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第9話
肩に触れているあたたかな重み。
心地よい呼吸。
やわらかな髪を撫で、そっと頬に触れる。
窓から差し込んだ光が、指をすり抜けた。
ああ。
これでは、君が目覚めてしまうな。
いま、夜が明ける。
頬に触れた指先は、光の粒となり、淡くほどけた。
***
朝の光が、頬を撫でる。
まぶたを開いた時、涙がこぼれた。
頬を伝う感覚に、指で触れてみる。
どうして。
その時、ふと気づく。
寒い。
隣へ、手を伸ばす。
その指先が空を切った。
視線が動く。
――彼がいない。
体を起こし、周囲を見る。
白い光が差し込む、昨日のままの部屋。
机に置かれている、壊れた厚い本。
立てかけられた剣に、白い花の髪飾り。
妙に静かだ。
トクリと、胸に音がした。
息が浅くなり、立ち上がる。
嘘みたいに足が軽い。
一歩。
二歩。
胸の奥が、ざわつく。
目を閉じる。
早くなる呼吸を無理やり押さえつけ、意識を集中させる。
魔力の、彼の気配を探る。
――広間――回廊――城内。
「……どこ?」
外へと広げる。
――森――山脈。
――海洋――空。
「ねえ、どこ?」
――世界。
魔力の届く限り、そのすべてを――。
探す……。
探す……。
探すのに……!
その場で、足が止まる。
――いない。
この世界の、どこにも。
私は立ち尽くしたまま、目を開く。
視界に入る、机の上の壊れた本。
ただそれが、ぼんやりと目に映っていた。




