⑤
真っ白なスーツを着てピアノ専攻のトリをつとめた岬を、マスコミは放ってはおかなかった。
その華麗な演奏とズバ抜けて神様が手をかけた容姿に、否が応にも注目が集まった。
フラッシュがたかれる中、緊張した面持ちのまま岬が退席する。
「ウマいけど、心ここにあらずって感じだったな」
潮田のおっさんは芸能事務所の社長らしく、目ざとく指摘した。
やっぱり見る目があるもんだなと俺は感心する。
前列に座った理事長の横顔も心なしか不服そうだった。
それもそのはずだ。
岬はあとにひかえた舞台の緊張のためか、ピアノの演奏にいつもの半分の力も出し切れてはいなかった。
「実は、あいつが今日の主役なんだ」
俺はミュージカル専攻の出番に備えて楽屋に戻る直前、小声でおっさんに告白した。
「なんだって?まさか……今のピアノのために呼んだのか?」
マスコミを呼んでしまった手前、それ相応の物を見せなければとおっさんは焦っていた。
「違うよ。俺たちの芝居が終わった後、あいつは奇跡を見せるから――」
俺は不安げなおっさんを観客席に残し、楽屋に向かった。
「あ、結城くん!探したよ。早く準備して!」
俺を迎えに出ようとしていたらしい岩下が、楽屋のドアを開けたとたんに叫んだ。
「岬は、楽屋に戻ってる?」
俺は呑気に聞いた。
自分の舞台には意外なほど緊張していなかった。
「ミサキ姫?いると思うけど」
それを聞いてホッとした。
俺は心のどこかで岬が舞台から逃げ出してしまうんじゃないかと心配していたのだ。
そりゃ、あんな男でも実の父親だ。
それを、マスコミと学校関係者全員が集まる舞台の上で告発するのだ。
ナーヴァスにならないはずがない。
おまけに、あいつは母親の遺言である『地獄の怒りに燃えるこの胸』を歌う。
カストラートの歌声で――。
「ジョージ、すぐ出番だぞ」
すでにベルベッドのスーツを着て山高帽を被った佐伯が俺をせかした。
俺は制服をはぎとられ、メイクを施されながらも、てんやわんやの楽屋に岬の姿を探した。
「結城くん……どうした?」
岬の姿が見当たらない。
俺の動揺に気づいた蒼井さんが、舞台袖から駆けきた。
数十人が右往左往する中であっても、あいつの姿を見落とすはずなかった。
「岬がいないんだ……」
蒼井さんの顔にも、俺と同じ不安の影が見て取れた。
俺は余計に心配になった。
「――探さなきゃ」
無理に決まってる。
出番は刻々と迫ってきていた。
これはオーディションや練習じゃない。
俺がこの場を離れることなんかできやしない。
「結城くん、彼を信じよう。岬くんは必ず戻ってくるさ――とにかく、出て」
「だけどっ……」
俺は人波にのまれ、長い衣装を引きずられるようにして舞台袖へ連れて行かれた。
舞台の幕は開けた――。




