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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
一章~転戦の日々~
38/111

一章~上陸までの海路~

旧仏領域内、旧解放実験島・ムイリル。

当初の予定通りとは何時ものように行かず。

元々先の属島エゥプホールビアでは統制が取れており、反乱分子はない。なので無理難題の内容も全てが雑用雑務で、溜まりに溜まった案件の山を崩すために押し付けられたにすぎない。


そして現在は罪人。それもたった一人による支配の下に閉鎖島となっているムイリル。

領海数キロは問答無用で攻撃対象と観なされ、問答無用で海の藻屑と成り果てる。

その領海へ接触するかどうかの瀬戸際で一隻の船が停止していた。

その船頭と船尾には白くはためく布が強風に煽られている。

誰にも解る降参の意思表示。だが問答無用に砲撃の嵐を見舞われる。


甲高い女性とも男性ともつかない声が島から畳み掛けるように響き渡る。


それは注告と警告。

旗の一つが砲撃に破られ大きく傾く船。転覆は免れるが揺れ続く船に更なる砲撃の嵐が追い討ちをかける。

悲鳴が島に届くことはないが、愉悦に浸る者達が画面の向こう側で笑い転げているだろう、と想像した者は無意識に船の一部を壊してしまった。

悲鳴が響くが気にしている余裕などない。動力炉に有りったけの燃料をぶち込むよう指示して、側に置いていた荷物から道具を取り出し弄ぶ。

初見の三人は驚愕する。それは初見であっても知識にはあり、画像も見た事がある。だが下位であろうと上位であろうと、何であろうと実物を見ることは情報の中では不可能とされている。そう記され欲した者達は皆が全て、その図面を手にいれようとした。これも不可能だったのだが。

そうして。それほどの物を当たり前のように、流れる動作で取り出した光魔の手に握られた道具。

それは。


名:特殊空間遮断兵器・簡易携行型射出試験機。スペースドミネーション。もしくはスペースドミネッション。

能力:一定範囲空間の一時的な支配。

射程。個々により変動。最大でも中距離程。

形状:射出式携行弾倉型。

使用方法:専用の特殊な弾丸を込め全方位任意に射出する。持続時間は余りなく連続射出で継続されるが長続きしない。

射出の際に、幾分かのエネルギーを要するため、持ち主は連続使用を控えること。


と思考の中で反芻し、構える。目の端に驚きを隠さない三人を無視してふうぅ。と息を吐き正眼に構えて引き金を引き絞ると、先端から弾が射出され遠方で海へと沈んだ。

尚も止む気配無い砲撃。失敗したと悲鳴や絶望の船内。暫くすると不思議と砲撃が止んでいた。

震える気持ちで瞑っていた瞼を開けると、三人の視界には不可解な現象が巻き起こっていた。

「はっ、資料で知っていましたが。」

「ええ、そうね私も。」

「は、はは。本物とは。恐れいる。」

実際、砲撃は止んでいなかった。砲撃は続けて船に放たれている。

それは理解できている。その先だ。砲撃はある一定の位置で不可解な爆散や失速し沈没しているのだ。

これは射出した者が、名を示すように空間内を支配することに起因する。

侵入するモノ全てに対して、許容と拒絶の決定権を有することにある。

そう光魔は射撃物全てを拒絶したのだ。

実際はあらゆる全てを拒絶しても良かったのだろうが、そこは人としての良兼故に出来ない。なんてなく。

気分でしなかったのだ。

その結果が、支配する一定空間の外側から来る驚異に対しての先に述べた光景をまざまざと見せられている。

だが構え射出し続ける光魔の表情は次第に変化していく。

「何をしているんですか。速く。早く船を属島ムイリルに着岸してくらはい。長くは絶対に持ちません。だこら」

疲弊しているのだろう。呂律も可笑しくなっている。

苦悶というには酷く歪んだ表情。

慌てる一人が動力炉を限界以上に吹かし船を着岸させるために速度を上げる。

なのに。ある地点で船は失速していく。

「おい。おいおいおい。冗談にも程があるぞ。」

ムイリルから僅かな距離で完全に動力炉が動かなくなった。

片膝を着いて更に表情を歪める光魔は尚も射出し続けていく。

制止はしても無意味と全員が無駄に理解していた。

「は、ははははっ。はっ。こう成りますか。なふあ済みまへんが皆さん。これから少しの間、僕抜きで着岸してくだはい。もう、持たないですから。宜しく、おね、がい。し」

意識を保てなくなり、どうにか全弾を込め時間差射出させ、手放す。


残された三人は選択肢として自分達が示した道を選ぶしかない。

1・抵抗して何とか動力炉を動かしムイリルへと着岸する。

2・自身の保身確保の為に目前の者を相手方に差し出す。

3・諦めて引き返す。

4・無理にでも起こしてこの事態を収集させる。

5・問答無用で、交渉せずムイリルを廃島させる。


甲板で三人が顔を付き合わせ、示した物を精査していく。

「では、先に、五番目は。無いな。」

「ええ。そうですね。確かに。もしそれをすれば、隊長の目的が消滅してしまいますから。」

「では、五番目削除。と。で残りの4つですけど。どうしますか。」

目配せする。一応。

「私は2番目。これはなしの方で。」

「ほほう。貴女はこの下種を引き渡したくはない。そう仰るのですか。だが、これを引き渡した所で我々には何の問題もない。それにその荷物。何処から持ってきたのか。中を調べると有るわ有るわと言わざるをえないな。何せ。全てが消滅兵器や消失武器の類いなのだから。ふふ。全く、おそれ多い。」

「ヴァン様はこれを使用されると。」

「はっ。冗談だろ。これは愚かしく浅ましい。そして忌々しい大戦時の汚物だ。誰が好きこのんで使いたがる。」

「そうです、か。では、これには触れないようにした方が賢明かと。そうでないなら。多分、いえ、これから先にもこの者の力が必要に成るでしょう。それは貴方様が行動を共に。というのが前提というか、まあ可能性としてですが。」

「ふん。下種と同じ空気を吸うだけでも忌々しい。行動を共になど虫酸が走る。」

「そうですか。では、二番目と四番目は削除で。」

合計3つ消えた。

残りは。

「で、1番と3番ですね。どうします。ぼ、隊長。」

軽いにらみを向けるが時間の無駄になると判っていて戻す。

「3番はどうだ。これならやり直してあらためて。」

「それ、前提が崩壊してますよ。一番目もそうですが。」

「あ、そうですね。」

「ん、なにがだ。」

「隊長、これ、現状では不可能ですよ。」

「ん、あ、そうか。目下のところ動力炉(これ)が壊れてるんだよな。と言っても確証が在るわけでなし。なら燃料を。とそれも無いのか。」

全て入れたから残っているのは。容器の底に僅かに残る燃料のみ。

少し振ると小さく内容物が鳴る。

「こんな僅かな量では無意味。どうしたものか。」

「あの、その容器。貸してくれませんか。」

「ん、どうするんだ。こんなもの。」

受け取り、ある面を見続ける元管理長代理。

何時から何処から取り出したのか一本の長い物を甲板に突き立て走らせる。

見ていて。何をしているのか一部しか理解できない。

「これは工程表。か。」

無言で書き続けるそれは見るものが見ればそう。

「まさか。動力炉の」

燃料。

ならば。と途中だが理解できる範囲で材料を船内からかき集めて来るよう命令する。


小山ほどの素材が集められ、全てを瞬時に調べ上げ、工程毎に分けていく。

「じゃあ申し訳ないのですけど、海水をこの容器に入れてくれるかしら。」

空容器を渡し、素材から成分抽出に取りかかる。

「これで動かなかった場合、動力炉自体が壊れていると思って下さい。」

話しながら手を高速で動かして、元々小さかった材料の山が徐々に減少していく。


其ほど立たずに空容器は充填され片手でも重量が解る重さに成っていた。


瞬く間の生成から精製まで時間にして一桁で終わった。

「言っておきますけど、齟齬はありますから。それでも正規品に近い物は出来たと。たぶんこれで動くと思います。」

充填された容器を動力室へ持っていく。

「ねえ。」

「なんでしょう。」

「どうして自分で持っていったの。」

「ん、ほうっ。そう言えば。私めに御命じされれば」

「まさか。」

急いで動力室へ向かう。


動力室への扉を強引に開け放つと捻って悩んでいるヴァンがいた。

何とはなしに聞いてみると。

「よく考えたら投入口を知らないな。」

と単純明快な答えが返ってきた。

脱力して持っていた容器をもぎ取り、壁側にどうしてか位置していた投入口の蓋を外して注いでいくと、吹かした音の後に動力炉が正常に動いた。


操舵は自動設定されているので放っているが。

「なあ、どうして追加攻撃をしてこない。」

三人は船が動いた後も警戒していたのだが動くと同時にあれだけ激しかった砲撃が一斉に止まった。

不可解すぎるそれに尚も警戒は解かず、常に臨戦態勢を維持していた。

だがこの時、予期せぬ事を起こす者がいた。

ヴァンの従者であるシウル・カツスが光魔の荷物の中から一つの道具を取り出し使用してしまったのだ。

その行動には二人が察知した時にはもう使用した後であり、止めるとかという話しではなかった。

なのでヴァンの叱責も当然なのだが、元管理長代理はこの状況に得体の知れない気持ち悪さを感じていた。

そう叱責されているシウル・カツスは壊れた人形のように笑い、四肢を壊していった。

驚き止めるが異常な力なのか止められず、シウル・カツスは死にかけてしまう。

それでも壊れて笑い続ける。その目からは止まることない涙が零れ落ちていく。

船内は恐怖と悪寒が支配していた。

笑い、泣き続ける壊れたシウル・カツス。

狼狽えるヴァン。

言葉に出来ない。例えようのない気分で見続ける事しか出来ない元管理長代理。

日陰で眠る光魔。時折唸っていたが、それを気にする雰囲気でないのか流されている。

甲板での四者四様(ししゃしよう)の船はムイリルへと着岸していくように進んでいく。


と見えて三人は失念していた。

そう現在、世界の海流は複雑に乱れていたということに。

気付いた時には遅すぎ。ムイリルの沿岸から遥か離れた海上に船は位置していたのだ。

慌てて羅針盤を確認するが二人は読み方を知らない。

て事はない。だが、これからムイリルの港に着岸していくには最低でも数時間。

最悪数日は掛かってしまう。

「そうか。だから。」

「くっ。そうですね。私達に操船技術は持ち合わせていない。知識はあっても実践は私には無いわ。ヴァン様はどうですか。」

「はあ。此方も同じだ。ただ唯一のシウルがああ成ってしまったのだ。が。」

見る先には壊れたシウル・カツス。

一応暴れないように船にどうしてか常備されていた特殊な鉱石から造り出された網で覆い、鎖で固定して元管理長代理の薬で眠らせている。

「あの。」

手で先の発言を一時静止させ、

「少し、いいか。」

「は、はい。」

「貴女は、此方を侮蔑している。本心は。違うか。」

見開かず、眼を細め、表情を無くす。

「そうか、じゃあ、言葉使いは別に(かしこ)まらなくても良い。」

この言葉を契機に彼女の彼に対する言葉使いは変貌する。

「そうか。ではそうしよう。」

「ふふ。聞いていた通り。全てを見下すその視線と態度。やはり聴きしに勝る雰囲気を醸し出すか。なあ、カブルフィフスの愛弟子よ。」

今度は本当に見開く。

「くくくっ。知らないとでも。そうだ。君の師匠であるカブルフィフスは有名だからね。。まあ、実際、あれを見たことが在るものは一握り。」

「この事。少年にも。」

「云わないさ。その方が面白いからね。」

「そう、では、お前を。とはいかないな。」

「んん。そうだね。まさに現在、どちらかを失えば、正真正銘、ふふ。詰んでしまうだろう。それは双方にとっての利益にはなり得ない。では、この下種の望み通りにしようか」

不気味な笑みを二人が表すと、一人は操舵室へ。一人は光魔の荷物から道具を取り、使用する。


風強く。殴り潰すような横風。

風速にしていかほどか。

操舵室に入って知識を総動員し装置を操作する。

だが、いくら操作しても云うことを聴かず、勝手に海流に乗って流されていく。

焦る心にシトシト。侵食されていく。

蝕む焦燥に関連して装置から手を離し、力なく崩れる。

嗚咽と共に漏れる言葉に視線は鉄の床。

動力炉は確かに動いていると解る。だがどうして。

と、一つの事が脳裏を過り、急いで確認のため目的の装置へと近づく。

調べて視認して、最後に確認して。

薄く笑いが込み上げてきた。

深く息をして肩を落として自分の端末を操作し。乾いた笑いと共に進路と目的地を設定した。

視線の先には

窓向こう側に見える甲板。

立ちながら僅かにも動かない人。

流れに逆らうようにムイリルへと航路を進んでいく船。

そして、最初の目的地。ムイリルの港。

離れていても感じられる。向けられている殺意。

関知装置には機器の種類までは把握できない。

それを度外視してもその数は計り知れない。

そして甲板から鈍い音を伴い、次に高音を周囲に喚き散らすように港へと伸びていく光のような何か。

潰れるより早く、港一帯は光に触れ溶けて消滅してしまう。


時間を少々戻して甲板。

勝手に荷物から取り出し装着した道具。

知識で知っていた。大戦時の消失武器。

実際に触れて、実感した。そう本物だと。

だがそれを差し引いても、歓喜というには遠く。全身を伝う脱力感と虚無感。

聴きしに勝る。

否。それ以上の禍々しい武器。

名を思い出すのも(はばか)られ、早々に目的を果たそうと考え、いつの間にか船はムイリルへと向かっているようだった。

港が視認できる迄になって漸く理解してしまった。

向けられる焦がすような殺意を。

足を確実に固定して武器を構える。

次第に振るえる腕。

恐怖からか、装着している消滅武器から鳴り始めた音か。

音は次第に高くなり、限界に達したとき喰い尽くすような更なる虚脱と混濁が思考を蝕む。

負けじと深く吸い、一拍止め。溜まる力を一思いに開放する。


放つ細く儚い光の様なものは、周囲に音を反響させ目標とする港へと接触する。

瞬間に港は、世界から溶け消えた。


港の消滅を確認したのは一人だけだろうか。


一人は壊れた風に涙を流して笑い続け。


一人は操舵室で事態を見、震えている。


消滅の要因を作った張本人は甲板で気絶していた。

装着していた消滅武器は外れ衝撃の揺れなのか、甲板の端へと動いていた。


一人、立ち尽くすヴァンは、体の奥よりわき上がるそれに抗うがどうにもならず。

最後には全身が脱力し、嫌な汗を流しながら意識を失い。


衝撃を持って引き上げられた。

「うがはっ。」

「ご苦労様です。まさかあれほどに崩壊させてしまうなんて、予想以上でしたよ。」

いつ、起きてきたのか。

意識を手放した筈の下種が倒れた自身を覗きこんでいる。

「~か、かひゅ、ひゅうぅ。」

まともな声が出せない。

その答えは。さも当然のように答える。者。

「ああ。暫くは話すのもキツイですよ。何せ、融解の光糸の影響で一帯の空間変異を起こしてますから。まあ、少し安静にしていれば収まりますよ。では、彼女を介抱してきますので、あと回収と。」

立ち上がると視線を窓の方へ。

怖気(おぞけ)と吐き気が立ち上ぼり、今度こそ本当に。

「落とさせませんよ。」

首に何かを宛がわれ、そして打ち込まれる音。

「言ったでしょ。少し。と。て、事で彼女が終われば、手伝って下さい。ね。糞屑。」

頬が引きつるのを実感していた。

道具を片付け操舵室を後にし、残されたヴァンは脱力感を噛みしめ、天井を見続けるしかなかった。



甲板に倒れる元管理長代理は船の揺れで僅かに動いているが、それ以上は動いていない。

「へえ。知ってたけど。原型を留めておけるとは。それほどに重要なのかね。と。早く処置しないと。」

近より口許まで耳を傾ける。

「・・・・・・」

「・ス・・・スーんん。」

寝息を発てている。

「息もある。そして、見たところ。」

全身を視認して。

「変容も変異も変位も見当たらない。やはり。」

これなら簡単と処置していく。

慣れた手付きで施していく光魔。

で、簡単に事が運ばないのが彼の命運と言わざる終えない。

処置も終え、一息つく間を与えず船を覆い圧し潰す空気。

実際、船の一部はひしゃげていた。


歯を鳴らし眼を見開く。


彼女に触れる。

「やあ、何れだけこの時を待ちわびたのか。はあ。やれやれ。あの人のご命令とはいえ、骨が本当に何度折られたか。知っているか。あれはな何処ぞの御子息なんだと。何か不満があったのか。大金をもって出奔してな、自身の力と盗んだ金で世界を渡り歩いたのさ。今では一大組織の幹部よ。あの人のご命令でなければその場で殺していたよ。ふぁはははは。」

雨が降り始めてきた。

「さて、どうしてあの人がお前のような存在に注視なさるのか。不可解だが。これも御命令だ。今はお前を殺さんよ。その決まった場というのがある。今は有れらを回収させてもらう。それに留める。」

声の存在は光魔から離れ、荷物へと歩んでいく。

雨は次第に激しく甲板を打撃するように降ってくる。

硬い音は飛沫へ移行する。

光魔の荷物を拾い上げ肩に担ぐ。

「ふん。思ったより重いな。まあ、聞いた話では当時の大戦武器兵器全てを内包していると聞くが。まあ、良いだろう。これであの愚か者の御守りをせずに済む。」

振り返り別れの挨拶を律儀に行おうとして、不意の攻撃を難なく掴み、甲板に叩きつける。

「ほう、なんだ。もう動けるのか。ふはっ。腐っても上位様かね。これは愉快なり。」

歯を鳴らす。

「ど、どういう事だ。答えろっ。シウル。お前は裏切るのか。」

「ほ、ほは。面白い。どうして裏切りとなる。」

「う、うるさい。お前は俺の部下だ。僕だ。逃げられると思っているのか。それに」

「ん、おお。そうだな。これももう不用か。」

何を思ったか自分の手首を切り裂いた。

「んな、何をしている。」

「ん、決まっているだろ。コゾウが仕込んだ真の毒を出しているのだよ。いや、全く。とんでもないな。私を実験台にして毒の効果を見定めるとは。まあ、お陰であの人に有意義な土産が出来たよ。ありがとう。と先に述べておこう。とこれ以上は危険だな」

切り裂いた手首に息を吹き掛けると傷痕どころか元から無かったかのように消えていく。

「ぐ、このおおう。」

「コゾウ。お前には本来、尽きない苦痛を与える積もりであったが、やめてやろう。()()と実験資料で十分だ。では、」

掴んでいた手を無造作に離すと、光魔に頭だけを向ける。

「さあ、この先も楽しみなさい。そして、あの人を楽しませなさい。では、これにて。」

笑いながら姿を消していった。残される二人。

ん、二人。おや。

甲板に光魔の姿はなかった。


取り敢えずそのままにしてはおけず、船室に元管理長代理を運び融解した港を離れ、接岸できる地点を探すために周囲を捜索する。

もちろん砲撃の心配があり距離をとってだが。


動力音のみが響く船室

僅かに聞こえる寝息。

そして上下する豊満な目のやり場に困る部位。

自動運転で特にする事がないので。一応として看病している。


これまで力とか持ち出した金で従えてきた者達は、下卑た眼をして近寄ってきた。

そう言った輩を相手に組織運営から手広く仕事してきた。その中では情報も金の種となるので仕入れていた。

その中に去年のあの島を取り巻く変遷や個人的な興味から手に入れていた数人分もの情報。

それには彼女も含まれていた。

経歴を見て。自分の手駒に引き入れようと画策したが、要として所在が知れぬ時に、先のまだ世界に伝播されていない情報が舞い込んだ。

それがあのアリス・リリウン外壁崩壊。それに連なる不明艦隊の包囲と全滅。

その全滅に関しての詳細は要と知れず。

これにより島の所在と研究内容が公にされるだろう。

しかし、流れてきた情報の中に在った彼女の名を見つけたときには歓喜に震え、同時に絶望した。

なにせ、生死の欄には死亡と記述されてたのだから。

それでも諦めきれず、探した甲斐があった。

見つけた先は属島エゥプホールビアでの軟禁状態であること。

おまけが一つ付いていたが。

そして彼女に直接会って、全てがどうでもよくなったな。

一目惚れというものだ。

まあ、邪魔が居るが。


と長考の末にある事実に気づく。

そう、ここで手込めにすれば彼女は逃げられない。


思ったが早く行動する。

端末を取り出し、操作。

直ぐに彼女に触れてさあ。撮影。

「やはりカス屑。だな。言い得てなんとやら。だが。」

顔を上げると消えた光魔。


と、奪われた荷物に。光魔の頭上に浮かぶ黒い箱。それも揺れている。それだけに非ず、なにか妙に汚れ、所々擦りきれているような。

「開いた口が塞がらず馬鹿な顔。片手に端末、片手に眠る女性をはだけさせる手。ふむ。」

冷めた、見下す視線。

「犯罪、確定ですね。」

乾いた音がした。

「ふ、ふん。何を言っている私は彼女を介抱し」

「しているのに、どうして端末を持っているのか。」

「そ、それはそう。端末に入れていた身体診断を」

「はい、アウトですよ。もっと堂々というなら良かったですが、て、結局は駄目なんだが。最初に言い淀んだ時点で言い訳ですよそれは。で、どうします。」

諦めたように端末を落とし、響く音。

眼を細める。

「何が。」

「目的なんぞない。交渉の余地を残しているとは思わないように。では、」

振り返り荷物を卸すものと思い、背後から襲ったが。

「一つ。言っておきますが、ああやめよう。」

視界が暗転し壁に貼り付けにされていた。

「あれで気づいていないのは愚考としかいえないな。どうして放った力を背後といえ当たって尚も生きているのか。その上普通に会話が出来るのか。あの島の看守長の態度を見ても其処までに至らないのか。さらに今は消失しているが、あの空間変異の中で普通に動ける理由を考えなかったのか。なあ。上位よ。」

真正面から射殺すような眼差しで、質問を畳み掛けるようにしてくる。

「シウル。だったか。」

突如の質問の変更。

「聞いていいか。」

顔半分は、違うか。体の半分は何かに遮られている。

「なに、簡単な質問だ。」

欠伸を噛み砕く。

「シウルに関しての詳細な情報を用意できるか。」

意味が理解できず硬直する。

「何。それで先ほどの事は個人的に無かった事にしてあげますよ。どうします。」

考える余地などない。

頷きを返すしかない。小さくだが。

「それなら良い。では、調べて貰おうか。」

片側を塞いでいた物が取り除かれる。圧迫から解放され床に倒れ込むと考えていたのだが、反して三歩多々良を踏んで姿勢を正す。

「そうか。なら」

「あ、今は別に調べなくて良い。」

振り向く。

「なに、上位の端末では深度U-S4までは無理。なのであのムイリルで事を終わらせてから調べて、ね。」

再度の怖気が全身を包む。

「さて、回収と介抱も一通り終わったし、そうだな。目的とした港は彼女によって融解。近付くのも憚られる。なので、」

通信機を全回線で繋いでいた。後の事などガン無視である。

一つの、疑念を残して船は属島・ムイリルへと着岸していく。

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