表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/72


実際俺は、浮足立っていた。


トランクを引っ張り、小走りに廊下を駆ける。


文化祭が終わってすぐ、理事長の身柄は警察に引き渡された。


前代未聞の事件に、警察側も相当困惑していたらしい。


学院では早々に、新理事長を選任する緊急会議が開かれた。


この宮殿のような学院を維持していくためには、相当な資金源が必要だったからだ。


候補者の中に、たった一人だけその財力を持ち合わせた人間がいた。


だから学院は否応なしに、その男の申し出を受け入れざる負えなかった。


かくして、異例の早さで新理事長が決定した。


そして俺は、文化祭の振り替え休日である今日の朝――。


保留にされていた退学処分の件で、校長と教頭の立会いのもと、新理事長に呼び出されたのだった。


「退学は取り消しだ。その代わりお前にはやってもらわなきゃいけないことがある」


聖マリオン学院にふさわしくない派手なスーツを着て。


理事長室の壁に間抜けなツラした木彫りの面を飾りながら。


「ジョーちゃん」


その男は言ったのだ――。



「随分楽しそうじゃないか、野蛮人」


「室井……お前」


螺旋階段の角に、天敵だったはずの室井が痛々しいギプス姿で立っていた。


「戻ってきたのか?」


「悪いか?安心しろ。またすぐ出てくさ。この手じゃもうピアノは無理だからな」


肩から提げたボストンバッグを器用にギプスで抑えながら、言い放つ。


「……学校やめんのか?」


さすがに俺だって同情しているのだ。


だが――。


「バカ言え。俺の才能はピアノだけじゃない。天は俺に二物を与えたんだ」


そんな俺を鼻で笑い、室井は吐き捨てるように言った。


「俺は普通科へ編入して、ジャーナリズムの世界に進む。こないだの一件でマスコミ連中にもコネができたしな。行く末は音楽評論家だ。覚えとけよ。いつかお前が運よく表舞台に戻ったとしても、常に俺のペンの力に怯えて暮さなくちゃならないってことをな」


相変わらず冴えわたる皮肉を残して、室井は階段を下りてゆく。


「おい!文化祭の時は……ありがとな」


俺は室井の後ろ姿に、素直に礼を言った。


聞こえないふりして一階まで下りて行った室井は俺を見上げると。


「お姫様によろしくな。今後はせいぜいお前らの私生活にでも密着させてもらうわ」


口元だけで笑った。


平穏な日々は、まだまだ来ないらしい。


ため息を吐きつつ、それでも俺は満面の笑みで螺旋階段を上った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ