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25:禊ぎ

お久しぶりです、バレンタインいかがお過ごしでしょうか。

もちろん暇な私はこうして稚拙ながらも執筆、投稿させていただいております。

滑稽さが増してきた物語ですが、どうぞよろしくお願いします。

 ……後は語るのも無粋なる顛末。

 “死ね”というただ一言に、友人同士での会話に良く出てくるスラングの意味と、殺意表明・殺害予告の両方の意味が存在するように。……それを語った人間の意図を理解しようとしなければ、理解など決して出来ないのだ。

 友人同士ならそれが出来る。その“死ね”の意味が如何なるものか。それを判断できる。スラングで言う“死ね”にいちいち激怒などしてはいられないのだから。

 ……しかし、それを見ず知らずの人に言われたのなら……? ……理解しようとする義理などないと、突っ返されるのがオチだろう。

 ……だが、世の中はそんなに理解できない人間ばかりなのだろうか。

 物語作品上の悪人達には、自分がそうなるに至った経緯を語る権利が与えられる。あるいは回想だけでも、“スポットライトに照らされた”それは、少なくとも読者に一定の理解を要求し、得ることが許されるのだ。

 ……ならば、そんなチャンスに見放された、現実に住む我々はどうすれば……?

 ……今までマスコミが報道してきた奇人達は? 変人達は? 悪人達は? 貧しい子供時代の回想は? 悲壮なる恋人の死の回想は? 海を見渡す崖の上に追い詰められて披露する動機公開ショーは?


 悪いことは悪い。いかなる動機があろうとも、それらは罰せられるべきだ。……しかし、情状酌量という言葉もある。無罪になったり、無実が証明されたりすることさえある。

 ……何よりも。“理解出来ない者”として、レッテルを張り付けられ、仕立てあげられた彼らにとって、理解を放棄した者の冷たい視線で身を焼かれるのが、最も苦痛なのだから。






「……いやはや、あの名探偵を気取った演説は、今でも私の一番の黒歴史ですよ。……私が逆の立場だったら、確かに憎しみの対象になる。」

 花園はそう言って苦笑いを浮かべる。……黒歴史。それは言い得た表現かもしれない。

 クラスの人気者になりたくて。異性の気を惹きたくて。自分を見てもらいたくて。……少年少女は数多くの過ちを青春に残す。

 格好良くなりたくて、評判の男性タレントの真似をしたお洒落。大人の女性になりたくて、母の三面鏡を借りた化粧。……数多の過ちを経て、少年少女は成長する。


「……私としては、あの恥ずかしい演説が、ウィットに富んだトーク、小粋なジョークと思って聞いてもらえると信じていました。」

 ……しかし、そうはいかなかった。緊張からか、声は固く強ばり、そこに冗談の色を見ることは難しかっただろう。

「……私は彼の秘密を不分別に暴きたかったわけではなかったんです。いや、そもそもあの演説に、“暴くという結果が伴う”とは思っていなかった。」

 ……それはあまりに滑稽な、偶然。そして、だからこそ。……この物語は、喜劇。

「桃太郎のお供の犬と猿が犬猿の言葉通りに争ったら……? そもそも、おばあさんが桃ごと桃太郎を包丁で切ってしまったら……? ……あの頃って、そういう下らない妄想が話のネタになったりしましたよね……。」

 その下らない妄想が、現実に向けられ、しかも“的中してしまったら”……? ……もしかしたら、それは話のネタどころでは無くなるかもしれない。いや、実際に“話のネタどころでは無くなった”。



「……私の軽率な、いや、“軽率なつもりで言った”冗談は、私の緊張と彼の事情によって、彼にとって大変“重い”ものになってしまったようでした……。」

 郷田は桐生の話を思い出し、そして納得する。……彼はその“花園の冗談”に怒鳴り、叫び。……その不可解な怒りは周囲との疎遠を生み出してしまった……。

 ……ならば、桐生の眼鏡に対する異様な愛の方がよほどおかしいのだろうか……? ……いや、違う。その“異様な愛が生み出されるに至った何か”があったと考える。それこそが“理解をしようとする愛”だ……。


「……被害者面をするわけじゃないですが。私もあの後は辛かった……。私にとって、人気者である彼は一種の憧れだったのかもしれません。その彼を傷つけた自分の失敗が……、いや、……自分自身が許せなかった。そして、彼と同じように周りと疎遠になっていきました……。」


 何であんなこと言ったの? いつもあんなに喋らないじゃない。たまに喋ったら人を追い詰めてるなんて。

 サイテー死んだ方がいいんじゃない何で生きてるの生きてる価値無いじゃない邪魔ウザい死ねよマジで消えろよ迷惑なんだよ気持ち悪ィンだよ


 ……それは実際に彼が聞いた陰口なのか。あるいは彼の強迫観念が生んだ幻聴なのか。……今となってはそれは知る由もない……。

 それらを、彼は自らに科す戒めとして受け取ることにした。……どうせ忘れられないならば、せめてそう思わなければ耐えられなかったのだ。


 彼はそれを思い、顔を少し歪ませた……。



「………………。」

 ……郷田は花園から全てを知る。ある一つのバレンタインの悲劇が、……二人の主人公にとって、等しく悲劇であったことを知る。

 滑稽なる偶然。滑稽なる人物達。……だからきっとやっぱり。これは悲劇ではなく、“喜劇”。

 人の意図はここまでにすれ違い、捻れるものなのか。……それを思い、郷田は自分の胸に手を当てる。

 ……自分にとって、“彼女”の行動はそんなにも理解できないものだったのか。一時の激情に飲まれ、“彼女”を理解することを放棄した自分こそが、愚か者ではないのか……。

 ……薄々感づいていたじゃないか。“彼女”が何を考え、何をしたくてあのチョコを下駄箱に入れていたのか。

 悪意を持って解釈すれば、いかなる行動も悪になる。いかなる善行であろうとも、“あいつは偽善者だ”という目で見られれば、……そこに存在したかもしれない善意は焼かれる。

 郷田は今こそ。自分がいかに愚かであったかを……知る。




「……もし、お前が本当にあの日を悔やんでいるならば。」

 もし、俺が本当にあの日のことを禊ぎたいと思っているのならば。

「行こう。……謝りに。今からでも。いや、バレンタインである、今日だからこそ。」

 ……俺も、謝りに行かなくてはならない。

 しかし、謝るべき“彼女”がいない俺は、せめて彼らを手助けすることで、禊ぐ。


 花園はそれに力強く頷くと、……要塞の門扉のように佇む、その入り口に目を向ける。


 今こそ、行こう。あの日の罪を償いに。

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