一章~出発と、破壊と逃げ~
あの後。崩壊させた部屋から出て、安全とは程遠いそれでも多少ましな森林の一画へと移動。地面へ座ると睡眠不足や疲れから来る疲労で暫し眠ることにしたが、意識を夢に落とす寸前で蹴り起こされ、地面を何度も跳ね、硬い何かに当たり止まった。痛みを覚えているが近づく足音に視線を向ける。意識を剥ぎ取られた女性が目覚めて自分を蹴ったのだと分かった。それが蹴られた以前に憤慨の表情で見下していた事が理由だった。その後に女性から叱責を受け、鬱憤を晴らしたのか咳払いをして、上司からの命令で。と前置きし始末書を書かくように強制され更に数日を島で過ごす事になった。
九割は別の理由だが。
出発の日。乗船所待合室にて二人の影。周囲に人はいない。
「これが上司からの餞別です。これは私からです。何かの役に立てるかは保証出来ませんが。」
返却された荷物と別の袋二つ。
中を確認する。
一つは数日分と考えられる食料と世界地図が詳細に入力されたカード。
一つは複数の装飾品と宝飾品。それと簡易端末。
「一つは解りますが、もう一つのこれは」
「上司からの言伝てです。」
二度目の咳払い。
「『始末書は受理した。よもや1日程度で提出するとは早いな。参戦前の資料も添付されているとは。だが、これ以上は看過できない。貴様には今後二度と当島に入ることを一切禁じる。例外はないと思え。渡した品。それは餞別として受けとれ。意味は今回の報酬と今後の旅費だ。拒絶拒否は一切を認めない。言っておくが《貴様》とはスワ・コウマの事であるお前の事だ。以上。』だそうです。」
「僕、滞在期間中その上司と一度も会ったことないんですけど。もしかして、嫌われてます。」
「さあ、それは分かりませんし嫌われている理由は判りかねますが、そうですね、何故か貴方の滞在中不機嫌なのは確かですね。表情には出ませんが。醸し出す空気が。それも現在継続中です。本日は他に理由もありますが。貴方と関係ないとは。思いたいですね。」
袋の口を閉じ紐を纏めて縛り、待合室からでる。
「何か煮え切らないというか。会ってないのに、何でそんなに嫌われてるんでしょうか。」
「さあ、貴方に心当たりは無いのですか。」
「会ってないので何とも。」
「会えば理由が判るのですか」
「それは一概には言えませんけど選択の一つとしては、まあ。」
一陣の風が吹き、空へと舞い上がる。
「それでは、道中。いえ海上お気を付けて。」
「ううん。お気を付けて。と言われても。ですね。」
視線を海へ向けると、いまだ煙燻る刻まれた船の残骸が漂っている。
その間に浮かぶは肉の塊。
その周辺には滲みでる赤。
啄む海中生物。
「コレの上に。」
海面から視線を上げて先を見ると。
「アレでどう気を付ければ良いんですかね。」
殲滅した船団以上に戦艦が島を囲んでいた。
「現在は領海線手前、監視の名目として居座っているのです。全く。勿論、対象は貴方です。本当に人気者ですね。」
「照れた方が良いですか。」
「多分。いえ、絶対それをすると上司が飛んで来て貴方をどうにかすると思われますが。」
口を噤む。
「なら嫌われてるらしいので早く出ますね。これ以上は本当に迷惑ですから。」
何処かは見当が付いてないが、全身を射す複数の視線がずっと感じられていた。
用意された船。小型の上、武装たる物は備えておらず、普通に考えればこのまま乗ってしまえばまな板の何とやらだろう。
が、光魔に躊躇する時間はない。与えられていないのも一つの理由だが、もう一つ。予想より無駄に日数を消費してしまったことが主な事。
なので船に乗り、船室へと入ると端末を置いて機能同調させ自動航行させる。
「それでは、これにてもう会うことはないと思いたいですが、今はさよならと言わせてください。」
女性は一瞥して、別れの言葉を口にする。
「後で送りますね。」
唐突の言葉に女性は怪訝な表情。
進む船の船頭に光魔は座っている。
端末を操作して、時折前を向いて座っている。
だから艦隊は意図を謀りかねていた。
対して光魔の船は領海を出ようとしていた。
さらに慌てる艦隊。
誰もが予想できない事態が起きる。
事態が飲み込めないのは艦隊だけではなかった。
反対。つまりはソンクルにいた人達も同じだった。
誰もが予想していたのは、そう領海から出ると同時に警告無しに集中砲火を浴びるだろうと。そう思っていた。
現実は低速にして航行、ある地点の手前で行動に移る。
領海と領海を隔てる線。そのようなものがある。
実際はそのような線引きは目に見えないのだが、それは常識として引かれている。各島の領域を一応明確に示すために。
昔からある領海線とは違うが。
違うとすればこの線は細く太く。見えない故に変化する。
その太さは広さと同等。
そして暗黙の了解が存在する。
〈境界線上は不可侵なり。〉
暗黙だけに下手には動けない。
動けば後に多大な影響を及ぼす。
『ええと、これでいいですよね。んんんっ。テスト中。あーあー。聴こえてるかな。』
その場の全員が理解できないような事をしはじめた。
『よし。まあ、こんな物ですね。さて、ええ。回りくどい言い方は嫌いなので率直に申し上げます。』
俯いて少し笑むと。
『現地点より失礼します。艦隊の皆様、そしてソンクル島の皆々様。僕の名前はメキネ。現在多忙なのであまり語れないのですが。言わせてもらいます。』
欠伸を噛み。、
『ああ。どうせ最終地点は決まってますから。その辺は省きましょう。それと幾つか土産を用意します。最初はそうですね、苦いもので良いですか。』
言い終わるかどうかの内に光魔は忽然と姿を消した。逃げる場所もない。落ちたのでもない。海上で前触れなく消失したのだ。
事態を激変したと気づいたのは一隻の戦艦から煙が上がった事に端を発すること。かと思えば次の瞬間には爆発炎上轟沈していく。
それらが次々と起きる。
何が起こっているのか検討が付いていたのは四人だけだろう。
轟沈していく船を見ることしか出来ない艦隊。沈む船から悲鳴は不可解に無く。静かに海の藻屑となっていく。
この光景を目にした島民は短いようで長く感じたと証言している。
気がつけば光魔が船の屋根に佇んでおり、何かを持っていた。
それは灰色の刀である。
装飾もない抜き身同然の刀。
刀を肩に担ぐ。
『はあ。良い汗欠いた。』
言葉とは裏腹に汗は一つも欠いていない。
『ふう。聴こえているでしょうか。艦隊を沈めた事に関してはあの島、ソンクルとは全く関係ないと宣言しておきます。』
なんの前置きもなくこう宣言した。
轟沈した艦隊。一隻だけ無傷な艦が煙漂う中で完全停止している。
『最後に残した戦艦には素直にお帰り願って上司か雇い主に報告してもらいます。素直に帰るしか出来ないでしょうけど。』
それを持って苦い土産と成した。
『これにて失礼させてもらいます。』
刀を腰に構えると振り抜き、一気に弧を描くように空間を切り裂く。
空気を擦り合わせたような高音が鳴ると、何もない空中に大きな切れ目が入る。それはちょうど境界線を中心に出現していた。光魔の船は最高速をもってその切れ目へと入っていった。
『それでは皆様二度と会う事の無いように。』
その言葉を最後に裂け目が閉じていく、と同時にその周囲の空間が雷光を迸らせ、海水巻き上げ残した戦艦へと襲いかかる。
戦艦から悲鳴が響いていた。
不思議とあれだけの高波に遭いながら転覆せず、主砲は大破しているがそれ以外は無傷であった。
残された戦艦は安堵か悲壮か暫く動くことは無く、その後数日間停泊していたが領海線を離れ帰還した。
この時の報告書には映像が添付され言葉では一言。
「ええ。これが静寂の地獄絵図と例えれば宜しいでしょうか。」と。




