12 スキル追加
試合終了から8時間後。
ローマ郊外「マルスの野」に設営された剣闘士用のテント。
「う、ぐっ……あぁっ……!」
寝返りを打った瞬間、腹を刃物で抉られたような激痛が、レンの脳天まで突き抜けた。
あまりにも鮮烈な痛みに、レンは自分のうめき声で意識を無理やり引き戻された。
(ぐうっ……痛い……なんだこれ、動くとめちゃくちゃ痛いぞ……! そうだ俺――)
錆びた短剣を握り、大盾のベテラン──ギルモアの心臓を貫いた瞬間の記憶が、走馬灯のようにレンの脳裏を駆け巡る。
ゆっくりと目を開けると、視界に映ったのは薄汚れた麻布の天井と、隙間から差し込む夕暮れの赤い光だった。
その瞬間――
《ポーン――おめでとうございます。レンさん、生き残りましたね!》
脳裏に響いたのは、相変わらず緊張感ゼロのサポートセンターAIの声。
(AI……俺、本当に生きてるんだな?)
《はい。あの状況から相打ちに持ち込んで生還するなんて、驚異的な執念ですよ。現在は重傷のため、MP枯渇でのスキルの強制発動はしていません。安心してください》
(そりゃ助かる……この状態で訓練はしたくない……)
腹を見ると、血の滲んだ布が何重にも巻かれていた。
呼吸を深くするだけで、傷口が裂けるように痛む。
「……あ、おい! タルト、見ろ! レンが目を覚ましたぞ!」
テントの隅から、驚きの声が上がった。
新人仲間のリクトスが駆け寄ってくる。
その後ろではタルトが、嬉しそうに目を輝かせた。
まだ短い付き合いの二人だが、その表情には心からの安堵が滲んでいた。
「レ、レン……本当に生きてるんだな? あのギルモアを倒して戻ってくるなんてビックリしたよ……」
リクトスの声は震えていた。
だが喜びの奥には、レンを一歩先を行く仲間として見る気配があった。
タルトが、いつもの調子で口を開く。
「そうだ。レンと組んだマルケッルスたちは、『お前によろしくと言っといてくれ』って、試合のあと真っ青になって逃げ帰ったぞ。あいつら全く活躍できなかったからな。今頃肩身の狭い思いしてるだろうな」
(よろしくじゃねえよ、裏切者のくせに……)
ガサリ、とテントの幕が乱暴に開いた。
「――レン! 気がついたか!」
地鳴りのような声とともに現れたのは、オエノマウス教官だった。
鬼の形相のまま、レンの藁ベッドに大股で近づいてくる。
リクトスとタルトはビクリと震え、レンから離れテントの隅へ飛び退いた。
「教官……」
起き上がろうとしたレンを、オエノマウスが手で制す。
「動くな、傷が開く。……まったく、とんでもないガキだ。あの状況からギルモナの首を獲るとは驚いたぞ」
鼻を鳴らしながらも、その眼光の奥には確かな評価の色が宿っていた。
「主催者クリオ様がお前の戦いぶりに大層ご執心だ。『滅多に見られん見世物だった』とな。……ほら、受け取れ」
チャリン、と重い音。
革袋が俺の胸元へ落ちてきた。
「今回のお前の特有財産だ。オーナーの取り分を差し引いても、デナリウス銀貨『25枚』ある。デビュー戦の十倍以上だ。丁重に仕舞っておけ」
(ぎ、銀貨25枚……!?)
レンは一瞬、腹の痛みを忘れた。
現代感覚なら50〜75万円ほどの大金だ。
だが次の瞬間には、それでも自分の命の重さに比べれば軽いと思い直す。
(無傷ならともかく……これは割に合わないな……)
「クリオ様からの直々の報奨金も含まれている。……だが浮かれるな」
オエノマウスの表情が険しくなる。
「もう知っているだろうが。お前を生かして帰したくない貴族がいる。貴族の目は、まだローマのどこかにあるだろう。この大金は、お前が“命の値段が跳ね上がった証拠でもある」
そう言い残し、教官はテントを出て行った。
残された革袋を、レンは痛む腹を押さえながら腰布の奥へねじ込む。
命の危機を越えて手に入れた大金。
そして、まだ来るだろう貴族マニウスの陰謀。
「すまない二人とも。少し一人にしてくれないか、ちょっと考えたい事があるんだ」
レンがそう言うと、テントの中に一瞬だけ静寂が落ちた。
リクトスはそっと視線を逸らした。
さっき教官が言っていた“貴族に狙われている”話が頭をよぎったが、それ以上踏み込むのはやめた。
「……わかった。無理に話さなくていい。今は休めよ、レン」
その声には、仲間としての心配が滲んでいた。
タルトも、いつもの軽口を封じたまま、ぎこちなく頷く。
「お、おう……。じゃあ、俺たち外にいるからさ。なんかあったら呼べよ」
二人は互いに目を合わせ、気を遣うように静かに立ち上がった。
テントの幕を押し分けて出ていく直前、リクトスが振り返り、小さく言った。
「……レンが生きてて、本当に良かったよ」
その言葉だけ残して、二人は外へ出ていった。
(……)
レンは腹の痛みに耐えながら、現状を確認する。
(まずはステータス確認だ。
……さて、レベルは上がったかな? おお、めっちゃ上がってる!)
【ステータスウィンドウ】
■名前: レン
■年齢: 15歳 紀元前92年産まれ
■出身地:ガリア
■容姿:黒髪黒目の美形。戦闘適性の高い体格。
■所持金 銀貨27枚
■称号: 期待の新人剣闘士(全ステータス補正+3)
★レベル: 27(+20上昇)
(最大レベル999)
★HP(体力): 43 / 417
(+52上昇)
★SP: 118/ 158
(+20上昇)
★MP: 8/97
(+20上昇)
■【能力値】(平均的な剣闘士400)
★筋力: 311(+33上昇)
★敏捷: 426(+32上昇)
★耐久: 258(+32上昇)
(やっぱ能力値は、自分で訓練するよりレベルアップの方が楽だな!)
■【スキル】(最大レベル100)
★短刀術 Lv.11(+4上昇)
★盾術 Lv.5(+4上昇)
★言語理解(ラテン語/ガリア語) Lv.Max ※転生特典
★魔力枯渇耐性Lv.60。ダメージ60%カット。気絶無効。
★『敵攻撃の先読み Lv.30』
①重傷になる攻撃への発動確率 68%
②1.3秒後に訪れる危険を察知
③有効範囲 7メートル
④有効時間 1分
⑤必要MP 10
★ポイント残高2100
「おお、ポイントも凄え入ってるじゃん。
なあAI、おすすめのスキルってあるか?」
《おすすめのスキルを表示します》
ーーーーーーー
■常時発動型
★回復術 Lv.1(全ての回復速度がレベル1につき10%早くなる)
取得ポイント5000
★剣術 Lv.1(レベル1につき攻撃力と防御力が10%上がる)
取得ポイント1000
★二刀流剣術 Lv.1(レベル1につき攻撃力と防御力が10%上がる)
取得ポイント1000
★痛覚軽減 Lv.1(レベル1につき痛みが1%軽減)
取得ポイント5000
■発動型
★筋力強化 Lv.1(レベル1につき筋力が10%上がる)
取得ポイント1000
★反応速度強化 Lv.1(レベル1につき敏捷が10%上がる)
取得ポイント1000
★耐久力強化 Lv.1(気功でダメージをカット。レベル1につき0.5%)
取得ポイント1000
★集中力強化 Lv.1(ゾーンに入り易くなり、時間が延長される)
取得ポイント1000
ーーーーーーー
「おい、今一番欲しい痛覚と回復、どちらもポイントが足りてねぇじゃねえか!」
《銀貨1枚でポイント100増やせます。銀貨を奉納しますか?》
「分かった……銀貨27枚だから……これで合計4800に、って。
おい、200足りてねぇじゃねえか!」
《残念。今回は諦めましょう》
「いや諦めるなよ!? あと200なんとかしてくれよ!! ほら割引サービスがあるだろ。タイムセールなんてどうだ!?」
《当サービスは“ギリ足りない絶妙な不足”を演出することで、課金意欲を刺激する仕様となっております》
「ふざけんな課金ゲーかよ!!」
《お客さんノリがいいですね!!》
「客じゃねえよ!」
《まあ、今回は本当に諦めて下さい。
ポイントを取得済みスキルのレベルアップに使うか、
それとも取得可能なスキルに使うかの二択です》
「ちっ……それじゃあ……」
レンは以下の4つのスキルを選択した。
★二刀流剣術 Lv.1、
★筋力強化 Lv.1、
★反応速度強化 Lv.1、
★集中力強化 Lv.1
《では不足ポイント分は銀貨を奉納してください。頭の中で“銀貨19枚奉納”と唱えるだけで大丈夫です》
「分かった……」
レンは言われた通り、頭の中で唱える。
《おめでとうございます。スキルを取得しました》
レンの視界の隅に、ゲームのようにメッセージが流れた。
★二刀流剣術 Lv.1取得
★筋力強化 Lv.1取得
★反応速度強化 Lv.1取得
★集中力強化 Lv.1取得
「おお、これで重要なスキルがけっこう取れたんじゃね?
最強への道が見えてきたな!」
《はい。ですが、まだまだお薦めのスキルがあります。
もっとレベルアップと銀貨を獲得しましょう!》
「え、まだいっぱいあるの!?」
《スキルを取っても、レベルが低いと使い物になりません。
発動系スキルは私が強制発動でレベルを上げられますが、
非発動系の二刀流剣術などは、ポイントを使わない限り“自力訓練”になりますよ?》
「自力訓練って、全くレベル上がらねえじゃん……」
《それはレンさんが“やってるつもり”になっているだけで、
実際は大した訓練をしていないということです。
それに、レベルが上がるほど必要経験値も増えますから、当然上がり難くなります!》
「嬉しそうに言うんじゃねえよ!」




