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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
一章~転戦の日々~
34/111

一章~三つの道筋(経過)~1

僅かに進んで。船長マガダストが操る船では小さな(いさか)いが起こっていた。

「で、原因は」

「どうも根元的な理由はないようで、突如始まった。そう言ってますね。負傷者や傍観を決めている者達の話に依ればですが。」

「そうか。なら放っておけ。色々溜まってるだろうからな。発散させるには丁度良い機会だろ。まあ行きすぎれば介入して停めろよ。」

「貴方は。手を出さないのですか。」

「見て判るだろ。俺は操船で手が離せねえ。ならお前が遣るしかないだろ。」

「自動操縦に切り替えられますよね。どうして為さらないのですか。」

言葉に詰まってしまったのか、反論がない。

「はあ、なら後で何かしてもらいますからね。」

「そうだな。なら次の島の仕事は俺一人で終わらせようか。その方が手っ取り早いからな。」

「先程も言ってましたよね。そんなに面倒なのですか。その、向かう先の現島主とは。」

「はははっ。そうだな。あれは気難しいきらいがあってな。なら顔見知りの俺が行った方が何かと纏まるだろ。」

「そうですか。なら貴方に任せます。」

「それでも確実に悲惨を極めているだろうからな。それ以外の処理は任せるぞ。」

「可能な限りで対処しますが、彼抜きで話は進むのでしょうか。それが気がかりなのですがね。」

「心配ないだろう。ボウズには交渉の場には端末で連絡して当たって貰う。今の所はそれぐらいしか遣りようが無いからな。間に合わなければ特権を行使するが」

「そうですか。では、話は進むのですね。特権は出来るだけ控えてほしいですが。では諍いを停めてきましょうか。」

遣りすぎるなよ。との問いにええ。と短く答え船倉へと降りていった。

残されたマガダストは暫し見つめ、前へと向き直す。

その瞳には何かを宿していた。



あの景色は仲間との最後の景色だった。

それを最後に部隊は解散。各人の元居た場所へと戻っていった。

それから数年して再び合間見えた。それはあの大戦末期。全員が敵としてだ。

全員が全員の手の内を知り尽くしていた。其処からどう変化させるかも幾つか予測が付いていた。故に、ふふ。殺害方法は自ずと狭められた。

あの大戦は何をもたらし、何を(つい)えさせたのか。今でも解らないでいる。

だからといってあの時から時間が停まる事はない。生きている限り進み続けるしか、方法はなかった。

本当に最後の彼奴らの心からの笑いを見たのは、何時だったろうか。もう思い出せない。

涙嗚咽悲壮。恨み憎しみ怒り。怨嗟恐怖絶叫。苦しみ儚さ愚か。運命とは一括りに出来ないその再びの出会いは、混沌を要する劇地で再会を果たした。

全員が喜びより楽しさより後悔を起点に様々な感情に塗り潰されていた。

当時の感情は何だったのか。それすらも忘却している。

何せ目覚めて暫くは記憶の底に沈んでいたのだから…。



では、話を進めよう。

マガダストは周囲から向けられる感情に対して、無心を貫いていた。

数日掛けて目的の近くまで来たのだが。

終始付きまとうこの感覚には覚えがある。懐かしさと悲しさが共存する感情。負の感情を刺激として。だが、何処と無くむず痒さを感じてもいた。

「くくっ。俺の存在を関知して力をばら蒔いているな。」

その言葉は誰かに聞かせるために、もしくは聴かせるために発したもの。

のし掛かる空気はマガダストの一部を締め上げる。

「くふ。無駄と理解して尚も挑むか、なあコゾウ。」

目の前に存在しているかのようなその発言は、虚空に消える。

感慨に更けようと遠方を、目を細めると。

階段を昇る足音。

「はっはうあ。はあはあ。た、大変です。」

「ほうっ。どうした。」

「な何人かが。」

「発狂、気絶、嘔吐、痙攣、目眩、痺れ、幻覚。極めつけは心停止。そんなところか。」

言葉を失う。

「なあに、何時ものように、そして何時もの如く。重圧に負けたんだろ。あのメガネの兄さんから預かった気付け薬でも嗅がせておけ。その内良くなる。気にするな。」

予想に反したその対応。

「随分と冷静で詳しいですね」

慌てている事に馬鹿らしくなる。

「なに。言ったろ。顔見知りだと。まあ、彼方さんは俺を嫌ってるがな。」

「そんなので大丈夫なんですか。」

「なあに、心配ねえよ。その辺はな。」

「そうですか。なら此方は介抱の為に戻ります。宜しくお願いしますね。」

「おうよ。そうだ。嬢ちゃんに言っといてくれや。絶対に島主の領域には近づかないように。とな。それと」

「判ってますよ。そちらは終わってますから。はあ。」

「そうだな。では頼むぞ。」

その忠告は後に面倒になると。絶対に成ると判っているのでエルミリスへと執拗に何度も言い含めた。

一行は目的の島。中米ローゼン・フーバ属島テコマ・スタンズへと近づいていく。


薄暗い固いものに六方を囲まれた場所。両手首に嵌められた特殊鉱石より洗練された枷を煩わしく思いながら、出された食事に手を着けず。思考を内に沈めている。

所々に生傷が絶えないが、痛覚遮断をしているので問題は多少なりとも解消されていた。

そしてその器である肉体の内。心の中で眠り耽っていた。

「どうせやることは無いですし。なら内側の強化でもしておいて損はない。」

自問自答する。

「それにしても、あの人は大丈夫なんですかね。任せておけ。とか豪語して下手をしたらそれこそ笑い者ですよ。ま、それも一興ですけど。此方の仕事は概ね終わってますし。」

心の内で微かな笑いが響いていた事を誰も知らないし、知りようがない。


一方。マガダストは目の前の存在に対して、どういった反応を示せば良いのかを悩んでいた。

甲斐摘まんで話せば、予想以上に属島テコマ・スタンズは焦土化していた。手を打とうとも施しようがなく。早い話が廃島するしかなかった。

命の息吹など感じられず、地面は何かに汚染されているのか、鼻に着く臭いは顔を(しか)めるしかなかった。

先行して降り立った二人とエルミリスの家族の一部はその対策をする間もなく、その臭気に当てられ意識を手放してしまった。

これを見て船に待機していたエルミリスと家族。そして盗賊団の一部はその場を離れるしかなかった。

喚いた者もいたが現状で助けに行くことは愚の骨頂としか云えず、押さえつけてでも止めさせた。

完全に予定が狂ってしまった。

マガダストが気づいたのは硬い床の上だった。

衣服に乱れなく、肉体や精神にも危害は加えられていなかった。

傾げる時間もなく。背後で開く音。その次に複数の足音とその後に味わう屈辱の床への頭部の接着。

視線は上げられない。だが、存在はハッキリと心を揺さぶるように捉えていた。普通なら。そう普通ならこれだけの状況変異とその重圧は思考を簡単に鈍らせ、単純な思考しか思い至れなくなる。

だが、マガダストは不適に笑わず、何かに納得して心が無意識に踊っていた。

そして付いた言葉が、「やはりなコゾウウゥ。それほど俺が憎いか。それだけの恨みを今だに持続させられるか。面白い。だから俺は」

「黙れええぇ。」

拒絶と憤怒が響く。


一言で頭に疑問が発生した。そこで首に小さな痛みを伴うと強烈な睡魔に襲われる。

それならばまだ、良かったのだろう。が、マガダストは意識を喪わず。それでも朦朧として視界は歪んでいた。

足取りは覚束(おぼつか)なく、用意された台車に乗せられ移動する。

その先には懐かしくも思うことない。思い出すだけで怒りが込み上げてくる部屋へと入った。

二度目の小さな痛みで朦朧とした意識は確りと戻り、台車から移されたソファーへ体を沈めていた。

一枚板で作られた赤塗りのテーブルの上には湯気立つ茶器とその向こうに置かれた皿。その中には色とりどりの菓子類が並べられていた。そして、その向こうには別の茶器。さらに向こうには。

『お久しぶり。と。言った方が宜しいかしら。』

赤褐色の艶やかな髪を靡かせ、軍服に身を包んだ仮面の女が簡素な椅子に座る。

『それとも初めまして。かしらね。ふふ。』

仮面の口許に手をあてがい、笑う。

『そうだ。ねえ。聞いてもいいかな。』

瞬間、発露した空気は部屋を軋ませ全体に亀裂が走る。

『どうして。どうして裏切ったあああぁ。』

と、仮面越しに憤怒の感情を込め質問した。

それに対してマガダストは未だ、考えが追い付いていなかった。

〈何だ、これは。〉

それしか思い至れず。

「ほう。ならば、此方からも質問して、いや、先ずはそちらの質問の答えか、」

考える。振りでなく。本当に考えて、出した結果が。

「知らんな。儂にはそれの意味する所に検討がつかん。なので、知らん。としか言いようがない。失礼だが、どぅあ。」

仮面の前に置かれていた茶器がマガダスト目掛け投げ捨てられた。

『な、ん、ですっ、て。わからない。ワカラナイ。そう言ったのね』

「そうだ。見たところこの島の関係者だとは思うが小娘、お前では話にならん。早く島主を出せ。儂には時間が無いのでな。まあ、基本は別の者が取り仕切るが。て、おう。」

今度は皿を投げつけられた。

「あっぶないのう。食い物は粗末にするものではないぞ。」

『あ、あんたねええぇ。言うに事欠いて、』

仮面の奥には憤怒しか見えず。

はて。とマガダストは傾げた。傾げるしかなかった。

まくし立てるそのものいいには不思議と苛立ちがない。

「ふむ、では、真面目に行こうか。」

言葉とは裏腹に最初から真面目なんだが。

『ふ、ふん。そんな事言っても』

「小娘よ。お前は誰だ。島の主たる。愚行者が居たろう。あれはどうした。」

『愚行者じゃないわ。』

「これでは話が進まなくなるの。なら変えようか。島主たるスガラヴァはどうした。」

『ふん。それなら最近崩御したわ。』

「ほう。なんだあれ程豪語しておいて(くたば)りおったか。」

不穏な空気は、知っていて更に罵りを続ける。

「さて、正直に申してもらおうか。なあ、お前は何者だ。答えよ。」

『ふふ。あの人を罵って、表情も、感情も動かないなんて。やはり人非人だな。あの人が言ったとおりだ。この裏切り者がああああ』

僅かな機微を見逃さない。

『ふふ。裏切り者という言葉にやはり』

「いやにな。その裏切り者というのを連呼しておったので。そうか。」

マガダストから放つ空気は仮面女の比ではない。

「小娘。答えよ。」

『んぐっ。な、何かしら、ね。』

「はああ。あの、コゾウが。」

小さくが、確かな重圧は先程より濃く、更にのし掛かりは酷なる。

「小娘よ。最後だ。」

『な、な、んです、か。』

「簡単だ。小娘、お前は何者なのか。だ。」

『ふふ。知らないとは』

「知らんし知れないし知ろうとは思わぬし。」

溜め息が漏れる。

『ねえ。気づかないの。ホントに』

「気付くと言われてもな。初対面だろ。」

二度目の溜め息。

『まだ、解らないなんて、やっぱり聞いてた通り。省みない人なんだね。』

「なあにを言っとる。ほれ儂は早く仕事を済ませたいんじゃ。今の島主か代理を呼べ。」

三度目の後仮面に手を当て、何かを呟くと跡形もなく消え失せる。

その表情は仮面越しの怒りとは無縁の涼やかな表情だった。

「ほう。中々の、だが、やはりお初か。で、名のってほしいのだが。」

何か小さく呟いていて、がマガダストには届いていない。

「んん。そうね。では、改めて。」

数回深呼吸。

「私は先代よりこの島の権限全てを譲位され。現在はそれらが無意味となりましたが。」

「で、名は。」

立ち上がり深々と頭を下げる。

「私の名は、エフォルン・ヤシカ。先代の娘です。」

用意された飲み物を飲み干し。軽く戻す。

「そうか、コゾウの娘、か。なら、ととわぁ。」

今度はテーブルを繰り上げる。

大きな弧を描いて壁に当たり、反動を数回繰り返し止まる。

マガダストは当たる直前でどうにか避けた。

エフォルンを見ると、肩で息をして整える。

「ふん。で、裏切り者である貴方が何故今さら素直に姿を現したのかしら。それはつまり、死を覚悟し」

「ああ。待て待て、何を勘違いしているのか知らんがな、儂は仕事で来ただけだ。先程から言っていたはずだが。別段死生は関係ない。」

「そう。それでも、なんだけど。」

「なんだ。まだあるのか。」

「聞かせてほしいの。どうして裏切ったのかを。」

「三度目か。やはり身に覚えがない。裏切った。とは何を指しているのだ。」

「この期に及んでまだしらばっくれる気なの。」

考えるまでもなく、マガダストには思い当たる事が多過ぎて判断できていない。それを口に出しても今更なので黙っている。

ふとエフォルンが息を吐く。

「ねえ。本当に解らないの。」

傾げて肩を竦める。

不快で深い溜め息。諦めたのだろう。

「先代は言ってました。何を。と仰るでしょう。」

瞳を伏せ、語る短い過去を。


あれは一昨年。そう貴方がまだ上位であったころ。

父である先代と貴方は仲が悪く、長い間険悪な状態だった。

でもその年の瀬に貴方は父の前に突如現れ、こう宣言したと聞いているわ。

「早い話が、俺の権限をお前に譲渡する。それだけだ。だが今ではない。来年に一つ大きな仕事が入った。それが儂が現役での最後の仕事だ。なに、終われば直ぐに譲渡手続きをする。時間もかからないしの。それで終わりだ。今後、お前の前には姿を見せないと約束しよう。それで、」

それで、ね。


軍服の胸ポケットから一枚のカードを出しマガダストに差し出す。

「これが譲渡書。貴方から父への正式な書類よ。」

「ほう、まだ、あったのか。そうか。」

「んく。こ、これを、父は、凄く喜んで、その日は珍しく呑めないのに呑んだの。私も、嬉しかった。だって、父の悲願が叶ったのだから。」

「ほう。しかし、それは有り得ないな。」

伏せた瞳に負の感情を込めマガダストに向ける。

「ええ。ええ。ええ。ええ。そう、これは無効よ。判るでしょ。解るわよね貴方なら。」

カードを取り、軽く振りながら何を思うのか。

口から出た言葉は。単に。

「そうか。」

だった。

「仕方あるまい。なんぞ言い訳にも劣るわ。そうか、コゾウお前は本当に死んだのか。なあ。コゾウよ。」

陰鬱な空気が場を覆う。

沈黙は痛い。

口端に笑みを僅かに携える。


猿轡。手枷足枷。不能石の首飾り。不可視の帯布。無聴力。無知覚。見ただけでこれだけの拘束具を纏わせた者はいないだろう。

『おう。自覚を戻したか。小娘。いや、フェリムル・レドヴランよ。早速だが、約束してもらおう。今より全てを外す。が、暴れるな。受け入れるなら横へ触れ、拒絶なら縦に。そうか。ならこれより全てを外す。』

外されていく自身の体。最後に不可視の帯布を外され眼に入ったのは。

目を抉られ髪を毟りとられ鼻はひしゃげ唇を削ぎ落とされ舌を裂かれた後焼かれ歯を削られ顎を砕かれ喉は当然の如く潰されて皮を剥がされた後に触れるものを焼け溶かす液体をその上に掛けられ手足の骨を寸断され筋肉もぶつ切り、神経一本で繋がっていた。

拷問というより処刑後の様相。

眼孔からは血が(したた)っていた。

見えるだけでも助かる見込みは極端だろう。それでも、その光景に、当然の如く、絶叫した。

と思っていたがそれすらなく現実逃避をかましてしまう。様は気絶したのだ。


おい。遣りすぎだぞ。加減をしろとあれ程。

ういう。すいませんね。これでも軽い方なんですけどね。もう少し見てもいたいのですが、彼女の心が壊れますね。なら。何時ものように、そして何時もの如くに。

さあ、起きろ。



乾いた音が耳に心地よかったが。

酷く吐き気をもようす夢を見ていたような。内容は朧気ながらも覚えている。

だから、悲鳴を挙げてしまった。


「お、目を覚ましたか。」

顔を覗きこむ人、その横には若い男が困り顔と怒りが半々で同じように此方を見ていた。

「な、何なの。お前達は、いえ、それより父様は、あれ程の事をして簡単に」

「まあ、待て待て、落ち着こうか。フェリムル・レドブラン。」

「な、なんで私の名を。それよりどうして。」

「どうとでもなりますけど。まさか本当に偽名を用いていたとは思いませんでした。それに」

男は何処かへ視線を向ける。

私はそれに釣られるように同じ方を見る。

そこには。

「と、父様。」

「ん、んんんんぐああああ。んんんぐうっ。」

無傷だけど猿轡と手足を縛られた父様が床に転がされていた。

「ぶ、無礼者共が。我々を何と」

「ああ。それは飛ばして良いか。ていうか飛ばす。何せ俺達には時間が無いからな。なあ」

「なあ、て。あのですね。貴方、言いましたよね、数日前に」

「ん。何を、とボケるのは早いか。」

「判っていて結局私にやらせるのは如何かと思うのですがね。」

「まあ良いじゃねえか、首尾よく進んで一応調査は終わったのだろ。で、どうだった。」

額を抑え。諦めて。

「此方が調査報告書に」

端末を渡しそれを確認する。

「ほう。本当にあのコゾウか。なら後ろのは」

「ええ。偽物。この場合は影武者。というのが正解かと。」

「はあ、逃げたか。あのコゾウが。その辺を直せと言っておるの

に。それでも。」

涼やかに笑みが溢れる。

「まあ過ぎたことを嘆いていても無意味ですからね。なら現状で唯一権限を持っている彼女と交渉するしかないでしょう。ねえ。フェリムル島主代理。交渉といきましょう。勿論、あの者は此方が連れていきますがね。」

「ど、どうして」

「簡単ですよね総隊長」

「ああ。あれは紛れ者だろ。古い慣習で何時から摺り変わっていたのかは判別できないが、おい。嬢ちゃんソイツをひっぺがしてみろ。面白いものが見れるぞ。」

何時から居たのか、初めから居たのだろうか、嬢ちゃんと呼ばれた女が転がされた父様を足蹴にして顔に触れると。

「あら。これは懐かしいわね。まさかアンタ、生きてたのね。」

感慨深げにいう彼女の言葉には私にも解りやすすぎるくらいに怒りが込められていた。

「総隊長。」

「おう。なんだ。」

「言わなくても判ると思うけど、敢えて言わせて貰うわ。」

咳払い。

「この人の処遇は私に一任させてくれないかしら。勿論それに見あった結果を出すことを約束するわ。」

「はい。なんてのは野暮ですかね。ならそこの人は貴女に一任します。総隊長も異論はありませんよね。」

「はあ、俺の言葉を先に。がが、省けたか。嬢ちゃん予防として三人付けろよ。」

「はいはい。で、じゃあお兄さん、それと代理さんも同席願えるかしら。後は此方から1人、ヴァドロからの預りで1人出すわね。」

理解する間もなく私は蚊帳の外。気がつくと一部屋に五人が1人を囲んでいました。

なんなんでしょうか。


マガダストは黙って頭を抱えていた。

流れ出る汗は冷たい。

「やはり、そうか。ならそうなんだろう。」

端末に表示されている内容は。


先程の一室。

幻術使いイルシオンは、属島テコマ・スタンズへ降り立つ前からこの時までを詳細に語らず大雑把に説明した。

「な、それでは貴方はあの高等幻術の。」

「はは。それは現在、限定使用常態なものでね。まあ今は関係ないので省かせて貰おう。で、これが交渉と譲歩の内容になるのですが、どうですかね。」

「そ、そうね。これに関しては概ね同意します。でも私にそれ系統の物は通常通じないのだけど、その辺は分かりますか。」

「ええ。それの秘密はわかりますよ。教えませんけど。」

やはりという表情。

「ねえ。私の方の事を無視しないでほしいけど。」

エルミリス、相対するは紛れ者。

「で、何時から、なんてのは野暮かしら。ねえ。父さん。」

父さんと呼ばれた人物は黙ったまま視線を合わさず、俯き指弄り。

そんな態度にかまわず、言葉を切り出す。

「一応、言っておくわね。」

目を細め口端を釣り上げ笑みを造る。

そう造っているので感情なんぞ籠っていない。

不適な声と不穏な空気を漂わせ、

「久しぶりね父さん。何年ぶりかしら。ねえ。」

最後の方は聞くものによっては心が凍るかもしれない。そんな雰囲気を出していた。

黙って俯き視線を合わせようとしない。

「何も怒ってるんじゃないわ。ただ、なんで今まで連絡をしなかったのか。それを聞きたいの。教えてくれるかしら」

伏せた視線。漏れる吐息。

肩が僅かに動く。

と勢い良く顔を上げ、エルミリスは仰け反った。

突然の動作にではない。上げた者の瞳に射ぬかれる事を恐怖してだ。

なぜならその者の瞳は相手、世界、時間、事象等を見ていないのだから。

「な、なに、これ」

「少し失礼。」

虚空を見つめる者の瞳を覗きこみ、頬に触れる。

「厄介ですね。」

「厄介。て、なにさ。」

「これは相当深くに打ち込まれてますね。それも簡単には引き抜けないように返しまで付けてます。」

「どういう意味。なの。それよりそのその人はなに。本当の父様は何処へ」

「先ず言っておきますが、この者は我々と、いやある人物と関わりがある組織的な者の末端ですよ。そしてこの心は深く沈んでいます。そう簡単には上げられないでしょう。何者かは知り得ませんが、かなりの手練れとみられます。そして、代理。貴女の父上は何処に行かれたのかは我々は知りません。ですが、この者の心を引き上げれば或いはですがね。あくまで或いはですよ。保証は出来ません」

「そ、それはつまり、今現在、行方は。」

「ちょっと待ちなよ。質問は私がしてんだよ。嬢さんあんたの事情は大体把握したけどね。此方も探し人が見つかってもさらに心が無いってんで軽く衝撃なんだよ。はあ、皆になんて説明すれば良いのか。」

「まあ、この人に関してなら整った設備が有れば可能ですけどね。」

「それは心とやらを戻せると。」

「まあ、正確には呼び戻すか、解放する。と言うのが正しいのですが。」

「なら、そうしてくれると。私も助かるわね。で、嬢さんあんたはどうするのさ。その本物を探すってんなら、これも何かの繋がりさ。色々貸してあげるよ。まあ、それに見あった報酬は貰うけど。」

視線はフェリムルへと向けられる。

「少し、待ってくれないかしら。何がなんだか、整理したいの。」

「それに関しては認められないわ。だって、私達には時間が無いのだから。」

イルシオンも同意するように頷き。

「我々には期限、正確にはある人物に対してのですが、それには来年の3の月の末までという縛りが有りましてね。なので此方としては、無駄と判断した事柄について後回しにさせてもらおうかと。」

と、建前を述べておきつつ。後に猶予を設けた。

これは、マガダストに起因する。

「それでは、この者の処遇はエルミリス嬢に一任します。ですが経過報告等は逐次上げてください。少年にもその辺りを考慮してもらいますから。では、一時解散とします」


部屋の施錠を解いて各々が部屋を後にする。残ったのは静寂と吐息。

後を片す音。

「ふう。何で僕が呼ばれたのか。てか、知ってて同席させたよね絶対。はあ、来るんじゃなかった。終わったら戻ろ。」

肩を解して上体を反らし天窓からの光を浴びる。

「さて、終わったし、行きますか。」

部屋を出て施錠を忘れずに締めて、考えながら鍵を返却するため管理室へと足を向ける。


別の意味での静寂が漂う大広間。 沈黙が痛いのは1人。

マガダストは項垂れていた。端末を前に。

「あの、どうしたんですか総隊長は。ずっと頭を抱えていますけど。」

近くの者に質問したのだが返答は得られなかった。

推察するまでもなく。そしてする暇もなく事態は動いていく。


整列する部隊。その中にはどうしてか元代理であるフェリムルも交ざっていた。

前方には三人が立ち、腕を後ろで組んで黙っている。

騒々しさもない。息遣いと衣擦れの音のみ。

その第一声は。

「では、これより次の島までの海路を説明する。我々の担当区域は旧米所属属島と旧露属島の一部だ。だが、旧米は知っての通り南北を貫いている。だがあの災害で大部分が水没している。その上に複数の本島と属島から構成されている。そして。」

「これから我々の部隊を効率を考えて分けます。それを各端末に送りましたので確認をしておいて下さい。」

「それとこの島に関し上が協議するとさ。まあ最終的には廃島になるだろう。とこの二人とも同意見さ。なんで2日で関連資料やなんやを破棄するのでそのつもりで。そうそう、先に言っておくと、ちょろまかしをした者には相当の罰が科されるからそのつもりで。以上。質問が在るなら個々で伺います。それでは準備を始めてください。」

号令と共に各自が端末を確認して持ち場へと散っていく。


「さてと、そろそろ帰るか。知らなくてもいい事まで知ってしまったし。命の危険は無いけど。少し離れすぎたからな。まあ焦っても無意味だろう。」

焦土と化した島の人の踏み入れない場所に一隻の船。見た目には普通の船だがある加工が施されている。

「まあ、心配なんぞしてなかったけど、まさかね。そんなはずはないし。一応、島主に通しておくか。」

船に降り立ち、動力炉を起動させ島を離れていく。


翌日。情報破棄作業を1日で完了させ。跡形もない元港。そこには数隻の船が用意されていた。

元々乗ってきた船を除くが。

「何とか用意できたのはこれだけ。他は修理しないと動かしようがないわ。」

「十分です。これなら全てを賄えるでしょ。では、乗船し完了した班から出発してください。」

応答と共に振り分けられた船へと乗船していく。」

「おう。そういやあ、ボウズの方はどうなった。」

「はい。抜かりなくあのメガネの情報によれば端末は引き渡されました。それと上には今朝がた連絡を取り、廃島の手続きを完了させたとの旨を。」

「くくっ。どうせ憤慨してたろうな。」

「そうですね。まあ最後は諦めて資料を送信してもらいましたから。次の島到着までには返答が来るかと。」

「そうか。なら俺達も急がにゃな。」

港に吹く風が波を発たせ船を揺らす。

「あの、言葉を挟みますが、宜しいかしら」

二人の背後には元代理であるフェリムルが困惑したように聞いてくる。

「何でしょう。」

「本当に一緒に行っても良いのでしょうか。まだ私は納得してないのですけど。」

「構わねえ。というより行動を共にしたほうが何かと都合が良いからな。」

「それにですね。我々の上司たる少年なら云うでしょうね。『証人を確保したならそれも証明となりますから。』とね。」

釈然としない返事をしながらも無理矢理にでも納得させる。

「そう、なら一緒に行きましょう。私の役割は在りませんから。」

了解を得て三人は船に乗り込み、何もない、崩壊した島を後にする。

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