窮地
俺は諦めて、カメラを投げ捨てた。
おっさんが、カメラに駆け寄り、がっくりと肩を落とす。
「おっさん、カメラは後で弁償してやる。なんか、音のするもの持って来い」
「お、音?」
「いいから、早く!」
法念が再び半眼になる。
まずい。さっきの状態になってやがる。
俺が与えたダメージが消え去ったかのように、
法念は鼻が潰れ、耳が切れて血まみれの顔で、微笑む。
「余裕じゃねえか。さっきまで、死にそうだったのによ」
「カメラとはいいところに目をつけた。
神は不浄のものを嫌う。自然界に存在しないものを
突きつけられると、私の体から離れてしまう」
「へっ。だから、俺を皆から離したってわけか。
神だとか偉そうなこと言う割には、やることがせこいぜ」
「なぜ、種明かししたと思う?」
信望が門の方へ走っていき、誰かを大声で呼んでいる。
「今からは2人きりってか。
残念だなあ。今日日の女子高生は、携帯ってもんを持ってんだよ」
ポケットからスマホを取り出すと、さっきかけられた水で動かなくなっていた。
「ははは。携帯がどうしたって?」
「欲しけりゃ、くれてやる!」
スマホを法念の顔に投げつけ、走りこんで蹴りを出そうとしたところで、
急にスピードが遅くなった。
視点が上空にあがり、法念と俺自身を見下ろす。
チャンスだ。この状態なら勝てる!
法念の動きに合わせようとしていると、法念がすっと上を向いた。
背中から半透明の手が2本伸びて来て、上空にあるはずのない俺の体を掴み、
元の体に戻される。
途端にスピードは元に戻り、法念の右をからくもさけた。
「どうなってやがる」
「魂を抜いて、幽界の時間を使うか。
神の前では、そんな芸当は無理な話だ」
「ほー。そうかよ!」
俺は踏み込んでから倒れこみ、左の浴びせ蹴りをだす。
そのまま、法念の右足をクラッチして、倒れこもうとしたところで、
左足首をがっちりと掴まれ、逆さにされた。
「てめ! 離せこの! パンツ見えんだろうが!」
「すばしこいお前も、こうしてしまえば逃げられまい」
法念の右の蹴りがうなりをあげて、迫ってくる。
体を丸めて衝撃に備えるが、骨まで痺れる衝撃を感じ、
俺は腹這いの状態で地面に投げ出される。
立とうとしているところに、法念に右肩を踏みつけられた。
ミシミシと肩甲骨が、嫌な音をたてる。
「うぐぐっ」
「さあ、どうしてやろうか。首をへし折るか、頭を潰すか、
それともこのまま肩を踏み潰すか」
法念が足を持ちあげ、全体重をかけて肩を踏んできた。
"ゴキッ"
骨の砕ける音が、辺りに響き渡り、俺は激痛に身をよじる。
「はははは。痛いか? この世で感じる最後の感覚だ。
存分に味わうがいい」
痛みを堪え立ち上がるが、右手を少し動かそうとしただけで、
激痛が走る。
その時、坊主の集団が門の方から走ってきて、俺と法念の周りをぐるりと
取り囲んだ。
「最後の最後で、タコ殴りにするつもりか。
随分汚い真似してくれるじゃねえか」
「ふん。信望様が、邪魔が入らないようにしてくれたのだろう。
お前を成仏させるのは私の役目だ。さあ、諦めてこの神の拳の前に、
身をさしだせ」
考えろ。こいつの防御は完璧だ。
急所に入れてもなぜか俺自身が威力を殺してしまう。
こいつの一撃は信じられないぐらい重い。
人間の出せる威力じゃない。
対して俺は肩が砕かれ、スタミナも切れかかってる。
このまま戦っても、ジリ貧か。




