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「恵介は特別な子だ。私が守ってやらなくちゃならん。一生私の手元に置いて、面倒見てやらなくちゃならん。この学院だって恵介のために作ったんだ。私が何をした?愛する息子に、最良の人生を与えてやろうとしているだけじゃないか!」


それでも岬の足元にすがる理事長を、数人の学院関係者が取り押さえた。


「お父さん、あなたは最良のカストラートを作ろうとしていただけです」


 岬は無様な格好で引きずられてゆく父親に向かって、声をつまらせながら呟いた。


そして――。


「僕に人生を与えてくれたのは彼だ」


俺を見つめ、泣き出しそうな顔でそう言った。


今にもヒステリーを起こしそうな会場内に、突如甘美な音楽が鳴り響いた。


機転を利かせた蒼井さんが指揮し、佐伯が歌いだしたのは『ジュ・トゥ・ヴ』――。


佐伯は観客席のど真ん中から、続きを歌えとばかりに俺に腕を差し出す。


「いいぞ、歌えジョージ!」


潮田のおっさんが立ち上がり、一人手を叩いた。



「マジかよ……」


岬は、急な展開に困惑する俺の手を取った。


「ジョージ、歌って」


「恵介……」


「みんなの気が静まる。それに言っただろう?いつでも僕のために歌ってくれるって」


「なら、お前も一緒に歌うんだ」


 俺は目を丸くする岬に言い張った。


「俺も聴きたい――お前の愛の歌」


それはまるで、夢を見ているような感覚だった。


「だからお前は嫌いなんだ……」


岬は照れながらも佐伯の後を継ぎ、これ以上ないほど甘美な声で俺に向かって歌い始めた。


俺もそれに答えるように歌った。


岬の声に重ねて歌うと、エンジェル・ジョージと呼ばれていたあの頃の歌声が、自分の中によみがえってくるのを感じた。


なんの恐怖もなく、ごく自然に俺たちの声は天界まで駆け上がる。


混乱の只中にあっても、俺たちの紡ぐ音楽で、会場は温かな愛に満たされた。







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