脅し
『あいてるぜ~』
中から声がして、田崎君がドアを開ける。
煙草の臭いが、中からわっと迫ってくる。
ついで、鼻をつくシンナーの臭い。
それだけで、私は気分が悪くなってくる。
田崎君、三野君に続いて、私も中に入る。
間取りは2DK。奥の和室に、スウェット姿の金髪でパーマの男、
ピンクのメッシュをいれたサングラスをした男、
顔を晴らして、鼻血を出しながら、金髪に寄り添う女性がいた。
この娘が理恵だろう。直前まで殴られていたのか。
「どうした? 勢ぞろいで」
この金髪が森か。痩せていて、雰囲気がない。
一撃で仕留められそう。
「森君、久しぶり。うちの頭が挨拶したいっていうから連れてきた」
「頭? ああ、空手使う女だって?
冗談かと思ってたら、お前マジで頭譲ったんかよ?」
森は私をジロジロと舐めるように見る。
私が理恵を見ているのに気付いて、森は理恵の頭を撫でた。
「変なところ見せちまったな。まあ、いろいろあんだよ。
しっかし、いい女だなー。あんた、田崎を倒したってマジか? 信じらんねえな。
まあ、座ってくれよ。キメンなら良いネタあるぜ?」
私が3人とテーブルを挟んで正座すると、皆も座った。
「森さん、率直に言いますね。理恵さんを返してもらえませんか?」
森は馬鹿にしたような笑いを浮かべ、理恵の髪を触る。
「返すも何も、理恵は俺の女だ。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってなあ」
「……。利用してるだけでしょう? 恋人をいろんな男に抱かせる? しかも、暴力を振るってますよね」
「いろんな愛の形があるんだよ。なあ、理恵。お前からも言ってやりな」
「私ね、竜一と結婚するの。用は済んだでしょ? 帰って」
田崎君が、ため息をついて、私の肩に手を置く。
「言っただろ? 帰ろうぜ。本人が良いって言ってるんだ」
確かにそうだ。ここで無理に連れ帰っても、理恵さんはすぐに森の元へ戻るだろう。
私にできることは何もない。暴力を振るわれても、
売春させられてもこの男のもとがいいというのだから、
仕方ない。
「そうね。帰ろうか……」
立ち上がろうとしたとき、男の感覚が戻ってきた。
このまま立ち去る? それは正しいことか?
不幸になるとわかっている少女を見捨てることが、正しいことなのか?
いや、それは間違ってる。無理やりだろうが何だろうが、
別れさせることが、俺の正義だ。
中腰の状態で、俺は森をにらむ。
「お前、ムカつく奴だな。殺してやろうか?」
「ちょちょちょ、何言ってんだよ?」
三野が俺の肩に手を置く。
俺はその手を払いのける。
「三野! 腹くくれ。俺は、ムカつく奴はぶっちめんだよ。女に手を挙げるような奴は我慢ならん」
ピンクメッシュの男が俺につかみかかってくる。
「てめー! 博多連合上等か!」
男の鼻面に左の膝蹴りを入れ、ひっくり返った男の股間に、踵蹴りを見舞った。
泡を吹いて、けいれんする男を目の前にして、森は震え上がる。
「な、なんだよ? 田崎、この女止めろ! うちとは不可侵条約があんだろうが!」
田崎は、鼻で笑って煙草を取り出す。
「森君、三鷹水産じゃ頭の言うことが絶対だ。俺には無理だね」
「三野! 助けろ! さんざん奢ってやったろ!」
「あ、いや……。森君、ごめん」
テーブルを蹴って、端へ飛ばし、森の胸倉をつかもうとすると、
理恵が森に抱き着いた。
「どけよ。用があるのは、この男だ」
「あんた何なのよ! いきなり来て、めちゃくちゃじゃないよー!
私達は愛しあってんの! 竜一は私がいないとダメなの!」
「お前、馬鹿か?
自分の女に売春させるような奴はな、男って言わねえんだよ。
こいつはクズだ。こんな奴と一緒にいるとどこまでも堕ちていくぞ」
「竜一はそんなんじゃない! 竜一には夢があんの!
私のこと愛してくれてるの!」
三野が俺と森を困惑した表情で、交互に見る。
「なあ、止めとかねえ? 理恵がこう言ってるんだしさ」
「三野。義を見てせざるは勇無きなりって言葉があってな。
こういうクズ見逃すのは、男って言わねえんだよ。
森、今からお前の腕と足、へし折ってやるよ。
四肢を砕かれて、それでも理恵と付き合うって言えたら、
この場は引いてやる」
「やめてって言ってんじゃん! あんたなんなの? 竜一をいじめて楽しいの?」
森が、携帯を取り出し、焦った顔でタップする。




