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Heart of 6 〜赤と譲渡〜  作者: 十ノ口八幸
一章~転戦の日々~
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一章~艦隊殲滅という土産~

試剣。フーリアプロー。

所有者の感情の一つを燃料に莫大な力を発現させる刀剣の一振りである。

その反面、使用後は脱力感が数日続いた後は仮死状態へ陥る。


「色は赤黒く、盛大なる力を顕現させよう。」

フーリの刃を走るように抑え込まれていた力が滲み出るように覆っていく。

やがて力は鍔を越え柄へと侵食し光魔の指に触れる。

瞬間の事で力は光魔を飲み込んだ。

自分の何かを燃料に燃えるようなそれに他人視点で見ながら軽くそう、軽くフーリを戦艦とは別の方向に振った。

それは凄まじく。飲み込まれた力はその一振りで放たれ、海面から水柱を造ると、その後に収まる余波で艦隊の数隻が波に呑まれる。

「試しはこんなものか。」

と揺れ動く艦隊から慌てた声が届けられる。

それを無視して二度目の構えをとる。

「熱き轟は深層に沈む答えを求めず。されど我は渇望する。」

フーリが纏う力がノッキングするように鈍く瞬く。

艦隊から再度の制止と交渉を持ち掛けられてきたが、それすらも無視した。

「深層から掬い上げる力を喰らい貪り。飲み下す五臓六腑に渡りかな」

瞬きは輝きへ昇華され鈍さが更に増す。

内蔵が熱く沸き立ち痛む。

「さて、先程述べたように其方は此方の忠告を砲撃という返答をもって応じた。そして、それに対して自己の責任とも言った。ゆえにそれを今さら覆す事はないと知れ。」

被り。

「憤怒という罪を噛みしめ彼の者等に重ねし罰を」

振り抜き力を解放させ戦艦に横へ一閃。凪ぎ払う。

解放された力の根源は怒り。

光魔の表層深層全てから溢れだした底なき憤怒が形を成して艦隊へと襲いかかる。

直後、全身を襲う虚脱感は不意に消失し、乾いた音を響かせながら足元へ落ちる。

それは腰に差していたもう一振り。

取り出した時より刃が欠け、刀身に幾筋もの亀裂が入っている。

「思ってたより強すぎたかな。」

その姿を見てもそれだけを口にして壁の上を歩いていく。


艦隊が木の葉のように海面から吹き飛び、水柱に呑まれ沈んでいく。距離があり声は僅かにしか届いていない。

尚も続けられる光魔の艦隊処理。負けじと無事な戦艦から砲撃されるも届かず。下手に近づいて轟沈する事に躊躇して攻めあぐねている。

対して光魔は腰に提げたもう一振りを(この時には刀の形状など無きに等しいが)気にしながら自身の内在する感情を使用し続けていた。


壁の外を。正確には島であるエクスミイトゥシウドゥ。を包囲していた艦隊の大多数。正直なところ残りの1隻以外は全て海面より下へと呑まれていた。

それは光魔の立ち位置が開始地点へ戻った事を意味している。

「はあ、思ったより長いですね。まあ島の周囲、それも海を含めた相当な範囲を囲んでいるから当然かな。さて」

止まった壁の上。壁の内側から出て直後の位置でフーリを正眼に、小さく振動させながら残した1隻を見据える。

拾った拡声器の電源を入れ口許に。

「おめでとう。貴方か貴女かは存じ上げません。それでも最後に残ったのはその戦艦です。では、これより僕の言葉を一言一句間違えないように貴女若しくは貴方の後ろでこれを見物している人達に伝えて下さい。お願いではなく、命令と、考えてください。それでは。」

瞳の奥に何かしらが宿るような感覚。それは間隔を狭めて次第に表層へと出現する。


「さて、これにて伝えたい言葉はありません。お疲れさまでした。では、」

フーリアプローを軽く振り、腰に提げる。

戦艦はもう届くことない距離へと移動していた。

それは光魔の言葉を聞くことなく、反転して逃げていた。その間は何もせず言葉を紡ぐに徹していた。だから。

「最後の仕事です。」

一度提げたフーリアプローをもう一度抜き出し、構える。

頭上に掲げ、剣先に指を添える。軽く足を広げ腰を落とす。

「後少し、さあ、これが正真正銘。」

その場で聞く者のいない、聞くことの出来ないので崩壊寸前の壁の上で口上する。

「我の名は。ーーーー」


これも世界に伝播する。

その日隠された島の存在が公に晒され、本島の主要幹部は辞任し追求の目を逃れるも数日後には全てが公衆の面前で裁判が開かれ判決は有罪。

更には属島を囲んでいた不明艦隊を全滅させられたことも世界に震撼させた。

そしてその位置も最後に残っていた1隻が一つの問題となった。

それはエクスミイトゥシウドゥの本島。その近くで轟沈したのだ。

この話は事が終わった後なのだが。


沈ませられる少し前。

「閃」

遥かな距離から光を放ち、音を伴い衝撃が届けられる。

それは最後の1隻を沈めたことを意味している。

深く吸い、浅く吐く。

「疲れた。」

言いながら壁の淵へと足を掛ける。

眼下に見える海面。打ち付ける波の音が何気に心地よく。

「さて、予定通りに行かなかったけど。うん。約束通り船を着けてくれましたか。なら後は此処から出て目的地へ行きますか。」

満足したかのようなその表情は一種の焦燥感が見えていた。

目を閉じて全身で風を感じ、潮の香を鼻腔の奥で味わうように吸い込む。

そして体を傾ける。

「待ちなさい。」

満足した感情のままに出発するつもりだった光魔を、その一言が邪魔をした。

「とと、と。」

深い、苛立ちを込めた溜め息。

「なんですか。まさかこの期に及んでまだ僕に。」

「違うわ。」

「なら何ですか。」

「ねえ、お前、いえ、君、違うわね。なら」

「あの僕は急いでるんで話なら」

「貴方はこれから一人でその、処理を」

「処理、てあの艦隊に関しての事後処理ですか、それは僕の門外じゃなくて管理外、でもなくて、まあ関係ないですから。」

「それは理解しているの。違うわ、貴方のその、仕事よ。」

「仕事、ですか。」

「そうよ、情報を見せてもらったの。貴方が世界の戦場を終わらせる存在だと」

「戦場を、終わらせる。ですか。」

「そうよ、だから」

瞬間、光魔から重い物が放たれる。

それは崩壊寸前の壁に大打撃を与えずとも多少崩壊を早めさせた。

「要件を」

重い何かを放ち先を促す。

「簡潔に言うわ。いえ言わせてもらいます。」

手が震え、嫌な汗が吹き出る。

「私を連れていって下さい。」

深々と頭を下げる。

驚きの声が多重奏で背後から聞こえてくる。同時に何故か気が晴れた。

彼女は振り向いた。

番含めた管理者全員が外に出ていたのだ。

「だ、代理。それはどういう。」

「あら、聞いていたのね、なら話は早いわ。聞いた通りよ。私はこの人に着いていくわ。」

「ちょ、それは権利放棄ですか。」

「残念だけど、違うわ。」

「なら」

「私は何、壁の管理長代理よ。でもその壁は、足下にある壁は無くなるわ。だからといって私の役職は変わらないし変えられない。だから番兵道。命令します。壁を脱出した後この人の提案した例の仕事を許諾したわね。ならその場で地盤を固め準備をなさい。そして整ったなら行動を起こしなさい。以上よ」

「それはつまり」

「ええ。一時的に貴方に権限の一部を与えます。」

震え始めている体をどうにか止めようと努力するが言うことを聴かない。体に鞭打つように小さく歯軋りする。

敬礼して背筋を張る。

「その命令承りました。番兵道これより現地へ向かい任務を遂行します。」

「そう、なら行きなさい。」

「はっ。」

番兵道含め全員が壁の内へ戻る事を満足したように眺め、光魔へ振り返ると光魔の姿が消えていた。

慌てて周囲を見渡すもその姿はなく、壁の淵へ行き眼下の海面を見ると停められていた船に見上げる光魔の姿を捉えた。

「待ってて、くれたのですか。」

叫びながら躊躇せず飛び降り船の甲板へ着地する。

「どうせ拒絶したところで執拗に追われるのは判っているので、なら許可して行動を共にしてくれた方が僕も助かりますから。それに、一人増えたくらいで態勢、違いますね。僕の仕事に支障はありませんから。ご自由に」

「そう、なら良かった。じゃあ行きましょうか。」

「その前に一つ。僕に付きまとう理由を」

「簡単よ。」

「なんですか。」

「謝って。」

「はっ。」

「惚けないで。謝りなさい。」

「なにを。ああ、あれは不慮の事故みたいなものなんで。それに僕を」

「それもあるけど違うわ。」

「違う。何を(てかあるのか)」

「あの時のその前に貴方は私に同じ事をしたわ。それも謝って」

正直な話。光魔に思い当たる彼女にした行為はあれの一回である。

だが彼女はそれ以外もあると宣った。

考えて思い出そうとしてもやはり、アレを除いても思い当たる節がなかった。

歯軋りする彼女の瞳には明らかな殺意が灯っている。

悩みに悩んで出した結論。

「やっぱり思い当たる事はないですね。何時、あれと同じ事をしたんでしょうか。」

伏せていた視線を彼女に向けると、両頬に乾いた音と痛みが走る。

苦悶の声を漏らすより早く次に脇を更なる痛みが襲う。

吹き飛ぶことは無かったのだが衝撃は体の中心を捉えたので少し痺れが残ってしまった。

再び視線を合わす目尻に涙を溜め、憎しみが増していた。

「酷いわっ。あれだけの事をしておいて。」

本当に身に覚えのないことに困惑する。

「あの、本当に何かしたんですか。てかあれと同じ事を。」

思い出しながら手をワキワキと動かす。

それを見てある箇所を庇う仕草をする。

「ん。んん。お、ああああ。」

と思い出したのかそれとも合点がいったのか。納得したのか。

「そうですか。あれはそう言う。なら、まあそうですねぇ。不可抗力であり不慮の事故なんで」

最後まで言うまえに彼女は泣き出した。

破顔し涙を浮かべ甲板に横たわり手足をメチャクチャに動かして駄々をこねるように泣きわめいた。

『うわあ。引く。正直引く。なんだこれ。この壁の管理者の頂点に立つ者だろうが落差激しすぎたろう。はあ。でも、なあ。ようし。』

痺れる体に無理して近づき手を伸ばす。

泣きじゃくる彼女の頬を伝う涙。甲板を鳴らす足。風を起こす手。



彼女。管理長代理は本土の出であり、若くしてある機関の長を勤めていたのだ。

それまでの経歴はなにげに重い。先に述べたように本土の出であり普通とはいえないがそれでも平凡な両親の元に産まれた。しかしその才能は生後間もなく開花する。

今はその切っ欠を省くがその才能に脅威を感じた両親、特に父親は顕著に現れ、泣く母親の反対を押し退け研究所に売り払われた。この時二歳になるかどうかだった。

それからは精密検査等を施して収用される。十を越えたときに転機が訪れる。

それをもって当時の対戦へと関わってくるのだがそれはまた何の時にでも。

まあその関係で当時と今代の最高機関から最大権限を保証されている。それは一重に彼女の功績が大きく関与していることは否定しようがない。

その権限を持って一時は我儘放題遣り放題。好き嫌いをして数々の命を弄んでいた。

それは壁の管理者でも、代行だが、好き勝手に振る舞っていたのだ。これは後に収まったのだが。



さて現在彼女はそれを彷彿とさせる振る舞いをして相手である光魔に駄々たをこねていた。

そして諦めたように手を差し伸べてきた。

して遣ったり。と確信して両の手をその手に触れる。と思わない事が起きた。


光魔は考えてあることに思い至った。そして確認のため彼女に近づき手を出すが届かないことに気づくと片膝を着いて目的を果たす。


差しのべられた手を掴もうとして相手が片膝を着いて再び手を伸ばしてくる。

そしてその手を掴もうとしたのだが。彼女の手をすり抜け、いや正確には払いのけ、その先へと至ったのである。

この時、彼女の思考は停止した。


光魔は泣き顔を向けてくる彼女の、差し出された両手を払いのけその先の、ある部分へと自身の手を向かわせ其処へと触れる。

瞬間、彼女の泣き顔は涙を引っ込め、足を停止させ虚しく虚空を掴もうとする手は人形のように伸び固まる。

触れても尚、確信が持てないのか余ったもう片方を使い鷲掴みにして揉み(しだ)く。

何をか、それは。

次の彼女の思考で知れるだろう。


何だろうと最初は思った。私の泣き声はどうも聞く者によっては不快らしく、最後に折れて私の要求を飲まざる終えないのだ。それは目の前のこの男も同じだ。だからこそ諦めて私に手を差し伸べてきたのだ。そう、その筈だ。その筈なのになんだこれはえ、なんだその顔は。ちょちょま、まてまてや、止めろ。そ、それ以上は本当に辞めろおおおおお。

あふぅん。

手が、手がぁ。私の、私の胸、胸にいいいいぃ。

え、え。しかも両手えええぇ。


揉み拉く両手から溢れるほどの胸を迷わず続け、そして二度聞いたあの高音が胸より先から聞こえてきた。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ」

確信の思考を確定させ、その耳に突き刺すような彼女の悲鳴を聞きながら尚も、揉み続ける光魔の次に見たのは静謐せいひつな空。

そして次に訪れるのは全身に感じる痛み。

目線を向けた先には鬼と思しき彼女の顔。それで意識を手放そうとしたが、落ち掛ける寸前で留まり彼女の足を避けて立ち上がる。

小さな悲鳴をあげて尻餅をつく彼女を無視して虚空を見上げる。

反論しようとした彼女は、光魔の醸し出す空気を読み取り思い止まった。

ふう。と気を落ち着かせる。

「なに。何を見ているの。」

睨みは忘れない。

「いえ、少し、面白いことになるかなと。」

「そう。ねえ。」

「はい。」

「なんで私の胸をあんなに。」

思い出して顔を赤くする。

「ああ。何、確認ですよただの。」

「た、ただのて。そんな理由であんなに揉んだわけなの」

「ええそうですけど、何か問題でも」

「お、大有りよ。ぐくっこの事は上に報告させてもらいますからその積もりで」

「ええ。好きにどうぞ。」

その言葉には感情が無かった。

「ねえ、もう一つ聞いていい。」

諦めて話を進めることを選択した。

「なんですか。」

「何故、最後の戦艦まで沈めたの。あれは見逃して報告させた方が」

「その必要はないかと。」

「どうして。」

「何時の世もそうですけど。あの艦隊や他の艦隊にも必ず保険を掛けるのが常套です。僕の話はあの後ろに控えている。いえ、ふんぞり返っている人が聞いていたでしょう。時間差なくね。それに遅かれ早かれ残ったとしてもあの艦は確実に沈められてましたよ。」

「その根拠は。」

「さあ、何となく勘です。」

「ふふ。今のご時世で勘ですなんてまともに言う存在がいるのね。」

「そうですか。まあ、気にしないで下さい。それにこれは貴女との約束でもありますから。」

「約束、ね。」

「あの艦隊を処理すれば解放してくれる。でしょ。処理とは始末する事です。なので簡単に終わらせるために殲滅させました。」

見上げていた視線だけを彼女に向ける。

「これでまあ、あれの後ろへの形無き土産としますか。」

微笑んでいるのだろうか。それとも別の何かを表しているのだろうか。そんな事を光魔を見ながら彼女は嘆息した。

「あああ、もう分かったわ。でこれからどうするの。ていうか何処へ向かうつもりなの。」

「ええ。そうですね。当初の目的なら今は旧中東辺りで事後処理をしている筈なんですけど。はは。どうせ戦争が終結している。なんてのはもう諦めてます。なので今から向かうのは、そうですね。まあ、燃料が持たないでしょうから近くの島にでも寄って現状把握としましょうか。別の道へと行かれた人達ともそろそろ連絡を取らないといけないかもですし。そちらの交渉も進めないといけませんから。」

光魔は甲板から船室へと入り端末に指示をする。

動力炉が元気よく響かせ船は崩落を始めた壁を離れ、二人を乗せて定めた島へと出航する。

次の目的の島は旧マダガスカル島・属島エゥプホールビア。

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