序章~その存在の価値と力~
淀んだ空気の中で平然と眠っていた。
傍らには相棒が同じく眠っている。
耳を突き刺す騒音で静かに起き上がると、首に嵌められた物から強烈な痛みが全身を駆け巡る。
苦悶の声も、憎しみを込めた嗚咽も、とうの過去へと忘れてきた。といって、痛みが無いわけではなく、ただ、何をしても無意味だと何時の日かに悟ったのだ。
相棒も静かに眠りから覚め、腕を伸ばして欠伸を噛み殺す。
あの時に比べて隣の存在は声を無駄に発しなくなった。
これは良くは、そう、良くはないと理解していたがそれでも、自分達が生きるためにはこの方法しかなかった。
そう自分に言い訳染みた事を何度も心を抉る思いで言い聞かせていた。
起き上がった時その日一日分の食料を渡された。
本来なら一人分だがこれを分けて食せ。と言う。
最初は喧嘩しながら勝った方が総取りしていたのも昔の事。今ではそれを分けて、さらに考えながらその日を持たせていた。
重い足を引きずりながら後ろを歩く相棒に振り向き何時ものように何時もの場所に向かった。
その場所は、自分と似たような、または近い物共が集められた何かのための施設らしく、そんなものは自分や相棒には関係なかった。
そう言えば。と一つの思考に至る。
簡単で単純な思考だが。
この場に来て、いや連れてこられて何れだけの時間が経っているのだろうか。
とかそんな端から見ればどうでもよさそうな事を考えている。
しかし、その思考もある事で遮られ現実に戻されてしまった。
最前列とか言われている更にその前。自分を含めた集団が立ち並ぶ場所よりも数段高い位置から何かをほざいていた。
大層な事柄を喋っているのだが全ては両耳を突き抜け、虚空に霧散していく。
高く堅牢そうな天井を見つめながら傍らの相棒を撫でる。
長すぎる無駄な講釈が終わり、自室という監禁部屋て支度を整え、部屋の前で待機。荷物の検閲を終えるとその日の仕事が待っている。
集合してから搬送車に乗り込むと自身と相棒以外の戦員がいない。それは最初からそうであり、今では気にしないことにしている。
揺られて余り経っていない。そんな場所で降ろされ、留まることを命令された。
反論も無駄と悟っていたから静かに留まることにした。
後ろには自分が居たあの施設。
前には地平線。
命の息吹を感じることが出来ない土地で地面に座りながら命令を待っている。
その後手持ち無沙汰を紛らわせせていると施設から待っていたこともない指令が漸くきた。
曰く。今回は遠方の獲物を捕獲。予定位置まで連れ去ること。それか殺害。この場合は手段を問わない。
それを聴いて意気揚々と相棒に意識を集中させ、命令された場所に相棒の一部を飛ばす。
何時もと同じようにして獲物を最初は捕獲。抵抗すれば獲物以外を殺害。それも言葉に尽くしがたい方法で目の前で繰り広げさせた。
大概はこれで大人しくなり後は容易に拐う事ができる。
これで不可能な程の抵抗を見せた場合は問わず殺戮する、それも惨たらしく。見る者すべてがその場で卒倒か吐き出してしまう光景を造り出す。
そう二つは一つ。
それはどんな者であっても御しきれず、この二つを引き剥がす事は不可能と判断し、同じにさせている。
そう、一つの力は単体であっても最強の力を有しているが、もう一つの力で距離を無視することが判明。実験の結果この世界全てを限りはなく。何時でもどんな場所でも放つことが可能となる。
それを踏まえ、組ませて運用する事になった。
それはこの先も同じだろう。
施設の者も関わった者もそう、信じている。
複数の指令は全て施設から見える位置から行われ、その全てに結果を出してきた。
だからと言われて何かが改善された。と言うことはなく、同じように淀んだ空気の中で生活していた。
別に気にもしない二つ。
今の生き方に不満はなく。あるのはそれぞれの放つ臭い、それだけだろうか。
ある日近くで眠っていると呼び出しがあり出頭すると異動辞令を承った。
受け取った書面には異動先が記されていた。
勿論、相棒も一緒にだ。
嬉しさよりもどうしてか名残惜しさで不甲斐な気分に。
この時初めて気づいたのだ。
自分はこの生活が良かったのだと。不満は少しあれど概ね満足していたのだと。
異動するまで。といって荷物らしい物はこれといってなく。
部屋の汚れを軽く拭うことぐらいか。
呼び出され一度部屋へ振り返り、二度と振り返ることなくその施設を後にした。
着いていくと最初は食堂という餌の配給場。その次に訓練所と云う名の職員の発散場所。次には一度も機会も無かった浴場。最後にはこの施設の最高の部屋と言われていた施設長の個人部屋と謁見部屋。
タンマツと言われて渡された物を受け取り、辞令書を貰い受けてから一応最初に教えられた敬礼をしてからその部屋を後にした。
用意された護送車は、これまで遠巻きに見ていた物と微妙に異なり、武器らしい装備がされていない。正に輸送が目的の車両だった。
乗り込み、適当な場所に腰を落ち着けると扉を閉め、施錠され車内が薄暗くなる。光源は小さな車窓から入り込む外からの光のみ。
ふと車窓から見える、遠ざかる景色は何時かの景色と重なり、心の奥を掻き立てた。
長い緊張かそれともこれまでの疲れからかは解らないが。
傍らの温もりを感じながら意識は一旦途切れてしまう。




