⑥
「ジョージ、約束だ。何があっても、絶対にここから出てくるな」
情けないことに、俺は恐怖に震えていた。
興奮した理事長の叫び声は迫力を増し、金縛りのように俺を動けなくさせた。
「それが本当に……お前を助けることになるのか?」
恐ろしい足音と、悪魔の目のような光がステージの真ん前までやってくる。
岬は深く頷くと、俺を残して暗転する舞台に飛び出して行った。
「お父さん」
岬は勢いよくステージから飛び降りると、獣のように吠える父親に近づいた。
俺は寒さと異様な恐怖から舌を噛みそうなほど震えていた。
次に起こることの、おおよそその検討がついていたからかもしれない。
「恵介っ、お前……!」
呼びかけに呼応して、怒りに満ちた理事長の肩が大きく上下した。
床に投げ出された懐中電灯は、まるでスポットライトのように岬を照らし出した。
次の瞬間――。
悪魔に魅入られた理事長は容赦なく岬の頬を手の甲で打った。
「――!」
一度ならず、二度、三度と。
思わず声を上げかけ、俺は両手で口を塞いだ。
自分の身に降りかかるなら、殴られる痛みなどたいしたものじゃない。
だが岬が打たれる音を聞く度、俺の心は張り裂けんばかりの悲鳴を上げた。
頼むから抵抗するなり、逃げ出すなりしてくれ――。
「恵介、自分のしていることが分かっているのか!」
俺の願いも虚しく、岬は力なく床に倒れ込んだ。
「分かっていますとも……。あなたみたいに気がふれてるわけじゃない!」
相手を見下す喋り方が、ますます理事長の逆鱗に触れる。
「お前っ!」
理事長は馬乗りなって岬を殴り続けた。
岬はまるでそれを望んでいたかのように、振り下ろされる拳をただ真正面から受け入る。
こんな仕打ちがあるか――。
飼い主の言いつけを守る犬にでもなった気分だ。
今の俺は、生気を失ってゆくあいつを目の前にしても、言いつけどおり影に隠れて立ち尽くすことしかできない。
無力な自分に言い聞かせる。
これがあいつを、岬を守ることになるんだって――。
「私がどんな想いでお前を育ててきたか……分からんとは言わせんぞ!」
理事長がぐったりした岬を足蹴にする。




