海魔獣の猛攻
海魔獣の触手が、一斉にこちらへ向かってくる。
「来るぞ!」
セレンの声と同時に、無数の触手が地面へ叩きつけられた。
ドォン!
ドォォン!!
石畳が砕け、港に砂煙が舞う。
「うわっ!」
ルクが横へ飛び退く。
ガルドも斧を構えたまま、必死に攻撃を避けている。
「多すぎるだろ、これ!」
「一気に来すぎ!」
カイトも後ろへ下がりながら矢を放つ。
ヒュンッ!
矢が触手へ突き刺さる。
だが――
「浅い!」
矢は表面に刺さっただけだった。
「やっぱり普通に攻撃しても効きにくい!」
「だったら、さっきと同じだ!」
セレンは叫ぶ。
「触手の根元を狙う!」
「了解!」
ルクが返事をする。
だが、その直後。
「クゥッ!」
(セレン! 右から来る!)
「右!?」
セレンが振り向く。
巨大な触手が、すぐそこまで迫っていた。
「っ!」
間に合わない。
そう思った瞬間――
「セレン!」
ルクが横から飛び込んできた。
「危ない!」
ドンッ!!
二人は地面を転がる。
直後、さっきまで立っていた場所を触手が叩き潰した。
「……助かった」
「お互い様だよ!」
ルクが立ち上がる。
「でも、このままじゃ近づけないぞ!」
「分かってる」
セレンは周囲を見渡した。
港には兵士たちもいる。
防波堤はすでに一部が崩れていた。
このまま戦いが長引けば、港そのものが持たない。
「……どうする」
セレンは考える。
海魔獣は強い。
正面から攻撃しても、こちらの力では決定打にならない。
魔法も使える。
だが、セレンの魔法はあくまで補助程度。
今の海魔獣に大きなダメージを与えられるほどではない。
「なら……」
セレンは剣を見る。
そして、ふと思い出した。
魔物から得たスキル。
これまで集めてきた力。
「使えるものを全部使えばいい」
「セレン?」
「ルク!」
「なに?」
「お前は動き回って、触手を誘導してくれ」
「任せて!」
「ガルドは攻撃を受け止めるんじゃなくて、隙ができた時だけ攻撃」
「分かった!」
「カイトは遠距離から触手の動きを止めてくれ」
「了解!」
最後にセレンはユキを見る。
「ユキは――」
「クゥ!」
(任せて!)
セレンは思わず笑った。
「頼りにしてる」
「クゥ♪」
(うん!)
四人と一匹。
それぞれが動き始める。
「行くぞ!」
ルクが海魔獣へ駆け出した。
「こっちだ!」
触手がルクを追う。
一本。
二本。
三本。
「うわっ、しつこい!」
ルクは紙一重で避けながら走り続ける。
その間にカイトが矢を放つ。
ヒュンッ!
矢が触手の関節部分へ突き刺さった。
「今!」
ガルドが走る。
「おおおっ!」
斧を振り下ろす。
ズガンッ!!
触手の動きが止まった。
「よし!」
「セレン!」
ルクが叫ぶ。
「今ならいける!」
「分かった!」
セレンも走る。
魔剣強化を発動させる。
淡い光が剣を包む。
そして――
「ここだ!」
触手の根元へ斬り込む。
ザシュッ!
黒紫色の体液が飛び散る。
「グォォォォッ!!」
海魔獣が咆哮した。
「効いてる!」
だが、まだ終わらない。
傷ついた触手が激しく暴れ始める。
「セレン、離れて!」
「分かってる!」
セレンが後退する。
その瞬間。
「クゥッ!」
(左!)
ユキの声。
セレンは反射的に左へ飛ぶ。
直後、目の前を触手が通り過ぎた。
「……助かった」
「クゥ!」
(まだ来るよ!)
「え?」
次々と触手が迫ってくる。
「全員、散れ!」
四人が一斉に動く。
しかし――
その中の一本が、ユキへ向かって伸びていく。
「ユキ!」
セレンが叫ぶ。
ユキは逃げようとする。
だが、触手の方が速い。
「クゥッ!」
(避けられない!)
「ユキ!!」
セレンは走り出した。
剣を握り直す。
魔剣強化の光が、再び刃に宿る。
「絶対に――」
触手がユキへ迫る。
「――触らせるか!」
セレンはユキとの間に飛び込み、剣を振り抜いた。
ザシュッ!!
触手の先端が切り落とされる。
ユキが駆け寄ってくる。
その時だった。
海魔獣の巨大な目が、ゆっくりとセレンたちを捉える。
「……?」
セレンは違和感を覚えた。
今までとは違う。
海魔獣の動きが止まっている。
「なんだ……?」
海面が静かになる。
そして――
海魔獣の身体が、ゆっくりと海へ沈み始めた。
「逃げるのか?」
ルクが驚く。
「いや……」
セレンは剣を構えたまま、海を睨む。
「違う」
海面の下で、巨大な影がさらに深く沈んでいく。
「……何かするつもりだ」
その直後。
海面が大きく揺れた。
「来るぞ!」
セレンが叫ぶ。
次の瞬間――
海の奥から、これまでとは比べ物にならないほど巨大な水柱が立ち上がった。




