↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLUE&GOLD  作者: 三日月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

リクエスト

お楽しみください

 ゆかが目を覚ますとそこは見たことのない天井だった。

 

 照明は光源が見えず、全て間接照明で明るさはあるが眩しさが全くなかった。

 

 上品なアロマが香っている。

 

 寝たことのないような柔らかなベッド、掛かっているのか分からないような軽い掛け布団。


 誰が着せてくれたのだろう。入院着のようなガウンを着ていた。


 窓を見ると隣のビルなど見えず、気分とは真逆の晴れ渡った天気だった。


 胸に包帯が巻かれていて、点滴の雫がポタポタと音が聞こえそうなほどの静寂が満ちていた。


 窓のガラスに酷い顔の自分が映っていた。


「やっと起きたのか?三日間寝ていたぞ、それに医者も奇跡だと言っていた。刀に貫かれたのに全て臓器や太い血管を避けていたと……」


(茜のおかげだ)


 心があの瞬間に引き戻される。


 張り裂けそうな気持ちに落ちていく。


「おいおい寝ながら泣いて、起きたらまた泣くのか?」


 ゆかは声のする方に鋭い視線を向けた。


「なんで助けたの?JOKER。カンパニーのナンバーワンの傭兵」


「今はそんなこと関係ない」


「私は敵よ!そしてあなたは仇でもある」


 身の回りに武器になるようなものを探す。


「ほら、使えば」


 JOKERが銃を布団の上に投げた。ふかふかの布団が銃の形そのままに沈む。


 銃に手も触れずJOKERに問いかけた。


「だからどうして助けたのよ!」


「死んで欲しくないと思ったのよ」


「敵なのに?」

 

「敵か味方かは私が決めること。あんたには関係ないことなの」


 JOKERはゆかの目をじっと見つめたまま続けた。

 

「撃ちたいならいつでも撃てばいい、あんたの気の済むまでそばに居てやるから。だから今は休め。身も心もな、そして、これからどうするかは自分で決めろ」


「なんなのよ!それ!ふざけないで!……ちくしょう……何も護れなかった……結城夫妻も茜も舞さんも……」


 頬を伝い落ちた大粒の涙が、音も立てず布団に染み込んでいった。


 JOKERがゆっくりとゆかの横に腰掛けると、ベッドが僅かに沈んだ。


 拳を握りしめて泣いているゆかを柔らかい抱擁が包み込んだ。


「!!なんなのよ……どうしてこんなに……」


 握りしめた拳が少しだけ緩み、ゆっくりと開いた。


「どうして?なに?」


「……」


 ほんの僅かだけ抱擁の力が増した。


「!んっ!……どうしてこんなに暖かいのよ!」


「私はエミリー……エミリー・ハートあんたは?」


「私はゆか」


「ほんとの名を聞いているのよ」


「……ゆか……神崎ゆか……」


「ありがとう……もう何も聞かないから……泣きな」


 ゆかの涙腺が決壊してエミリーにしがみついた。


 ◇◇


 結城舞はグリード兄弟に拉致され、依頼主の実験設備場に移送されていた。

 

 しばらくぼんやりと見たことのない灰色の天井を眺めている。

 

 少しずつ、意識がはっきりし、自分の置かれた状況が見えてきた。

 

 仰向けに寝かされていた。

 

 それにつれて、記憶も追いついてきた。

 

 家のリビング。

 お父さんとお母さん。

 

 そこまでは思い出せる。

 だが、その先を思い出そうとすると、頭の中が真っ白になった。

 

「……お母さん? お父さん……?」

 

 何か、とても恐ろしいことがあった。

 それだけは覚えている。

 

 動かそうとした手に嵌められた手枷の痛みが、舞の意識を現実に引き戻した。 

 

 仰向けに寝かされて天井の照明が眩しすぎて直視出来なかった。


 大の字で磔にされ手枷足枷のベルトが柔らかい白い肌に食い込む。

 

 共鳴紋を覆い包むように機械が取り付けられていた。


「何?どこなの?」


 自分の状況が全く理解できない。


「起きたか?」


 いつの間にかすぐ横に一人の白衣を着た男が立っていた。


「た、助けてください」


 男が耳に手を当てて聞こえないというジェスチャーをしてニヤニヤと笑った。

 

 すると突然、男の笑顔が消え、激しい言葉が襲った。


「実験モルモットが気安く俺に話しかけるんじゃねえよ」


 コンソールのスイッチを入れた。


 腹部を覆っている機械から低音の作動音が響き始めた。

「うううあああああ」


 共鳴紋を通じて何かが吸い出されていくような耐え難い感覚が舞を襲った。

 

 男がスイッチを切り、真上から蔑むように見下ろした。


「はぁ……はぁ……」

 舞はようやく息が出来た。荒い呼吸が止まらない。

「お願い……こんなのやめて」


「お前もう終わり!人生ここで終了なんだよ!理解するんだな、もうお前は俺に逆らえないし、全てを諦めるしかない」


 暗示のように舞の精神に男の声が刻まれていく。


 勝手に涙が溢れ出す。拭うことの出来ない涙がこめかみを伝い、髪を濡らした。


 男がファイルをめくる。


「結城舞、16歳……ん?何だ?重要捕獲対象共性?何だそりゃお前なんか違うのか?」


「し……知らないわ……お願い返して……」


「もう両親もいないんだろ?聞いてるぜ、遺体が三体火事現場から出てきて、お前ら一家心中ってことになってる。どういうことかわかるか?お前はもう死んでるってことなんだよ」


 あまりのショックに思考が止まった。


 男の手がコンソールに伸び、実験室に舞の悲鳴が響いた。

 

 ◇◇


 ゆかは目を覚ました。

 

 泣きながら寝てしまっていた。


(ずっとそばにいてくれたのか……)

 

 隣でJOKER……いや、エミリーが座って腕を組んで眠っていた。

 

 本当に眠っているのだろうか。

 

 エミリーは目を閉じたまま微動だにしない。

 

 銃もそのままだった。

 

 今ならカンパニーのナンバーワンを殺せる。


 そんなことも浮かんだがゆかにはわかっていた。


「もう私にあんたを殺すことは出来ないわ」


 独り言のようにつぶやく。


 ゆっくりとエミリーの目が開いていく。


 エメラルドグリーンの瞳がじっとゆかを見つめた。


「少しマシな顔になったな、必要な物を言え、用意させよう」


 ゆかはブルーの瞳をじっとエミリーから外すことなく、見つめ返したままリクエストを言った。


 エミリーもずっとゆかの目を見つめていた。


「肉と酒と服と武器……それと……キスをちょうだい」


 最初に用意されたのは最後のリクエストだった。


 


 



 




 


 

 


 


 


 

 

 

 


 

 

 

読んで頂きありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。