エピローグ
「ジョージ、本当に出て行くのか?」
佐伯は荷造りする俺の肩に腕を回して嘆いた。
「気持ち悪いな、出て行くって言ったろ?もう決まったことなんだから仕方ないだろ」
俺は邪魔する佐伯を突き飛ばし、トランクの蓋を閉める。
「俺の目覚まし時計になる約束は?それにお前、文化祭の舞台でも俺に借りがあるだろう?」
「だからって……」
ここを出て行かないわけにはいかない。
俺は神妙な顔を作って佐伯に向き直った。
佐伯はそんな俺の心を見透かすかのように、眉をひそめた。
「失礼するよ」
ノックの音して、ドア越しに蒼井さんが暗い顔をのぞかせる。
「あ、どうぞ。俺もう行きますから」
「待て、ジョージ。置いてかないでくれ、こんなの耐えられない!」
佐伯は立ち上がる俺をどうにか引き留めようと、背中に食らいついた。
「耐えられないのは僕も同じだ。こんなことになるなんて……」
言って、蒼井さんは力なく玄関の壁にもたれかかった。
文化祭が終わり、騒動をおこした俺たちに処分が下された。
蒼井さんは音楽科寮長として責任を取らされ、快適な一人部屋を追われた。
そして――。
「本当に行くのか、結城くん」
「佐伯をよろしく頼みます」
音楽科一の問題児のお目付け役として、卒業までその男と同室で過ごすようにと命ぜられたのだ。
「いやだ!こいつは細かいんだ!一時期同室だったことがあるからよく分かってる。電気つけっぱなしだとか、シーツ洗濯しろとか、寝る前に歯を磨けとか、とにかく母親みたいにうるさいんだ。今さらミツキと同室なんて耐えられるわけないだろ!」
「それはこっちのセリフ!僕らは根本的に合わないんだ。たまに会うから上手くいってた。でも一緒に暮らすなんて最悪だ!」
「ああ、最低だ!」
「どうにかしてくれ、結城くん!」
「そうだ、どうにかしろ、ジョージ!」
俺は罵り合う二人を無視して玄関先まで荷物を運び出した。
「仕方ないでしょ、新しい理事長の言いつけなんだ。そんじゃ、行くわ。またな」
二人に背中を向けたとたん、押し殺していた涙が――いや笑顔がこぼれた。




