序章~二つの道の先~
俺と彼。彼女と私。自分と相手。朕と啓。下僕と主。師と弟。上と下。空と海。天と地。
複雑なこれまで成ってきた意識が混在する中であり得ない量の知識と経験を追体験している。
常人なら肉体の崩壊。命を繋ぎ止めても自我の消失。
元二つの存在は繋ぎ止め崩れることなく世界に混在した状態で顕在してしまった。
云わば肉体と意識の混在。
歪な容姿はしかし、歳月を掛けて分離と統合を繰り返し、元の形に近い器を生成するに至る。
一方が言う。
契約は大事だが、それより出会う確率が低いのに何時までも気を張るのはバカらしい。肩肘張らず力を抜いた方が良い。そうしないといざと言う時、力を発揮出来なくなる。
と、宣い。
一方が言う。
契約なんだよ。それも解約不可能な。何時出会えるかは知らないというのには同意するけれど、準備を万全に整えておくことは間違いないよ。だから特訓をしよう。
と、宣う。
仲は悪くない。良好だろう。
が、契約上の事に話が及ぶと平行線となり、噛み合うことは絶対にない
交じり合うなどもない。絶対に。
そう契約の話以外は。
いつもこうなり、少しすると喧嘩別れをして別々の道を歩む。
お互いの怒りは溜まっては消え溜まっては消え、数えられないような数を内に留めている。
数えることも出来ない、何百回目か、それか何千回かもしれず、仲違いをしてから数日。其々は身を寄せていた街で暴動に遭っていた。
その表情は正気を完全に失っており、本能のままに殺戮強奪等を繰り返していた。
根元を探って沈静させることはせず其々は、足早にその街を後にする。
手懸かりを見つけられず。それでも途方にくれる隙などない。
行く先々。当然のように面倒事に巻き込まれる。
そして、ある時、顔を合わせれば其々が望まぬ形、最悪のタイミングで再開してしまったのだ。
双方がその時属していた組織は互いにいがみ合い、身を寄せる以前から死者を出し続けていた。
双方の主張はこの島の権利は此方にある。突然現れて権利を主張するとは看過できる物ではない。此方には証明できる品がある。
と、両組織は同じ主張を繰り返すだけ。
ならばその証明できる品を中立の場所で公平に見せ合うのが筋だろう。
だが、双方はどうしてかこれを頑なに拒絶する。
その理由が。
運び出した瞬間に品を消される確率が高い。なので厳重に保管している。
運び出すなど持っての他、有り得ない。
それが、双方の主張。
実に下らない。
下らなすぎて怒る気も失せてしまう。
だが、それは好ましくない。なので行動に出てみた。
厳重に保管してある場所は知ってある。組織は信頼してくれている。
故に楽に入ることが出来た。
入って左右に怪しさ満載の鉄扉。
一方は鈍色。一方は鮮やかな単色。
迷わず億さず。まるで知っているかのように選択の扉全てを当てていく。
最後の扉を開け、其々が目にしたそれは。
其々が目を開けると磔にされ、今正に処刑されようとしている。
足下で誰かは知らないが罪状を述べている。
冷めた思考と覚めた眼で見渡せば同じように反対側には磔にされている相棒。
不快と吐き気が纏わりつくように腹の底から込み上げてくると視線を合わせ、一言も発せずに処刑は執行された。
その後二つの器は丹念に処理され、跡も残さず綺麗に葬られた。
これは、少し前の話。
場所も知られない。小さなありふれた事柄。
記録にも誰かの記憶にも残されることはない。




