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24:理解する愛

遅ばせながらも、失礼させていただきます。

ようやくこの馬鹿馬鹿しい物語が伝えたいメッセージに至りました。

 学校の初代華道部部長として、毎日薔薇の香りを嗅ぎながら過ごすのが日課だった。……もっとも、薔薇を華道で使うことなんて滅多にないのだが。

 “ガーデニング・花の園”の御曹司として生まれた自分は、……我ながら奇妙な個性を発揮して生きていたと思う。

 それが俗に言う邪気眼とかいうヤツなのかは知らない。考えたくない。……まぁ、今でもその個性は発揮されているのだから、懐古してそれを言うのは止めよう。

 ……最初は、ただ単に花が好きだっただけだったのだ。父さんが育て、愛でてきた花達でお客さんが笑顔になる……。その光景を見ている内に、私は父さんと同じように花が好きになった。

 ……しかし、子供は残酷だ。“男なのに花が好き”、……その個性は周りのみんなには奇異なものに映るようだった。……私はそれでだいぶ苛められた。

 ……ただ花を手に取り微笑むだけで、周りはそれを大いに脚色・誇張し、それを流布する。“花が好き”という事実は、徐々にそれらによって、“常に花を愛でる変人”という虚実に染められていく。

 だから。……私もみんなが期待する人格になっていった。“私”という奇人変人のするあらゆる行為は、彼らにとっては奇行にしか見えない。私の今の人格は、みんなに仕立てあげられたものに過ぎない。……そうなって初めて、マスコミに脚色される著名人達のことを思い、胸が痛んだ。

 みんなに脚色され誇張され、時に変人に、時に悪人にされる。奇人の、変人の、悪人の言うことになど誰にも耳を傾けない、理解しようとなど、しない。……だから、もう、それが真実。みんながそうだと信じたのだから、覆せない……。

 ……そうやって幼稚園でも小学校でも刷り込まれた私は、みんながそう言うのだから、きっと自分は変人なのだろうと理解する。納得する。受け入れる。そして、みんなが期待した“私”に、私は身を委ねる。……元々何が原因だったのか、そしてそれがいかにちっぽけなものだったか、誰も思い出しなどしない。……虚実は真実になったのだ……。


 ……そして、進級に従っていつの間にやらいじめは無くなり、……私が変人だという“事実”だけが、残る。残り、続ける。

 醜く歪められた人格は“そういうキャラ”として、みんなが“期待”する。……だから、私は演じ続けた。ピエロのように、笑い者を。

 学校は、社会は、世界は! 私が笑い者である限り、生きることを許したのだ。笑い者として生きることを許したのだ。……笑い者以外での生を否定したのだ。

 だから私はひたすらに演じ続けた! みんなのネタになるように。みんなの期待を背かないように。……不用意に発したたった一言で、陰口を叩かれ居場所が無くならないように……!

 ……あぁ、私はピエロなんかじゃない。それは例えるなら、水族館のマグロ。……見世物になりながら、しかし泳ぐのを止めたら最後、死ぬことに怯えている……。だから泳ぎ続けているのだ。人を楽しませるなんて目的は、ない。


 その終わらぬ苦しみからの脱却を決意したのが、あの日だった。


 “期待されるとおり”華道部の部長になった私は、“ネタになる変人として”人気を確立していたらしい。……それが人気というのか、好奇の目というのかは考えたくもない……。

 そして、私はあの日の放送室という舞台に呼び出されたのだった。


 出演者達が各々笑い合ったりしてる中、私は膝の上で握り拳を作り、歯を食いしばって震えていた。……しかし、それでいながらその緊張を悟られないように、余裕を装ってもいた。

 “緊張している私”が本当の私で、“余裕ぶっている私”はみんなが期待した私のはず。……これから脱却しようという苦しみの泥沼に、私はまた自ら足を踏み込んでいる……。

 こうして持ち込んだ薔薇だって、……思えばそれはみんなが期待する通り。本気で脱却を目指すなら、緊張する様を堂々と晒し、薔薇を置いてくればよかった。それをしない時点で、……既にみんなの期待通り。

 しかし、薔薇の芳しい香りは少なからず私をリラックスさせてくれるのだった……。


 苦しくも拒む意志を放棄させるこの状況からの脱却。“本当の自分”が保てなくなり、それを探し彷徨い続ける迷路からの脱出。それらに戦き震える自分からの脱皮。

 ……なに、そんな大げさなことじゃない。情けない自分を変えようと、よく思春期の少年が踏み出す第一歩ってヤツだ。だから、私が踏み出す第一歩も、それは本当にちっぽけな成長。








「……それがほんとに“ただの第一歩”なら良かったのになァ、ってことか……?」

 郷田は花園の話に耳を傾けながら、その要点を口にする。……花園は黙って頷いた。

「……気の利いた冗談、ウイットに富んだトーク、そして少しの無礼を働く勇気、それが許される空気を作る力。……私たちが憧れたクラスの人気者ってみんなそういうの持ってましたよね。羨ましかった。……だから、私もそういうのを見様見真似でやってみて、現状を抜け出したかったんです。……女の子に好かれたいと願う思春期男子と同じ思考ですよ。」

 そう言って、花園は自嘲気味に笑った。そして続けて

「……女の子に好かれたい男子が、脳内で自分を評する時に使う“紳士的”は“非積極的”の言い訳。“非積極的”は童貞臭さの誤魔化しです。……そう考えると、私のその時の現状は“周り”を言い訳にしていました。もちろん、周りの影響は大きかったでしょうが、それを言い訳に抗うことを忘れてしまっていた。私がその時目指した成長は、自分から“積極的に”変わろうとすることでした。」

と一息に喋ると、また物思いに耽るかのように空を見上げた。


「……“変人”かァ。」

 その言葉の重みを噛み締めるかのように郷田が言うと、花園は空から目を逸らし、何ですかと尋ねる。

「桐生から見たお前はきっと、“花を愛でる変人”だったろうなァ。だから、桐生はお前を理解出来ないと思った。お前の行動を理解できないと思った。しかし、お前の話を聞いていると、途中にも関わらず、俺はお前が何であんな行動に至ったのか、わかるような気がしてきた。」

「それは……、ありがとう。そんなこと言ってくれた人は初めてです。」

「…………。もちろん、それが正解かはわからない。だが、少なくとも話を聞いてると、お前が全く理解できない人間ではない、と思えてきた。」

「…………?」

 花園は一人で語り出す郷田の意図が分からず、黙り込むしかなかった。


「全く理解できない悪人も変人も、きっといないよな……。」

 その人を悪人と決めつけ、変人と決めつけ、理解を放棄する。だから、彼らは永遠に悪人で変人なのだ。

 ……郷田は今こそ理解しようとしなければいけないと痛感する。あの日のあの人のあの行動の意図を。

 理解しようとする愛を示せば、きっと理解できるのだから……。



 花園がふっと笑う。

「郷田さん。……あなた、“ァ”とか“ェ”とか語尾を伸ばさなくても、普通に喋れるじゃないですか。」

「……あれは無意識の癖なんだよ。ガキの頃、悪人顔だってレッテル貼られて、語尾まで不良みたくしてたら、癖になっちまったァ。」

「ぷっ。……また語尾が伸びてますよ。でもそれも、理解しようとしなければ、理解できない。」

「……あぁ、そうだな。理解しようとしなければ、理解できない。」

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