人助け
先生の話を聞いていると、隣の席のチャコが話しかけてきた。
「あのさ、ちょっと話があるんだけど」
「何?」
「ここじゃ、ちょっと。場所かえない?」
「うん」
HRが終わり、チャコと連れ立って、女子トイレへ向かう。
学年で、女子が10人もいない三鷹水産では、女子トイレはいつも人気がない。
女子トイレに入っても、チャコは話し辛そうにしていて、なかなか口を開かない。
「どうしたの? 揉め事なら遠慮せずに言ってよ。私、そういうの大歓迎だから」
「揉め事っていうかさ。あのね、同じクラスの理恵のことなんだ」
「理恵?」
クラスに女子は3~4人いるようだが、実際にあったのはチャコだけで、
ほかの人とは会ったことはない。
「あんたが知らないのは無理ないよ。理恵は、夏休み明けから学校に来てないから」
「で、その理恵さんがどうしたの?」
「うん。性質のよくない男に捕まっちゃってさ、ウリとかさせられてるみたいなんだ。
私、何とかしたくって」
「ウリ? 売春させられてるってこと?」
「はっきりと理恵から聞いたわけじゃないけど、ツイッターとか見てると、
なんか、そんな感じ」
「無理やりさせられてるなら、私なんかより警察に言ったほうがいいよ。
売春は犯罪だから、捕まえてくれると思うよ」
「いや、それがね、男に騙されて自分からっていうか。
その男ってのが、暴走族のリーダーなんだけど、後輩とかにも理恵を抱かせてるみたいなんだ。
理恵は、彼の後輩だからって、笑ってた」
「自分の意志で、その男の元にいるなら、私にはどうすることもできないよ」
「そうなんだけど。理恵が馬鹿なことしてるってのはわかってるよ。
でもさ、ダチが堕ちていくの、黙ってみてられないんだよ。
このままじゃあの娘、ボロボロになっちゃう。
お願いだよ。助けてやってよ」
「……田崎君はこのこと知ってるの?」
「知ってる。やっちゃんにもお願いしたことあるけど、ダメだった。
うちは、その族と不可侵条約結んでるから」
族か。やりあったことはない。
無茶する連中という認識だけど、本当にそうなのか試してみたいかも。
「わかったわ。私に何ができるかわからないけど、やるだけやってみる。
あまり、期待しないでね」
「ありがとう! 恩に着るよ!」
「その暴走族の名前は?」
「たしか、博多連合ってとこ」
私は、教室に戻り、漫画を読んでいた松下君のところに行く。
「松下君、博多連合って知ってる?」
「知ってるよ」
「連絡取れる?」
「ああ。三野の中学の先輩が頭やってる。俺らの3コ上で、
森って人だ。
でも、あっこはクズの吹き溜まりだぜ?
アンパンやってる奴ばっかだし、根性入ったのはいねえよ?」
「三野君に連絡とるように言って。午後から、出向くから」
「へ? いや、あっことは不可侵条約結んでて」
「いいから、お願い」
「わかった。わかった。でも、まだ肩いてえんだろ? あんま無理すんなよな。
目障りで潰したいんなら、俺が何人かで行ってくっからさ」
「あっちの出方次第ね。じゃあ、お願いね」
自席に戻り、文庫本を読んでいると、三野君が教室にやってきた。




