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やがて――。


「出てこい、ジョージ」


様子を見計らってドアに鍵をかけた岬が、小声で俺に呟いた。


「よお……なんで俺だって分かった?」


カーテンから顔を覗かせる。


感動の再会になるはずだった。


だが俺の予想に反し、岬は猛烈に怒っていた。


「こんなことするバカお前以外にいるか!」


「ご挨拶だな、せっかく生還したのに」


「生還?何が生還だ。来月で退学するって言ったんだろ?なんでだよ!」


岬は乱暴にカーテンを引っぺがすと俺の胸倉をつかんだ。


月光に照らされた綺麗な顔が目の前にぐっと近づいてくる。


まるで強気な眼差しのフランス人形。


「良かったな。傷、残ってない……」


愛しさが込み上げて、気がつけば俺は無遠慮に陶器のような頬を撫でていた。


細い指が俺の手を払いのけようとするが、どうにもうまくいかないみたいだ。


「あの人がそんなドジ踏むか。ちゃんと手加減してたんだ。それなのにお前は一人で熱くなって……」


指先は行き場を失った蝶のように舞って、やがて岬の頬に置いたままの俺の手の上に柔らかく止まった。


「言ったろ、今度こそ俺は約束を守る。どんなことしてもお前を助けるって」


なんの前置きもなく、岬の目から大粒の涙が流れ出した。



「なんで泣くの……?」


いつものそこはかとない悲しみが、俺の指の間をぬってゆっくりと染みてくる。


「本当は……君が飛び出して来てくれた時、すごく嬉しかったんだ。僕は……自分勝手な人間だ。僕は……君を犠牲にして自由になろうとしてるんだ」


俺は岬の体を抱きすくめた。


「バカ、何言ってんだよ」


この美しく愛しい人が、もう悲しみに暮れることのないように――。


「犠牲なんかじゃない。お前が与えてくれるなら、どんなことでも喜びだよ」


俺は全力で守り抜くと決めたんだ。


「……ジョージ?」


男であるとか女であるとか、そんなのちっぽけな問題だ。


俺の胸に湧いた愛の泉は、とめどなく溢れ出て、ただただ岬に向かって注がれていた。


そしてこれから先、何があっても枯れることなどないだろう。


そう思った瞬間、俺はごく自然に岬に口づけていた。


「――俺は、恵介が好きだ」


言葉以上の愛情を伝えたかった。


同時に、おそらくただの衝動でもあった。


突然のキスに面食らった岬は、すっかり放心状態で俺を見つめていた。


沈黙の中――。


「――恵介、もう寝たか?」


部屋の外から突然理事長の声がした。



呆然として返事をしかける岬の唇を、俺は咄嗟にもう一度塞いだ。


「病院に戻るからな――」


遠のいてゆく足音が聞こえると、ホッとしたのも束の間。


岬は気まずそうに身を引いてうつむいてしまった。


俺の照れ笑いにも反応を示さない。


どうしていいか分からず、俺は言葉を探す。


「忘れてた。今日は俺、三銃士を代表してお前をかっさらいにきたんだぜ」


冗談は緊張し、とても乾いて聞こえた。


「だから……早く行かなくちゃ……」


「ジョージ、今のは――」


岬の睫毛はなだらかな頬に綺麗な扇型の影を作った。


やっぱりいきなりすぎたか――。


「ごめん。やっぱ……怒ってるよね」


俺の情けない謝罪に、小さな唇が微かに動く。


「え……なに?」


「……ちがう」


岬はそう言うと、意を決したように顔を上げ俺をまっすぐに見つめた。


こぼれそうな黒い瞳が、薄闇の中できらきら光って――。


「ジョージ、お願いだ……もう一度……」


揺れた――。


俺は抑えられない衝動に駆られ、岬の体を強引に引き戻した。


「夢なら、覚めるな――」


そして岬が柔らかく背中を反らせ、甘い吐息を漏らすまで。


初めてのキスに夢中になった。






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