海の主との激突
海面が大きく揺れる。
ザバァァァン!!
大量の海水を巻き上げながら、巨大な魔物が姿を現した。
「……嘘だろ」
セレンは思わず息を呑む。
現れたのは、巨大なタコのような魔物だった。
黒紫色の身体。
巨大な頭部。
そして、海面から伸びる無数の触手。
その大きさは、先ほどまで戦っていた魚型魔物とは比べ物にならない。
「でか……」
ルクが呟く。
「こんなの、どうやって戦うんだよ……」
ガルドも斧を握り直す。
「触手だけでも十分厄介だぞ」
カイトは弓を構えながら、魔物を見上げていた。
「本体が見えたね」
セレンは目を細める。
「……鑑定」
頭の中に情報が浮かび上がる。
【海魔獣】
Lv――
「……」
途中まで表示されたところで、情報が途切れた。
「どうした?」
ルクが聞く。
「鑑定で全部が見えない」
「え?」
「俺よりかなり強いってことだろうな」
セレンは剣を握り直した。
その時。
「グォォォォォッ!!」
海魔獣が咆哮した。
ビリビリと空気が震える。
「うわっ!」
「耳が……!」
三人が思わず耳を塞ぐ。
ユキも身を低くした。
「クゥ……!」
(すごく大きな声……!)
「大丈夫か、ユキ?」
「クゥ!」
(大丈夫!)
セレンは海魔獣から目を離さない。
「来るぞ!」
次の瞬間。
一本の触手が防波堤へ向かって振り下ろされた。
「危ない!」
兵士たちが逃げる。
ドォォォン!!
石造りの防波堤が大きく砕けた。
「防波堤が……!」
「このままじゃ港が持たない!」
兵士たちが叫ぶ。
セレンは周囲を見渡した。
「ルク!」
「分かってる!」
ルクが駆け出す。
触手の攻撃を素早く避けながら、海魔獣の側面へ回り込む。
「ここだ!」
剣を振る。
ガキィン!
「っ……!」
刃が弾かれた。
「硬い!」
その瞬間。
触手が地面を叩きつける。
「危なかった……」
「無理に近づくな!」
セレンが叫ぶ。
「でも、攻撃が通らないぞ!」
「分かってる!」
セレンは魔物を見つめる。
「……なら、俺が試す」
剣を構える。
「魔剣強化」
淡い光が剣を包む。
今まで何度も使ってきたスキル。
派手な力ではない。
それでも、今のセレンにとって頼れる力だ。
「セレン、気をつけろ!」
カイトが叫ぶ。
「分かってる!」
セレンは走った。
触手が横から迫る。
「っ!」
身を低くして避ける。
次。
上から来る。
横へ飛ぶ。
さらに一本。
「多すぎるだろ!」
何とか避けながら、本体へ近づいていく。
そして――
「ここだ!」
セレンは触手の根元へ剣を振り下ろした。
ザシュッ!
「……入った!」
ほんの少しだが、刃が食い込んだ。
海魔獣が苦しそうに身体を震わせる。
「効いてる!」
ルクが叫ぶ。
「なら、そこを狙うぞ!」
ガルドが走り出す。
「俺も行く!」
斧を構え、セレンが傷つけた場所へ叩きつける。
ズドン!!
海魔獣が大きく身体を揺らした。
「グォォォッ!!」
「効いてるぞ!」
ガルドが叫ぶ。
しかし――
「……待って」
カイトが声を上げた。
「何かおかしい」
「どうした?」
「触手の動きが変だ」
セレンも気づいた。
さっきまで無差別に暴れていた触手が、突然こちらへ集中している。
「……狙いを定めた?」
「たぶん」
カイトが弓を構える。
「来るよ!」
「全員、散れ!」
セレンが叫んだ。
次の瞬間。
無数の触手が一斉に襲いかかってきた。
「うわっ!」
「こっちにも来た!」
「避けろ!」
港中に叫び声が響く。
セレンは剣を振りながら、必死に攻撃を避ける。
「くそ……!」
一度距離を取る。
海魔獣は傷を負っている。
だが、まだ倒れる様子はない。
むしろ――
「怒ってるな……」
海魔獣の巨大な目が、セレンたちを睨みつけている。
触手が次々と海面へ沈んでいく。
「……なるほど」
セレンは剣を構え直した。
「全員、聞いてくれ!」
「次の攻撃が来る!」
「どうする!?」
ルクが叫ぶ。
セレンは海魔獣を見据える。
「決まってるだろ」
「避けるんじゃない」
「――迎え撃つ!」
海魔獣の触手が、一斉に海面から姿を現した。
港を覆い尽くすほどの巨大な影が、ゆっくりと迫ってくる。




