雑談
「おはよう」
「おう」
「珍しいわね。田崎君が、このクラスに来るなんて」
田崎君は机に腰かけたまま、胸ポケットからガムを取り出し、
私に勧めてきた。
「珍しいことって続くわね。いつも私からお金を巻き上げようする田崎君が、
物をくれるなんて」
そういって、ガムを受け取ると、田崎君は苦々しい顔をする。
「お前は、俺をなんだと思ってんだ?
朝鮮高校の奴らが、うろちょろしてやがんだよ。
怪我が治る前に、襲ってこられたらことだぞ」
「ああ、朝鮮高校の人なら、今朝あったよ。
ガソリン撒いて、火をつけようとしてた」
「ぶっ!」
松下君が、噴き出して、驚いた顔で私を見る。
「やべえじゃねえか」
「脅しよ。実際には火をつけなかったわ。
結構な人数に囲まれてたんだけど、慣れてる感じだった」
田崎君が身を乗り出してくる。
「で、やりあったのか?」
「ちょっとね。顔見に来ただけだって言って、帰っていったわ。
金って名乗ってた」
「金か。血見ると、見境なくなる奴だ。
やり合わなくて、よかったな。怪我で突きが使えねえなら、
やばい相手だ」
「そっかー。鼻血ださせればよかったんだね」
「はっ。このお姫様は、懲りねえな。しかし、金がよく引いたな」
「だね。金は一旦、始めると引かねえって聞くけど」
二人が私を見る。
やだな。パンツ見られたからなんて言えないわ。
「さ、さあ。こっちの人数が多かったからじゃないかな?
みんな襲いかかろうとしてたから、身の危険を感じたんだと思うよ」
「朝鮮高校締めてる片割れが、そんなヤワか?
とにかく、お前もなるべく単独行動するな。
あいつら、何してくるかわかんねえぞ」
「わかった。気をつけるね。
ところでさ、私、今度試合することになったんだ。
朝鮮高校の出方次第だけど、乗り込むのは試合後にしてくれない?」
「また、やんのか? あんな化け物どもとよくやるぜ。
なあ、松下?」
「だねー。年末の試合すごかったもんなあ」
「あ、今度はね、ボクシングの試合なんだ。
まだ、相手も知らないけど、ヘビー級とかじゃないと思う」
「ボクシング?」
「うん。成り行き上、そうなっちゃって」
松下君が、構えてパンチをだす。
「かっちょええー。大野なら、楽に勝つんだろうな。すげえよ」
田崎君が、首をひねる。
「ボクシングつったよな? 完全なボクシングルールか?」
「うん。そうだよ」
「お前、それはやべえだろ?」
松下君が、きょとんとした顔をする。
「田崎君、大野なら問題ないんじゃない?」
「ばっか、蹴り、肘、頭突き使えねえんだぞ?
たしかにすげえ突きを持ってるが、手の届く距離ということは、相手の攻撃もあたる。
こいつに、耐久力はねえ」
「あはっ。田崎君はお見通しか。ついでにいうとね、真正の突きはだせないの。
グローブつけると、打てないんだ。オープンフィンガーグローブだと打てるんだけど、
向こうがOKしてくれないだろうし」
「わかってんのに、やんのかよ? ほんと、お前はマゾだな」
「強くなりたいもん。それにさ、私の彼って、東洋太平洋チャンピオンなんだよ?
彼女の私もボクシング強くないといけないでしょ?」
松下君が、田崎君を見ながら、頭に人差し指を向け、くるくると回す。
私は、松下君にデコピンする。
「いてっ」
「観てなさいよー。ガツーンとKOしてやるんだから」
「ははは。勇ましいな。こりゃ、応援にいかんといかんぜ。
なあ、松下」
「だね。学校総出で応援に行こうよ」
「ありがと。頑張るね。あ、先生きたよ」
先生が来たのを合図に、解散して私は自席ついた。




