⑦
『お前は根っからの正義漢だ』潮田のおっさんの声が頭にこだました。
正義感じゃないって言ったろ?
俺はいつでも、自分が正しいと思うことをしてきただけだ。
岬が明らかにこちらを気にしているのが分かる。
念を押すように何度も振り返り、俺を暗闇に押し留めようとする。
俺は初めて自分の衝動ではなく、誰かの意志を尊重しようとしている。
でも――。
本当にそうすることが正しいとは思えなかった。
こんな状況、やっぱり間違っている。
岬が低く呻く。
俺は拳を固く握っていた。
「お前は私の宝だ。一生私の元から逃がしはしない!」
こんな約束はフェアじゃない。
俺は従順な犬になんかなれない。
理事長が叫んで、再び岬に拳を振り上げようとしたその時――。
俺は舞台袖から飛び出し、正面切って理事長の前に立ちはだかっていた。
数人の教師たちが小講堂に流れ込んできたのは、それとほぼ同時だった。
「理事長!」
小講堂の中に灯りが点され、突如としてその場はお祭り騒ぎのようになった。
「岬くんっ!」
岬の無残な姿を見た女性教師が悲鳴を上げた。
状況を全く読み取れない教師たちが右往左往する中、俺は微動だにせず理事長と睨み合っていた。
「結城くん……?」
先頭に立った教頭の小杉原が、どう考えても場違いな俺の名を呼んだ。
「一体どういうことですか?」
教師たちが口々に声を上げるが、理事長は俺から目を反らすことはなかった。
悪魔のような冷たい目に宿る狂気。
何を企んだのか、口元にうっすらと浮かぶ笑み。
俺はこの時はっきりと――岬の心に巣食う悲しみの元凶を理解した気がした。
「彼だ! 彼が恵介にこんな仕打ちを!」
理事長が俺に指を突きつけた。
「なっ……?」
言い訳する間もなく、俺は両脇から教師たちに取り押さえられた。
「ジョージ!」
助け起こされた岬がパニックを起こしたように暴れ、悲壮な声で俺の名を呼んだ。
「岬っ……」
だが、もう遅い――。
教師たちに引きずられ、岬から引き離される俺の目の前で、理事長は傷だらけの息子を愛おしそうにその手に抱いたのだ。




