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41 ドロミコス戦(中)

「ヒャッハーっ! 無駄だ無駄だぁ!

ガリアの英雄さんよ、幾ら強くても同時に3人を相手には出来ねえよな!」


(くっ! この野郎、絶対ぶっ殺す!!)


レンがドロミコスを攻撃しようとした次の瞬間、3つの大きな壁が出来上がった。

ハルドがドロミコスの右隣に立ち、アザルが態勢を立て直し、3つの大盾が並んだ。


(ちっ! ドロミコスの分際で生意気だぞ!)


一対一の純粋な戦いなら、3人とも今のレンの敵ではない。だが3人が連携することにより、その力は何倍にも跳ね上っていた。


「レン死ねぇ!」


ドロミコスたちの剣が三方から一斉に襲い掛かる。

だが、超一流の領域へと至りつつあるレンからすれば、二流剣闘士の攻撃はあまりにも遅く、一人一人の攻撃は脅威ではなかった。


カキッーン!

ガシィィーン!!

キッーン!


激しい火花が散る。

ドロミコス、アザル、ハルドの三人が放った理不尽な同時攻撃を、レンは左右のスパタを神速で交差させ、その圧倒的な手数で鮮やかに叩き落としてみせた。


『出た! レンの二刀流だーー!!』

『見ろよ! あの獅子兄弟を無傷で殺した時の神速の剣だぞ!』

『レンさま素敵っ!』


ローマ市民たちの興奮が地鳴りとなって闘技場を揺らす。


ドロミコスが唾を吐く。


「チッ、二刀流の手数の多さは厄介だが――お前の体力はどこまで持つかなぁ!」


ドロミコスが唾を吐き捨て、勝ち誇ったように叫ぶ。


(こいつやっぱり毒を持った犯人だ! 俺が動くたびに調子が悪くなってることを知ってやがる!)


実際レンの体内では、激しい動きによって毒が急速に回り、毒の効果がピークを迎えようとしていた。


(正面がダメなら――横を食い破るまでだ!)


レンは冷徹に戦況を見極めると、敵を誘い込むため、あえて苦しげな表情を作り、後ろへと後退を始めた。


傍目には、三人の手数の物量に押し負けているようにしか見えない動き。


ドロミコスたちは「勝利」を確信し、大盾を突き出しながら一斉に前進し、レンを追い詰める。


レンは斜め後ろへと下がり続け、左翼――

味方のヴォルカスが、戦っている所まで押し込まれた。

そしてレンの身体が左翼のヴォルカスの体を超えた瞬間。


「今だッ!」


レンはスキル・集中力強化を追加発動させ、矛先をヴォルカスと対峙している敵のウルフガルに変えた。


「なっ……!?」


正面のドロミコスたちの目からレンが消えた――否、ヴォルカスが壁となって見えなくなったのだ。


レンは残像すら置き去りにする神速で、ヴォルカスと対峙しているウルフガルの後方を駆け抜ける――。


「――終わりだ」


冷徹な声と共に、右手のスパタを右から左に振り抜き、ウルフガルの首を切った。


「がぁ……」


ウルフガルは何が起きたのか理解する間もなく、首筋を深く切り裂かれ、そのまま白砂へと崩れ落ちる。


レンはそのままの勢いで、中央で味方のヴェルコと対峙するタラノスの後方を駆け抜け、右手のスパタを返す刀で左から右に振った。


ザシュッ!!


「っ!! ぐっ……」


鋭い肉切音がアリーナに響き渡る。

タラノスもまた何が起きたかも分からず、盾を落とし崩れ落ちた。


わずか数秒。文字通りの一瞬で、敵2人を物言わぬ肉塊へと変えた容赦のないレンの神業。

アリーナの空気が、一瞬凍りつき、直後に爆発した。


『凄えぞレン!』

『なんて俊足だ! エグすぎる!』

『うおぉぉ! イケイケその調子だ! 俺はお前に全財産賭けたぞ!』


「う、嘘だろ……!? タラノスとウルフガルが……一瞬で……っ!?」


完全にレンを嵌めたと信じ込んでいたドロミコス、アザル、ハルドの3人は、あまりの出来事に凄まじい衝撃を受ける。


それだけではない。


内通者、ヴェルコとヴォルカスの2人もまた、目の前で敵2人が躊躇なく瞬殺された事実を突きつけられ、顔面を変えて「うそだろ…」と、愕然と立ち尽くしていた。


だが、熱狂のさなか――

先に動いたのはドロミコスだった。


「おい、お前ら! 降伏しろ!!」


激昂した声を張り上げながら、まだ呆然とレンの方を見ていた内通者のヴェルコとヴォルカスへ、大盾を構えたまま突進する。


ギャァァン! ザシュッ!!


「ぎゃあっ!?」「な、何すんだドロミコ――ッ!」


引き絞った剣が、まずヴォルカスの腕を斬り裂き、続けてヴェルコの背へと深々と食い込んだ。

殺しはしない――だが、ほぼ重傷に近い攻撃。


大量の血を流し、二人は白い砂の上に膝から崩れ落ちる。

震える手で人差し指と中指立てた。


「こ、降伏だ! 降伏する!」

「俺もだ……っ!」


主審が直ぐに木剣を上げ、二人の戦線離脱を認めた。


ルール上、レンに加勢しなければならない内通者を、ドロミコスは力技で排除したのだ。


歓声に沸いていた観客が、一転して「ええっ!?」と困惑の声を漏らす。


一方、ドロミコス側に大金を賭けていた観客たちからは、安堵と興奮が混ざり合った歓声が爆発した。


『よくやったドロミコス! それでいいんだよ!!』

『さすがベテランだ! 判断が早えぇ!』

『これでまた3対1だ、勝てるぞ!!』


観客たちの現金な手のひら返しがアリーナを揺らす。

八百長の裏など知らない彼らにとっては、ドロミコスの冷酷な仲間斬りが、敵の隙を突いた最高の判断に見えていた。


「かかかっ! 計算違いだったな、レン! お前は一人で俺たち三人を相手にすんだよ!」


血のついた剣を大盾に叩きつけ、

ドロミコスの邪悪な笑い声がアリーナに轟く。


(……チッ、やっぱり今回も味方が味方じゃなかったか……!)


レンは二本のスパタを構え直し、冷徹な怒りの視線を向ける。


「アザル、ハルド! 盾を揃えろ、隙を作るな!」


ドロミコスの鋭い指示が飛び、

3人は再びガチリと大盾スカトゥムを横一列に噛み合わせた。

バラバラに突っ込めば各個撃破される――それを本能で理解していた。


三枚の大盾が一体となった強固な防壁を作り上げ、レンを押し潰すように、重々しい足取りで前進してくる。


だがレンは、その鉄壁を前にしても笑みを崩さなかった。


毒のせいで足元はふらついているが、彼らの弱点を見抜いていた。


「――お前ら鈍足が、その速度で俺を相手に連携を取れるとでも思ってるのか!」


不敵な一言に、ドロミコスのこめかみに青筋が浮かぶ。


「なんだとぉっ!?」


言い終えるより早く、レンの姿が白い砂の上からかき消えた。

『敏捷強化』による五倍の速度が、アリーナの空間を支配する。


(ここまでの時間は3分、まだ5分以上戦える!)


レンは大盾を構えた三人の周囲を、目にも留まらぬ速度でグルグルと高速周回し始めた。


右へ、右へ、右へ、右へ――

残像を置き去りにしながら砂嵐のように吹き荒れる超高速移動。


三人は必死にグルグルと回転し続けたが、レンの速度に追いつけない。


壁を維持するには、中心のドロミコスに比べ、外側のアザルとハルドは数倍の距離を走らねばならない。

特にハルドにいたっては後ろに下がるのだ、ついていける筈が無かった。


(――捕まえた)


左翼のハルドの大盾が外側へと大きく流れ、致命的な隙を晒した。

次の瞬間、レンは高速周回から一転、爆発的な踏み込みでハルドの無防備な左側面へと滑り込む。


――その時、レンの足が絡まり、態勢が崩れた。


激しく動き回ったことで、体内の毒の痺れが一気に下半身へ広がり、膝の感覚が抜け落ちたのだ。


(しまった!)


だがレンは、集中力と五倍化された基礎能力の力で、強引に態勢を戻す。


崩れ落ちる肉体の慣性を逆に利用し、のめり込むような体勢のまま、右手のスパタをハルドの脇腹を右から左へと力任せに斬り払った。


ザシュウウッ!!


「が、はっ……!?」


大楯の防御の無い、側面後方からの容赦のない一閃。


だが、ハルドを斬り払ったその瞬間、もつれた足の制御が完全に失われ、レンの身体は白い砂の上へと派手に転げ落ちた。


受け身も取れず、白砂を巻き上げながら何回転も泥臭く転がるが、すぐに態勢を立て直し、剣を構える。


一方ハルドは盾を落とし、脇腹を押さえながら傷口を見た瞬間、“このまま戦いを続ければ命が危ない”と分かり顔を真っ青にした。


そして、泣きながら審判へ片手を上げた。


「降参だ! 降参するぅ! 今すぐ退場して治療させてくれぇぇえ!」


ハルドの降伏宣言に、主審が即座に反応する。


「ハルド、降伏! 戦線離脱を認める!」


数万人の観客席から、これまでを遥かに凌ぐ爆発的な大歓声が湧き起こった。


『おおおおおーーーっ!! 』

『また一人降伏に追い込みやがった!!』

『これは分からなくなって来たぞ!!』

『いけ~レン!! 流れは来てる、お前ならやれる!』

『ふざけんな! ドロミコス、勝つのはお前だ、負けんじゃねえぞ!!』



レンは二本のスパタを正面へ突き出し、低い姿勢のまま、息を荒くして二刀を構える。


(まずい……っ! 今ので完全に毒が回った気がする、手足の感覚が鈍い!!)


レンは冷や汗を流し、心臓を激しくバクバクと鳴らす。


一方、残されたドロミコスとアザルの2人は、仲間が一瞬で潰された恐怖と、レンの恐ろしいまでの勝利への執念に、戦慄を覚え顔を引きつらせた。


(……残りは2人、一直線の戦術で実質タイマンに持ち込めば何とかなる筈……)


レンはアザルを中心にドロミコスが後ろにくるように左右へ動く。


「くそっ、邪魔だアザル、ちょろちょろ動くんじゃねえ!」

「仕方ないだろ、動かなければ、盾で防げねえ!」


「うおおおおおっ!」


レンはアザルに出来た隙を見つけ、白砂を蹴った。


「しまっ――」


アザルは、自分の盾が間に合わないことを悟った。


レンはガラ空きになった胸元へ、右手のスパタを神速で繰り出す。


しかし――その瞬間だった。


(……え?)


突き出す直前、ガクンと膝を崩した。

不自然に態勢が崩れ、寸分の狂いもなかったはずの剣撃の軌道が、

ほんのわずかだけ左側へとズレる。


ガキィィィンッ!!


肉を斬り裂くはずだった神速の刃は、

アザルが必死に構えていた大盾の硬い鉄のフチへと激突した。


ただの衝突ではない。

『筋力強化5倍』の凄まじい威力を乗せた突きの衝撃が、

そのままレンの右腕へと凄まじい反動となって撥ね返ってくる。


本来のレンの握力なら耐えられたはずの衝撃。

だが今の右手は、マンドレイクの神経毒で感覚を鈍らせていた。


レンの右手からスパタが綺麗に弾き飛ばされ、クルクルと宙を舞い白砂の上に突き刺さる。


「なっ……!?」


仕留められるはずだったアザルが、ニヤリと笑い、大盾でレンを思い切り突き飛ばした。


ドンッ!!


「ぐあっ……!」


その間、ドロミコスはすかさず落ちたスパタを拾い上げ、そのままアリーナの遥か遠方、観客席の壁際へと力任せに投げ飛ばした。


(し、しまった!!)

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