらほら早か逃げないと追い付かれて終わるよ、ほら僕を楽しませるんだろ。』
あの映像と同じようだが一つ違うのはあの不可解な存在が居ないこと。それに何よりもその凶器じみた子供らしからぬ表情は戦慄すら覚える。
映像が切れる。それはくしくも、1人が倒れ、恐怖に戦く場面で終わった。
「はは。僕もあるよ。」
驚きを隠せない司会進行役。
「さあ見てみてよ。」
それは数時間前の映像である。
同じようなものだが、最後の映像には最も手を出してはならない子供と。取り囲む大人。
最初は交渉していたが、語気が強くなり画面が乱れ治ると子供の持っていた品が大人の一人が所持していた。
画面が映すのは、あられもない。無残な子供の姿。
それも。
「目撃した人がいるんですよ。ねえ。」
向けられた場所には一人の従業員。
「ええ。私は見ました。警備担当の隊長含めた部下が子供をおっかない顔で連れていくのを。心配に成ったもんで着いていったら。その、映像の様に。」
『その言葉に命を賭けられますか。』
「ええ。へい。賭けられます。」
口角を上げて笑う。
子供達と司会者は驚いていた。
「では、これを偽物と言う証明をしてくれますか。ねえ。もし出来ないなら。虚言と恐喝でふふん。どうなるか楽しみだ。」
子供達は笑っている。
そう用意されている反論の映像は4つ。五つ目はない。
歯を噛み締める者。
悔し涙を浮かべる者。全身から表現のしようがない何かを表す者。
勝ち誇るように笑う子供達。そしてそれに連なる客も然り。
照明の光量が少し落とされると。
勝手に映像が映された。
そこにはあの出来事が映っていた。
そうあの場での出来事を子供が出ていった後も周囲を撮すように。
本当に驚いたのは。さて。誰だろうか。
その後は早く。
この子供達による強奪虚言事件は、旅団を貶めるためのものだったと後に語られる。
この事で誰もが疑心暗鬼に陥る手前になっていた。
さてその翌日。本当の事件は。
いや、これは処理の前準備のようなもの。
なぜならばあの最終日に一つの決着が引き金となっていたのだから。
犯人と確定した子供やそれを指示した者達を拘束し、最終日の〈交渉〉は開始された。
それは前日までが霞むような巨額が動く光景だった。
そしてその場全てが待ち望んだ瞬間が訪れた。
「ええ。では最終日。最終品でごさいます。数が数なもなので一気にお見せしたいと思いますが、この中でも最上級の品をご覧下さい。」
固唾を飲み込む客の前に運ばれた物は。
大きな台車個々に乗せられ、大きな布で覆われたシナ。
縁が短く、生足が見える。
一気に沸き立つ会場。
「さあっ、それではお待ちかね。今〈交渉〉の大大大目玉。今、世界を騒がせている謎の集団とその頭を4日前に捕獲しました。これにより皆さま方におかれましては待ちに待った瞬間と思います。そして無駄を嫌う主賓の意向により直ぐにお披露目と致します。では。」
布を掴み、引き抜く。
歓声が会場を包み覆う。
はずだろう。
歓声は瞬時に止み、代わりに、怒りと悲鳴が吹き荒れる。
それもそのはず。
何せ。
本来なら意識意外は動かないように施され。1日一回の点検を除けば厳重管理の下に倉庫へと簡単には出られないように施された場所へと締まっていたはずだろうと。
そしてそのような時間も無いはずだと。誰もが考える。
その足首より上の方が本当の人形と化していたのだ。
硬いものが転がり。打つかり、そして破裂する。
全てが悲鳴へと変えられた。
惑う会場を嘲笑うかのように幼さを残すような機械的な少年の声が響いた。
「お待たせしました。今宵最後の宴と言う。そう殺戮なんてのは生温い。本当に忘れられない苦痛と苦悶と恐怖を添えて最後に恐慌で仕上げましょう。」
何か楽しそうだ。
「皆々様。初めまして。我々は交渉人であふ。」
「あ、噛んだ。」
「これから面白い事が起こりますが、先に述べるなら。皆々様はこれよりもう。楽しむことは一切無いと理解してください。では始めますか。」
布がはためく音を伴わせ落ち、現れ、入ってくる集団。
悲鳴より先に動いたのは客の一人。
外の一人に襲いかかり、地面に押さえつける。
「は、ははは。なんだ思ったより弱いな。」
これを見ていた他の客も同じように近くの外套を襲い、床に倒す。
現れて直後に集団は捕らえられ会場の中央に集められた。
「ふははは。さてどんな顔をしているのかな。」
近づき一人をはだける。
同時間。
会場より小さな部屋で頭を小突き合わせる面々。
最終日まで縺れた商談会議はこの時間までなに一つ進展しなかった。
腕を組み、指で叩く。
唸りながら端末と睨み合う。
俯き目を閉じて寝息をたてている。
背もたれに体を預け意味もなく天井を見る。
用意された飲み物を飲み干してはついで飲み干す。
席を離れて何処かへと連絡して何事かを指示している。
重い空気を楽しむように鼻唄を。
破るは外からの来訪者。
「し、失礼します。」
「何事か。会議中だぞ。」
「い、いえ、その。」
「大変な事でも。」
「は、はい。会場が。」
「なんだい。いちゃもんでもつけたのかな。」
「い、いえ。滞りなく進んでいたのですが。その」
「要領を得んな。」
「取り敢えずお越し下さい。我々では収集が着きません。」
「よしっ。ほら速く行こう。」
寝ていたのにいつの間にか部屋の外に軽い動きでいた。
「煮詰まっていたので気分転換を兼ねて行きますか。」
方々の呈で会場へ向かい、開けられた扉の向こうでは人の醜さが表れていた。
悲惨な光景の一言に尽きる。
子が親を。
親が子を。
師匠が弟子を。
弟子が師匠を。
先生が生徒を。
生徒が先生を。
上司が部下を。
部下が上司を。
殴り。蹴り飛ばし。体当たり。
悲鳴。嗚咽。罵り。絶叫。
等々。暴動が繰り広げられていた。
「これは一体。」
「は、はい。そのですね。何か硬いものが当たったような音がしたかと思うと、いきなり襲いかかってこられ、気がつけば一人残らずこの有り様です。」
「そうか。君は大丈夫なのかい。」
「はい。なんとも」
「そうか。では早々に収拾させるか。後々が面倒だしな。」
怠そうにしていたのにその手際は慣れたもので、瞬く間に暴れていた会場の全てを拘束し沈黙させた。
「ふいぃ。思ったより苦労したな。」
「ええ。これ程とは。しかし、これは思っていた以上に深刻かもしれませんね。」
「というと。」
「見てください。完全とはいきませんが、ここ数年で問題になっている。あの症状に酷似してます。」
「それって。アレ。か。」
「まあ話の内容では発祥原因が違うのですが。さて。」
「ふあぶふっ。」
「貴方は呑気ですね。」
「ふえ。あ、終わったんですか。では救護室に運んでいきますね。治療しないと。と。何か。」
進路を塞ぐように囲まれる。
「質問。なに簡単だ。この状況で一人だけ逃げられた。そうだね。」
「ええ。」
「では全員が落ちていくなかで君だけがなんの影響も受けていなかった。そう解釈できるが。」
「は、はえ。まあ、そうなりますね。不思議です。」
誰かが笑った。これが引き金。
全身に走る気持ち悪さに従い腰を落とし頭上で交差させる。
直後に腕を痺れさせる衝撃に床が沈む。
「はは。直伝衝撃の死滅を受け流すとは。」
「へえ。じゃあこれはどうかな。と。」
無防備な横からの薙ぎ払いの一撃に痺れる片腕で止めるがその衝撃に耐えられなかったのか。皮膚が裂け、筋繊維が切れ骨が砕ける音が響く。
濁る声を殺す。
「うわ。本当かよ。半分でも吹き飛ぶはずだぞ。」
「では最後です。」
「待てえい。勝手に進めるでない。」
「どうしてだいオウ。これは明らかに犯人だろう。ならある程度動けなくしてから尋問した方が効率良い。止めないでほしいな。」
「それは俺達の言葉だ。この島での出来事は島の流儀で終わらせるのが筋だろう。」
「まあ、そうだね。反論はできるが無意味だし。さて、どうぞ。」
旅団相談役が一歩出る。
「聞きたいことは数多だがこれだけは聞いておこう。」
「いてて。何か。」
「お主は誰だ。この島の者ではなかろう。」
手を伸ばして髪を掴み剥がす。
投げ捨てられた髪の着いた皮膚を投げ捨て相手に視線を向ける。
「ぬがっ。」
「なっ。」
「いや、無いだろ。」
「ふざけるな。」
「おいおいおい。」
「な、んで」
「どういう、事だ。」
「動ける、のか。」
「あり得ない。絶対に。」
と言っていることは似たり寄ったりだが、言ってしまえば。
驚愕しているのだ。
全てがその少年を見て戦慄した。
数人は動ける事とそれ以上の事。
数人はその忘れもしない。忘れられないその顔を。
これが予想より遥かに効果あり、隠れていた者達が一気に死角から取り押さえる。
「さてとりあえずは守備よく行きました。で、これからどうするの。」
「それより先に報告を。」
「そうだな。だが良いのか。傷の手当てが先だろう。」
「気にしないで下しい。ほら。」
潰れた腕が治っていく。
「へえ。凄い。でも聞かれては」
「ああ、その辺は大丈夫です。どちらかと言えば聞いてもらった方が効率がいいですから。」
「そうか。なら報告。」
やはりと云うべきが。あれらは元から込みで展開していた。何分、排除に時間が無かったので漏らしは否めないが、吐かせた情報では処分対処として此方には何の価値もないと言われた。
それと付け加えるならですけど、あれだけの規模を集結させる事は生半可ではないわね。通常使用では確実に切り抜けるのは困難よ。
さらに有益かは判断しかねるが、捕らえた一人が交渉として一人を差し出せばそれ以外に関知しないと。その一人とは。
吐き出したい息を呑み込み、冷静な思考に不思議と思わず集まった全員に指示を出す。
「最後に。無理と思ったら迷わず逃げに撤してください。それではお願いします。」
深々としたお辞儀をして全員が散っていく。
見届けて。二人は残り。
「さてこれで理解しましたか皆さん。」
動揺を隠せない。
「いえいえ、心中察します。ですがこれが世の常。嫌われ者はいずれ排除されるもの。それでも生きたいのなら、どうします。命の保証は出来ませんけど、まあ何とかしますよ。最後には。」
振るえている。
「お、何か言いたげですね。どうぞ。」
「・・して」
「いや、それを言われても。」
「ぐっ。空気の読まないその言い方。やはり、お前かああぁ。」
傾げるしかない。
何を言っているのだろうか。と。表情に敢えて出してみる。
反応は直ぐに返ってくる。
「貴様は。」
「おっと。それは言わぬがなんとやら。それに議論を交えている場合では無さそうです。ねえ。少年。もし君達の言葉が真なら我々は処分されるために派遣された。そう捉えても。」
「ええ。そうですね。疑うなら証明をしますが。」
「いや正直なところ、我々も薄々は感じていた。そうか。なら脱出には手を貸そう。」
「いえ要りません。」
「は。いやいやいや。何を。」
「もう組み立てているので、割り込みをされても瓦解しかありません。なので大人しく見ていてください。勿論逃げても追いませんし、何処で貴殿方が命を失おうと僕には関係ないですから。では。」
「それ、だけか。我々に対して言うことはそれだけかあああ。」
喚く護衛部隊。それと島の統治者。
その中で1人静かに見るものがいる。
「へえ。ねえそこの人は何か言いたげですね。どうぞ。」
「ふほっ。良いのかじ」
「時間も無いのは承知してますよ。ですが、その表情は気になりますので。後で。というのはきっと叶えられないでしょうから今の内に。」
「ほほ疑問よ。」
「疑問ですか。」
「そうだ。」
「何に対してでしょう。」
「かかっ。複数あるが今はこれだけじゃな。そう。どうして思考を沈めていたあの者らが動けるのだ。貴様も、見たところ含まれていたようだが。」
「ふむふむ。何を指しているのか疑問ですが。そうですね。思い当たるならあの空が変異した事でしょうか。なら答えは明白です。」
「ほう。明白とな。して。」
「僕には最初から効いてないんですよ。抵抗しても無駄な被害を出すだけなので無抵抗で捕まったに過ぎない。なので、運ばれてからずっと裏で工作してました。動けないあの人達の解除方法も含めて。ですが。」
驚は旅団の首領と以下。
「少し答えて。」
「何時からというのはやめてもらいますか。答えは言ってますよね。」
黙る。
「ではとっ。」
話の途中で大きな揺れ。
「意外と速かったですね。もう少しかかるかと。」
「な、なんだ今のは。」
「どうせ艦隊からの艦砲射撃でしょ。何処かに当たったのでしょうね。さて本当に時間も無いのでこれにて、失礼っ。」
揺れは徐々に激しくなる。
時刻は翌日となっていた。




