BLUE×GOLD
お楽しみください
びょうびょうと風が吹いていた。
まだ少し傷は痛むが痛いことと動けないことは同意ではなかった。
五階建てのビルの屋上で、二人の女の髪がなびいている。
「あの施設で間違いないのね?」
空き地を挟んだ向こうにビルが見えた。
「ああ、私はこの拉致の依頼のバックアップ要員だったからな」
ゆかがエミリーに聞いた。
「カンパニーを裏切るつもりなの?」
軽いため息とともにエミリーが答えた。
「裏切るも何も私は私のためにしか動かないよ、今こうしてあんたといるのも私が決めたことだから」
「私はなんとしてでも結城舞さんを助ける。あなたに手伝ってほしいとも思わない」
「そうだな、義理もないのだから勝手にやらせてもらう。気が変わってあんたを後ろから撃つかもしれないよ」
ゆかはエミリーを見つめた。
(なんでこんなやつとキスなんて……それにあんたどう思ってるのよ!)
戦闘前に思うことではないと首を横に振り気持ちを入れ替える。
「確認しておきたい、あなたもレゾナントなのでしょ?」
「ああ……そうだ」
(ドクン)
そういうと、エミリーは迷彩服をたくしあげ共鳴紋をゆかに見せた。
(ドクンっ!身体が熱い……共鳴してる……)
「わかったわ」
「ならいい……行くぞ」
エミリーがゆかに手を差し伸べてゆかがその手をギュッと握った。
エミリーがゆかを引っ張るように走り出した。
「ちょっとあなた!どうするのよ!」
二人は五階の屋上から飛び出した。
「バカ!五階なのよ!」
エミリーの手からエナジーが流れ込んでゆかの全身を包み込んだ。
落下スピードがゆっくりになる。
「あなた……すごいこんなこと……」
「手を離すと落ちるからな」
ゆかの手が強くエミリーの手を握りしめた。
5階分ゆっくりと落下して、ビルの前の広い空き地に降り立った。
着地の瞬間、二人の後ろの空間が歪み、異空間から刃が突き出された。
「クロト!」
エミリーが避けながら空間の歪みに銃を撃ち込む。
手応えはないが刃は歪みに消えていく。
ゆかの目の前にアトロ・グリードとケラ・グリードがビルから出てきた。
ケラがエミリーを睨みながら言った。
「やっぱりお前がこのフェアリーを助けたのか?
この裏切り者——JOKER」
エミリーが返す。
「裏切り者?私は私の意思でしか動かない。そういう意味では、正直者と言える」
「けっ!その減らず口、死で償え」
アトロがゆかを睨む。
「フェアリーお前はまた串刺しにして欲しくなったのか?次は心臓を貫いてやるぜ。もうあのボクちゃんフェアリーも助けてくれないからな」
ゆかが怒りで走り出しそうになるがエミリーが肘でゆかをなだめる。
「落ち着け!後ろからのクロトは私が抑える。だからお前はあの二人に集中しろ」
「わかったわ……背中預けたわよ」
エミリーの身体にエナジーが漲る。
動きのスピードが上がる。刃が出てきた瞬間、高速で移動し、時空の歪みに弾丸を撃ち込む。
瞬間に刃が消え手応えもない。
ゆかに刃が届かないように自分を盾にしている。
エミリーの身体に切り傷が増えていった。
「ちっ!刃を見てからだと遅いな…どうする……」
一方ゆかもアトロとケラの刃に苦戦していた。
腕のプロテクターでかろうじて防ぎながら隙を伺うが二人のコンビネーションにそんな隙はなかった。
ゆかとエミリーが背中と背中を合わせて各々の敵と対峙していた。
背中から何か温かいエナジーが、お互いに流れ込んでくる。
お互いの共鳴紋が、共鳴していた。
(これは!)
(わかったよ!)
言葉も視線も交わすことなく、二人はクロトを無視してアトロとケラに向かって走り出した。
「俺を無視して死にたいみたいだな」
クロトが空間の歪みに沈んでいく。
エミリーはゆかの手を掴み、もう片方の手でアトロとケラに向かって銃を撃ち続けた。
そして、突然足を止めた。
エミリーを支点にして、ゆかの身体が大きく方向を変える。
繋いだ手を通じてエナジーが共鳴し、ゆかが一気に加速した。
(後はどこに出てくるか)
[ゆかさん!あと30センチ右です!]
茜の声が聞こえたような気がした。
ゆかが咄嗟に身体をひねり、拳の軌道を三十センチ右に変えた。
「エミリー!!」
「ゆか!!いけぇ」
時空が歪み、刃が出てくるまでにゆかの右ストレートが歪みの中のクロトの顔面を捉えた。
クロトが時空の歪みから出てきたが、顔面が陥没しもう動くことはなかった。
ゆかとエミリーが振り返り、アトロとケラを睨みつけた。
切り札を失った二人にもう勝機はなかった。
「ゆか、あんたがケリをつけないといけないぞ」
「エミリー」
エミリーの二丁拳銃が火を噴き、アトロとケラの刀と短剣を粉々に撃ち砕いた。
「ひぃ」
エミリーが片手をすっと動かして、どうぞ。
と、ゆかに決着を促した。
ゆかがニヤリと笑い、狼狽えるアトロとケラに視線を動かした。
その目はもう笑ってなどいなかった。
ゆかの超伝導グローブが唸りをあげた。
アトロとケラが仰向けに倒れピクリとも動かなかった。
◇◇
男が表を映していたカメラ映像を見ながらため息をついた。
「おいおい、警備のグリード兄弟やられたじゃねえか!ここもダメだな」
装置のスイッチを切り朦朧としている舞の耳元に囁く。
「今日はここで許してやるけど、きっとお前をまた見つけてやるからな!楽しみにしとくんだな!」
モニターに映るフェアリーを見た。
「フェアリー……本当にブンブンと鬱陶しい羽虫だぜ」
そういうとドアを開けて闇の中に消えていった。
◇◇
ゆかとエミリーがビルの中へ踏み込んだ。
待ち構えているはずの警備員も、襲いかかってくる敵もいない。
不気味なほど静かな廊下を進み、二人は舞が拘束されている実験室へと辿り着いた。
二人は意識を失っている舞の身体から、装置を外していった。
共鳴紋が赤く光っていた。
ゆかが上着を脱いで舞に掛けた。
「エミリー」
「何?」
「エミリーがいなければ助けることが出来なかったと思う。本当にありがとう」
「ゆか……私は私のやりたいことをやったまでだよ」
しばらくすると前の空き地にヘリが着陸した。
舞が収容されヘリはアンドロギュノスの医療施設に飛び立った。
二人は空き地に立ち気づけば手を握り合っていた。
エミリーが繋いだ手に気づきゆっくりと手を離した。
最後の小指の先が離れる感触が二人の胸をしめつけた。
踵を返してその場から去ろうとする。
「待ちなさいよ!」
ゆかがエミリーの腕を掴む。
「なんだ?まだ何か用か?」
「とりあえず一緒に来てよ」
「どうしてだ?」
「ま、まだちゃんとお礼ができてないわ!」
「それはさっきありがとうと礼はもらったな」
「そんなのじゃ足りないと思ってるのよ」
「ゆかはお礼を貰うために命をかけているのか?」
「そういうわけじゃないけど……もぉ……いて欲しいって言ってんのよ!バカ!」
エミリーがニヤリと笑ってゆかの背中に手を当てて押した。
「わかった。行こう」
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