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うちの村だけは幸せであれ ~前世の知識と魔法の力で守り抜け念願の領地~【書籍化決定】  作者: エノキスルメ
第五章 うちの村だけは幸せであれ

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第123話 備える冬

 来年のうちには純粋派ノーザーランド人の軍勢が国境地帯へ迫ってもおかしくない。そのような現状を受け、ノイシュレン王国は西部国境地帯に防衛戦の初動対応のための兵力を常駐させることを、晩秋には正式に決めた。コレット砦にも、ユーティライネン侯家の勢力圏のうち南側に位置する各領主家から兵力が提供されることとなった。

 その後方支援拠点かつ、コレット砦が陥落した場合の第二防衛線としての機能を果たすため、ヴァレンタイン領の防衛体制の整備も大急ぎで進められた。ミカと家臣と領民たちの尽力によって、冬の前半のうちには村を囲む丸太柵と空堀が完成した。


「わあ、ほんとに村がぜんぶ柵でかこまれてる! すごいねぇフレードリク!」

「うん、すごい! おしろとおんなじ!」

「同じだねぇ! 村がぜんぶお城になったみたい!」


 ヴァレンタイン城の物見台に上がり、この数か月で様変わりした村を見回しながら興奮気味に言うのは、ヴァレンタイン家の嫡女であるアンリエッタとその弟フレードリクだった。

 切迫した状況をまだあまり理解できず、無邪気にはしゃぐ我が子たちを微笑ましく見ていたミカは、自身も村の方へ視線を移す。


「……これなら仕上げも冬のうちに終わるね。とりあえず一安心だ」

「皆で尽力した甲斐がありましたな」


 ミカが呟くように言うと、傍らに立つ家臣ヨエルが答える。優秀な軍人であると同時に有能な土魔法使いでもある彼は、ミカと並んで村の防衛力強化に貢献してきた。大仕事がひとつの区切りを迎えた様を前に、普段はあまり感情を見せない彼も今は感慨深げに息を吐く。

 丸太柵と空堀、そして東西と南に置かれた三か所の門。最低限の防衛設備は完成したので、以降はより防衛戦闘を行いやすくするための各設備を作ることになる。それは兵たちが丸太柵の裏に立って敵を攻撃するための足場であったり、門の直上の物見台から効率よく敵を攻撃したり、門の周囲において敵の攻勢を阻むための仕掛けであったり。時間が許す限り工夫を重ねることで、いざこの村が戦場となった場合の防衛成功率は高まると期待できる。


「この備えがただの備えのままで終われば、いちばん喜ばしいんだけどねぇ……」

「きっと大丈夫よ。コレット砦の方もミカたちの魔法のおかげで一層頑丈になっているんだし、そこに大勢の騎士や兵士が入るんだから、きっと大軍が来ても持ちこたえられるわ」


 続くミカの呟きに返したのは、フレードリクが物見台の柵の隙間からうっかり落ちないようその手を握っているアイラだった。ちなみに、アンリエッタの手はミカがしっかりと握っている。


「僕もそう信じたいよ。そのために、うちの村と同じくらい頑張って砦を強化してきたんだから……あれだけ大きくて頑丈な砦に百人単位の兵力が籠もれば、何倍もの軍勢が来てもそう簡単に落とせるとは思えない。ノーザーランド人はダリアンデル人より強いけど、だからといってトゲウサギみたいに守りを固めたコレット砦の前にはその強みを発揮できないはずだよ」


 空堀と丸太柵、いくつもの物見台とそこに設置されたバリスタ。冬明けの兵力増強に際して百挺以上も持ち込まれるというクロスボウ。そうした各種の防衛設備を備えたことで、コレット砦は完成当初と比べてさらに堅牢になっている。

 ちなみにトゲウサギというのは、背中の毛が硬く鋭く長い、見た目が兎に似た魔物のこと。その特性のために、ミカの前世で言うところのハリネズミやヤマアラシのように、守りの堅いことの例えとして出されることがよくある。


 純粋派ノーザーランド人の軍勢がノイシュレン王国へ攻め入るとしたら、その進路として選ぶのはおそらく、ハウエルズ領やメルダース領のある丘陵北側。あちらの方が街道がしっかりと整備されている上に、村の数が多く規模も大きいため、何千もの軍勢が進撃する上で都合が良いはず。

 とはいえ、この丘陵南側も安全とは言えない。ミカが純粋派の指導者であれば、丘陵北側の進撃をノイシュレン王国の主力の軍勢に阻まれることを想定して、この丘陵南側から別動隊を送り込もうとする。コレット砦とその後方にあるヴァレンタイン領を奪取し、西からの補給路や後方の安全を確保した上で、メルダース領に繋がる街道を通って丘陵北側へ移動し、本隊を援護する。

 先の戦いとは違い、ノイシュレン王国単体では戦力的に不利である以上、主力からこの丘陵南側へあまり多くの戦力を割くことはできない。だからこそ、コレット砦やヴァレンタイン領は、陣地となる砦や村の守りを固めることで、少数の兵力による防衛を為す必要がある。


 積み重ねてきた備えが正しく効果を発揮することを祈りながら、ミカは西を見やる。

 広い農地の向こうに点在する森と、その間隙を抜けて延びていく街道。そのずっと向こう側で、今まさにアルデンブルク王国の民を蹂躙しているであろう純粋派ノーザーランド人の軍勢。彼らがこの村へと迫ってくる未来を想像し、その手に力が籠る。


・・・・・・


 年が明け、聖暦一〇五一年の一月。未だ冬の只中であるこの時期に、しかしサンドラ・ユーティライネンは苦労しながら長距離の移動を為し、ダリアンデル地方北東部を訪れていた。

 目的は、北東部の各勢力を率いる大領主たちとの、対面での共闘交渉。そして、ある重要人物との会談。


「グラソム首長。此度の会談に応じてもらえたこと、心より感謝する。冬の最中に面倒をかけた」

「構わない。軍勢を動かすならともかく、自分が移動するだけであれば大した苦労はない。ダリアンデルの冬は生まれ故郷ほど厳しくはないからな」


 北東部の西端の辺りにある都市の、大きな宿屋の一室。サンドラが対面しているのは、装束からしてノーザーランド人だと分かる中年の男だった。

 彼はダリアンデル地方北西部の沿岸部に入植し、支配域を確立した穏健派ノーザーランド人の指導者の一人。グラソム・ザリューハスという名だとサンドラは聞いている。


「それで、貴殿は共闘に関する話し合いを行うのが目的だと聞いているが?」

「その通りだ。我らがノイシュレン王国の西部国境まで迫りつつある純粋派ノーザーランド人の軍勢。その撃滅を成すために共闘してくれる仲間を我々は求めている。この北東部の各勢力と、さらにはダリアンデル地方南端の一帯に領地を持つ大領主たちとの交渉も着実に進めているが、貴殿ら穏健派ノーザーランド人勢力にもここに加わってもらいたい」


 サンドラはそう語りながらグラソムを見据える。

 北東部や南端地域のダリアンデル人勢力から確実に共闘の約束を引き出せるとは言い切れず、引き出せるとしてもそれがいつになるか未だ分からない以上、より多くの味方を集められるよう努めるべき。ノイシュレン王国としてはそのように考えており、なので東の山脈の向こう、ダリアンデル地方の東隣に位置する国から傭兵を雇い集める試みなども行われている。

 それに加えて、侵略者ではあるがダリアンデル地方南東部から見れば直接の脅威ではなく、対話の可能な穏健派ノーザーランド人にも共闘を呼びかけるというのは、サンドラがハインリヒ・ノイシュレン国王に為し、承諾された提案だった。

 穏健派は純粋派と距離を置いており、むしろ両者の支配域の境界では武力衝突も起こったりと、仲が悪いという。であれば、こちらと共闘する余地はあるはず。敵の敵は味方になり得る。だからこそサンドラはこうして会談に臨んでいる。


「軍勢を組織して南東部に送り込んでくれとは言わない。純粋派の軍勢がこちらへ襲来している間に、守りの薄くなった南西部を好きなように攻撃してくれればいい。帰るべき家を蹂躙され、後方に敵対勢力が居座るとなれば、純粋派の軍勢の暴走は止まることだろう」


 サンドラの力強い視線と言葉を受け止めたグラソムは、しばらく内心を読ませない無表情を保った後、小さく息を吐いて語り出す。


「貴殿らが穏健派と呼ぶ我々としても、純粋派の連中のことは厄介に思っている。我々は土地不足による争いを嫌ってこのダリアンデルの地へ入植したというのに、奴らが節操なく暴れるせいで迷惑を被り、ときには衝突で死者まで出しているのだからな……ますます先鋭化が進む純粋派を野放しにしていては、ダリアンデル人との共存を是とする我々までをも奴らはいずれ敵と見なし、襲いかねない。そのような声も少なからず上がっている」

「では、対処が可能なうちに純粋派を叩き潰すというのは、貴殿らにとっても利のある提案と言えるのでは?」


 サンドラが問うと、グラソムは頷きながらも、その顔には懸念の色が浮かぶ。


「理屈としては貴殿の言う通りだ。だが、理屈に適うからといってすぐに共闘の確約を為すことも難しい……ノーザーランド人の社会は、ある部分においては貴殿らダリアンデル人のものと似ている。我々は民族全体を統べる王を持たない。独立民が家長として己の土地に暮らす家族親族や下層民たちを支配し、その独立民たちをまとめ上げる顔役のような立場として首長たちがいる。貴殿らが穏健派と呼ぶ我々も、総勢で十人以上の首長たちが独立民の代表として合議を行い、支配域の社会の安定を維持している。私は若い頃は商人として幾度もダリアンデル地方を訪れ、この地に詳しいために、ひとまずの代表としてこの場に送り込まれたに過ぎない。穏健派の支配者というわけでも、この件について皆から全権を預けられたわけでもないのだ」

「つまり、今は話を預かり、持ち帰ることしかできないということか」


 グラソムは「申し訳ないが」と言って首肯する。彼の言葉を受けても、サンドラの内心に落胆はない。このような返答をされることは予想していたが故に。


「では、是非とも話を持ち帰り、他の首長たちと共に検討してほしい」

「そうさせてもらおう。だが、検討の結果が貴殿らの期待通りになるとは限らない。厄介な連中とはいえ、純粋派の連中も同じノーザーランド人だ。奴らと真っ向から戦うことをためらう声も上がるだろう……個人的には、今のうちに純粋派を叩いてしまうのが良策だと思っているが」


 共闘の道を選ぶべき。そう考えてくれる者が使者として来てくれただけでもありがたいと思いながら、サンドラは微笑を作る。


「こちらとしては、貴殿らの決断が我々にとって喜ばしいものとなることを祈るのみだ」


 ノイシュレン王国の、そしてユーティライネン領の存亡をこの冬の交渉が左右する。そのような状況だからこそ、サンドラの心はかえって穏やかだった。もはや人事を尽くして天命を待つしかないとなれば、かえって為すべきことに集中できる。そう思ってさえいた。

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