⑤
「あの子は何者だ!」
「カメラを回せ!」
すべてを凌駕する歌声に、観客たちは一気に騒ぎ出した。
悲鳴が上がる。
三脚が倒れる。
至るところでフラッシュがたかれた。
降臨した天使をどうにか記録に収めようと、マスコミは狂ったようにステージ前へと詰め掛けた。
母から受け継いだ遺言を、そのままの形で岬は体現した。
怒りと悲しみ、今まで胸に抱えていたものすべてをさらけ出すように、父親に向かってぶつける。
あいつの声はとどまることを知らなかった。
「とんでもねえ……」
潮田のおっさんが腰を抜かしてしゃがみ込むのと入れ替わりに、会場は総立ちとなった。
一人の少年に魅入られ、狂喜乱舞する観客たち。
華麗なコロラトゥーラの技法で響く高音の嵐に、理事長は頭を抱えて舞台上を逃げまどった。
夜の女王が乗り移ったように、岬は激しくそんな父親に詰め寄ってゆく。
「やってくれたな」
サティの衣装を着たままの佐伯が、俺の側に駆け寄ってきて叫んだ。
「ああ、奇跡だ――」
「それと、俺のおかげだ」
「ああ」
俺たちは固く握手を交わす。
俺の胸に熱いものが込み上げた。
岬は突き刺さるような歌声を振り絞り、力強く天を仰いだ。
蒼井さんが最後のタクトを一振りすると、魔法にかかったように、一瞬無音の空白ができた。
そして――。
割れんばかりの拍手と歓声。
理事長は舞台に膝を折り、力なく座り込んだ。
自由に飛び立つ翼をたずさえ、あいつは高らかに舞ったのだ。
「どうか僕の話を聞いて下さい」
震える声で、岬は語り出した。
もう説明なしに事態は収拾がつかなくなっていた。
「僕はカストラートです。ここにいる父の手によって去勢され、カストラートになった」
興奮冷めやらぬ会場は、大騒動に発展しそうな危険性をはらんでいた。
岬の言葉を受け止めきれないマスコミたちが乱暴に声を上げ始め、暴徒と化した観客も前列へ詰め寄ろうと騒ぎ出す。
「ジョージ、行ってやれ」
佐伯に促され、俺は学院関係者とマスコミに揉みくちゃにされながら、ステージの前まで階段を駆け下りた。
「ジョージ……!」
岬はステージの上から俺を見つけると、マスコミをかき分け腕を伸ばした。
「おい、結城丈児だぞ!」
その手に引き上げられステージに上がると、マスコミのフラッシュを痛いほどに浴びた。
だが、そんなこともう気にもならなかった。
「こんなことをして、どうなると思う?恵介はどう生きていく?心ない連中の見世物にされ、化け物扱いされるのがオチだ。今からでも遅くない。こんな茶番終わらせるんだ!」
髪を振り乱した理事長は、膝をついたまま声を張り上げた。
「いいや、あんたの茶番がたった今終わったんだ。これは真実だ!」
温かく血の通った岬の手をしっかりとつかんだまま、俺は叫んだ。




