訪問
「午後に行くって、連絡とったけど、どうしたんだ? 俺、森さんに奢ってもらったりしてんだよなー。
潰すってのは勘弁してやってくれねえか?」
「うん。ちょっとね。まあ、挨拶に行くだけよ。案内してもらえるかな?」
「ああ、そりゃ構わねえよ。西田に車出してくれって言っといたから」
西田君の車? また、あの狭い車に私を押し込める気?
冗談じゃないわ。
「いい。タクシーでいくから」
「あ、言ってなかったな。西田、車替えたんだぜ? 前のはお袋さんの車だよ」
「そうなの? なら、お願いしようかな」
しばらく待っていると、西田君と田崎君が教室にやってきて、私たちは教室を出た。
廊下を歩きながら、田崎君が、私をちらりと見る。
「お前、チャコになんか言われたな? 無駄足だと思うぜ」
「うーん。まあ、行くだけ行ってみるわ。田崎君は、同じ学校の娘が、売春させられて、
平気なわけ?」
後にいた松下君が、私の言葉に抗議してくる。
「田崎君だってなあ、何回か行ったんだぜ? でも、理恵の奴は、すぐに森のところに戻っちまう。
本人の意思なんだから、どうしようもねえんだよ」
「森の方から別れるように仕向けるわ。膝を砕けば、言うことを聞くでしょう」
三野君が驚いた顔で、私の横にやってくる。
「おいおい。森さん、いい人なんだって。手荒な真似やめてくれよ!
世話になってんだから」
「素直に言うことを聞くなら、どうもしないわ。三野君、あなたはどっちの味方?」
「いや、そりゃ俺は三鷹の人間だけど……」
田崎君が、煙草を取り出しながら、口を開く。
「三野をあんまいじめんなよ。こいつのバイク、森さんから安く譲ってもらってるんだ。
お姫様にはわかんねえだろうけど、俺らの世界じゃ、縦の関係が重要なのさ」
「ふーん。その割には、田崎君は、先輩を先輩と思わないことばかりしてると思うけど?」
「チッ。俺は、例外だよ。俺は自分より弱ええ奴には従わねえ」
「自分より強い人には従うんでしょ? なら、従って頂戴」
「わかってるよ。うるせえなあ」
学校の駐車場に行くと、黒のワンボックスが止まっていた。
見るからに、ヤンキーが好むといった品がない車で、車高が低く、
窓ガラスは真っ黒で、ドアの周りはメッキパーツがつけられている。
西田君は、喜々として車の前に立つ。
「かっこいいだろ? ローンで買っちまったんだ。就職前だってのにさあ。
見ろやこのホイール! 19インチだぜ! ぎりぎりまでローダウンしてるしさー」
三野君と松下君は、おーっと言って、車をジロジロとみる。
どこがかっこいいのか、私にはわからない。
伊藤さんも同じような感じだけど、男の人って、なんでこう車が好きなんだろう。
走れば、同じだろうに。
車に乗り込みシートに座る。うん。悪くない。
車内は広く、三野君や松下君に密着されずに済みそうだ。
「へー。天井高いんだね。解放感あるなあ」
「だろ? だろ? 姫は俺に抱かれたくなっただろ?」
「なりません!」
「スピーカーもいいの入れたんだ。じゃあ、出発!」
エンジンがかかると、突然、凄まじい音の波が襲ってきた。
ドコドコ、シャカシャカ、バリバリと鼓膜を攻撃してくる。
うわー。うるさい! どんなボリュームで聞いてんのよ??
私は耳を抑えるが、4人は平気な顔だ。
ヤンキーって、なんで大音量で音楽を聞くんだろう??
20分程走り、郊外にあるアパート前で止まった。
駐車場は舗装されておらず、駐車スペースの表示もない。
駐車場には車高のやたら低い、古いセダンと、派手なバイクが数台止まっていた。
「ついたぜー」
私は西田君の耳を引っ張る。
「ついたぜーじゃない! うるさくて、仕方ないわよ!」
「いてててっ! 乗っけてやって、それはねえだろ?!」
「うっさい! 口答えしないで!」
「じゃれてねえで、行こうぜ。さっさと用事済ませようや」
田崎君が、さっさと車を降り、松下君と二人でアパートの方へ歩いていく。
アパートは2階建てで、建物の厚みがない。独身者用にアパートだろうか。
薄汚れていて、家賃は安そうだ。
車を降りると、三野君が心配そうに聞いてくる。
「手荒な真似しねえでくれよ? 悪い人じゃねえんだよ」
「いきなり殴りかかったりしないってば。とにかく行きましょう」
1階の右端にあるドアの前まで行くと、中から怒声が聞こえてきた。
『3万つったろうが!』
ビンタする音に、女性の悲鳴。謝る声。
ただならぬ雰囲気に、皆が顔を見合わせる。
どうしようかと迷っていると、田崎君がドアをノックした。




