21 ガリアの新星
「始め!!」
主審の鋭い声がアリーナ全体を切り裂いた。
その瞬間レンが動く――
(全スキル発動!!)
レンの全身にスキルの“力”が一斉に駆け、視界の端にトースト通知が流れる。
★筋力強化 Lv.10
(筋力+200%)
★反応速度強化 Lv.10
(敏捷+200%)
★集中力強化 Lv.10
(覚醒+200%)
★敵攻撃の先読み Lv.62
(……よし。全部来てる。これで戦える!!)
「ぶっ殺してやるッ!!」
「兄者の仇討ちだ!」
凄まじい咆哮とともに、長弟ラモスと次弟アペンダがじりじりと距離を詰めてくる。
ラモスとアペンダは、二対一のデスマッチという圧倒的有利な状況に、殺人すらも楽しむかのように、余裕の笑みを浮かべていた。
レンは腰を落とし、二本のスパタ(片手剣)を構える。
右ひじを高く、左ひじを低く――
右は斬り、左は受けに特化した、二刀流の“実戦構え”だ。
ラモスが大楯の影から大剣を激しく振り下ろしてきた。
(まずはコイツを瞬殺する!)
レンは爆発的な反応速度で地を蹴る。
正面から迫る大剣の軌道を『先読み』で紙一重でかわし、左手のスパタで大剣の側面を弾き、火花が散る。
さらに右手のスパタで攻撃するが、盾に防がれた。
(嘘だろ、防ぎやがった!)
そこへアペンダが加勢し、二人の猛攻にレンが押される。
(クソ! 俺は宮本武蔵と同じ二刀流だぞ! 多人数が相手でも負けるか!!)
レンは左右の剣を嵐のように振るい、大剣を弾き返し、互角の戦いへと押し戻す。
その光景を見た観客席からは、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
盾を持たぬ異端の剣技。
その圧倒的な手数が、二対一という絶対的不利を跳ね返す。
「うおおおお! あのガリアのガキ凄えぞ!!」
「二人を同時に相手にして、剣で攻撃を防ぐなんてありえねぇ!!」
「凄い凄い! あの子、押し返してるわよ!」
「なんなのだ、あのディマカエルス(二刀流)は!」
「どうみても新人ってレベルじゃねえぞ! これはもう一流剣闘士のデスマッチだ!!」
長弟ラモスがレンへの声援を聞き、怒り狂い『ぶち殺す!』と大剣を大きく振りかぶった。
レンはその攻撃を未来視し、右手のスパタで大剣の側面を弾き、その戻り際に合わせ、左手のスパタを電閃のごとく突き出した。
大楯を構え直そうとしたラモスのわずかな隙間――。
カキンッ、と鋭い金属音がなった。
だがスパタの切っ先がラモスの太い腕をかすめ、赤い血が白砂に滴り落ちる。
アペンダが驚愕に目を見開く。
「なっ……!? 兄者が負傷しただと……!?」
兄弟の顔からは余裕の笑みが消え、アペンダはすぐにレンの後方に動いた。
前後から挟み込む、
二対一での必勝陣形。
観客席にどよめきが起こる。
「やべぇ! 挟まれたぞ!」
「レン、逃げろ!」
「いや、片方を瞬殺するんだ!
それしか手はねぇ!!」
観客の言葉はレンには届かない。
兄弟の攻撃が同時にレンを襲った。
正面からはラモスが怒りの大剣を振り下ろし、
背後からはアペンダが大剣の突きを繰り出す。
二本の大剣がレンの体に迫った、その刹那――
(――いまだッ!!)
レンは正面のラモスの斬撃を左の剣でいなし、右斜めへと駆け抜け、その勢いのままラモスの背後へと走り込んだ。
ラモスは素早く、後ろのレンへと向きを変え、盾を構え直す。
だがこの瞬間、3人の位置関係は、
レン → ラモス → アペンダ の順に一直線となった。
そのためアペンダの視界からはレンの姿が消え、代わりに目の前に、兄ラモスの大きな背中が立ち塞がった。
アペンダは左右に動き、レンを視界に入れようとするが、レンがそれを許さない。
ラモスを軸にレンが左右に動くため、アペンダはレンを視界に捉えられず、ラモスの隣に並んでレンと戦うことすら出来なかった。
「兄者、邪魔だ! どいてくれ、奴が狙えない!」
アペンダの焦った声がアリーナに響く。
(当たり前だ! 誰がお前らの思い通りになど動くか、この間抜けめ!!)
レンはラモスを“壁”として利用し、後ろのアペンダの援護を完全に封印した。
こうしてレンは、実質的にラモスとの1対1の一騎打ちに持ち込むことに成功した。
ラモスから振り下ろされる大剣の危険な軌道は、『先読み』で全て見えている。
レンはラモスの大剣をいなしながら、大楯の隙間から二本のスパタで容赦のない攻撃を叩き込み、圧倒的な手数で圧す。
「うおおおおお!!」
このまま押し切れるとレンが確信したその時――。
視界の端に、MPの残量の警告通知が流れた。
(くそっ……! 残り1分か……!)
心臓が早鐘を打ち、全身から滝のような汗が吹き出す。
3分しか戦えないのは全スキル全開のツケだ。
(集中しろ、まだ1分ある。全力集中だぁ!!!)
レンは残り1分に、己の全てを出し尽くす気で、猛攻を繰り出す。
集中力が急激に増し、感覚が研ぎ澄まされゾーンに入った。
視界は鮮明になり、時の流れが極限まで遅くなる。
ラモスは大楯を必死に構え直そうとしているが、重い装備のため、レンの『反応速度』と『二刀流』の連撃にまったく追いつけなくなった。
後ろのアペンダに「援護しろ」と叫ぶが、レンが常に三人が一直線になるよう動き続ける。
(今だッ!!)
レンは右手のスパタでラモスの大剣を斜めに受け流した瞬間、大楯の下がガラ空きになった一瞬を見逃さなかった。
腰を下げ左手のスパタを低く一閃。
大楯の下から僅かに覗いていたラモスの剥き出しの右足が、深く切り裂かれ骨にまで達する。
「ぐああああぁぁッ!!」
「あ、兄じゃあああ!」
ラモスは悲鳴を上げ、巨体を支えきれず白砂へと崩れ落ちる。
手からは大楯が転がり落ち、完全に戦闘不能状態――事実上の撃破だ。
(よし、一人目!!)
ラモスが倒れたことで、その背後に隠れていたアペンダが姿を現す。
レンは視界の隅にある、スキルバフの残り効果時間を見た。
(残り――あと十五秒!!)
「貴様ぁぁッ!! よくも兄者を!!」
目の前で兄ラモスが倒れたため、アペンダが怒りで顔を真っ赤に染める。
レンは時間だけを気にして、素早くアペンダに向かって突進した。
(残り――十秒!!)
アペンダは重い大楯を構え直し、大剣を振りかざして死に物狂いで応戦する。
だが――怒りに任せて大楯の裏から放たれる直線的な一撃ほど、見切るのが容易なものはない。
レンは、突き出される大楯と、その上から振り下ろされる大剣の軌道を『先読み』により見切る。
(残り――あと三秒!!)
振り下ろされる刃を紙一重でかわしながら、左手のスパタでアペンダの大剣を外側へ激しく弾き飛ばす。
アペンダが態勢を崩した一瞬の隙。
大楯の防御が届かない角度から――
アペンダの無防備な首筋へ、右手のスパタを電閃のごとく滑らせた。
――ザシュッ。
「ぐあ、ああっ……」
鋭い肉裂音がアリーナに響き、アペンダの首から血が噴き出す。
アペンダから重い大楯と大剣が手から滑り落ちた。
彼は首を押さえながら、ドサリと砂の上に倒れる。
「アペンダああああ!!」
砂に倒れ込んだラモスの絶叫と同時に、
レンのスキル効果が切れ、身体が重くなった。
(スキルが切れたか……)
レンは後ろのラモスの方を振り返る。
(……本当は、ここで終わりにしてやりたいんだけどな……)
「くそッ……アペンダまで殺りやがったな……! まだだ……まだ終わってねぇッぞ、ガリアの小僧が!!」
白砂に倒れていたはずのラモスは、血まみれの右足を引きずりながら立ち上がった。
大楯はすでに手放している。
握っているのは、血に濡れた大剣一本だけ。
呼吸は荒く、視界は出血でぼんやりし、もはや戦える状態ではない。
それでも、ラモスは大剣を手に、獣のように吠えた。
「殺してやる! 俺はまだ死んでねぇ!!」
レンはデスマッチでなければ、助けてやるのにと思いながら、ゆっくりとラモスの方へと歩いていく。
ラモスも足を引きずりながら、レンの方へと向かった。
大剣を引きずり、最後の力でレンを叩き潰そうと心に誓う。
(……すまないな――今、楽にしてやる)
レンは正面から迎えず、速度を上げてラモスの側面へ移動し、死角から首筋へと右のスパタを一閃させた。
ラモスの巨体がぐらりと揺れ、そのまま崩れ落ちる。
その瞬間、主審の声が響き渡った。
「そこまで!! 勝者、ガリアの新星レン!!」
レンが両手のスパタを天に掲げると、
アリーナを包んでいた静寂が、一気に爆発した。
「やべぇ……二対一に勝ちやがったぞ!!」
「うおおおおお、獅子兄弟を殺りやがった!!」
「レン! レン! レン!!」
「二刀流かっけ~」
「レン! 俺は信じてたぞお前が勝つって!!」
レンは顔を上げ、マニウスのいるバルコニーの方を真っすぐに見る。
そしてニヤリと笑い、スパタを胸の前でクロスして礼をした。
その光景は客から見れば、興行主に対する剣闘士のパフォーマンスだ。しかし実際は違う。
(マニウス、どうだ見たか。今の感想を言ってみろよ、観客は全員俺の味方になったぞ。くっくっく)




