序章~其処までに至る回想~9
この時、光の収束と共に閉じた目を開けると船に揺られていました。
あれだけの濃密な出来事が嘘のように、濃霧から出た瞬間の晴れ晴れとした光景のように。そう全てが幻だったのかと思えるような。そんなあの島での出来事が虚構だと突きつけられていたように。
僕の目には絶望的な戦場が広がっていました。
あの島へ入る前と寸分違わず僕たちを追いかける艦隊。
鳴り止むことのない砲撃と着弾。水柱、獣の咆哮と海鳥の声。飛び交う力の応酬。
それらの対応に追われる皆さんの表情には、あれに対しての表情でなく目の前の戦場から脱出する方法を模索する表情でした。
不可解に思いながら僕も乗り込んできた者の相手をして倒していきました。
一隻沈める毎に距離を離し、近づく戦艦から沈めていきました。
これを繰り返して僕達は艦隊を沈められたのです。
艦隊を全滅させ、被害は有りましたけど無事に次の続島に近づいていました。
本来は数時間で到着するはずですが、艦隊戦やあの島での事を考えたらまあ、当たり前のように時間を食いました。
不思議な現象がありました。
この時、時間を見たのですが、艦隊戦と続島までの移動距離を差し引いて、あの島での時間を入れても時間が狂っているとしか思えませんでした。
あの光に包まれてから脱出するまでの時間が一時間も満たないという事を。
そして、其だけでなくて僕以外の、皆さんのあの島での記憶が欠落していたのです。
それなら。と、僕の荷物に忍ばせていたあの歪な品を見せようと探したんですけど、どうしても見つからず、まるで僕を狂者のように見る皆さんの視線にさらされ、居たたまれなくなって接岸と同時に船から飛び降りて、背後から止める声を無視して逃げてしまいました。
逃げた先には夢中だったので分からなくなって、だから袋小路に入った事にも気付かず壁に打ち当たり地面に頭を打って気絶して止まりました。
時間はそれ程経っていないんでしょうけど、頬に当たる水滴で目を覚まして起き上がると、勢いを増して視界が悪くなりました。
適当に走った上に現在地も分からず、さらに端末も持っていなかったので正直途方に暮れてました。
その場に止まるのはだめなので、袋小路から出て雨宿りできる軒先を探していたんですが、はは、小さな軒先すら有りませんでしてね、激しくなる雨で全身濡れに濡れて、適当に歩いた先は濁った川でした。
島での事。艦隊戦。皆さんからの視線。そして、気力と体力が尽きて、疲労も相当溜まっていたから僕の意識は遠退いて、貰えませんでした。
「おい。見ろよ野垂れ死にだぜ。身ぐるみ剥いで売れんじゃね」
「よせ。あれは関わり合いになる存在ではない。放っておけ。依頼主も待っている。急ぐぞ 」
「チェッ。つまんねえの。」
二人は豪雨の壁の向こうへと姿を消しました。
本当に意識が飛んだのです。
耳に纏わりつく騒がしさはその時まで見ていた夢に影響していて、僕に対する話し声が聞こえていました。
『で、どうするんだい。・・・・に知られたらどうなるか。』
『解ってる。でも放っておけるわけないじゃん。責任は取ります。だから、少しの間だけ。ね、お願い』
老人と若い声。その相談事は夢の物語と関係なく聞こえていて、次第に夢から目覚めようとしていました。
この辺り、巻きで良いかなぁ。
目を覚ますと僕より少し上だろう少女が微笑みながら看病してくれてました。
彼女はこの辺り一帯を牛耳っている組織と対抗している人達と繋がっているらしく。その人達が信頼しているとかで、僕みたいな行き倒れた人なんかが宿に運ばれてくるらしく、運んだ人達から僕が豪雨の中で倒れている所を助けてくれたらしい。
それで、僕の事に関しての情報を探っていたら、まあ、お金が掛かっていたとか。
で、額が莫大なだけに僕を引き渡せと言うのが大半で、それをどうにか抑え込んでいるだってさ。
詳細を聞いてきたので一応、虚実を混ぜて話しておきました。素直に話した場合、あの辺一帯焼け野原だけじゃ済まなかったでしょう。
怪しんでいましたけど、納得してくれて。
僕は全快までいかなくても、ある程度回復するまで居座る事になりました。
なにか大変な事態になっていたとかで普通なら数ヵ月は昏睡するとか。
驚かれました。
失礼ながらと、前置きして、場所を教えてもらいました。
最後に彼女の名を教えてもらいました。
名を、ユン・リイチェと云うそうです。
四日後でしたか。
僕の体調は万全に近く翌日には出ていこうとしていました。
判りますか。これ迄の流れで何もなく素直に事が運んだためしなんてありません。
有りましたよ。最悪が。
その日はユン曰く、珍しい晴れ間だとか。
こういう日には外を出歩くことは控えるのがこの島の掟。
なんでしょうか。それなのに。別の部屋が騒がしかったんです。
胸騒ぎがして、静かにしているよう言われましたが、その胸騒ぎに従うため、自分の身の安全は自分で何とかするから。と言い訳して付いていきました。
件の部屋には殴られたのか全身を腫らした男性が床で気絶していて、さらにその連れか仲間か知り得ませんが、女性が羽交い締めにされ、床に組み敷かれてました。
怒号を響かせていたのは両拳を赤に染めた微妙な年齢らしい女。未だに興奮を抑えられず。肩で息をしてました。
ユンが部屋に入ると女は、床で気絶している男性に容赦ない蹴りを放ち男性の体内が潰れる嫌な音が室内に響きました。
女性が更に悲鳴を上げると耐えられなくなったのか気を失いました。
ユンは事態を直ぐに理解して暴力を奮った女に耳打ちして室内に備え付けていた通信装置で従業員を呼びました。
僕は一連の出来事を廊下で眺めてるだけで、何もせず運ばれていく男性を見ていました。
この時もどうしてか胸騒ぎは収まらず。部屋に居たときより早鐘を打っていました。
胸を押さえ、息を整えていると女と僕の視線が合い、女の顔が一瞬で青ざめていきました。
「どう、いやあり得ない。」
そう言い残して女は出ていきました。
ユンはその後を追うため駆けていきましたけど、擦れ違い様の僕を見る目が最初の疑いの眼差しになっていました。
壁に持たれて膝から崩した僕は呆然と赤く染まった部屋を見続けていました。
その日の内に僕は有無を言わせず追い出されるように出ていかされました。
心配される事も涙に暮れる事もなく淡白に荷物を持たされ簡潔に挨拶して追い出されました。
渡された荷物の中には違法な端末が紛れ込んでいて、知りたかった情報全てを知ることができたんです。
その後、なんやかんやが有りまして、皆さんと合流できたんです。
はい、終わり。
・
・・
・
・・・
・・ ・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・ ・・・ ・・・・・・・・
・
・ ・ ・
誰も納得してくれないですよね。
あのですね。正直、変わらないですよ。
何がと聞かれるかもですけどね。
ええ、ええ。そうです。僕は、襲われたんですよ。何時もの如く、有りきたりで最悪で、そして、眠いです。
思い出しましょうか。ええ。思い出せば良いんでしょ。はっ。
疲れますねえ。
では、思い出しましょう。
端末を操作しながら荷物に入っていた物を調べてました。
それには食料。乗船用の切符。少額の通貨。替えの顛末。後は、雑貨が入ってました。
近くで休憩するために腰を下ろし、荷物を下ろして早めの食事。
お腹を軽く満たして端末を操作、懐に入れました。
空を仰ぐと背中に硬い物を押し当てられ、命令されました。
振り向けば殺す。そんな割りと単純な命令をされ、従うと僕の荷物を奪って逃げ去りました。
「はあ、やっぱり、こうなるんですね。」
少し疲れていたので眠ることにしました。
これで全快しました。
向かって着いたのは二組の男女が護っていた大きな扉。
歩いて近況なんかを聞いてみましたけど無視されました。
予想では煙たがられるかな。と考えていたのですが、予想外な無反応で面白くない。なので、
「ごめんなさい。こんな物を拾ったんですけど。」
手に持っていたのは二色を不均等に配した二枚のカード。
見せたと同時に四人の表情が一変しました。
連絡を取られて、通る様に促され入ることに成功しました。
高い壁に遮られたその向こう側は、想像よりまともな小さな街が建造されてました。
何をして良いのか分からなかったので適当に道なりに歩いていると、
「おい。お前か連絡の有った少年というのは。」
上から落ちて、違った、降りてきた。
「はあ、誰ですか。」
「その前に見せてもらおうか。」
言っている事に対して傾げてから。
「門前で見せた二枚だ。」
納得しましたけど。
「それは出来ないです。」
制止するように促して、
「アナタの身分と名前も知らないし、現れていきなり見せろと言われれば誰でも警戒しますよね。」
顎に手を充てて、考えると。
「聞きたい。」
「どうぞ。」
「此方の素性を開示して、君は素直に聞き入れるかい。」
「それはまあ、無いとも云えないですね。証明してもそれが信頼出来るものとは限りませんから」
「はは。中々疑り深いね」
「それは有り難う。と言った方が」
「ふむ。そうだね。では少年よ。此方の開示は承諾しよう。だが入手方法だけは説明してほしい。」
「まあ良いですよ。とはいきません。だって、アナタが僕の会おうとしている人と敵対している派閥に所属しているかも知れないでしょ。なら、教えても僕に利益もない。アナタが所属している派閥にしか旨味がないですよね。一方的なのは嫌ですから。」
何か知らないですけど、嗤われて、一人で納得して、連れていかれました。
連れていかれた部屋は何時かの、あの治外法権で会った二人が居た部屋に似ていました。
そこの部屋の奥に座るように指示され従って暫くすると別の人が入ってきました。
あ、そうでした。
そう、この人もです。
でも、それは一瞬で消えて僕の対面に座りました。
相手が座って、出された飲み物を飲まず、かき混ぜながら遊んでいました。
突然に一人が声を荒げながら部屋を出ていくのを切っ掛けに次々と部屋に常駐していた人がものの数分で全員出ていきました。
「はあ、」
頭をガシガシ。
「お、もういいか」
飲み物を一気に飲み干しました。
壁を引っ掻く音が響いて。
「ふう。」
視線を器から僕に、直ぐに落として、
「聞いてもいいか。」
「はい。聞かなくても理解していると思います。あの二枚ですよね」
「解っているなら早い。」
「何処でと言われても、僕の荷物を盗んだ人が居ますよね。それと交換です」
「ふん。盗品など山のように流れてくる。何れを指しているか検討も付かんな。大事な荷物か。なら」
「いえ大事な物は入ってません。強いて言うなれば、ですけど乗船の切符が入っていたくらいですか。ねえ。」
「ほう、乗船切符か。何処へ行くにも。違うな。島から出るには必要な代物だ。大金を注ぎ込んでも早々手には入らん。どうして持っている。」
「教える義理はありません。」
「なら話を戻そうか。あの二枚をどうして持っている。何処で手に入れた。」
「ええ、それはですね。」
懐に忍ばせていた違法顛末を見せて、
「これのケースに入っていたんです。まあ来る途中で気づいたんですけどね。」
「で、どうする。」
「回りくどいのは止めませんか。進まなくなりますから」
黙ってしまった。
そして静寂の中、僕は眠ってしまいました。
「ふあっ。眠い。」
「起きたか。」
目覚めると薄布一枚だけを着させられ、足には重りが装着されてました。
「状況は分かるか」
「ええ、何とか。で、僕に何をさせるんですか。」
「何、一種の遊びだ。」
「命を掛けた。ですか」
「おう解ってるなら話が早い。一試合してもらおう」
「拒否権は無いですよね。ううぅ、やりますよ。やれば良いんでしょ。」
「呑み込みが早いな。」
「ええ、似たようなというか、腸煮えくり返る事が最近有ったので、一々騒ぐのもバカらしいと。さ、早く始めてください。あ、これって試合に勝てば解放ですか。それとも色々話を誤魔化して負けるまで続けさすとかですか。まあ、どちらでも良いですけど」
「はは、そのような事はせん。一試合だけだ。」
「で、質問。良いですか」
「なんだ。」
「僕がこの試合に出るとして、勝った場合の影響と負けた場合の影響を教えて下さい。」
「それを聞いてどうする。」
「別に、ちょっとした好奇心ですから。教えてくれないなら結構です。じゃあ、始めますか」
壁の装置を押すと格子が競り上がりました。
僕は振り返り有ることを言って受けとると、会場へと歩きました。
「さあ、本日のメインイベントオオオオオォ。ミエドコロシアァァム。模範んんんん、試合いいいぃ。それでも賭けは成立するぜええ。少額だがなああ、」
大・歓・声、でした。
去年のアレを思い出しましたね。
「先ずはアンダーゲートからだあああ。挑戦者、名前は。」
止まりました。
僕は手近の人を手招きして拡張機を貸してもらい。
『ああ。どうも。です。自分名をホイドウと言います。どうぞ宜しく。』
「そか、続いてえええぇ。アッパーゲートからはああああ。このコロシアムの覇者にして生ける伝説うぅ。王者アディーダ・シュルツウウウウゥ。」
大・声・援。
「それではエキシビションのルールだ。アディーダ・シュルツは肉体のみ。対する挑戦者は、武器の使用が認められている。王者と同じ土俵に入るのも選択だ。判定は戦闘不能と判断された場合のみ。それ以外は続行とする。」
歓声。
「では、挑戦者。武器の使用は」
「じゃあ、貸してもらえますか。そうですね。刃を落とした剣でお願いします。有ればですけど。」
大爆笑。
「まさか、王者に対してか。面白い。さあ王者は。おお。了承した。これで試合は成立。刃を落とした剣を用意する。暫くお待ち願いたい。」
静寂。
そんな、空気が張り積めている舞台で欠伸と伸びをする人が。
それが僕でした。
枷のカギも渡されたので外しました。
直ぐに渡されると思っていた武器が渡されないので一応身体を解す事にしました。その過程で欠伸を出てしまいました。
客席から罵声。
王者からは殺意を向けられました。
「では、」
「と、その前に確認したいんですけど。」
腰を折られた実況は咳払いをして許可をくれました。
「有り難う、ございます。あのですね。もし、もしですよ、万に1つか、億に1つか。ですけど、そちらの王者さんに勝ったらどうなりますか。」
「はっははははは。それはない。絶対だ。」
「いやだから。万が一と言ってますよ。」
『その点については心配することはない。支配人たる俺が保証しよう』
「おおっと。支配人自ら保証したあああ。」
「じゃあ、良いです。」
二度目の欠伸を噛み殺して。涙を脱ぐって、希望した剣を渡してもらえました。
これで勝っても誰も文句を云えないようになりました。
「それではああああ。準備が終わった、始めよおおおおかアああアああアああ。」
最高潮。
「二人は中央へ。お互いに、礼。」
審判が指示して礼を促しました。
僕はそれに習ったのですが、気が付くと倒れてました。
んで、高笑いする声。理解しました。渡された剣は飛ばされた時に手から落ちて、舞台のそれも声の主近くに落ちてました。
起き上がろうとすると隙を与えないように執拗の容赦ない乱激を避け続けて舞台の隅に追い詰められました。
「ははははは。命乞いするなら考えてやらんでもない。さあ、膝まづいてみろ。頭を垂れてみろ。」
「うあうあうあ。」
僕のその恐怖を張り付けた表情と言葉に、更なる高笑いをする王者。
「泣くは降参となるぞ」
「・・・」
「ほう。負けは嫌と見える。だがこの状況で出来ることはないと思うが。」
「・・」
「だが、膝まづいて命乞いするなら考えてやる。」
「・」
歓声が場内に響き渡りました。
興奮していたのか殺れ、潰せ、壊せ。なんかが聞こえてました。
俯いて。
「ふ」
「ふ」
「ふあああぁ。眠い。あ、失礼。」
どよめきました。
「それが答えか。」
王者は切れて攻撃を再開させました。
でも、最初の一撃を避けて起き上がり、
「答えも何も、命乞い。でしたか。無意味でしょ」
と言ってから王者に一蹴り。
傷は付きませんでしたけど。
背後に回って距離を取りました。
視線を向けると全身が振るえてました。
振り向く表情、歯軋り。
「その顔は疑問ですか、それか、理解していて、あえての表情ですか。」
「がっあああ。潰し殺し屠る。」
「そうですか、なら沈んでください。それとそれ、最後は同じ気がするんですけど。はあ、いいや終わらそ。」
早く終わらせたかったので、うん。軽く間合いを詰めて拾い上げた剣で振りかぶって全力で殴りあげました。
お陰で王者は頭を起点に高速回転しながら地面を弾んで会場の壁に全身を打ち付け、壊して客席までめり込んじゃいました。
実況観客審判喋れなかったですね。
やっぱり王者と云われるだけあって。
身体に受けた衝撃は相当な物。それを感じさせず。立ち上がりました。
「まだ、殺り合い。しますか。」
「当然だああ」
「はあ本当に時間が無駄なんですよね。許してくれる、分けないよねええ」
やけくそになってました。どちらがとは言いません。
王者が舞台に上がるまで待って、審判が動揺を隠せなくて混乱してました。
「審判さん。お願いがあります。」
『な、なな、何かな。』
「審判さん舞台から降りてください。それで、と離れてくれませんか。出来るだけ。」
凄く首を振って慌てて舞台から降りると、走って客席まで離れてくれました。
「では、終わりましょうか。なに、これを教訓にして一層の精進を期待してますよ、多分。まあ、おとと。忘れてなければですけど。ねっ。」
「がっか。」
舞台に剣を投げ捨て、よろめいた王者に向かうと同時に袖を引きちぎって拳に巻いて、懐に滑り込み、身体の中心を打ち抜きました。
その衝撃波と衝撃音は会場全体を震えさせ、何人かは気絶しました。それで気持ち悪いので、意識を手放させた王者を遠くへ飛ばしました。
方法は忘れました。
「じゃあ、これで終わりですね。さよなら。あ、そうそう王者さんの質問の答えですけど、考えるとは即ち、殺すことが決定していると同義でしょ。ならする必要無いですよね、命乞い。ふあ眠い。帰ろ。」
静寂に包まれる会場を後にして、控え室まで続くと思っていた入場門へ入ると、人が居ました。
「で、終わりましたけど。どうしますか。解放してくれますか。できないと云われたら、この場を崩壊させてでも出ていきますけど。その前に僕の荷物と衣服を、それとそれに対して何かしら手を加えているとか、下手に弄っているとか、もしくは必要ないと考えて破棄や破壊。転売していた場合も同じく等しく関わった人間、施設を崩壊させます。勿論、反論返答は聞く耳持たないので悪しからず。」
小さくお辞儀して相手の目を見ました。
静かに僕を見ていました。
「はあ、聴いていた通りか。」
え、と。僕は答えたと。
「いや、これはまあ、ある種の戒めとしてアレに挑ませたが、はは、まさか、容赦なく沈めるとは。変わらんな。」
言っている事に理解できませんでしたけど、差し出された篭、この中には僕の衣服や荷物が入ってました。
「心配するな、弄るも加えるも全くしていない。もちろん、調べることも禁止させた。心配なら見てくれて構わない。もし不備があるならそれ相当の謝罪をする。盗んだ者にもそれ相当の罰則を課した。」
「その真っ直ぐな瞳の奥に何かを感じました。なので別にいい良いです。じゃあ、出ていってもいいですか。時間が無いので。」
「その前に、確認だが。」
「何ですか。」
「協定に関する資料は貰えるのか」
言っている意味が解らず聞き返しました。
「この島の権利者はな現在、俺だ。君の事は事前の通知で知っていたが、相手がな渋っていて、此方で一つ賭けをした。」
「ああ。僕が勝つか負けるかで、結ぶか決裂か、ですか。はあ、何ですか、それ。最っ悪ですね。まあ、終わった事なんで別に良いですけど」
「では、資料を渡して貰いたい。」
「そうですね。無理です。何故なら僕の端末は今、面倒な場所にありますから。それを取り戻すためにしてるんで」
「それなら心配ない。数日前に連絡があった。端末は君の同行者が代わりに受け取ったという。戻って確認してくれ」
現在の場所を聞いて、停泊した港までの道を教えてもらい、闘技場を併設していた宿を後にしました。
資料は端末が手元に戻り次第ということに話を附けました。
門を通る間際に向けられた四人の視線が、いや、それ以前に街を歩いている間にも視線が何か、痛かった。
そうだ。今思い出すと。じっくりと見ていた訳じゃ無かったけれど、まるで心が無くなったかのような人が虚空を見つめてたような。まあ、一瞬に近かったから、分からないけど、他の人が揺さぶっても無反応だし、何かの病かな。
異様な感じはしてたけど。
壁の向こう側には見知らぬ人が、立ってました。
横を通りすぎようとすると声を懸けられ、反応せずに歩いていきました。
最初の角で曲がって身を隠すと驚いた声が聞こえて、慌てたように追いかけてきてました。
事情を聞くと背後から知らない中性的な声で僕に物を渡せ、と言って差し出された物は僕の端末でした。
誰かは知らないと、振り返っても誰も居なくて、知らない間に端末を握っていたと。
普通ならそれを売るかその場で捨て去るかなんだけど、妙に納得して、自然とこの場所に足を運んでしまった。
そういってました。
誰かは知りませんけど、僕の端末は無事に戻ってきました。
早速使いたかったですが、騒動に巻き込まれました。
それは出会い頭に。唐突にお腹に頭突きを喰らいました。
倒れる相手、何とか踏ん張る僕。
でも不意でお腹の痛みで踞る。
煩いとか思うのかな。
思わないか、相手は泣いてました。
泣いて喚いてジタバタと手足を無茶苦茶に。
「大丈夫。」
「うう。ひっ。ひくっ。」
「で、何で僕に打つかって来たのかな。君は。」
「ふえ、なに」
「いや、何じゃなくてね。聞いてるのは此方だよ。」
「ふえ、しらない。しらないよ。」
「その消え入りそうな言葉の端々からさ。隠しきれない怖い感情が見えるけど。」
「しらないって」
「なら、背中に隠してる品の説明をしてくれるかな。それは僕に向けられた物じゃないとは限らないでしょ。それに僕に当たらなかったとしてもこの先で見過ごせない事が起きるのは確実だしね。なら止めるしかないでしょ。」
軋む音。風を切り裂いて深々と僕の荷物を貫いてしまいました。
「くそっ。」
「そうか。事情があるんだね。なら、聞いてあげよう」
安堵か恐怖か。子供の涙は止まりませんでした。
俯く子供、一度僕を上目使いでみてから視線を落とす。
風が吹いて僕と子供の髪を揺らしました。
それから少しずつ話してくれました。
子供はこの島に住んでいて友達と遊んでいた。最初は石投げをしながら競っていて、飽きたから次に水渡りの練習をしていると知らない大人が来て、何も告げずに友達へ暴力を奮って一人の腕を折った。
それで全員が泣きわめくと恫喝して騙せ、ある条件を飲めば解放と治療を約束すると。
それが、ある人物を死なない程度まで負傷、無理なら命を奪っても。
初めは嫌がっていたけど友達は更に負傷させられた。その音と悲鳴が耳から離れないとか。言ってました。
思い出してか身体が震えてきてました。
「おねがいしますおニイちゃんたすけて、ともだちをたすけてください」
僕の返答は。簡単な言葉でした。
紡がれた言葉に子供は泣き叫んで走って行きました。
港に着けば乗ってきた船は無くて、代わりに人が居ました。
渡されたカードを読み込ませるとこの先の事が詳細に書かれていて、分担して依頼を完遂させると書かれてました。
考えるように傾げておきました。
その人に通貨を渡してから離れ、海沿いを歩くと大人達が向こうから近づいてきました。なので、反転して逃げました。
これ以上厄介な事に巻き込まれたく無かったので、当然の選択だと思ってます。
適当に逃げて袋小路に当たっても困るから考えて走ってました。
最後は追い付かれて囲まれて、逃げ場はなかったのですが。
「あの、どうして追いかけてくるんですか。僕とは会ったことも話したことも無いですよね。なのにどうしてですか。僕が逃げたからですか。でも、それはお兄さん達が凄く怖かったからです。僕と目が合った時のあの視線は恐怖の何物でもないですよ。誰だって逃げます。」
懇願するような心にも思ってもいない言葉を並べてみましたけど、答えは案の定、笑って皆さん武器を取りました。
こんな事を言ってました。
「節約しねえといけねえんでな。一瞬で終わらせてやるよ」
その一瞬が大人達にとっての刹那なんでしょうか。
一人を殴って地面へと沈め、把握さえさせる間も与えないように近くにいた人から地面に沈めました。
説明というか余裕の言葉を先程言ってる間に残りは一人。
「えと、把握してもらいますと、おじさんが話してる間にそれ以外のおじさん達を動けないようにしました。ごめんなさい。」
返答なんて聞く気にもなれず、そのまま意識を奪いました。
自分の。ココ大事なのでもう一度。
じ、ぶ、ん。の端末で連絡をして倒した大人達は動けないように拘束してから元の道へと引き返しました。
指示されていた場所には見た事ある子供が居ました。
命を狙ってきた子でした。
打つかってきた時と違って、漂わせている纏う空気は別物でしたけど。
「なぁんだ。死んでないのか。つまんないなあ。最悪大怪我を期待してたのに。ねえどうだった。命を狙われる気分はさ。生きた心地がしなかったんじゃないかな。へへ。どう。怖かった。」
あの時泣いていた同一人物とは思えない涼やかな表情。でも瞬時に変わって。
「なんであの時、助けてくれなかったの。子供の話は信用できなかったかな。」
肩を落として俯いて。
「ねえ。なんでボクが話しているとき。それも。泣きながら。嗚咽混じりで話してたのにどうしてあんな顔をするの。ボクの話を聞いて少しでも助けようとか思わなかったの。もしかして。聞いてなかったのかな。ねえ。答えてくれるかな」
子どもが顔を上げた時、僕は盛大な欠伸を噛み殺して、涙を浮かべてました。
「ふあ、ああ。済まんね。どうもめんどくさそうなので眠くなったんだ。で、うあ。」
答えを言おうとしたら
襲ってきて避けました。
「ねえ、ねえねえねえ。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねうねえねえねえしねえねえねえねえねえねえねえねえねえねうねえねえねえねえねえねえねえねえ。ひゅひゅ聞いてたかなあボクの話を。ムシすると。ムシリ、採るよ」
「ああああ。待ってくれないかな。」
「な、なななななななななななにににににににににににに。」
「うん。落ち着こうか。それと狂うのは無しの方向で」
「き、きひひひひひひひひ。いいようぅ。きひきひきっ。んん。ごめんなあしい。と、御免なさい。少し興奮して。へへ。で、答えはなあに。」
「はあ、怖い怖いよ。正直、虫酸が走る。て、話が脱線してる。戻そう。」
一回咳を切って、
「あのね、あの時の答はね。」
どうしてか子供が喉を鳴らしました。
「信用も何も、別段僕は助けるつもりも無かったし。あれが本当の事であっても同じだよ。その理由はね。はあ、何で他人の痛みを引き受けないといけないの。単純に時間の無駄だからだよ。だからあの時、『ふうん。それは不運だね。何とかしたら良いじゃん。僕は話を聞くと言っただけで、助けるとは言ってないよ。じゃあね。』て言ったんだよ。薄情者とか云われてもね他力本願で切り抜けようてのは先ず嫌だね。事の発端が僕であれ何であれその場に居た子供達が悪い。不運と思って諦めなさい。」
子供のその表情は予想に反して恍惚と羨望の眼差しを僕に向けていました。」
「す、素晴らしい。やはりアナタはそう在るべきだ。それを忘れないでもらいたい。あ、そうだ、本当の依頼は。これを」
差し出されたのは一枚のカード。
「アナタの端末でしか起動も読み取りもできない使用に成っていると聞いてます。それでは、これで。何時かの何処かで巡り会える事を願って。」
深々とお辞儀した姿勢で霞みのように消えました。




