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賽の目の約束  作者: いち
第1部
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第2話

剣で体を支え、足を引きずる。

魔王の城から村まで戻るには、自分の足で森を越えなければならない。


馬は使えない。

森には魔物もいるから、エンデと対峙中、繋いでおくわけにもいかないのだ。


足元の悪い、荒れた大地をひたすらに歩く。

夜風が冷たい。

鎧の隙間から入り込み、熱を奪っていく。


私は、最大国家アリシア王国に仕える戦士。

勇者と呼ばれる、魔王を討つために選ばれた存在だ。


森の魔物の気配を辿る。

痛む脇腹を押さえながら、私は剣を握りしめた。



はるか昔のこと。

当時の王の導きで、大戦が起きた。

その勇ましい戦いにより、アリシア王国は大きく国土を広げ繁栄した。


しかし、その繁栄に影を差すように、世界に7体の「闇」の魔王が出現する。

対抗するように、魔王に届く力を持つ「光」が、5人の戦士に宿った。


それが始まり。


長く激しい、魔王と勇者との戦い。

勇者は犠牲を出しながらも、魔王を倒していく。

戦いの末に3人となった勇者は、残った2体の魔王を封印することに成功。

討伐には至らなかったが、国家に安泰をもたらした。


勇者と行動を共にしていた大賢者は、この戦いを記し、王に献上した。


それがこの世界で語られる勇者の伝説。

この国の者なら、誰もが習うこと。


しかし、20年ほど前。

はるか数千年前の話だった伝説が、動いた。


アリシア隣国で大きな内戦があったころ、

2体の魔王の封印が揺らいだ、という。


昔の大賢者の助言で、伝説の光の勇者はその力を、代々継承していたらしい。

そして王の命により、力を受け継いだ勇者3人が集結した。


最初に目覚めたのは、静寂の魔王エンデ。

勇者たちは立ち向かったが、討ち果たせずに終わる。


そして翌年に目覚めた、崩壊の魔王グラディウス。

この魔王により、内戦で弱った2国は瞬く間に滅ぼされた。

勇者らの猛攻により、グラディウスは逃亡し行方をくらます。

その戦いで、生き残った勇者は1人だけとなってしまった。

 

帰還した最後の勇者は、レオヴァルト。

深手を負い、子も家族も持たなかった彼は私に光を継いだ。


彼は、私の師になった。


勇者の継承式の後。

王国では『血縁なき勇者』について、よく囁かれていた。

『本当に魔王を討てるのか』

『勇者にしては細い』

『施設育ちだろう』


王宮では、貴族たちが扇子で口元を隠しながら。

街では、すれ違いざまに視線を向けられながら。


うつむきそうになった時、いつだってレオヴァルトがいてくれた。

私の背を大きな手で押してくれた。


そんな私が世間に認められたのは、戦果を挙げたからだ。


4年前、長く潜伏していた魔王グラディウスが、国境の山岳に現れた。

それを、私が討ったのだ。


残る魔王は、ただ1体。

静寂の魔王エンデ。

――私が、まだ届かない相手。


 

夜の森の中、ふらふらと歩みを進めながら、魔物の群れと対峙する。

獣のような形の獰猛な魔物。

「光刃……」

私が唱えながら剣を振ると、放たれた光が刃となった。

一直線に暗闇を走り、魔物たちを次々と消滅させていく。



私にエンデ討伐の命が下ったのも、魔物の被害が広がっているからだ。

この近辺にあったタハル市が、魔物に飲み込まれてしまった。

あの獣のような魔物を放ち、人を脅かしているのは魔王なのだと王は語る。


早く討たなければならないのに。


エンデの力は、私が倒したグラディウスよりも遥かに上回っていた。

それなのに、いつも私のことを殺しもせず、見下ろすだけ。

恐ろしいほど静かなあの瞳。


光は誰かに分けられない。

だからもう、勇者を増やせない。


王国は、私を待っている。

教会も、民も、王も。

世界は、最後の魔王を討てと私に言う。


それが私の使命。

魔王エンデに向かう理由なのだ。




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