⑥
「恵介は特別な子だ。私が守ってやらなくちゃならん。一生私の手元に置いて、面倒見てやらなくちゃならん。この学院だって恵介のために作ったんだ。私が何をした?愛する息子に、最良の人生を与えてやろうとしているだけじゃないか!」
それでも岬の足元にすがる理事長を、数人の学院関係者が取り押さえた。
「お父さん、あなたは最良のカストラートを作ろうとしていただけです」
岬は無様な格好で引きずられてゆく父親に向かって、声をつまらせながら呟いた。
そして――。
「僕に人生を与えてくれたのは彼だ」
俺を見つめ、泣き出しそうな顔でそう言った。
今にもヒステリーを起こしそうな会場内に、突如甘美な音楽が鳴り響いた。
機転を利かせた蒼井さんが指揮し、佐伯が歌いだしたのは『ジュ・トゥ・ヴ』――。
佐伯は観客席のど真ん中から、続きを歌えとばかりに俺に腕を差し出す。
「いいぞ、歌えジョージ!」
潮田のおっさんが立ち上がり、一人手を叩いた。
「マジかよ……」
岬は、急な展開に困惑する俺の手を取った。
「ジョージ、歌って」
「恵介……」
「みんなの気が静まる。それに言っただろう?いつでも僕のために歌ってくれるって」
「なら、お前も一緒に歌うんだ」
俺は目を丸くする岬に言い張った。
「俺も聴きたい――お前の愛の歌」
それはまるで、夢を見ているような感覚だった。
「だからお前は嫌いなんだ……」
岬は照れながらも佐伯の後を継ぎ、これ以上ないほど甘美な声で俺に向かって歌い始めた。
俺もそれに答えるように歌った。
岬の声に重ねて歌うと、エンジェル・ジョージと呼ばれていたあの頃の歌声が、自分の中によみがえってくるのを感じた。
なんの恐怖もなく、ごく自然に俺たちの声は天界まで駆け上がる。
混乱の只中にあっても、俺たちの紡ぐ音楽で、会場は温かな愛に満たされた。




