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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
二章~交渉決裂と戦争準備~
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二章~強襲~3

闇の森を進む。

風を感じる事はないのだが葉や枝が揺れる。

何か言い表せないものか。

響く微かな音。

後は息遣いと落ち葉を踏みしめる足音だろう。


方向は合っていると思うけど。何か入ってからずっと視線を向けられているし。気のせいでなく確実に。それも慈しみとかの真逆の視線が。うぅっう。体が震える。


森林地帯といわれているこの一帯は、明るい時間なら何もない普通の森。

なのだが深い故に微かな光は、全てを高樹木の厚く巨大な枝葉にて遮断される。

もしも上空から見えていたなら、最初に出た隔てるように切り立つ崖を囲むように、眼下に広がる森は僅かな曲線を描いており、そして一つの広大な境界線となっていた。

一つ異なるならば、そう命の吐息が感じられないことか。

草花ではない。動く物だ。

いや、正確には、あるには存在する。が、それらはこの森では異質にして異物。

この森に住み世代を越え、元居た動く物達は、随分と昔に全て喰らい滅ぼされたのだ。

よってある期間では命の奪い合いが常態化していた。

それは長く続き、いつの頃からか禁忌とされるまでに減らしていった。


今の時間は全てが眠りに就くまでには多少の猶予があるが、次第に闇底より見えてくる形ある気配。

先程から向けられる殺意纏いし暴食を内包した狂気。

闇の森を取り敢えず進んでいるが、数多の視線と思惑が重圧に似たものとなって覆いつくしている。

意識するな。

誰かはそう言うのだろう。

が、そのような事は聖人君子か機械人形でも無い限りは不可能だろう。

なので。

近くの木に手をついて一息吐き出そう。

そう思った矢先に。

何時ものように。何時もの如く。

襲われた。

無限ともいえる何かに。


逃げるしか選択は無い。

相手が何で。どのような姿形か。黒に染められた森で、見えづらい相手を真正面から対応する方が愚策といえる。

振り返ることが過るもそれは命の狩り取りを意味し、逃げるに徹する。


飢餓を根幹とした向け放たれる感情。

背後に矢のような暴食なる殺意か、強欲なる殺意か、もしくはそう、狂気なる殺意かという捏ねくり混ぜ合わせた感情が、多方向より追随してくる。

放たれる一撃が、容赦なく命を切り壊すように、まるで玩具を与えられた子供のように遊びながら狩りとってくる。

遊んでいると思ってしまうのは、どの攻撃も単純な転倒や思考の埒外であっても外れ、耳に響く穿つの音は恐怖を煽るには十二分に役立つ。

この地点で楽しんでいるのだと確信した。

それと同時に疲労からくる空腹と起因する怒りを越える憤怒。

全身に反響するような歓喜の感情。

足に悲鳴。肺に絶叫。頭から滴る悲壮。

闇の森で認識はできないが、衣服は至るところが破れ、浅い傷がつけられている。

なりふり構わず動き続けるように動いてなんとか、出口を見つけた。

これで全てが揃った。



そのモノ達は飢餓に喘でいた。

満たされず出られるが出ないこの森林は、そのモノ達の檻に等しいだろう。

そのモノ達の腹を仮に満たせるのは、森林に自生している光るが小さく儚い草。

一咬みめで思考は少し穏やかに、二咬みめで鳴り響く腹の獣は少し落ち着き、三咬みめで飲み込み、腹に収まると一気に消化され空腹が増幅される。

繰り返されるこの行為を寸断するはそれ以外。そう生きるものの命を絶ちきり、屠ることで真に満たされぬ飢餓に対抗できるというもの。

が、ここでは長い時間そのものが現れることはない。

彼方の時代にはあったが、今は皆無。

故に、真の意味でこの森林で生きるモノ達は限界を越えていた。

思考は全てが満たすこと一色。

そんな檻とする森林に長く待ち望んだものが入ってきた。

思考より早く感覚より鋭く。

肉体が動いていた。


焦る感情を抑えられず穿つの一撃は虚しく掠りはするが、終極的には木や地面に穴を空け、増幅する飢餓に声を荒げる。

単純な理由としては、越えた領域に踏み込み、全霊の力を放つも見定める視界がぼやけていることに起因する。

満たすであろうものは逃げ惑い怯えながらも走り続ける。それは知ってか知らずか制限区域へと向かっていた。

だが無駄な穿つは獲物たるその体に浅い傷を無数に着けていた。

あと数歩という地点で獲物が前触れなく立ち止まる。

で格好の時間と思考して一気に躍りかかる。


無くしたはずである耳の更なる奥に届いたのは、漏れる息遣いと微かな電流さえもを感知するよう発達させた視覚に写される、一部の下がり動作。

鋭敏になった嗅覚は発露される水分に含まれる成分が、緊張と疲労を如実に語っていた。

そのモノ達は確信したのだ。獲物は動けない。出口を目前にして諦めたのだと。

これまでのことは全て報われるのだと。


確信と盲進と自我の消失は、次の事柄に対して不理解しか思い浮かばなかった。



全方位からの殺戮を覆い尽くした各攻撃は確実に獲物を捉え、貫き、四散させ、辺りを久方ぶりの一面赤に染め上げた。はずだった。

狂喜の声は確かにそのモノ達の声で、木々に反響し空気を震わせ森林の外へと轟いていた。

散乱した獲物を我先にと咥え寝床へと急ぎ持ち帰り、一気に食らう。


瞬間。これまでより一層の充足感から舌を唸らせる美味なる味。喉を過ぎる得も云わぬ心地よさに。胃を満たし、住まうモノ共は満足し初めて眠りについた。

歓喜の安息にして満腹の眠りで、頭を沈め虚ろな世界へと旅立っていく。



「満足ですか世落ち達。」



意識が戻り現実へと引き上げられる。

鼻に付着するは先程の得も云わぬ心地よき薫り。腹は満たされ、貫きを確実な現実へと突きつける滴る音。

四散する肉の欠片。

現実は鋭敏な感覚にあり。

同じように液体に染められた、今も動いている有り得ない獲物。

感触も感覚も全てが物語っている。

なのにだ。

どうして。



「おお、そうなりますよね。うんうん、いい反応。誰でもそういう姿勢になりますよね。だから教えてあげましょう。説明は単純にして簡潔にね。僕は優しいのです。」

軽いお辞儀をして、出口と考えられる地点から僅かな場所。

その場から森の奥へと進み、四散しているモノを迷うことなく掴みあげた。

「うえっ。思っていたより重いですね。さて。これは何か理解できますか。」

大きな塊を持ちながら出口付近まで戻る。

「これ何か解ります。この内側の塊より、表面の方が解るかな。どう。というより先に僕の言葉。人語を理解できますか。見えてないのかな。もしかしなくとも。」

不安な表情をする。


感じる滴る液体が塊より滴。地へと抵抗なく落ち、さらに散りながら新たな色を添える。

塊に媚り着く覚えある臭い。

内側にて遺される僅かな微弱な電流に覚えがあり、思考が吠えを命令する。

哭いて、消去せよ。と。

「で、これはですね。ふふん。一番近くに居た世落ちの現在の姿です。もちろん、僕は何もしていないとは言えませんけど、結果的に見れば皆さんが勝手にしたことです。まあ、理解して、無意識に内側に逃げようとしたみたいだけど。ふふ。僕が逃すはず無いじゃん。ねえ。」

動作はしていないはずなのに。

その周囲から強烈な噎せ返るほどの気配がその世落ち達を取り囲む。



逃げたい思考の奥から瞬時に封印した記憶が引きずり出される。

久方の新鮮な動く肉の塊が区域外手前で止まったのに歓喜し、何もせずとも全てが一気に躍り掛かった。

その先だ。

嫌だと。(かぶり)を振る。

思い出したくないと。消滅させた何かにすがり付くように吼えたてたい。

のにたてられない。

止められない。

そう。もう無駄と知りながら抗っていたい。

それなのに重くのし掛かるように思い出す。


世落ち達が狂気に震えながら、各々が確実な殺意を纏わせて放った一撃は、思いがけないそれで阻まれた。

そう先頭にいた世落ちの背が一気に遠退いて獲物に重なり、全ての一撃をその身に受けたのだ。結果。纏った力は器を四散させ全ての肉体へと体液が浴びせられてしまった。

その後の記憶は。無い。

それであっても、現実として禁忌に踏み行ってしまったのだ。

そう、甘美にして嗜好なる真の飢餓を滅ぼす行い。それは。


〈同族喰らい〉



「さて及び知らない事まで思い出したようなのです。が、話を進めさせてください。簡単なことです。今足下に転がせているように転がるか、それともこのまま見逃して続く安寧と無価値な生を成就するのか。さらには一つの提案を受け入れて承諾するか。ですかね。」

この言葉の真意を確かめるような思考は今の世落ち達にはない。

それを解っていての選択を示したのだろうか。

答えは。否だ。

単純に使えそうだから三つめを加えたに過ぎず、放置ならばそのままに。

向かって来るのなら捩じ伏せて全てを奪う。


貼り付けられている時にさえ無理やりに肉体を動かし、負傷を恐れず距離を詰めていく。

もう食らう。というしかなかったのだ。


この結論として光魔は。

無慈悲に全てを狩りとり、文字通り余りを残さず処理したのだった。

この間に森林一帯に世界を怨む声が反響していた。


警戒しながら森を一歩出ると、高い壁と僅かな光量しかない外灯に照らされる門。

時間もあるのだろうが、人影が一切ない。

二歩目を踏み込む前に顔の横を何かが通過し、地面に刺さる。

現在の位置からでは外灯の明かりは届かず、それが何かを判別出来ないのだが、状況と距離を考慮して。

刺さった物を引き抜き、調べるまでもなく。

「矢。ですね。原始的ではありますが、確実に奪うことが可能でしょう。」

他人事のように呟いて、正面を見る。

『警告警告。ソレヨリ先ハ協定ニヨリ許可無キモノヲ排除シマス。速ヤカニ森ヘト帰リナサイ。受ケ入レラレナクバ第二段階ヘト移行シマス。』

これが無人の答えなのだと思考して、一歩をもう一回。

風を切る音と肩、脇、膝を掠めて後方へ乾いた音。

表情は歪めず、浅く吐き出して走り出す。

目的はない。とりあえず勢いに任せてみる。

警告が一気に迎撃へと移行し、射出されるものも回転を加えて殺傷力が増した武器になる。

背後で地面を抉る音に瓦礫が落ちる音。

足が絡まり地面に数回手を着くが、射出武器が穿つ直前で体勢を崩して回避する。

当然勢いをつけているので地面を滑るように移動して、手や頭部に多少なりとも傷を負う。

足にも限界が訪れてくる。

迎撃を避けながら方角を変えて森へと入る。

『脅威消失。コレヨリ厳戒態勢ヲ維持シマス。』

逃げに撤していたのでその状態を初めて視認して少し震える。

目に見えるだけでも、壁の隙間なく銃器が埋め尽くしていた。

息を整えながら方策を巡らせる。


鳴り止まない警報が空気を震わせ木々を揺らす。

休憩と称してずっと座って見ている一画。

「変化、無しですか。」

罠という事を考慮してもおかしい。

止まない音は周囲に狂気となって牙を剥いている。

「答えは二つ。その片方が正解なのでしょう。いやもしかすれば、第三の正解もしかすればあり得るでしょうか。ふふ。楽しみですね。」

足の疲労も回復してきた。休憩も終わりとして手中で弄んでいた小石を数個壁の方へ軽く投げ捨てた。

小石は地面に一回当たると、壁の銃器で粉と化し、霧散していった。それも全てである。

抗いようの無い数の、言葉通りの暴力は小石を砕いた後も止まらず、地を抉り多数の穴を空ける。

悩む。想定以上の隙の無さに考えが纏まらない。

諦めたようにその場で踞り、膝を抱えて頭を埋める。

静寂なき銃声は尚も地を抉り続けていく。

射出され、地を抉り、砂塵が舞い、礫が茂みに入ったり、木々へと当たったり、それらが多重に重なり森林の奥へと反響する。

「はあぁ。全く。もって。どうしてなのでしょうか。本当に。」

埋めた顔を上げ、隠れている木の向こうを覗き見ると、黒い陰が地面を陥没させ、瞬間で消えていった。

直後に壁の、銃器諸共が反対側へと倒れるように破壊されていった。

何時かの既視感。

それでもその時より身近で眺めている。

あの時の答えが出た瞬間だった。

「もう少し待っておきますか。」

根を枕にして横になる。

あれに直接会うのは得策ではない。

向こうも気づいているかも。という考えはなくもないが、これで疑問に対する答えが出るだろう。

終わると思う時間まで一眠り就くことにするのだった。


闇に覆われた空から明るい空へと変移してくる頃に、自身のくしゃみで目覚めた。

間抜けな声を出しながら現状を把握するのに掛かる時間はなく、軽い伸びをしながら、寝心地の余り宜しくはない根を軽く叩く。

意味としてはない。

息を整えて乗り出さず、瓦礫の山と成り果てた位置を確認する。

「えっ。」

素直に。無意識に言葉が漏れてしまった。急いで起き上がり、森林から出ると、綺麗なもので、何も無かった。

正確には、あるにはあったのだが、それはあの音から示した結果としては有り得ないものだったのだ。

「崩れて、ない。」

それどころか、昨夜の銃器による掃射で抉れた地面や振り返れば突き刺さったままにしていた武器も、()()()()()()()()()()()()()()()消えていたのだ。


夜の出来事が夢か幻なのかと思いはしたが、現実なのだと理解させられた。

それは壁に近づいて初めて判る。

壁には幾つかの筋が走っているのだが、その隙間から覗く銃器の数々、だがその走っている筋の数ヵ所には何かで溶かし繋ぎ合わせ埋めたような痕跡があり、銃器を出せなくさせていたのだ。

あらゆる箇所から作動する音が聴こえている。

実際に触れてみると、内部からの押し出しにより壁が振動している。

確実に機能は作動しているのだろう。

この不可思議な現状で防衛機能は無力となっているが。

「さてさて。ふふ。」

門扉は開いていた。

とにかくも、これで壁の向こう側へと入ることが出来る。

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