3 : ハイタの心情
ハイタ・アルデウィンドは目の前の少女を見ながら困惑していた。
ルベリア・フォーマルハウト。
自身の婚約者であり、十年以上の付き合いになる相手だ。
本来なら見間違えるはずもない。
だが。今日のルベリアは別人のようだった。
「何かあったのか。」
そう聞いた。すると彼女は、
「神格適性の覚醒で、昨日から少し。」
そう答えた。
少し...少し、だと!?そんな訳はないだろう。
ハイタは思い出す。
数週間前の茶会。
「こんなものを私とハイタ様にお出ししようとしたの!?」
ルベリアは出された菓子が気に入らなかったらしく、それだけで使用人へ紅茶を浴びせた。
幸い火属性魔法を使わなかっただけましだった。
フォーマルハウト公爵は平謝りだったが、
ルベリア本人は最後まで謝罪しなかった。
さらに思い出す。
その前の茶会。
「この椅子、座り心地が悪いわ。こんなのではハイタ様が早く帰られてしまうじゃない!貴方私とハイタ様の仲を割きたいの?」
「この時期にこの色?私冬は赤がいいって言ったでしょ!」
椅子が硬いと怒った。
その前は庭園の花の色が気に入らないと怒った。
その前は。
その前は。
その前は。
とにかく怒っていた。
常に。何に対しても。
それが私の知るルベリアだった。
だから。今日の姿はどうみても異常だった。
使用人へ礼を言う。父親へ挨拶をする。
会話が成立する。人の話を聞く。普通の女の子。
まったく、別人ではないか。
「殿下?」
不意に声がした。
ルベリアが不思議そうにこちらを見ていた。
「どうかされましたか?」
「いや。」
どうかしているのはお前だ。
風が吹いた。
庭のチューリップが揺れる。
黄色。ハスターを象徴する色。
王家が好んで植えている花でもある。
妙に興味深そうにルベリアはその花を見ていた。
「ルベリア...君は花が好きだったか?」
「え?」
彼女がこちらを見る。少し驚いた顔。
まるで今初めて気付いたような。
「綺麗だと思っただけですわ。」
嘘だな。綺麗だから見ていた顔ではない。
何かを考えていた顔だ。
しかし何を考えていたのかは分からない。
分からない。それが気持ち悪かった。
ルベリアは単純な人間だった。
怒る。欲しがる。命令する。
それだけ。
だが今は違う。
考えている。隠している。観察している。
まるで。
「……。」
まるで誰か別の人間が中にいるようだった。
その考えを振り払う。神格適性の覚醒といっていた。
きっと、そういうものなのだろう。そう結論付ける。
だが帰りの馬車へ乗り込んだ後もハイタは何度も思い出していた。
ルベリア・フォーマルハウト。
婚約者。厄介な女。面倒な女。
できれば関わりたくない女。
そのはずだった。なのに。
今日の彼女は妙に目が離せなかった。




