表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/130

第125話 コレット砦防衛戦①

 斥候によって敵別動隊が確認された同日に、ルトガー砦を拠点とするノイシュレン王国軍本隊から伝令が到来し、丘陵北側でも敵軍の接近が確認されたという報せが届けられた。

 敵本隊の規模は推定で一万二千。ノイシュレン王国軍本隊は、強固な野戦陣地に籠る総勢七千ほどの兵力でこれを迎え撃ち、共闘の話がついている北東部からの援軍を待つことになる。

 その後も日に一度は伝令を行き来させていたルトガー砦から「間もなく開戦」との報告が届けられ、交戦を開始したのか伝令が途絶えてから二日後。コレット砦にも、いよいよ敵別動隊が迫ってきた。


「斥候の報告通りの規模ですね。ダリアンデル人奴隷兵の割合は半数といったところでしょうか」


 行軍のための縦隊から攻勢のための横隊へと隊列を変える敵軍を睨み、グレンダは語る。


「ですねぇ。その奴隷兵を前衛に並べて……完全に消耗戦力扱いなんて、可哀想なことです。手加減してあげることはできませんけど」


 グレンダと並んで立ち、同じく敵軍を見据えながらミカは嘆息する。

 二人が立っているのは、砦の西門の直上に置かれた、他の箇所のものよりも大きく広く頑丈な物見台。グレンダは防衛部隊全体を指揮するため、戦場全体を視界に収められるこの場所を自身の持ち場に選び、ミカは強力な念魔法使いとして十分な働きを成すためにここに配置されている。

 物見台には他に、グレンダの護衛や各所への伝令を務めるヒューイット家の武門の家臣たちや、ミカの護衛と補佐を務めるディミトリたちが立っている。そして西門付近の丸太柵の裏、足場を兼ねた土塁の上にはクロスボウ兵や白兵戦部隊が並び、土塁の後ろや一定間隔で立てられている物見台の上には、援護を担う弓兵や投石兵、さらには数人の火魔法使いも置かれている。物見台や丸太柵の各所には合計で六台のバリスタが備えられており、それらも敵軍を睨む。

 残る兵力は、死傷者と交代するための予備兵力として待機し、あるいは東門や南北の丸太柵の方へ敵兵が回り込んできた場合に備えて監視を担っている。


 五百の防衛部隊が万全の体制で守る、強固なコレット砦に向けて――敵軍はいよいよ攻勢を開始する。前衛を担う粗末な装備のダリアンデル人たちが、後ろに並ぶノーザーランド人たちに追い立てられるようにして突撃してくる。


「敵将は……この距離だと狙えないかなぁ」


 突撃を為す敵軍の最後方、本陣で馬上にいる敵将とその側近や護衛らしき集団を眺め、ミカは独り言ちる。こちらのバリスタを警戒してか、敵将たちはざっと見て三百メートル以上も砦から距離を置いており、まともに狙撃はできない。すなわち、敵将を直接仕留めて敵軍を退けるのは現実的ではない。


「総員、攻撃用意!」


 普段の穏やかな口調からは想像できないほど鋭い声でグレンダが命じると、弓兵と投石兵、そして丸太柵に半身を隠す総勢百人ものクロスボウ兵がそれぞれの得物を構え、火魔法使いは魔法発動に向けて意識を集中する。ルイスを含む投石兵たちが投石紐を振る音が、ミカの耳にも届く。

 総勢で千人に届くであろうダリアンデル人の奴隷兵たちは、戦場においても人生においても逃げ場のない立場故か、やけくそのような鬨声を上げながら迫りくる。気の毒な敵軍前衛が、砦に十分に近づいた頃合いを見計らって、グレンダは最初の攻撃命令を発する。


「放て!」


 瞬間。水平に放たれた百のクロスボウの矢と、放物線を描いて飛ぶ矢と石の雨、大きな火球、さらにはバリスタから放たれた槍のように太い六本の矢が、猛然と迫っていた敵軍前衛に襲いかかった。敵軍の先頭集団のうち数十人が前のめりに倒れ、バリスタの矢を食らった数人は後ろへ吹き飛ばされ、火球の着弾に巻き込まれた者たちが炎に包まれた。


「各自、攻撃の手を緩めるな! 砦に取りつかれる前に一兵でも多く倒せ!」


 激しく叫ぶグレンダに従い、防衛部隊は矢継ぎ早に攻撃を放つ。彼女の命令を隣で聞きながら、ミカも念魔法の力を十分に発揮して攻撃をくり出す。この状況においては一撃の威力よりも攻撃の手数の方が重要なので、操るのは連射式クロスボウ。放つのは鏃までが木製の安価な矢。敵兵はまともな鎧も持たない民兵ばかりなので、これで十分に無力化できる。

 矢と石と火球の乱れ打ちを受け、敵軍前衛は瞬く間に兵力を減らしていく。強制的にラクリナレス教へと改宗させられた彼らは、信仰心に士気を支えられた純粋派ノーザーランド人とは違い、これだけの猛攻を受ければごく当たり前に怯み、突撃の勢いが鈍る。

 しかし、後ろから純粋派の軍勢が、ミカの前世で言うところの督戦隊の如く追い立てているとなれば彼らも足を止めることはできない。後ろの者が前の者を押し出すようにして、着実に砦との距離を詰めてくる。


 ざっと見て百人ほども倒れながら、敵軍前衛はいよいよ砦の間近に到達する。

 そこで彼らの前進を阻むのは、砦の全周を囲む空堀と、その内側で砦の防壁として機能している土塁。外壁部分に沿うように丸太柵が並び、土塁が空堀の方へと崩れないよう補強しつつ防壁としての機能を強化している。出入り口である西門は重く頑丈な木製で、空堀を渡るための門前の通路は幅があまり広くなく、大勢が一挙に押し寄せることはできない。

 ダリアンデル人の奴隷兵たちは、その一部が丸太柵を乗り越えるための梯子を担いでいるが、柵に取りついてその梯子をかけるためにはまず空堀を下りなければならない。深さが二メートル以上もある空堀の斜面を苦労して下りる際はどうしても無防備になり、砦の防衛部隊はそこを容赦なく狙う。


「撃ちまくれ! 一人でも多く射貫くんだ!」


 丸太柵の裏で土塁を足場として並ぶクロスボウ兵たちが、指揮を担う正規軍人たちの命令を受けながら、十メートル足らずの至近距離から敵兵を射殺していく。砦に用意されたクロスボウは台座の後部に矢を固定する部品が備えてあるため、こうして下を向けて撃つことができる。

 敵側と同じく防衛部隊も大半が民兵で構成されているが、戦闘に関しては素人の民兵たちも、クロスボウの簡単な操作を覚えれば強力な遠距離攻撃を放つことができる。彼らは頼れる戦力となって、敵軍前衛に大損害を強いる。

 また、丸太柵に沿って一定間隔で置かれた物見台からも、クロスボウによる攻撃が飛ぶ。見晴らしの良い高所から、敵兵にとっては防ぎようのない一撃を浴びせる。


 空堀には太い木の枝の先端を尖らせ、外側に向けて打ち込んだ逆茂木が設置されている。一定間隔で並ぶ逆茂木は敵兵が空堀へ下りて移動する際の障害物となり、なかには後ろの仲間とぶつかって空堀に転落し、逆茂木に貫かれる不運な敵兵もいる。

 防衛設備と防衛部隊による妨害を受けながら、それでも一部のダリアンデル人奴隷兵は空堀を渡って丸太柵の真下に取りつく。いくつもの梯子が立てかけられ、そこを敵兵が上り始めると、クロスボウ兵と共に土塁に並ぶ白兵戦部隊の出番となる。


「叩き落とせ! 一兵も中に入れるな!」

「槍を上手く使え! 梯子ごと落としちまえ!」


 領主家の家臣や金で雇われた傭兵といった実戦慣れした職業軍人と、素人の民兵が混在する白兵戦部隊は、次々に梯子を上ってくる敵兵を無力化していく。職業軍人たちが剣や戦斧や戦鎚など使い慣れた得物を振るう一方で、民兵の多くは簡素だが頑丈な作りの槍を振るう。

 槍は高度な技術がなくとも扱いやすく、素人兵士にとって最も戦いやすい武器とされている。突き出すだけで敵に致命傷を与えることができ、あるいは振り回して敵を牽制することもできる。並んで槍を構えておけば、敵を寄せつけない堅い陣形を築くこともできる。

 そして、今回のように拠点の防壁を守る戦いでは、防壁に取りついて梯子を上ってくる敵を槍で叩いて落とすこともできる。また、槍を上手く操れば、穂先を梯子に引っかけて防壁から離すことも可能。

 職業軍人が民兵に指示を出すかたちで、白兵戦部隊は果敢に戦って敵を退ける。敵兵は次々に梯子から落ち、あるいはしがみついた梯子ごと空堀の方へ倒れていき、誰一人として砦への侵入が叶わない。


 そうして丸太柵を挟んでの攻防がくり広げられる一方で、門にも敵兵が迫る。敵兵のうち動きの良い一群――おそらくは元職業軍人の奴隷兵を中心とした集団が、十人以上で屋根付きの破城槌を運んで進み出てくる。

 彼らの前進を阻むため、門の直上の物見台や左右の土塁上から攻撃がなされる。クロスボウの矢が乱れ飛び、破城槌を運ぶ敵兵を次々に撃つ。

 しかし、一人が倒れると別の者が破城槌の持ち手に取りつき、彼らは着実に門に近づいてくる。そして彼らが距離を詰めてくると、破城槌の上に備えられた木板の屋根が矢を阻むため、その前進を防衛側が妨害することが難しくなる。

 その段になると、ミカは連射式クロスボウを置き、物見台にまとめて置かれていた石を投げ始める。石と言っても、それはひとつが人間の頭ほど、重さでは数十キログラムもある大きなもの。ミカが念魔法で持ち上げ、勢いをつけて落とせば、木板の屋根に大穴を開けてその下にいる敵兵の頭を叩き割ることができる。

 ミカの投石によってさらに何人もの運搬役が倒れながら、それでも破城槌の周囲にいる敵兵が仲間の抜けた穴を埋めるかたちで持ち手を握り、彼らは空堀を渡るための通路を一気に駆けてとうとう門に取りつく。


 また、この段になると純粋派ノーザーランド人から成る敵軍後衛までが砦に接近し、その中に含まれる遠距離攻撃部隊が砦に矢を放ってくる。弓矢や、おそらくダリアンデル人から鹵獲したりそれを模造したりして数を揃えたのであろうクロスボウを構えた純粋派の兵たちが、ダリアンデル人奴隷兵への援護を為す。

 ごく少数ながら敵側にも火魔法使いがいるようで、火球も散発的に飛来する。そのうち一発が丸太柵に直撃するが、事前に水をかけられて湿っている丸太柵は、幸いにも炎上することはない。

 砦の弓兵や投石兵や火魔法使いも引き続き攻撃をくり出しているため、両軍の頭上を矢や石や火球が飛び交う中で、少なからぬ矢が砦の丸太柵や物見台へと届く。門の直上の物見台には風魔法使いが配置されているので、ミカやグレンダたちは敵側の矢を受ける心配はしなくていいが、門の左右の土塁上に立っている兵たちや、土塁の裏側に控えている兵たちの一部は不運にも攻撃を受けて倒れる。それ以外の者たちも矢が飛んでくる状況で怯み、結果としてこちらが門を守るための攻撃の勢いが鈍る。


 その隙に、破城槌を抱える敵兵たちは門への攻撃を開始する。最初の一撃が門を打ち、振動がミカの足元まで伝わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ミカの念力は強力だし関節があるわけじゃないから鞭みたいに振るう勢いで小さな石をまとめて投げるだけでかなりの威力と距離が出そうな気はするな、下手したらスナイパー的な散弾銃とかできそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ