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BLUE&GOLD  作者: 三日月


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5/8

絶望と希望

お楽しみください

「こんな……」


 ゆかは血溜まりに倒れている結城夫妻の遺体を見て気がおかしくなりそうなほど自分に怒っていた。


 健介が恵子を庇うように覆い被さったまま息絶えていた。


「もっと早くに気付いていれば……」


 その時玄関のドアが強く開いた。


「お父さん!お母さん!無事なの?」


 結城舞の声が聞こえた。


「茜!!その娘を入れちゃダメぇ」


 遅かった。


 紅い瞳がこぼれ落ちそうなほど見開いたまま微動だにせず立ち尽くしていた。


 テーブルの上には手紙と現金が血で濡れていた。


 舞が血溜まりにしゃがみ込み、もう動くことのない二人の亡骸に抱きついて子供のように丸く丸まっていた。

「舞さん……ここは危険……」


 突然舞が震え始めた。

「なんなの?どうしてこんなことに?」

 

 茜が口を滑らせてしまった。

「あいつらはあなたを狙っているのよ」


「は?これは私のせいなの?」


 茜は後悔した。今、言うべきことではなかった。

 

「違うの!ボクが言いたいのは……」

 

 ゆかが茜の前に立ち首を横に振る。


 舞の震えがどんどん強くなっていく。


「やばい……これは……」


 突然、舞が天を仰ぎ咆哮した。


 信じられないエナジーが舞の身体にまとわりつく。


 ゆかの全身に緊張が走った。


 ゆかはとっさに舞の背後に回り込み、頸動脈を絞めた。


 やがて、舞の震えが止まり、その身体から力が抜けた。


 ゆかは意識を失った舞の身体を、そっと床に横たえた。


「今のは何?あんなエナジー初めて見た」


「ゆかさん、ボク……ごめんなさい」


「舞さんには本当に微塵も責任はないわ、全部あいつらのせい!」


 怒りを込めて超伝導グローブのスイッチを押す。


 グローブの隙間から青白い光が漏れた。


 息を吸い全身にエナジーが漲る。


 その瞬間クローゼットから刀の刃がゆかめがけて突き出された。

 

 奇襲を察知していたかのように、左の拳で刀を折り、右ストレートでクローゼットの扉ごとアトロ・グリードの顔面を打ち抜いた。


 床下の空間から短刀が突き出てきた。

 

「ゆかさん!下ぁ」


 茜が咄嗟にゆかを突き飛ばした。


 刃がゆかの足元を掠める。


「くぅ」


 ゆかは体勢を立て直し、フローリングの床に拳を打ち込むと次々に床に穴が開いていった。


「手応えがあったわ」


 フローリングをぶち破りケラ・グリードが飛び出してきた。肩を押さえていた。


「痛えな!このやろう!」


 クローゼットが刀で切れて扉が崩れて、中からアトロ・グリードが鼻を押さえながら出てきた。


「男前が台無しだ!」


「ちょっとはいい顔になったじゃない」


「ボクもお前らだけは許さないからな」


「表にいた金髪は仲間なの?呼べば?」


「は?JOKERか?関係ねえよ」


(JOKER……聞いたことがある、カンパニーのナンバーワン……あいつが……違う!今はこっちに集中!)


 リビングという狭い空間で二対二、いつ戦闘が始まってもおかしくなかった。いや既に駆け引きは始まっていた。


 グリード兄弟が顔を見合わせた。

 ニヤリと笑った、その瞬間。

 

 茜は一秒にも満たない未来を【視た】。

 ゆかの背後で空間が歪む。

 そこから現れた何者かが、ゆかに向かって刀を振り下ろしていた。

 

(ゆかさんが……!)

 

 茜は叫びながら飛び込んだ。

 

「ゆかさん! 後ろ!!」

 

 次の瞬間、ゆかの真後ろに空間の歪みが生じた。

 現れた男の刃を、茜が身を挺して受け止めた。 

 

 茜の身体を刀が穿いた。


「クロト・グリードだ、三兄弟なのさ」


 そんな言葉は、ゆかの耳には届いていなかった。


「茜!茜!ああ!」


 茜のエナジーが揺らぐ。


 動かないゆかに、刃が迫るのを、茜の蹴りが弾く。


「ゆか……さん……逃げて!ボク……ゆかさんのこと……護る…から」


 茜が血を吐き、瞳の光が揺らいでいる。


 仰向けに茜が倒れ、その横にゆかも蹴り飛ばされ仰向きに倒された。


 アトロ・グリードが刀を逆手に持ってゆかを串刺しにしようとした。


 茜は震える手を伸ばし、ゆかの手に触れた。

 

 最後の力を振り絞り、自分が【視た】未来を直接伝える。

 

(心臓を狙われているから……10センチ避けて)

 

 ゆかは茜の最後の祈りを受け取り、身体を10センチずらした。

 

 アトロの刀がゆかの身体を貫き、リビングの床まで突き抜ける。

 

 刀の鍔がゆかの胸に当たって止まった。

 

 しかし、刃は心臓を外れていた。

 

 その姿を見届けた茜が、小さく微笑んだ。

 

(誰か……ゆかさんを……)

 

 祈りながら、茜の瞳から光が消えた。


「ちっ!心臓、外したじゃねぇか」


「もう外さねぇ」


 次の刀が確実にゆかの心臓を狙っていた。


 振り下ろそうとした瞬間、一発の銃声が鳴り響きアトロの刀が折れた。


 グリード三兄弟が銃声の方をみた。


「どういうつもりだ?JOKER」


 JOKERがなんとも言えないような顔で銃を構えていた。

 

「JOKER!裏切るのか?」


「もういいだろう、仕事は終わりだ」


 エメラルドグリーンの瞳がゆかを捉えた。


「娘を連れて行け!だがもうその女には手を出すな」


 ケラが舌を出してJOKERを挑発した。

「なんだァJOKERも甘くなったな」


「なんだって?もう一回言ってみろ」

 JOKERから殺気が膨れ上がり、ケラが触れられてないのに一歩後ずさった。


「やめろケラ!死ぬぞ」


 アトロがケラを止めた。


「それにしてもJOKERがどうしてフェアリーなんかにご執心なんだ?」


「この女に、この間缶ビールを奢ってもらったのさ」


「ふーんまぁいい、娘は連れていく、そしてあと五分だからな」


「わかった」


 ゆかが血を吐きながら叫ぶ。


「舞さんを連れていくな!ちくしょう」

 

 ゆかを無視してグリード兄弟が舞を担いで闇に消えた。

 ゆかは刀に貫かれたまま、茜と結城夫妻を見て泣いていた。


 独り言のように呟いた。

 

「護れなかった……なのに……護られて……茜が……

ここまでか……」


 そのとき、ゆらりと人影がそばに現れ、ゆかに刺さった刀を抜いた。

 

「ゴフッ!お前……どうして舞さんを連れていかせた!」


「私が介入しなければ、お前は死んでいた」

 

「だからって! 舞さんを……!」

 

「……あの娘を奪い返しながら、お前を助けることはできなかった」

 

 JOKERはゆかを見つめた。

 

「私は、お前を生かすことを選んだ……それに、依頼内容からあの娘はすぐには殺されることはない」

 

 JOKERが苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「そしてあと三分ほどでここは炎に焼き尽くされる」


「何言ってるのよ」


「カンパニーがよく証拠隠滅に使う時限式焼夷爆弾だ」


「まだ生きたいんだろ?」


 手を差し伸べた。


「生きたかったら自分でこの手を掴め」


「もう放っておいて!」


「舞と言ったな?見捨てるのか?お前を生かそうとしたそのフェアリーはどうなる?」


「……あのフェアリー、茜と言ったな」

 

 ゆかの肩が小さく震えた。

 

「お前を護ろうとして、最後まで戦ったんだろ?」

 

「……」

 

「その娘は、お前がここで死ぬことを望んでいたのか?」

 

 ゆかの目から涙が溢れた。

 

(茜……私は……まだ死ねないみたいだな)

 

 ゆかはその手を掴んだ。


 一分後結城家は炎に包まれた。


 

読んで頂きありがとうございます

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