一章~裏側、恐怖、視線~
光魔がソンクル島へ到着するその前。ある施設のある一室に二人の非対照的な男女と一枚机の向こう側に腰掛ける男。指を組み、額を付けて項垂れている。
ことの時、男には重要案件が二つあった。一つは光魔が作成送信してきた戦争終結に関する報告書。
もう一つが数年もの間、島の周囲を監視の名目で張り付いている船団。
この船団は各続島にも同規模で展開されていると認識している。勿論裏付けも取っている。
前者は問題なく上に報告できる。だが、もう一つは打開策が見当たらない。
もう一つには以前から何度も上層に進言しているが最後には有耶無耶にされてしまうのだ。
これはある種の疑念を抱かせる要因になっている。
正体不明な事が主たる理由だが。領海侵犯している事も無く、それでも島の人達にとっては死活問題。常に砲門が島に向けられ、いつ火を噴くか気が気でないのだ。
そんな時、久しき、それでも積極的に会いたくはない二人が突然訪れてきた。それも眉間にシワが特徴と言われる一人にシワがなく。それ以上にもう一人は幸福全開な態度である。
さて、二人が訪ねてきた理由は一つ。二人もあの不明な船団が何者なのかを探りあぐねていた。統治する島周辺には居座らていないが、各島への大小の影響を考え出来る限りの情報を収集した。
が旧友の情報網を持ってしてもその正体に辿り着くことが出来ずにいた。ならこの時この場所で二つを打つければ良い。
その言葉を理解するのに瞬間掛かった。
男は一度拒否した。
だが、自身に打開案はなく。仕方なしに了承するしかなかった。
簡単に述べると光魔から送信された報告書は依頼主に送信されていた。そう、虚偽をもって光魔を一時的に島に留まらせたのだ。
予想より早く再提出されたが。内容も先の報告書より膨大になっているおまけ付きである。
船団を一掃すること事態、本当は簡単だった。
しかし、正体不明という枷が各島の考えとなっていた。
船団の後ろ楯がもし刃向かいが許されない存在だとするなら統治する島諸ともに一瞬も許されず消滅せしめられるだろう。
そういった思惑が目の前の二人やその他の統治者にはある。
だが光魔にはそれが当てはまらない。何故なら島とは関係なく、所属島も現在は無いことになっている。更に光魔自身の知らない権限がある。
上からの指令というのもある意味真実であるが虚偽である。
知らない間に手を染めていた。そういった方が正しいのだろう。
一撃目には正直身震いした。結果は考えていたより上々だった。
だが、この後の相手の迅速な対応が早く、釈明をしてどうにか領海線の手前で踏み止まるまで出来た。
この時、船団を壊滅させたのは光魔。現在はメキネと名乗っている者の仕業だとした。
もう一つ予想外なのは艦隊が即時展開されたことだろう。
二人がそれには驚いていた。
だが、光魔のあの宣言で島に被害はなく。
いや有ったのだがそれは仕方無いこととして内々に処理された。
窓の向こう側の光景。三人は恐怖を抱いていた。
船団殲滅させた刀の遠方斬激。それは拘束していた地下含め山の大半が爆音を伴い消滅したのだ。
幸いがあるとすれば居住区画に被害がなかったことだろうか。
初手であれを出されるのではないかと三人は思っていた。
一度外に出てから殲滅するものと三人は予想していたのだが。
その予想に反し地形を変えられたあの斬激。
崩落と雪崩による人的被害は皆無だったが研究区画と関連区画が壊滅したのだった。
男の視線には恐怖が憎しみを孕んで向けられていた。
姿を消した後の艦隊の轟沈には三人は判っていた。
これには予想通りだったのだが、次に姿を船上に現し手にしていた二本目の刀を視認して三人は戦いていた。これで光魔を射殺す視線が一層増したのだ。
もしあの刀の本来の力を真に解放していたら、一帯は確実に消失していたろう。
それをしなかった事には正直安堵したが、警戒用に放し飼いしていた凶魚の大半が死滅してしまった。
光魔が島を去った翌日。三人の心には恐怖が居座っていた。
それでも何とか保っていた。
何を。
意識をだ。
その更に何日かして恐怖は払拭された。
現在三人はあの時の一室に集まっている。
「で、これからどうする。マト。ソンクル島の問題はアイツのお陰で多分解決したろう。」
「でも、数日の内に艦隊が戻るのでしょう。どうします。」
「それは暫く我慢してもらうとしか。」
「暫く、ですか。」
「言っていたろう最終地点でと。アイツの力を目の当たりにして進撃しようという考えを持つのならそれは愚考としか思えぬ。なら大部分は解決済みと同じだ。数ヶ月我慢すればこれまでの数年間問題は全て解決するだろう。」
「解決するのですかね。」
「何が言いたいの」
「解決はするでしょう。ですがあの人は現在、自分の探し物の最中と聞いてますが。もし、この時だけでなく。幾つかで我々が関与していたと気づかれたなら」
「それの心配はないと。」
「何故なのか聞いても」
「あの人は、最初から気づいているでしょう。ねぇ。」
「そうだな。現在の表は知らないだろうが、裏は無理だろう。」
「それでは後に我々に報復処置が下されると。」
「だからその心配はしなくてもと。」
閉ざされた扉が静かに開けられる。
三人の視線は其々に固定している。
「戻りましたか。」
「どうでしたか、彼の様子は」
「ええ。表ですね。数日調べ尽くしたけれど。気づかなかったようです。お迎えした時の素振りにも不審な点は見当たらなかったし。」
「はは、もし気づいていたら今頃我ら含め世界に点在する者全員が血祭りどころか死をも恐れる所業をされるでしょう。」
そうですね。と男の横に座らずその膝の上に問答無用で座る。
「で、無事に次の島まで」
「ええ。無事に行けたと思うけど。ねじ曲げてまでね。」
「ふうん。でも彼の事だから絶対素直に目的地へは着かないでしょうね。いくら意識を変えようとも。」
四人が笑いあう。
「それで、島主である貴女はどうするの。メンディ。」
「そうねぇ。それはもう少しこの人に頑張って貰うわ。ね、アナタ。」
「はは、そうだね、もう暫くは僕が頑張って対応するかな。」
「それにしても」
「何よ」
「本当にマトはメンディの尻に敷かれてるわね。言葉通りに」
「ええ、はは。本当に返す言葉も無いですね。」
「でも二人もそうじゃなくて。」
「俺達はそういうのは過ぎている。それに」
「そうね、私達の場合はもう、ね。」
場の空気が一気に下がる。
「それで、一応報告は作成しておいたけど、提出は明日にしてこれから飲まないか。」
三人は頷く。
「と、その前に、これを見てほしいのだけど。」
メンディがテーブルに出した自分の端末。
操作して、画面に一つの受信履歴があった。
「これは」
「表の彼からの通知よ。受信はあの時よ。調べるために気づかなかったわ。まだ内容は見てないから皆で見ましょう。」
「予想だとこれからの予定だろうか。そうなら追加しないと。」
「でも、可笑しいわ。」
「何がだい」
「あれを出せるのは現在の裏よ。どうして出せるのかしら。」
「そう言えば、そうだね。まさか隙間から力を貸したのかも」
「はは、それは面白い。」
「で、何が書かれているんだい。」
無言。僅かな震え。伝い落ちる嫌な汗。
三人は不思議に思いながら画面を覗き、内容を読む。
初めは微笑みを次に口がきつく結ばれ、目は画面を何度も往復する。
同じように言葉を失い。そして僅かに震えている。
その後四人はその部屋を悲鳴と恐慌を伴って出ていった。
残された端末の光が照らし静寂だけがその一室を覆っていた。
暫しして端末の画面が消える。
残されるのは外からの微かな明かりと暗闇。
何処からか聞こえる声。
心か現実かは別にして。




