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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
一章~転戦の日々~
36/111

一章~三つの道筋(経過)~3

定期的に散布てしいた薬の備蓄が乏しくなってきた頃合いに、自然島(ナチュラルアイランド)に接岸した。

旧アジア区域の僅かな残された沈まずの島。周囲を高い壁に囲まれたこの島は現在、不可侵の陸地として主に観光業で成り立っている。

島民、言い換えればその国の人々は完全保証された衣食住が確約されている。

そんな島の港地区には、海産業から機械工業まで幅広い分野の施設が乱立していた。

その中で特異な産物。薬効に関しての知識と品。それらが豊富に取り揃えられていた。


通称薬事通り。と呼ばれるその地域には内外の薬の素材や道具が並べられた露店が中心に列なっている。

「あ、あのどうして俺達を。」

首輪に即死効果の薬物を仕込んでおいた捕虜が困惑な態度で聞いてくる。

「なに、知らない薬に関しては即座の献体を欲してまして、なら貴殿方をと。それにしても文句はないでしょ。」

逃げたいが逃げられない。

「お、お前は世界捕虜関連法を知らないのか。」

「知ってますよ。それを知らないと災いが自身へと降り掛かりますからね。だから少し、交渉。と言うより仕事の斡旋です。」

「し、仕事」

肯定の頷き。

「言ったでしょ、知識にない試しの献体ですよ。買う前に店主から情報を仕入れますが、それでも人体に関する影響には実際に試してみないと解らない。大丈夫です。私は薬効関連や人体には詳しですから。そうですね。心配なら」

衣服のポッケから捕虜と同じ首輪と似たような品を両手足首に巻いた。

「疑うなら貴方が此れを起動させてくれますか。」

いぶかしむ中で最もいぶかしんでいた者に拘束道具を起動させた。その直後に全身に伝わる痛覚と嫌悪感。その後に別のポッケから解毒薬で処置する。

「これ、で信用してくれますか。」

「ど、どうして其所まで。」

「信用には命を賭けないと」

捕虜全員が納得して契約を結んだ。

「そうだ。これを渡しておきます。」

複数の容器。中は見えないように施されていた。

「察しが着く人なら分かると思いますが。それは貴殿方の首輪に仕込んだ薬の解毒剤です。少量ですが、効果は抜群です。それと此れを」

同じような容器も渡される。

「此方は私の両手足に仕込んだ物の解毒剤です。なにかあれば見捨てるなりしても一行に構いません。それが私の終着点だと諦めますから。」

渡した容器を全員で分ける。


軒を列ねる自由貿易区画。

素材にもピンキリあり、粗悪品から紛い物。表でも高級品種と云われる品々まで揃えられた店が並ぶ。

「さて、私の目的は悪まで知識にない品です。それは粗悪であっても同義。なぜなら他の素材と組み合わせることで、また想定外の効能を発揮するからです。では、其々に先程お渡しした端末を使用して、この区画の高級品から粗悪品までを全て買い占めてください。勿論、代金については私が後で一括支払いしますのでご心配なく。では、解散。」


クロイツはある老人が営む露店を訪れて、並べられた品々を吟味していた。

「ほふぁふぁ。クロよ何時以来かのう。」

「ご老体。久しいもなにも無いでしょう。まだ二年も経ってないですよ。」

「ふぁはっ。そうか。で、何を求めておる。お主は散々調べ尽くしたのだろう。なら」

「いえね、日進月歩と言いますように新たな薬事の材料を探しているのですが、ご老体、何か有りますか。」

「ふほふぁは。では此などどうかな。まだ研究途上なのだが。」

「これは」

「なに、品種不明の浜に打ち上げられた謎の骨の粉末だよ。正確には混合粉末だがな。出所は儂自身じゃ。」

「そうですか、ならそれを、そうですね十三包貰いますか。幾らです」

「なに、長年の付き合いだ。割り引いてやろう。このおまけの宝珠もな」

手渡されたのは歪な形の何か。

「宝珠いいながら、何か余り触れたく無いですね。」

「まあ何かの役には立つだろう。持っていけ。」

拒絶は許されない雰囲気を出している。

「はあ、仕方ない。これは何かに使えるかな。貰っておきますよ」

適当な袋を貰い、それに何重にも封印した歪な宝珠を仕舞い、自身のポッケに入れる。


入り乱れている大小の露店や建物。その間を吹き抜ける風はこの区域独自の流れを作っていて、この風を利用した技術もある。

その技術は古代から知られている風車による粉生成の最初の段階等である。

関係ないが。

「さて、粗方の品を取り揃え、知りたい知識も知れましたし、これより君達を例の二人に引き渡すためにあの島に戻りますよ。全く大変な事になりましたね。はあ。元主の心労が。」

一仕事終え、適当な飲食店で遅めの食事をしている。

「返答はない。ですか。当然ですね。」

クロイツと同席していたり近くの席に座っている者達は突っ伏したようにテーブルに持たれ掛かり、動けないでる。

「ふむ。どうも、薬の効きが悪かったのかな。」

「んなわけ無いだろうが。クオッ。」

クロイツと相対している1人が体を起こし、返答したが直ぐにテーブルに突っ伏した。

「こういう症状が出るとは、予想通りとは言え個体差が有りますね。仕方ない。皆さん。」

足元に置いていた荷物から複数の容器を取り出す。

「これを飲みなさい。私が調合した薬です。勿論、安全は保証しますよ仕事なのでね。」

突っ伏していた全員が急いで掴み取り、蓋を開けて一気に飲み干す。

「おや、一舐めで十分なんですが。まあ、大丈夫でしょう。さて皆さん。これから港まで掃除と行きましょうか。」

その言葉を合図に周囲で談笑していた客達や店員が動いた。

「やれやれ。私は肉体系統は苦手なんですけどね。」

吐き出す息は態とらしく、緊張感がなかった。


最初は店内が騒がしく、それでもこの地区では日常的なものだった。

その次に店自体が爆発するまでは。

これにより周囲を通っていた人達は巻き添えになり、負傷者が多数出てしまった。

「はあ、全く。どうしてすんなりと事が運ばないのでしょうか。ねえ、皆さん。」

知るかっ。という全員からの返答は、獲物が()つかり合う音と悲鳴により掻き消されてしまう。

「さて、この場から我々の船までは相当な距離があります。簡単には行かせて貰えないでしょう。ならば一時散開して港で合流としましょう。ではお先に。」

その言葉を最後にクロイツの姿は消えていた。

慌てるのは捕虜兼実験台達。笑い転げる周囲。

身構えるがその笑いが収まらない。より一層酷くなっている。

「なあんて、そんな事をしても信用を失うだけですしね。」

姿を現したクロイツは、手に複数の容器を地面に向けて立っていた。

「ふがっ。ぐくくくく。あふ。」

苦しみ足の力が抜けて地面に倒れると、そのまま眠ってしまった。

「あとはこれですかね。」

取り出した容器と小さな羽が四枚付いたもの。

手元のボタンを押すと高速で回転し、それを蓋を開けた容器に挿す。

容器内の液体は羽に巻き上げられ、地面から遥かな高さで拡散し、重傷軽傷関係なく爆発に巻き込まれた人達の傷は肉体的に完治した。

「さて、これでこの場の負傷者は終了しました。では、行きますか皆さん。」

笑顔であるはずのその表情はどうしてか心穏やかにはなれない。それでもその現状に対して呆気に取られている人々を無視してその場を離れることにした。そうしないともう一騒動起きそうな予感がしたのだから。


到着した場所は山に近い整備された住宅街。その一軒の玄関前に集まっていた。クロイツは感慨もなくその扉を開いて中庭へと入っていく。

無言で歩き、扉の取っ手を掴み引くが当然開くことはない。

「ふう。随分と経つのだが錆びては無いようですね。では。」

鞄を開けて中をまさぐると、正四角形の箱を取り出した。

その中には複数のカードが入っていて一本ずつ色別に線が引かれていた。

迷うことなく内の一枚を取り、地面に翳す。

タイル張りの内の一枚の四辺から光がさし、カードに触れると。

《警告、警告。これより侵入者を排除します。白線に下がってお待ち下さい。》

玄関を起点に周囲から排除装置が起動する。

いきなりの事態急変に捕虜が驚いていると。

「排除装置停止。及び、これより示すものに対しての処置を命ずる。」

カチカチと鳴る。

《了解しました。これより当該の者達を処置します。》

云うや捕虜達の周囲からボロボロのロープが何処からともなく伸び捕縛していく。

喚く捕虜達は次に大きな筒に飲み込まれ、その先の床へと聞こえない悲鳴と絶叫を筒内に響かせながら堕ちていった。

見届けてから装置の解除と同時に開けた鍵。扉が自動に開いてクロイツは中へと入っていった。


後には静寂の庭と少し強めの風に煽られ舞い上がる砂埃。


鼻を刺激する香り。

起き上がると体を包んでいたであろう柔らかな布団。

頭が朦朧とするが把握するのにさして時間は掛からず。慌てて部屋から出ると見知った姿。

どうやら全員が同じ状況で出てきたらしい。

『全員起きましたか。なら上がってきなさい。』

廊下に響く声はそれだけ言うと何も言わず、静寂が支配してた。


何もすることが無いので黙って従い階段を昇ると、ずっと続いている良い匂いを辿り着いた先には自分達が寝かされていた部屋の扉と同じ扉が。

『着きましたか。どうぞ中へ。』

何処から聞こえているのか知らないがずっと鳴り続けている腹には抗えず。扉を開いた。

その先には。


一息吐いて、背もたれに(もた)れる。

「さて腹を満たし満足しましたか。では、この先について説明します。」

自動で窓に暗幕が降り、キッチンも床へと収納され、調度品までが壁に収納されていく。

残された調度品は捕虜達が座っている椅子のみ。

「それで、ですね。貴方達が眠っている間に面白い事に成ってまして。これが現在の外の様子です。」

壁のみならず、天井や床、暗幕にも映像が映し出されていく。

その全て一つの例外なく、悪鬼羅刹の如き雰囲気と形相で島内が荒れ果てていた。

「な、なんだ。これは」

「いや、どうも私を探しているようで。このままだと。脱出は不可能です。なので一つの道を造りましょう。」

その笑みは捕虜達が戦慄する程だと後々報告書に記載されている。らしい。


眼に生気を感じられない者達は、大昔に流行った生きる死霊と思わしき事。

今からこの中を突き抜け、最終目的地である港へと向かわなければ成らないと思うと気が気でなく。捕虜達は肩を落としていた。

「では、これより単純明解な作戦を説明します。」

それは作戦開始前。

ダイニングからから変化させた映像室での事。

「なに、1人が囮として、残りが港まで走る。そして、最後に囮として戻ってきた者が動力炉の鍵を握る。そして目的島へと向かいましょうか。」

「そ、それを俺達か」

「私がしますよ。」

驚く。

「あの症状は何年か前に治療した事がありまして、まあそれより強い感じはしますが。この数日で改良した薬も完成しましたし、何とか成るでしょう。それと、これが港までの道です。もし遭遇した時の為に同じ物を全員に配ります。呉々も多用しないように、その内に耐性がつきますから。」

行動は一方的に決められていき、それから数時間後には表にクロイツ、地下の捕虜達が眠らされていた区画の更に奥の部屋に仕掛けられた隠し通路。囮作戦は始まった。


これより二つの視点を持って語られる。

最初はどちらが良いかな。


で、こちらは地下通路。囮と成ったクロイツの身を案じることなく、進んでいく。

反響する足音と水を切り裂く音。

クロイツに教えられた隠し通路には水が溜まっており、さらに鼻に着く匂いが気分を害する。

それでも気にする暇はないと理解している。

止まらず進み続けるしかない。

『地下を道なりに行けば出口です。何、追っ手は気にせず進んでいてください。』

クロイツの言葉があるが信用は出来ない。

先程から後方に複数の気配が感じられるのだから。

が、それでも相手にしているより、進んでいく。

息は軽く切れているし、鼻から通り抜けるような、足下の水から放たれている、突き刺す臭気は肺を犯しているだろうがそれも一切気にしていられない。そういった状況なのだと捕虜達は理解していた。


走っていくと、出口らしい場所へと辿り着いた。後ろからは先程より数は減っているが追っ手の気配がしている。なので、迷うことなく出口から外へと飛び出した。

その先には全てを呑み込む激流。はなく。底の浅い川、でもなく。薄汚れた水質。もなければ、清々しい清流でもない。

在るのは、足下から響き渡る怒号の嵐を浴びせるフェンスを挟んで殺意を向ける島の人達。それらを見やりながら下へと落ちていく。


着地の衝撃は両足から全身へと伝わり、耐えきれず崩壊する。

それが常識。なのに高所からのダイブで痛みどころか肉体の崩壊もない。さらには先程より強い臭いが充満している。

視覚的には霧が立ち込めている。

「どうも体がむず痒い。」

「え、そうか俺は気分が高ぶってるけど。」

「へえ、そうか。俺は、何か気分が、わ、悪い。」

吐き出した。

「ふっははははっ。ふひふひひ。」

「おいおいおい。なんだあ、一体。」

「と、兎に角、何か可笑しい。この場から離れよう。目的地までまだまだあるし、早いとこ合流しないとな。」

否定する理由は無いので全員がその場から走っていった。

それから経つこと、その場を起点に幾つもの物言わぬ肉塊が潰れ内容物をぶちまけていた。

その表情は一様に苦悶していた。


走り続けて気がついた頃にはあの霧は晴れていて、体の不調や気分も解消していた。

不可解なのが、長距離を長時間走っていったのに疲れていないこと、そして空腹を感じない事だった。が、それは置いといて、今は目前の状況からの脱出を最優先に考えるべきだろう。

あの悪鬼羅刹の形相で迫る存在に対して攻撃を躊躇してしまう。それは相手が人なら問題なく組み敷いて拘束していくのだが、それは不可能。

何故なら、相手は人でなく、この島に生息している、動物だからである。

捕虜達は皆適当に集められたと思われるが、一つだけ共通点がある。

それは全員が無類の動物好きなのである。

大まかな共通は有れど、詳細には違いがある。

その端的なのが、《大型》か《小型》のどちらか。

だが両極端とはいえ、片方に寄ってしまえば自ずと片方からの攻撃が繰り出され、自滅の道へと歩んでしまう。

なので捕虜達は手も、ましてや足さえも出せずに向かってくる動物達から逃げの一手で行動するしか無いのであった。


追いかけてくる動物達を背後に見やりながら走り続けて大分経つ頃、捕虜達の表情には苦虫を潰したような表情の中に、恍惚とした別の表情が見え隠れしていた。

どんな状況だろうと捕虜達にとっては至福の一時に違いはなく、体の限界を越えていても気持ちが昂っているために疲れを一切感じていないのだった。


笑っているような苦しんでいるような表情で、数えられない動物に追いかけられている集団なんぞ、他者目線から見てしまえば異様な光景だろう。


まあこの場に人が居た場合の仮定の話は無意味か。


疲弊はしない捕虜達だが、随分と走っていた。夢中で走っていたわけでは無く、ちゃんと考えての逃げに徹していたのだが。

「はあ、はあ。なあ。」

と1人が問いかけようとする。

「あいあい。分かっ、ているよ。と。」

その先の意図を組むように誰かが返答する。

「さて、もう目的地まで後少し。ほら見えた。あの壁を越えれば港ですよ。」

「と、その前に。」

1人が背負っていた荷物からクロイツが持っていたような、というより渡された容器。数個を取り出すと地面に叩きつけ、内容液を混ぜ合わせる。

空気に触れると一定の高さにいる者達に対して効果を発揮する。

「で、は、行きますか。」

全員がいつの間にか首に着けた物に手を付け、片手に持っていた容器を一気に飲み干す。

同時に首の物を引き千切る。

気合いを入れて軽く準備をして、全員が迷いなく壁を蹴り上がりその向こう側へと躍り出ていった。



時間を戻そう。

そう、捕虜達が地下通路へと向かう前。

地上からの道を選んだクロイツの道。

囮を自ら申し出たのには理由が有った。

以降は思考も含めて見ていこう。


外の景色を見てもらいながらも今後の行動を考えていく。

視線の向かう先には暗幕で隠された窓。その向こう側には寂れた庭。さらに先には生け垣と侵入者用に設えた高電圧の鉄線。

そして、その向こうには自分を探している島の者達。

外の映像が室内に隙間なく映し出されている。その中でやはり、瞳に光が宿っていない。

この症状には文献等で知っているが実際に見ていると文献とは少々違っているようだ。

その一つが、と思考していると事態を動かすための説明をしていくのだが、面白いように反論抗議がない。

この現状で無駄な時間は割きたくないと皆が思っているのだろう。

「さて、先程言いましたが貴殿方は教えたように地下通路で脱出を。私が囮をしますので。まあ、目的は私なんで、一手に引き付けられると思いますが、何分不可解なことも内包してますのでそう易々とはいかないでしょう。では、荷物を用意しますので着替え終わったら地下室廊下の最奥の部屋へ。仕掛けというか鍵は開けておきます。以上です。何か質問があれば受け付けますが。」

1人が挙手すると釣られるように次々と手が挙がる。

「では貴方からお願いします。簡潔に短くで。」

「ああ。理解している。そうだな。なら確認だ。」

「何ですか。」

「俺を含めたコイツ等を引き渡す。そうだよな。」

「ええ。そうじゃないと専用端末が戻ってきませんので。」

「そうか、なら交渉だ」

「先に述べますが、交渉の余地はありませんよ。」

口を出そうとしていた言葉と共につぐむ。

「何せ此方は時間も限られてますし、更には各島も同じようなものだと判断できます。なので、到着から参入。鎮圧と交渉。その後の処理と報告を考えていくと、まあ時間がないですよね。」

なのでと、前置きして。

「交渉ならこれが終わって船の中でなら可能ですよ。」

質問者が瞬間考えるように視線を静止させる。

「なら、構わない。それで構わない。」

同意を得た。そう判断して皆を地下へと向かわせる。

「そうでした。一つだけ皆さんに確認を。」

出掛けていた体を止め、クロイツへ振り向く。

その視線は急いてるようにも見えなくもない。

「同意を得たのはその者だけです。その他はどうですか。後に交渉ですか。それとも。」

全員が視線を合わせ、頷く。

「ああ。俺達も事が終わって、全てが片付いてから船の上でと言うことに賛成する。異論はない。」

こうしてクロイツは納得し皆を階下へと行かせた。

暫くして階下へと降りてくるクロイツを視認する面々。

クロイツは小さな荷物を持っていた。

「これから説明しますが、簡潔にです。」

荷物の口を開けて中から取り出したのは、お馴染みの容器が多種。

内容物は例に漏れず見えないようになっている。

「さて、先程も言いましたが。これより地下通路で脱出してもらいます。私が全てを押さえるなんてのは期待しないでもらいたい。全てが囮である私に向かってくるとは、限りませんから。」

出した内二つを持つ。

「これら全て、即席調合薬とレシピ調合薬です。此方はこの先必要だろうと思われ、昔調合したレシピを参考にした薬で安全は保証します。一方、此方は適当にかき集めた素材を調合したのでどの様な作用や副作用が現出するかは未知数です。使用には十分ご注意を。さて、一応人数分は用意してますので、細かな説明は各人の端末に送信しておきました。何処かで見ておいてください。では、お願いしますね。」

容器を仕舞い渡すと捕虜達に少しズレてもらうよう指示し、部屋の床に持っていた容器の中身を垂らす。

すると溶けるように床が消え、木製の階段が暗闇へと誘っていた。

生唾を飲み下す捕虜達。

深いのだろう。階段の先が見えない。

「降りた先はずっと水路になっています。一本だけなので進んでください。おや。」

向けられた視線を辿っても当たり前だが何もなく。

「どうやら破られたようですね。」

「ちょっと待て、破られたて。」

「ええ。この家周囲に張り巡らした関門の一つが突破されました。まだ全てを突破するには多少なりとも時間を要します。なので急いで向かってください。大丈夫です。君たちなら退けられますよ。」

その笑顔は捕虜達の何かを刺激し、何かを奮い起たせるのに充分だった。

「よし、行くぞ。」

応答をもって捕虜達は階段を降りていった。


「やれやれ。本来、捕虜と離れることは駄目なんですけどね。仕方ないのですかね。今回に限っては。」

笑顔を張り付けたままに階段を見つめるクロイツ。

踵を返し、ポケットから折り畳まれた包みを握りしめ室内で開けてばら蒔く。その行為を玄関まで続けていく。

瞳に宿る濁ったものが渦巻いている。



震える心を抑えるのに必死で、そしてこれだけの実験規模はあれ以来だろうか。

現在。自身の試したい実験をしている。

その内容は〈思考消失状態による投薬の効果〉と〈個人差による毒(薬)の効果〉。

前者は長年。教団で個人的に、それも秘密裏に行っていた。その成功例があの忘却人形。だったのですが、ふふ。元主は欺けませんでしたね。

他の献体は騙せたんですがね。

まあ、あれを踏まえて発展型を考えていたんですが。

あの物体以上の出現は望めませんね。



玄関扉の鍵を解錠し、開けると予想より僅かな規模で住人が迫っていた。

「はは。もうこれだけ迫っていたとは。まあ、良いでしょう。なら始めますか。()()を。」

自身の裁量でどうとにでもなる今回の実験。最後にはどの様な光景が見えるのか楽しみですね。


思考消失状態の住人達の動きは一様に緩慢で、それでも的確にクロイツ目掛けて近づいていた。

一定の感覚を保たせて静かに歩いている。

手にはあの爆発で負傷した者達を治療した薬を散布した装置。

今回使用する容器の内容物は。

一・消失思考における痛覚増強の差。

二・部分強化による行動速度と把握。

三・幻覚作用からの離脱率。

この三つを実験内容としてそれに見合う薬効効果が期待できる物を用意して散布している。

各薬には当然のように希釈があり、効き始めから効果切れまでを考えている。

このレシピを元に本実験には原液と同等の薬を散布している。

通常、体内へと摂取させるのが理想的ですが今回はあの状態なので、付着させたほうが効率的にも宜しいと判断したまで。

て、誰に言うでも無いのに説明口調なんでしょうか。

それに。お、散布が終わりましたね。では、次の段階へ移行しますか。


遠目に見ていると住人が一斉に止まり、項垂れ、腕を垂らし、その場で狂い無く、一定の方向へ回転していた。


ほうほう。拒絶反応ですかね。それとも馴染むまでの時間を掛けているのか。

では、高いところは。お、こんな近くに、では行きますかね。


ふっふうぅ。

確かに高い場所とは思いましたが、はあ。疲れますね。少し体力を付けないとですね。


そう考えながら高い場所。山の上に聳え立つ旧監視塔。

旧とはいえ災害用に整備されて、外観は寂れていても内部は清潔を保っていた。

侵入者対策に施している数々の捕獲、撃退装置。

「ひうはぁ。着きましたか。さて、見たところかつての施設と似ていますね。」

逃げながら散布した薬の効果確認のため止まっては振り返り止まっては振り返りを繰り返し。

この時間。

夕方に差し掛かる黄昏を背に、山を歩き到着した時間には山を埋め尽くす黒い闇。

滴る汗を拭おうにも拭う汗は流れていない。代わりに息切れが激しい。

確認して設置されている装置が恐怖を感じてしまうようにあの施設。かつての教団施設と同じ配置と効果を持っている。

「もしかすればこの鍵が使えるのでは。とそう簡単には運びませんよね。なら」

荷物から出した薬液を迷わず振り撒く。

「試作型腐蝕薬・極地進行。」

有機無機。生物、機械関係なく腐らせる効果を持つ。クロイツが総主より前に製造した試薬。

従来の用途はその強烈な刺激臭で気付け薬としていたが、ある偶然を装った必然で、薬液が付着した部分が急速に錆びていったり腐っていったりしていた事に気がついた。

それに着目して当時問題となっていた不用品の山に対し、ダメ元で試した結果、全てが腐蝕し腐敗しものの数日で土へと還すことに成功した。

この日より教団の不用品問題は解決され、更なる問題が表面化した。

それがあの寂れた土地。

そう、長年使用し続けた結果、土が全てを拒絶するように草木、生物すら住めない荒野と成りはててしまった。

それが光魔が忘れているあの施設の荒れた土地の理由。


おや、えらく懐かしいことを思い出しました。何故でしょう。

と下らないことを思い出しても無意味ですね。

ではでは。始めますか。

昔ながらの鍵と電子錠、入力された人物の個人情報による三重の鍵からなるこの監視塔を囲む鉄線の壁を完全に無力化しました。

このあとどうなるのかは、私の知るべき事ではないので無視しましょうか。


靴音が響くだけの静寂しかない屋内。歩いては止まり。薬を撒き散らす。

電源の一部を壊したために電気は点かない。

それを解決するのは先程から撒き散らしている液体。

薬ではあるが、人体には殆ど害のない物で四方に撒いている。

一階分を撒き終えて振り向くと付着した床や壁天井、扉やシャッターから光が発していた。

「ほう。やはり整備されてるだけあって、微妙な汚れはありますが、綺麗なものですね。」

この監視塔、昔は観光施設として成り立っており、一階は商業区画として数々の店が入っていた。

現在は新監視塔の方へ移転しているため、扉やシャッターはその名残だ。

一声出すと静寂の中で反響し遠ざかっていく自身の声。全身で感じると急速に全身から夥しい水分が溢れだし、床を濡らす。

気が遠くりかけるも踏みとどまり、さらに足が動かなくなっている。


到達まで早いと思っていたのですが、存外紛れ者が居ましたか。それも精神系統の高位術者ですかね。

はてはて、姿を素直に見せてくれますかね。くく。おっと。嗤っては相手に失礼過ぎます。ここは、自重しなければ。んんっん。


動かない足を牛歩の如き速度で向かうは監視塔最上階。


時間を掛けて最上階へ辿り着いた。


予想より頑強に改良されてますね。


簡素な扉やシャッターと違い、クロイツの前に填められた見るからに難攻不落の扉。

鍵穴六つ。シリンダー7つ。電子操作盤五つ。電子札用穴一つ。

これらを今から揃えるのは不可能。

「ので、仕方ありません。請求は上に願いたいものです。」

昔ながらの黒メガネを外しブリッジを起点として左右に回転させると小さく音が鳴る。

扉の鍵に近づけると多数の細い管がメガネから伸び、合計十九の鍵へと滑り込ませていき、解錠を始め時間もかけずに全てが開かれた。

自動で扉は内側へ、空気圧が逃げる音を鳴き散らし入っていく。


扉の反対側に出ると空は暗く、監視塔を囲む木々までも静寂に覆われている。

「時間を掛けたつもりはなかったのですが。んん。それにしても。と考えるのは愚考ですかね。」

得物を抜き、激しい息づかい。

「だ、だふぁれぇ。ひいひいひいひい。」

「お、己で、逃げ場を、無くすとは、おろ、か、だな。」

「ふ、はふははっ。さて後があるので、手早く済ませましょう。」

「おや、おやおやおや。これは面白い。ふむふむ。やはりそうですか。ならば。んん。俺様も余り気長にはいられないな。」

持っていたメガネを懐に仕舞い、荷物を肩に掛ける。手摺に身を預ける。

一人は気づいたが遅い。

()()()()()()異様に腐敗していたのだから。

必然として持たれていたクロイツは柵ごと地上へと肉体を宙へ踊り出させ、落ちていく。

この時の残された者達の言葉は。

「は、はは。逃げられないと悟って自害したか。手間が省ける。」

「あれまあ、あっさりと。少しは抵抗すると。考えて幾つか得物を用意したのに。無駄になっちゃった。はあ。」

「ふふうん。もう少し捻ってくるかと思ったけど直線でいったね。つまらない。」

と手を叩く音が屋内から響く。

「ふむ。逃げましたか。まあ、簡単には拘束できないでしょう。どうも、時間を使いすぎたようで、この島から撤収してください。後始末は後発が引き受けますので。」

塔内に光源はなく、闇に包まれていて陰しか判らないが見知っているのだろう。その指示に従い、一人は跳躍し空を一人はその場から姿を消し、一人は脇を通り室内の階段で階下へと向かう。

共通する表情は驚きと怒り。と自身の浅はかな思考からの結果。

一人残されたその者は闇に染まった鬱蒼とした雑木林を暫く見続け、静かにその場を後にした。


く、くくはっ。くははははは…。よもやと思いましたが。いまだに在り続けるとは。くく。これは。


走ってはいないのだが、地面への衝撃はない。それは一重に自身のこれまでの研鑽の賜物だ。

余裕で森へと隠れていたのだが、予想外の存在に軽く驚いてもいた。

そうですか。あの者が関わっていたのなら、ふむ。元主よ。これは結果如何によっては一つ仕掛けを施さねばならないかも知れませんよ。


行動を共にしていたならば力説熱弁講義して納得してもらうだろうか。


眠気眼を擦り、軽い欠伸を噛み殺し、伸びをして、体を解す。

「今日も良い空には違いないのですが、そうですね。眠気は残りますが出発しますか。」

枕代わりの荷物を肩に掛けて目的地の南埠頭へと歩きはじめるが、

「あ、何処の港は教えましたが番号を記してませんね。」

急ぎ、森を抜けるために速度を早める。

と森全体を通した聴覚伝播。

『やあやあ。久方ぶりだね。覚えているかい。』

「ほう、これはまあ。」

『ははっ。驚かないのかい。』

「いえ、先程、同じような存在を関知したもので。』

『ふうん。じゃあ、そうだね。僕の欠片かな。まあ逸れるのは本意じゃなないからね。本題に入ろうか。』

「そうですね。では。」

『うん。君にはこのまま次の島へ行ってもらうから。』

「それは勿論かまわないですが。あの捕虜達は」

『心配しないで、彼らは速やかに目的の場所へと行ってもらうからね。』

「それは何か不穏なニュアンスが。」

『ふふ。気にしないでさあ。行こうか。』

ざわつく雑木林を抜けると失念していた。

そう、島の住人という障害を。


明後日の方向へ忘却の視線と思考を。

乾いた声が聞こえる。

自身の声と気付くのには掛からなかったが、それで現状をどうにか出来ることはない。

掛けている荷物から薬液を出して容器越しに瞳に光が宿っていない住人達を見る。

時間も経過しているので効能は切れているだろう。それも折り込み済みなのだが。

ほう、痛覚倍増をもってしてもこれ程深いとは。一筋縄ではいきませんか。なら他の方法を模索してみますか。

その思考と同時に容器を地面に傾け染み込ませる。

「名付けて。・・・・別にいいですね。」

染みた薬液は地面を伝い、近場の木々に到達して、無理やり進化を促す。

通常は時間を掛けて進化を辿るのだが、周囲の木々は意思を宿したかのように近くにいた住民を太くしなやかに進化した幹と同等の枝を振り回し殴り飛ばしていった。

地面に落ちる住民は唸り一つ漏らさず。残りは変わらない瞳をクロイツへ向けて歩んでくる。


痛覚倍増は完全に切れていますね。なら次は別の容器を先に垂らした部分に寸分違わず垂らす。


同じように木々の根を介して進化させる。

それは木々に()の足を与え危害を加えない程度の速度で同じように近くの者を襲う。

が、ここで面白い反応が見てとれた。

大多数が吹き飛んで最初と同じように地面に倒れるが、数名は反射速度が上がっているのか(元々の能力値は知りえないが)、意識を消失していて全てを避けていた。

――個人差によるこの状態はまだまだ観察の余地は残されてますね。それでは次は――

ああ。と思い出す。

そう、幻覚関係には懸案事項が。

その幻覚は本人しか見えず、回りからは普通に奇行としか見えない。

普段ならその発言で大まかな内容が把握できるのだが、しかもその内容は支離滅裂や、言葉自体が聞き取りづらいと言うのが大半である。

この実験では意識消失を前提しにており、内容等は把握できないのだ。

「ま、別に良いかな。それはそれで有益な何かが収集出来そうですし。」

幻覚薬は原液と同等のように使用すると脳や肉体に深刻な後遺症状が来してしまうので原液一滴に対して数百倍に薄めて試用する事が望ましい。

「その筈なんですが。先程避けたこの者達はそれを離脱している状態でもないですし。意識も戻していないように。」

半開きの口端から涎を流し、向かってくる。

まるで半死人。

容器を一つ取り出し、上空へと投げる。

放物線を画いて落ちた先は、残った者達の後方。倒れている住人の一人。

体に当たっても砕けず落ちて地面を転がる。

「面倒ですね、全部持っていきなさい。」

荷物の中身、容器以外も含めてぶち撒ける。

柔い音。硬い音。水の音。

目前に迫っていた者達に捕まれ、噛みつかれると。

「そんな理不尽は許容出来ませんね。」

全身を相手に密着させ、腕の力を抜いて足の力を抜いて掴んできた者達の体勢を崩し、僅かに擦れた部分から片腕を外し、捕まれている腕を巻き込みながら一人を地面に加減なく叩き伏せる。

動作の遅れを突いて残りを処理する。

苦悶の声を僅かに漏らし止めとばかりに追加の一撃。


辺りは木々の蠢く音。風の流れ。自身の息づかい。

疲れた体を休ませるにしても、長居をしていれば別の者達が襲ってくることは確実。

なので、むち打ちその場を離れる選択をしました。


向かっているのは目的地。合流地点と定めた場所。翌、賑わいのない人影もない港にクロイツは立っていた。

それは、捕虜達を待つためであり、次の島へ向かうという事を敢えてしなかった。

単純に声の主に従う意味も理由も無かっただけだったり。

実際、引き受けた以上は完遂させないと他への示しがつかない。というのが本音かもしれなかったり

その様な考えを巡らせていると時間を確認して建物の間の塞がれた壁に近づく。

壁向こうから話し声と足音が響いて聴こえてくる。


合流した直後であるのだが、これがこの島で最後の関門と誰かが考えた。

捕虜達とクロイツは一ヶ所で背を合わせながら周囲を警戒している。

理由を語るのも愚かしい。

全員の見ている前には人という壁。簡単には抜け出せないような厚さ。

全ての相貌には精気を感じず、一様に虚空を見ているような感覚を覚えている。

「ふう。早々に、いえ、どうも一つの仕掛けですかね。」

そのひとりごちたような物言いは、誰かが応えるより速く事態を終わらせにかかった。

簡単だ。

全員がその壁を崩したのだ。


皆の思考は戦慄していた。

一致しているものは。

――体が動く。勝手に。疲れがあるのに。どうしてだっ。――

この考えは一人の者に向けられる。

「ふあはははー。まだ残っていたのは想定ないですが、残存量は予想以上。まあ、これでこの島での目的は最初と最後で終わってます。後は連絡を入れて引き継ぎましょうか。」

笑いが港に響いていく。

同時に複数の悲鳴を伴って。


その日の夕刻。

船内の一室にて。

一人に詰め寄る複数のもの。

その言葉は非難と雑言。

集約すると。

説明を求めている。

この一点だ。

「さあ。説明してもらおうか。どうして疲れ知らずに、空腹感もなく。動き続けられた。貴様は捕虜協定を。」

「言いましたが、それは弁えてます。なので今から説明しますので落ち着いてください。興奮しすぎると肉体への負荷で危険ですよ。」

この言葉を合図に足から力が抜けていく。

「漸く切れましたか。」

床に崩れるように倒れ、頭から床に突っ伏すものや仰向けに倒れるもの。胃液を吐き出す者、痙攣を起こし弛緩しそのまま危険な状態になる者。

「おっと、危ないですね。」

危険な者に用意した薬を飲ませると治まる。

「さて、他の方は。居ませんか。」

倒れている一人一人を見渡し。

「最初の者以外はそれほど重症ではないですね。ならこれを飲ませておきます。時間と共に効果は現れるでしょう。」

倒れている者達を――一人を除いて放置し――床に座る。

「では、ご説明しましょう。」

安座で後ろに手を床に着ける。

「簡単です。貴殿方は万丈薬の効果で疲労、空腹、睡眠を抑制され、興奮による脳内麻薬の分泌により思考は常に鮮明であり的確な判断が可能。更に掠り傷程度なら問題なく回復しますし、毒系統は全く効かなくなります。」

「か、かか。それが、本当なら、どう証明、する。」

「出発前に言いましたが、全てを引き受けられません。と。案の定十数人は向かっているはずです。でも全員が追い付かずでしょ。その理由は、あの地下通路には侵入者避けの猛毒を蔓延させてまして。」

青ざめていく。

「毒の種類も豊富に流してましたし。あ、即死も、ありましたねたしか。それに」

途中で止める。

「お、お前はそんな場所に俺達を。下手をすればぜ。」

「だから無いんですよ。言ったでしょ。万丈薬だと。いつの間に呑ませたのかと思いますよね。ふふ。ほらあの店で皆さんに飲んでもらった薬、あれですよ。本当は少し舐めるだけで良かったのに全て飲んでしまいました。まあ、一つの実験として放置したんですが。調べたところ異常はありませんし。今回は概ね成功ですね。」

その説明を呑み込んで思考して内容を理解すれば、沸き上がる一つの感情。

《憤怒》が表に出てくる。

「だから、興奮しないようにと言ってるでしょ。ほら。」

興奮が頂点になるより体に限界が訪れた。

そう肉体の部分崩壊という形で。

悲鳴が絶叫に変貌し、絶叫が狂気に移行すると意識を手放した。

溜め息しか出ないクロイツは、捕虜達を全員寝室へと移動させ安静に動かないよう固定する。

その自室に入って端末を操作する。

呼び出しの音が耳に響き繋がる。

「そちらは――ですか。ええ。そうです。はい。番号は――ですね。はい。では、お願いします。」

端末の向こうから軽快な音が鳴っている。

「はい。御代わりないようで。雑談は省かせていただきます。では本題を――――。」

小さな窓の向こうは黒に染められ、硝子を打つ雨が次第に強くなっていった。

この先の何かを記すような。そんな雨だった。

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